『You're Dead!』意味深なタイトルである。『Cosmogramma』で表現したアリス・コルトレーン譲りのコズミックな世界観とも、『Until The Quiet Comes』のサイケデリックでエソテリックなムードとも違う。エロティックでグロテスクな奇想漫画家、駕籠真太郎が描いたアルバム・ジャケットのアートワークも曼荼羅のようにも見えて、聖と俗を行き来する名状し難い世界を表現しているかのようだ。

FLYING LOTUS You're Dead! Warp/BEAT(2014)

 フライング・ロータスが満を持してリリースした新作は、いままでの活動の集大成とも言えるし、いままでとはまったく違う作品だとも言える。 その切り取った断片によって表情を変える作品であることは、これまでのアルバムと変わらないとも言えるのだが、音の密度は圧倒的に高く、さまざまな音が聞こえてくるのだ。『Until The Quiet Comes』では排除していた多彩な音のパレットを使い、ドラマーに至っては4名も、しかもジャスティン・ブラウンら注目すべき存在をフィーチャーしている。Brainfeederからリリースが予定されている、いまLAのジャズ・シーンで最も才能を感じさせるサックス奏者であるカマシ・ワシントンも重要な役割を担っている。

 そうした参加している人脈も含めて、ロータス本人が断言するように、“ジャズ”にフォーカスしたアルバムでもあるが、形だけのジャズ・アルバムにはなっていない。というよりも、幼少期からサックスを吹いてきて、結果ジャズから離れた世界へ歩み出した自身の活動から、もう一度、 ジャズに向き合う気持ちになって作られたアルバムだとは言えそうだ。であるならば、この意味深なタイトルも、非常に示唆的に思えてくる。

 このアルバムの聴きどころは、何と言っても、複雑なレイヤー構造から浮かび上がってくるサウンドにある。僕が最初にこのアルバムを試聴したのは、なんとジャズ喫茶だったのだが、ジャズを鳴らすためにチューンナップされたシステムで聴くと、驚くほどに音の細部が鮮明に聞こえてきて、ビート・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックとだけ呼んで済ますことはできない音楽が展開されていることを理解した。定型的なものから逃れながら、プリミティヴな音楽の風景への憧憬と、細分化していく音楽の歴史への抵抗が入り交じって、この音楽は出来上がっているのではないかと、つい思ってしまうほどに、名状し難い世界なのだ。簡単に括られて語られてしまうことを拒絶しているが、かといって聴く者を拒んでいるわけではない。これまでのロータスのどの作品よりも、さまざまな角度から聴くことができ、広いリスナー層を惹き付ける作品だと断言しよう。