INTERVIEW

森は生きている 『グッド・ナイト』 Part.1

60年代のサイケデリック感覚を現代的にアップデートしたら? 生きている森の奥に広がっているのは、時代感を超越した美しいポップスの迷宮だった……!

森は生きている 『グッド・ナイト』 Part.1

夢のようなもの

 森のなかに入ると、まるで別世界のような気がする。日常とは薄皮一枚隔てた見知らぬ場所。そんな〈ここではないどこか〉へと誘ってくれるのが、東京出身の5人組バンド、森は生きているだ。2013年に発表したファースト・アルバム『森は生きている』が注目を集め、〈フジロック〉をはじめ数々のフェスやイヴェントでライヴ・バンドとしても高い評価を得てきた彼らが新作『グッド・ナイト』を完成させた。前作ではライヴ感溢れるバンド・サウンドを聴かせてくれたが、今回はバンドでレコーディングした音源を、リーダーの岡田拓郎(ギターほか)が自宅に持ち帰って一人でミックスをして仕上げたらしい。前作とのアプローチの違いを岡田はこんなふうに説明してくれた。

 「前回はレコーディングにかける時間が限られていたこともあって、スタジオで全部済ませられるようなライヴ感のあるアルバムにしようと思ったんです。でも、それでは満足できないことがいろいろあって。曲を書いていると音像まで浮かんでくるから、どうしても手を加えたくなってくる。これまではバンドで録った音はあえて手を加えなかったんですけど、今回はかなりいじりましたね。あとで聴いて演奏が気に入らないとこはそこだけ録り直したりして、スタジオを使っておきながら半分以上は宅録(笑)。結局ミックスに2か月以上もかかってしまいました」(岡田)。

森は生きている グッド・ナイト Pヴァイン(2014)

 ミックスによってどんどん変化していく音をメンバーに聴かせて確認を取る作業が続くなか、「だんだんみんなから返事がこなくなって……」と岡田は苦笑するが、最後まで付き合ったのがドラマーの増村和彦だ。

 「最後のほうになると充分完成品として成立するクォリティーなんですよ。でも、岡田君の〈ここがちょっと……〉という説明を聞いて直したものを聴くと、さらに良くなっている。さすがだな、と思いました。今回は新曲をライヴであまりやってなかったこともあって、アレンジが詰められてなかった。だからミックスの段階でいろいろアイデアが出たというのもありますね」(増村)。

 そうやって苦労の末に作り上げられたのは、次々と目の前の風景が変わっていく迷宮のようなサウンドだった。

 「今回は支離滅裂で時代感も統一されていないし、曲に関してはビートルズの〈ホワイト・アルバム〉みたいな感じですね。アルバムのトータル・イメージは “煙夜の夢”が出来た時に見えてきました」(岡田)。

 “煙夜の夢”は3つのパートから成る17分に及ぶ組曲で、本作のハイライトとも言えるナンバー。作詞を担当する増村は、この曲を発端とする本作のコンセプトは〈夢〉だと教えてくれた。

 「前作でもテーマは夢だったんですけど、歌詞を書いている時期に考えていたことを自然と形にしていった結果だったんです。でも、今回は最初から意識して書きました。その差は大きいですね。“煙夜の夢”と“プレリュード”の歌詞を書いて言いたかったことをひとつ表現することができたので、ほかの曲の歌詞もコンセプチュアルに書いていけました。夢というか、夢のようなもの。言葉で説明するのは難しいですけど、そこは音楽を聴いて感じてもらえればと」(増村)。

 

 60年代のサイケをアップデート

 増村が書く歌詞もバンドの重要なエッセンスだ。〈煙夜〉という言葉は「文字の並びがいいなと思って」増村が作った造語だが、曲の最初のパート〈a, 香水壜の少女〉というタイトルだけでもイマジネーションが広がっていく。曲を手掛けた岡田はどんなイメージで曲を作ったのだろう。

 「最初はアシュ・ラ・テンペルみたいにフィードバック・ノイズのなかにアコースティック・ギターが入っている感じで作ってたんですけど、当時スウェーデンのプログレにハマっていたり、タージ・マハル旅行団が好きだったりしたんで、空想民族音楽みたいな感じも途中から入ってきて。ミニマルな音楽に民族音楽っぽい要素が入った、あまり聴いたことがないような音になったと思います」(岡田)。

 1曲にそれだけの要素が入っていることに驚かされるが、たっぷり時間をかけただけあってアルバムの濃密さは前作以上だ。アメリカーナな音楽を聴かせるジャム・バンド、そんなイメージを抜け出して多彩な音楽性で楽しませてくれる。

 「今回はジャムっぽい感覚を入れたくなかったんです。ジャムって実は形式的なところがあるんで。それよりも、ミニマルとかドローンみたいに現代音楽の要素を入れたいと思ってました。あと、前回は自分たちのなかでアメリカな音をやったつもりだったんですけど、今回はイギリスっぽい要素を意識的に入れましたね。ブリティッシュ・フォークも好きなので」(岡田)。

 

 写真/小田部伶

 

 そうしたさまざまな要素を詰め込みながらもまとまりを感じさせるのは、時間をかけて作り出した繊細でサイケデリックな音像のおかげだろう。ミックスでひとつの世界観を作ることも新作の大きなポイントだった。

 「曲がバラバラなぶん、音が共通していればいいんじゃないかと思ったんです。それでテープ・エコーとかリヴァーブを結構使いましたね。近いのか遠いのかわからない音像というか。そのへんの音響感、いわゆる空気感にはかなりこだわりました。意識したのはフィル・スペクターが手掛けたジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass』とか、最近のUSインディーの人たちの音響もおもしろくて、グリズリー・ベアとかジャッキー・O・マザーファッカーとかも聴きました。あと、テイム・インパラもここでちゃんと聴いてみて。最初は〈チャラいな〉と思ってたんですけど、聴きはじめたらすごい良く出来てるんですよね。彼らは60年代のサイケをイマっぽくアップデートしている。そういうことを日本でもやりたいと思ったんです。それに、ロックに日本語を乗せるのって難しいんですけど、リヴァーブをかけると結構上手くいくんですよね」(岡田)。

 「どうやってメロディーに日本語を乗せるかは自分たちなりに研究していて。タケちゃん(ヴォーカルの竹川悟史)の歌入れの時は、僕が付きっきりでディレクションしてたんです」(増村)。

 そんなふうに実験と試行錯誤を重ねて、新しいサウンドへと辿り着いた森は生きている。でも、どんなに音が変化しても、サウンドの核にあるのは〈歌〉。その美しいメロディーにも心奪われる。

 「結局、僕たちはポップスを作っているわけなんで、いちばん重要なのは歌なんです」(岡田)。

 「逆に言うと歌の部分さえしっかりしていれば、どんなにアヴァンギャルドなことをやってもポップスになりますからね」(増村)。

 そんな確信が彼らの音楽をおもしろくしているのかもしれない。森が生きているの歌は生きている。新作がその証明なのだ。

 

▼関連作品
左から、森は生きているの2013年作『森は生きている』、森は生きているが参加したカーネーションのトリビュート盤『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』、『グッド・ナイト』にメンバーが参加した吉田ヨウヘイgroupの2014年作『Smart Citizen』(すべてPヴァイン)
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▼文中に登場したアーティストの作品
左から、ビートルズの68年作『The Beatles』、ジョージ・ハリスンの70年作『All Things Must Pass』(共にApple)、グリズリー・ベアの2006年作『Yellow House』(Warp)、ジャッキー・O・マザーファッカーの2011年作『Earth Sound System』(Fire)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ 

美しい星