雑誌「ユリイカ」の特集号が刊行されるなど、注目を集めるシンガーソングライター柴田聡子が7作目のアルバム『Your Favorite Things』を発表、リリース直後から高い評価を受けている。岡田拓郎が共同プロデュースし、変化と深化が聴ける本作の音楽面について、音楽ブロガーのアボかどが寄稿してくれた。 *Mikiki編集部

柴田聡子 『Your Favorite Things』 AWDR/LR2(2024)

 

R&B文脈の中のネオシティポップ

3月29日に刊行される2010年代以降のR&Bの潮流を追う書籍「オルタナティヴR&Bディスクガイド」は、R&Bという音楽の偉大さを改めて感じることができる一冊だ。この10数年、R&Bは隣接ジャンルであるヒップホップはもちろん、ベッドルームポップやK-POPなどにも影響を与えてきた。シティポップリバイバルもそれと全く無関係ではないだろう。

そして2024年、また一枚R&Bの影響を感じさせる傑作が生まれた。柴田聡子の『Your Favorite Things』だ。岡田拓郎を共同プロデュースに迎えた本作で聴かせるのは、生演奏メインのメロウで時にファンキーなスタイル。セルフライナーノーツによると、本作でテーマとして掲げられていた中には〈ネオシティポップ〉があったという。ネオシティポップはヒップホップやネオソウルの影響が強いスタイルであり、本作で聴けるネオソウル的な感触と確かに重なっている。やはりR&Bの文脈にある音楽なのだ。

 

アリアナの影響を感じる豊かな職人的ボーカル

しかし、本作の魅力はネオソウル的な要素だけではない。本作でもう一つ印象的なのが、多重録音やコーラスの配置といった豊かなボーカル表現だ。エフェクトも多用して練り上げられたその声の使い方はライブでの再現性を前提としたものではなく、生演奏主体のサウンド面とは発想が異なるように思える。

ここで重要なのが、柴田聡子がしばしば言及しているアリアナ・グランデの存在だ。ボーカリストとしての卓越した技巧を持つ華やかなポップスターのアリアナ・グランデだが、自らPro Toolsを用いてコーラスをディレクションする職人肌な側面も知られている。例えば柴田聡子がSoundmain Blogでのインタビューで「特に素晴らしい」と語っているシングル“34+35”を聴いてみると、コーラスや(ラップ用語の)アドリブを巧みに配置し、多重録音も用いて複数人で歌うような構造を一人で歌い上げている。それは柴田聡子のアプローチとも共通するもので、そこに影響をはっきりと感じることができる。

マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンの系譜にあるようなスーパースターのアリアナ・グランデだが、その声の使い方のルーツにあると思われるのはイモージェン・ヒープだ。エフェクトも多用した多重録音で美しくエッジーなボーカル表現を聴かせるイモージェン・ヒープについて、アリアナ・グランデはBillboardのインタビューで「彼女は音楽の幸せとハーモニー、サウンドの大きな雲のような存在。彼女の脳内で永遠に住みたい」と称賛。2018年作『Sweetener』収録の“goodnight n go”ではイモージェン・ヒープの“Goodnight And Go”のリメイクにも挑んでいる。