恐るべき強度と汎用性! 

 DJ JET BARONこと高野政所が〈ファンコット〉を偶然〈発見〉して以降の奮闘ぶりを知る者なら、ある種の感慨を覚えるかもしれない。ラジオなどのメディアにおけるキャラクター込みの人気はもちろん、本業のDJとしては規模も客層もさまざまなタイプの現場をDUGEM RISINGを率いて盛り上げ(大阪マハラジャでは盛り上がりすぎてDJが止められたこともあるそう!)、渋谷で自身が運営するクラブ=ACID PANDA CAFEでも毎月パーティーを開催。その無視できない勢いに、いまでは専門誌のDJチャートにもランクインするほどだ。しかも2014年には本場インドネシアの巨大クラブでもプレイしたというから、〈ファンコットの伝道師〉を買って出てきた本人としても、本望どころじゃない充足を受け取ったのではないだろうか。そして、充実した年の暮れを狂騒のまま突き抜けるべく登場したのが初のオリジナル・アルバム『Enak Dealer』だ。

DJ JET BARON Enak Dealer DUGEM RISING/ユニバーサル(2014)

 ここでタイトルに使われている〈Enak〉とは、資料によると〈身体で感じた心地良さすべてに使われる〉インドネシア語の言葉だそう。そんなエナックなフィーリングをリスナーの体内に捌く今回のアルバムは、先行ヒットしてきた配信EPからの楽曲も交えつつ、ここが初出となるトラックが10曲も収められたクソ豪華な逸枚に仕上がっている。

 一聴して魅力的なのが、改めて感じさせられたファンコットのダンス・トラックとしての恐るべき強度と汎用性、そしてレゲエDJやラッパーを数多く迎えたラップ・ミュージックとしての可能性だ。なかでも賑やかなビートと抜群の相性を見せるのが、話芸を活かしてマルチな活躍を見せるレゲエDJのCHOP STICK。そして丸省抹 a.k.a. ナンブヒトシといったラッパー陣の饒舌な活躍が、ファンコットの楽しさとカッコ良さをプレゼンテーションすることに大いに寄与している。ぶっちゃけ、〈誰が客演〉とかを気にすることなくアルバム一枚をひたすら気持ち良く聴き通してリピートしてしまうような出来映えなのだ。



理屈を超えたオリジナルな楽しさ

 そもそもダンス・ミュージックの快楽性は理屈や理念とは関係なく、もう少し言えば作り手のバックグラウンドなどは関係なく、問答無用でフロア(受け手)に作用すべきものである。その意味でもファンコットのハンパなさは説明するまでもないだろう。日本に紹介された際には(往年の〈ポンチャック〉などと同じように)欧米的なマナーとはかけ離れた〈珍妙な音楽〉に対する知的な層の嗜みとして受け取る向きもあった気がするものの、実際のところ珍妙かつアホらしく下世話で、それゆえにカッコ良くてブチ上がるファンコットの魅力はどこかへ行ってしまうものでもない。まあ、〈ダンス・ミュージック〉〈ワールド・ミュージック〉の範疇にある音楽に良くも悪くもつきまとう余計な分析や偏見についてはどうでもよく……この『Enak Dealer』が最高なのは、あえて言うならファンコットが〈特殊なものじゃない〉ことをキッチリ証明できていることだと思う。もし説明しなければ昨今の柔軟なリスナーならヒップ・ハウスマイアミ・ベースバウンス以降の変速式ヒップホップとして受容しそうだし、多様なリディムに親しんでいるダンスホール・レゲエのファンは言うに及ばず、曲によってはドラムンベースと同種の気持ち良さが粒だってくる瞬間もある。つまり、ファンコット特有のテンポチェンジをJET BARONがモダンな形で解釈した結果、ストレートに煌びやかなお祭りダンス音楽として楽しめる楽曲揃いなのだ。

 つまり、何より大きなポイントとなるのは、JET BARONが憧れからも教条的な目線からも自由になって、オリジナルなエナック・ディールの腕前を見せつけているところなのだ。毒蝮三太夫(!)を迎えた“おもしろおじさん”の後に〈蛇足〉を置いてしまうところも含め、みずからズルムケのエナック状態で作り上げた様子が伝わってきて、これは楽しい! 繰り返すが……珍妙かつアホらしく下世話で、それゆえにカッコ良くてブチ上がって、大笑いして少し泣ける名作である。新年も祭りを続けろ!

 

▼DJ JET BARONがプロデュース/リミックスで参加した作品を一部紹介

左から、hy4_4yhの2014年作『STAR☆TING』(HILLS)、DPG VS ブラック DPGの2014年のシングル『スーパーエンタメ大戦 夏の魔物エンタメユニット DPG VS ブラック DPG』(SPACE SHOWER)、nonSectRadicalsの2012年作『re-nonSectRadicalsRed』(MIYOSHI FUMI LABEL)、三好史 a.k.a. いぬの2014年作『平成25年のえれくとろぽっぷ』(ふむふむ)
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▼関連作品

左から、CHOP STICKの2013年作『飲め飲めパラダイス ~Respect All Massive~』(Dr. Production/Village Again)、HIBIKILLAの2011年作『FREEDOM BLUES』(I-NOTE)、南波志帆が在籍するxxx of WONDERの2014年作『WONDER of WONDER』(SHIBUYA GIRLS POP)、毒蝮三太夫の楽曲を含むコンピ『お笑い芸人お宝珍盤コレクション』(テイチク)
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