太陽は俺の敵。味方はどこだ――6年ぶりに帰還したレイヴ・モンスターは、混迷の時代にさらなる狂騒とパワフルな放熱を引き起こす。ハードコアに研ぎ澄まされたサウンドで踊れ! もしくは暴れろ!

 

 

あえてそう言っておくぜ

 分裂しそうなメンバー間の絆を取り戻して制作された前作『Invaders Must Die』。その成功を受けて繰り広げられた怒涛のツアー&フェスは、年齢と逆行するかのようにムッキムキになっていく彼らの肉体と共に、90年代にダンス・シーンをメインストリームに押し上げた巨人、プロディジーが本来のパワーを取り戻したことを満天下に示すものだった。

THE PRODIGY The Day Is My Enemy Take Me To The Hospital/Cooking Vinyl/ビクター(2015)

 それから6年。ついに完成した新作『The Day Is My Enemy』は、肉体性を取り戻したライヴ・バンドがさらなる〈熱狂〉をその手中に収めるべく制作された作品だ。

 「バンドの結束がふたたび固くなった。ツアーに出てる時は3人が密接に仕事をするから、バンドとしてタイトになる。そのためにスタジオに入って曲作りするのも楽になる」(リアム・ハウレット)。

 「このアルバムは、俺たち3人がこれまででもっとも統合されたアルバムで、俺とキースがかなりのヴォーカルを取っているから、9割方ライヴできる内容だ。ライヴ・パフォーマンスの面を考慮すると、今作は厳密な意味でのライヴ・アルバムだと言える」(マキシム)。

 〈暴れたい〉〈踊りたい〉――そんな人間の根源的な欲求を駆り立てる源泉となっているのは、現在アンダーグラウンドでふたたび盛り上がりを見せつつあるドラムンベースをはじめとするUKベース・シーンの熱い息遣い。そしてパンク・ロックのやかましくてお行儀の悪いノイズだ。

 「いまのダンス・ミュージックのように何かコマーシャルなことが起こってると、アンダーグラウンドで興味深いロック・バンドが姿を現してくる。そろそろエキサイティングなことが起こってもいい時期に来ていると思うよ。俺は前に進んでいるものは何でも歓迎する。そして、これらの音楽は基本的にベッドルーム、ベッドルーム・スタジオで作ってるガキたちの手にかかってるんだ。彼らが音楽を前へと推し進める。俺たちはバンドとして最高の曲を書いて最高のアルバムを作ることが重要で、それをライヴでプレイすることに興味がある」(リアム)。

 ここでリアムが「コマーシャルなダンス・ミュージック」と指すのはEDMのことだろう。アルバムのアナウンスをした前後から、リアムは各メディアに登場し、辛辣なEDM批判を展開している。しかし、EDMを仮に〈スタジアム・ダンス・ミュージック〉と定義するのであれば、その源流を作ったのも間違いなくプロディジーである。そのことをリアムにぶつけると彼は現在のEDMと自身のスタイルとの明確な違いを主張する。

 「俺からしてみると、EDMはポップ・ミュージックにハイジャックされてしまったんだ。俺たちの責任ってのはその反対側にあることをするってことだ。俺たちのサウンドはもっと耳障りで挑戦的だ。それが俺たちの仕事なんだ、陰陽というかね。このアルバムは、俺たちの周辺で起こってることが影響している。今作で言えば、それはEDMの商業化への反動だ。 俺はあえてそう言っておくぜ。そういう発言をしておくのは重要だからな。ブリトニー・スピアーズリアーナといった人たちは俺たちのサウンドとはまったく関係ない。それをハッキリさせて、そういったことに逆らったアルバムを作るのは重要なことだ」(リアム)。

 

ヤバいことは夜に起こる

 同じスタジアム・ダンス・ミュージックでも、(以前の、ではなく)最近のEDMはメインストリームであり、プロディジーはあくまでカウンターの立ち位置からスタジアムをジャックしてきた存在だということなのだろう。思えば、レイヴパンク、ヒップホップ、スカと彼らは常に反体制側の音楽を取り込み、その力でファンを増やしてきた。そのスピリッツは、若手UKベース・アクトのフラックス・パヴィリオンをフィーチャーした“Rhythm Bomb”でクラシック・レイヴ・トラック“Make My Body Rock 1990”をサンプルしていることからも、いまだに健在であることがわかるはずだ。

 「フラックス・パヴィリオンのジョシュは俺の友人の友人から紹介されたんだ。この曲は半分は書き終えてたんだけど、ジョシュが次の部分はどういうふうに展開すればいいのかというヴィジョンを持って、俺と一緒に曲を2週間で完成させてくれた。この曲はハードなクラブ・トラックで他の収録曲とは少し違う。レイヴは俺たちのどのアルバムにも存在していて、とても大切なものだ。それ以外にも俺たちのルーツにはヒップホップやスカ・パンクがあって、プロディジーの音楽の3つの要素というのは、スカ・パンクみたいな俺たちが若い頃からずっと大好きな音楽と、パブリック・エナミーみたいなヒップホップ、それとレイヴ・ミュージック。この3つの音楽が混ぜ合わさって提供されたものがプロディジーのサウンドなんだ」(リアム)。

 「そして、ドライヴするようなビート、ギター、このアルバムはそういった方向性がもっとハードなものになった。いまの俺は“Get Your Fight On”みたいな耳障りな感じのサウンドに興味を持っている。そういう音楽を作ってるバンドはあまりいない。だから、いまだにレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを聴いてるよ」(マキシム)。

 そうした彼らの思いは、日常に宣戦布告をしたような強烈なタイトルにも反映されている。彼らは〈The Day〉に対してどのような意味を重ねたのだろう。

 「プロディジーの音楽は夜に生きているといつでも思ってきた。俺たちが活動をスタートさせて以来、ずっと、夜にライヴを行ってきたんだ。エキサイティングなことは夜に起こるんだ。このタイトルとアートワークはアルバム制作の最後に出来た。もともとは『How To Steal A Jet Fighter』というタイトルだったんだ。でも、すべてフレッシュなものにしたくなった。2012年に書いたトラックは入れないことにした。このアルバムはすべてがフレッシュだ。そして、これは君たちのためのアルバムなんだ。このノイズを君たちの元に届けることを楽しみにしている。ライヴで聴いた時にはクレイジーになるはずだ!」。

 そんな彼らの勇姿は早速この夏の〈SONICMANIA〉で目撃することができる。当代随一のダンス・アクトの来襲を心より楽しみにしよう。