SERIES

【架空のJ-Pop考】第2回 日向美ビタースイーツ♪“温故知新でいこっ!”をmabanua、西山瞳、スカート澤部が斬る!

アニメ/ゲームのキャラソン=〈架空のJ-Pop〉を異畑ミュージシャンがクロス・レヴュー

 

キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽に触れるには、実際に作品を観たりゲームに親しまない限り聴くことはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければわからない……という人もいるでしょう。そんな 貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する3名のミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目から鱗な発見があるかもよ!

 


 

【今月のお題】

日向美ビタースイーツ♪ Chocolate Smile Girls!! コナミミュージックレーベル(2015)

いわゆるアニメ作品ではなく、KONAMIが手掛けるウェブ連動型音楽配信企画「ひなビタ♪」。KONAMIで数々のゲーム音楽の制作に携わってきたTOMOSUKEさんが企画/音楽監修を務めるこの企画は、とある地方の街、倉野川市を舞台に、都市開発によってひなびてしまった昔ながらの地元の商店街〈日向美商店街〉を盛り立てるべく結成された商店街の女の子たちによるバンド=日向美ビタースイーツ♪の活動をFacebookやYouTube、Twitterなどを通じてドキュメントし、バンドやそのメンバーによる楽曲を配信する……というものです。今回は、昨年9月に配信でリリースされ、日向美ビタースイーツ♪のセカンド・フル・アルバム『Chocolate Smile Girls!!』に収録された“温故知新でいこっ!”をピックアップ。渋谷系好きのキーボーディスト・山形まり花と、アコースティック・ポップスが好きな凄腕ギタリスト・春日咲子の2人によるナンバーで、作詞/作曲はかつてセガに所属し、フリーとなった現在も多くのゲーム音楽を手掛けているサウンド・クリエイター、ササキトモコさんが担当しています。〈アニソンmeetsセルジオ・メンデス〉といった感じのゆる~くて心地良い雰囲気が魅力。 *樋口翔(TOWERanime新宿バイヤー)

※“温故知新でいこっ!”のiTunesページはこちら

 

★mabanua

 

こんにちは。〈アニソンに疎い〉でお馴染みのmabanuaです……。

今回は架空の市、倉野川市にある日向美商店街を盛り上げるべく5人の女の子達がバンドを結成するというお話にちなんだ楽曲のひとつとのこと。まず一聴、すごくいいです。好きですこの曲。軽やかでタイトなサンバの打ち込みビートに華麗な春日咲子さんの生ギターとウィスパー・ヴォイスが乗る本曲。このトラックだけで言うと、以前一世を風靡したクロスオーヴァー・ジャズを連想させます。サビなどで4ビートにうつってまたサンバに戻るとこなど、当時高校生だった自分からすると〈おお~懐かしい!〉という感じ。そして、そのお洒落なトラックにこのウィスパーなキャラクター・ヴォイスを合わせるというのは当時では絶対に思いつかない発想だと思います。

そしてヴォーカルですが、冒頭のシャラララ♪ディレイ・ループ。そこが最高に気持ち良い。ここをループしたクラブ・エディットがあっても良いぐらい(笑)。そこから繰り出される語りとラップが交互に交じるアニソン独自のフロウ(僕は密かに〈アニラップ〉と呼んでいるんですが)――本曲はこのヴォーカル・パートのアレンジ力がとても刺激になり、それがこのサンバ・ビートと合わさることで不思議な世界観を出しているのではと……。そんなこの曲は商店街でショッピングをするような軽やかで明るい印象があると共に、元気のない商店街の物悲しさ、切なさも同時に感じることができる、まさに絶妙なバランスで保たれた名曲だと思います!

 

PROFILE:mabanua


ドラマー/ビートメイカー/シンガー。Shingo Suzuki関口シンゴとのOvallとして活動する傍ら(現在活動休止中)、ソロでも活躍。リーダー作としては2012年の最新作『only the facts』を含む2作品をリリースするほか、BudaMunkとのGreen ButterU-zhaanとのコラボ、 さらにCharaGotch七尾旅人福原美穂ら多くのアーティストのプロデュースやリミックス、ツアー・サポートなどをこなす。直近では思い出野郎 Aチーム大橋トリオ、Charaの最新作、そして4月にリリースされるAwesome City Clubの初作をプロデュースした。ドラマーとしては関口シンゴのソロ作(ヴォーカルでも)、くるりのライヴ・シリーズ〈NOW AND THEN〉や5月にスタートする大橋トリオのツアーなどにサポート参加する。また、現在カネボウ〈SALA〉のCM曲も担当している。

【参考動画】mabanuaの2012年作『only the facts』収録曲“drawing”

 

 

★西山瞳

 

どうも、前回の記事で「Dr.スランプ」について言及したら、「Dr.スランプ アラレちゃん」の情報を集めたアカウントにツイートされてしまった、西山瞳です。

今回の「ひなビタ♪」は、いつ放送していたアニメだろうと思ったら、もはやアニメではないのですね。配信のためのコンセプトという、こういうプレゼンテーションもありなんだ、ということに驚きました。

音楽自体も、〈キャラソンじゃなくていいやん〉と思っちゃいました(すみません、私、関西人です)。
カフェ系のサウンドで、とっても良い雰囲気。サウンド効果もばっちりだし、声優さんの台詞口調で聴くとキャラソンにしか聴こえませんが、キャラクターじゃない歌詞でプロのシンガーが歌ったら、また違うものに聴こえるだろうなあと想像したりしました。ブレイク個所で、〈えっ、たぬき〉とか〈そこは電卓さんでお願いだよ♪〉〈ケロケロ、ケロケロ?〉と言われたら、キャラソンにしか聴こえないのですけれど……。

メロディーは、ペンタトニックでノスタルジックに作ってあるし、プロの仕事だなあと思って、気になったので日向美ビタースイーツ♪で検索してみました。他の曲も少し試聴したら、いろんなタイプの曲があって、ヘヴィー・メタル風なものまであったりしますが、やっぱりペンタトニックで少しノスタルジックというのは、共通したテーマなのでしょうか。“ちくわパフェだよ☆CKP”という曲は圧巻でした。

【参考音源】日向美ビタースイーツ♪の2014年作『Bitter Sweet Girls!』収録曲“ちくわパフェだよ☆CKP”

 

さらに気になってオフィシャルサイトを覗きに行きました。
おお、萌え絵だ。
大丈夫です、友人のジャズ・ギタリストに〈これは絶対見るべきだ!〉と激しく勧められた「魔法少女まどかマギカ」で、萌え絵に怯んではいけないと学習しましたから。

楽曲自体のレビューから少し脇道に逸れるかもしれませんが、ジャズ・ピアニストの私として注目した特筆すべきことは、オフィシャルサイトの〈あのね!〉コーナーです。

このコーナー、凄いです。ポピュラー音楽で用いられる用語を、キャラクターたちが解説してくれています。滅茶苦茶おもしろいです。しかも、ちゃんとしています。

(引用1)サブドミナントマイナー
すっごく心にキュンってくるせつなさで
わたしのハートをわしづかみにした張本人だよっ! 

(引用2)フォーバース
なんかそれって、放課後みんなでわいわいスイーツしりとりしてる感じだよねっ!
わたしが「ビスキュイ・クーラント・ショコラ!」って言って
めうめうがその後に「ラング・ド・シャ!」って…そんな雰囲気だよねっ?
そっかぁ、ジャズの曲ではそういう放課後スイーツしりとりタイムみたいな時間があるんだねっ!

悶絶しました。す、すごい。
これはジャズ・ファンの皆さん、プレイヤーの皆さんも、一見の価値ありですよ。こういう言葉でちゃんと説明できるって、強力に音楽力がないとできることじゃありませんよ。しかもその量がすごいです。こういう音楽的のお勉強があっての「ひなビタ♪」なんでしょうね。アニメとして放送されているものではないので、お勉強でキャラクターもストーリーも補完して世界が出来上がっていくって、凄く新しいコンテンツだと思います。

 

PROFILE:西山瞳


79年生まれのジャズ・ピアニスト。2006年にスウェーデンのミュージシャンとのトリオで録音した『Cubium』でデビュー。2008年のバンド編成での『Parallax』、2011年のトリオ作『Music In You』など作品ごとに着実に評価を高めるほか、ヴォーカリスト・東かおるとのプロジェクトやベーシストの安ヵ川大樹とのデュオ、さらにビッグバンドへの楽曲提供なども手掛ける。2014年には西山瞳trio“parallax”として最新作『Shift』をリリース。またこのトリオで5月1日(金)の名古屋 jazz inn LOVELY公演を皮切りに、岡山・倉敷、大阪・梅田を回るツアーを開催。詳しくはこちら

【参考音源】西山瞳trio“parallax”の2014年作『Shift』ダイジェスト

 

 

★澤部渡(スカート)

 

まるで旧友のような顔でループや音色が近寄ってくるじゃありませんか。ゆったりと刻むダブル・ベース(の音色)に警戒心を解いて向き合おうとすると〈わあ〉懐かしい。ステレオ・ディレイの湯けむりの向こうに霞むのは(僕らが望んだままの)渋谷なのか、はたまた。作品の背景などを正しく咀嚼しきれていないのが申し訳ないのですが、時々歌詞に盛り込まれるボケとツッコミの要素は(レトロ趣味が過ぎて原始時代までさかのぼってしまうくだりは特に)個人的には邪魔に感じました。でもその茶目っ気やノヴェルティー性は渋谷系と呼ばれるものの姿勢としてきっと在るべきものなので、この意見はただの嫉妬なのかもしれません。サビを結ぶ〈それが私たちの粋〉という歌詞とメロディーの相性はとても素晴らしいです。

 

PROFILE:スカート/澤部渡


2006年より澤部のソロ・プロジェクト=スカートとして、サポート・メンバーを迎えて活動。2010年にファースト・アルバム『エス・オー・エス』を発表後、2014年作『サイダーの庭』まで計4枚のアルバムをリリース。一方、オノマトペ大臣らと組むトーベヤンソン・ニューヨークで2013年にシングル“ロシアンブルー”を発表、また2014年のマンタ・レイ・バレエの初作にパーカッションで、Negiccoの最新作にアレンジャーとして参加するなど、幅広い活動を行っている。

【参考動画】スカートの2014年作『サイダーの庭』収録曲“すみか”

 

 

【番外編! 今月のお題候補たち】
残念ながらお題盤にはならなかったものの、ぜひ聴いていただきたい楽曲をTOWERanime新宿の樋口による解説付きで紹介します!

 

THE ROLLING GIRLS TVアニメ「ローリング☆ガールズ」ソング集〈英雄にあこがれて〉 ポニーキャニオン(2015)

2015年冬(1月~3月放送)に放映されたアニメ「ローリング☆ガールズ」の劇中で使われているヴォーカル曲のほぼすべてがメイン・キャストによるザ・ブルーハーツの カヴァー。主題歌も、挿入歌も! なぜなのかはいまだ語られていませんが、でもなぜかしっくりくる。また観たくなる、また聴きたくなる。映画「リンダ リンダ リンダ」もそうでしたが、10代という青春真っ只中の瑞々しさとブルーハーツの相性は凄く良いですね。心の奥底にある懐かしい何かをくすぐられる楽曲のアプローチや、カラフルな映像の魅力は普段アニメをあまり見ない音楽ファンにも響くものがあるのでは?と思います。

【参考動画】アニメ「ローリング☆ガールズ」オープニング曲“人にやさしく”(上掲の作品には未収録)

 

【参考動画】アニメ「ローリング☆ガールズ」第4話のエンディングテーマ“脳天気”

 

 

AIKATSU☆STARS! Lovely Party Collection/チュチュ・バレリーナ ランティス(2015)

いまや女児向けアイドル・アニメという枠を越え、ハイクォリティーな音楽でJ-Popシーンに一石を投じるエッジーな楽曲揃いの「アイカツ!」より、聴覚と視覚をダブルで刺激するキラー・チューンが到着しました! PUFFY関ジャニ∞への楽曲提供を手掛ける石原理酉さんによるオトナの魅力溢れるスタイリッシュなトラックと、「アイカツ!」はもちろんのことアニメ・シーンではお馴染みの只野菜摘さんによる歌詞のタッグはソリッドでクール。どこか懐かしさも漂うJ-Pop感に心のBPMも高鳴ります。

 

 

飯田友子 THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 034 速水奏 コロムビア(2015)

アイドルをフィーチャーした2000年代以降のアニメ・ゲーム作品としてはオリジン的な存在である「THE IDOLM@STER」。そのソーシャル・ゲーム版として2012年に配信を開始した「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS」からのソロ・シングル・シリーズの第34弾は、劇中キャラクターの速水奏によるEDMナンバーです。180人を超えるアイドルが登場する「THE IDOLM@STER」では各々の個性に合わせて現行音楽シーンのトレンドをいち早く採り入れた楽曲が多く存在しており、EDMに真正面から向かい合って完成した“Hotel Moonside”はそれを象徴するもの。日々進化を遂げるキャラソンの現状を間近で感じ取ることができる、圧倒的な存在感を放った熱い一曲となっています。

ポール・マッカートニー