不朽の名画「砂の器」のテーマ音楽「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」が、約40年ぶりに全曲再演された。指揮は「中学生のころに映画を観て深く感動した」と話す西本智実、ピアノは映画の主役・加藤剛を彷彿させる外山啓介、そして邦人作品に実績ある日本フィル……と演奏者も当公演に相応しい顔ぶれ。会場は超満員で、開演前から熱気と期待感に溢れている。

 今回の重要なポイントは、「宿命」に関連した作品が前半に置かれている点。まず外山啓介のソロで、「宿命」の構造や旋律に影響を与えたラフマニノフのピアノ曲が3曲披露される。冒頭の「ヴォカリーズ」では、歌うように紡がれるロマンティックな旋律が、「宿命」の前段に即した雰囲気を醸し出す。2曲目の「前奏曲 作品23-4」はノクターン風の味わいが美しく、最後の「前奏曲 作品3-2『鐘』」では外山が大きな抑揚で緊迫感を創出し、後半との関連性を暗示した。

【参考動画】74年の映画『砂の器』より

 

 次いでは「宿命」の監修者・芥川也寸志の「弦楽のための三楽章」。これも第1楽章の引き締まった響きから既に「宿命」を想起させる。第2楽章はデリケートに綾を成し、第3楽章の変拍子リズムが、ここでも緊迫感を盛り上げる。同曲は芥川の中でも本公演に合った作品であるのを強く実感させられた。休憩を挟んでいよいよ菅野光亮の「宿命」。Part1、2に分かれた40分ほどの大曲だが、長さを全く感じさせない音楽であり演奏でもあった。Part1の冒頭からドラマティックなオーケストラと熱のこもったピアノの協奏が展開。事件を示す不協和音や哀切な部分などの場面変化も的確に成され、テーマ旋律が効果的にクローズアップされる。Part2は、前半のシリアスな場面が緊張感をもって奏され、白眉となるラストシーンでは、ダイナミックなピアノと濃密なオーケストラが引き立て合いながら、豊麗なクライマックスが構築された。ホルンのソロをはじめ日本フィルの豊潤なサウンドも大いに貢献。なお同曲では、オーケストラがピアノを包む配置が成されていたが、西本によると「当日のゲネプロ中も通常の協奏曲スタイルとピアノを包む配置の両方を試しました。作品の内容、音楽性を踏まえて全体のバランスを調整しながら試行錯誤しましたが、最終的に、ピアノをセンターに置き、指揮者と対面して一体感が生まれるように配置することにしました」とのこと。外山も「この配置でより一体感を感じた」と話していた通り、楽曲の特徴が明快に打ち出される好結果を生んだといえる。

 本公演はいかにも演出を施しそうな企画だが、あえてそれをやらなかったことで、音楽のもつ雄弁な力を知らしめた点が、何より素晴らしい。

 

billboard  Classics 西本智実指揮「宿命」
 ~映画『砂の器』公開40周年記念~

○6/22(日)14:00開場 15:00開演
出演:西本智実(指揮)外山啓介(P)日本センチュリー交響楽団
曲目:菅野光亮:ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」/芥川也寸志:「弦楽器のためのトリプティーク」ピアノ・ソロ ラフマニノフ:前奏曲 作品3-2「鐘」、前奏曲 作品23-4、ヴォカリーズ(リチャードソン編曲)
会場:ザ・シンフォニーホール    
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西本智実指揮組曲「宿命」(3月30日東京芸術劇場コンサートホール)のライヴCDが、ビルボードクラシックスより7月リリースが決定。 ※詳細は後日発表。
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