先々月から始まりましたヤセイコレクティブによる「ヤセイの洋楽ハンティング」、第3回目はギター、ヴォコーダー等を担当している斎藤がお送りします。

僕が紹介させてもらうのはアメリカのギタリスト、Wayne Krantzさんです。数年前に初めて聴いた時に心底驚嘆しまして、僕はそれ以来大ファンなのです。

Wayne Krantzはギター・トリオという形式にこだわる、最近では珍しい硬派なギタリストなのですが、ここ2~3年で日本でもかなり人気が出てきて、よく来日公演が行われるようになってきましたね。もちろん毎回ギター、ベース、ドラムというトリオ編成です。一番最近だと今年の3月にAnthony JacksonCliff Almondと共に来ていました。この他にもKeith CarlockTim LefebvreNate Woodなどと何回か来日していて、来るたびに熱狂的なファンが増えていっているようです。

では、みんな彼のギター・トリオの一体どこに惹かれるのかというと、一番はやはり、その革新性ではないかと僕は思います。変化に富む曲の構成、風変わりな音色、独自のコード・ワーク、アグレッシヴで自由なインプロヴィゼーションなどなど、今までになかったアプローチが満載で、初めて聴く人はだいたい「マジかよ……」ということになるみたいです。僕は凄すぎてむしろ困惑してしまったくらいです。

まあ何はともあれ、百文(聞)は一見にしかずということで動画をご覧ください。

これは1999年のライヴですが、この時にもうこの音楽をやっていたというのは本当に凄いことだと思います。使い古され、平凡なものになっていたギター・トリオという枠組みの中でこんな凄いことができるんだ、と目からウロコです。

曲中の要所要所で行われる急なテンポ・チェンジ、リング・モジュレーターやオクターバーなどのエフェクターを用いた音色、開放弦を多用した独特のコード・ワークやフレーズなど、彼の音楽を語る上で欠かせない要素がもうこの時点で形になっているのですが、驚くべきはこの少し前まで彼は全然違うタイプのプレイヤーだったということです。次の動画は1996年のLeni Stern BandでのWayneのソロです。

バリバリのフュージョン・ギタリストですよね。それが短期間であそこまで変貌を遂げるとは。何かで読んだのですが、彼は自身の音楽を作り出すために一時期、自分を他の音楽から隔絶させたそうです。ストイックかつ硬派ですよねぇ。そういうの大好きです。

そしてWayne、Keith、Timの黄金トリオは2005年にもなるとさらに凄いことになります。これがその頃の動画。

もう凄いというかなんというか……。

Wayneは確固たる自分のスタイルを完璧強固に打ち立て、Wayne Krantzという個性の塊、いや、鬼と化して全ギタリストの前に屹立した感があります。

次の動画はThe Ringersで弾くWayneです。他のバンドで演奏している動画はなかなかないのですが、やはりここでもWayne節を炸裂させているのでご紹介(14分45秒あたりから1回目のソロが始まります)。

これが俺なんだぜ、みたいなのがビシバシ伝わってきてかっこいいですよねぇ。

このあたりから自身のトリオのメンバーも以前より流動的になってきましてAri HoenigAnthony TiddNate Woodkneebodyなど)、Panagiotis AndreouJason LindnerのプロジェクトであるNow Vs Nowなど)らとも演奏しています。

 

どのメンバーのものでもそれぞれ味があって、なおかつ刺激的。

そして最近の動画。

相変わらずキレキレ。やはり彼の音楽って、自分が良しとするものを常識に囚われずに実践していくその姿勢と精神が音から滲み出ている気がします。そこが最高にかっこよくて、シビれますね。

そして音楽史的な観点から言えば、ギター・トリオという旧来の形式の頭打ち感を払拭したのみではなく、あえてその伝統的な枠組みの中で新しい音楽の可能性を提示したその功績は本当に素晴らしいものだと思います(ちなみにエフェクター史的に特筆すべきは、一家に一台リング・モジュレーターを普及させたところでしょうかね。 え? お持ちでないですか? おかしいなぁ)。

己の道を突き進む、いぶし銀のギター・ヒーロー。一体彼はどこまで進化するのか。

とりあえずまた早めに日本に来て欲しいものです。

 

おすすめCD

WAYNE KRANTZ Krantz Carlock Lefebvre Abstract Logix(2009)

WAYNE KRANTZ Howie 61 Abstract Logix(2012)

WAYNE KRANTZ Good Piranha/Bad Piranha Abstract Logix(2014)