Photo by Dusdin Condren

 

 現代エクスペリメンタル・ロックの代名詞=バトルスの元メンバーにして、フリー・ジャズ界の最高峰であるサックス奏者アンソニー・ブラクストンを父にもつ男、タイヨンダイ・ブラクストン。この旺盛な探究心。まったく血は血を争えないものですね……なんて親の話はもういいか。ここには親の七光りなど真っ向から跳ね返す――世にも美しいフォルムを描き、全方位に向けてビームを放射する――強烈な個によるプリズムの輝きがあるのだから。 

TYONDAI BRAXTON HIVE1 Nonesuch/BEAT(2015)

  2013年にNYのグッゲンハイム美術館で初演されたインスタレーション・パフォーマンス「Hive」をもとに制作されたという本作。アルバムに先がけて公開された《Scout1》におけるポリリズミックなパーカッション、野太くアシッディーにうねるシンセ・ベース、オリエンタルな旋律をかもし出すメロディ、そして上下左右に飛び回る金属的なノイズ。それらが不規則に入り乱れながらも理路整然とした法則に基づいて動く妙、その躍動感にはみるみる興奮を煽られ、手には汗をにぎるばかりだ。前作『Central Market』(2009年)は、大学で作曲を学んだというタイヨンダイのスコアによる緻密でダイナミックなオーケストレーションが印象的で、翌年に彼がバトルスを脱退したこともあり、次のソロ作品はさらに壮大で現代音楽寄りなものになると踏んでいたのだが……なかなかどうして。老舗ノンサッチにて初めて録音された本作『Hive 1』は、がらりと様相を変え、まるで古巣ワープからリリースされたかのようなアヴァンギャルドな電子音楽作品となっている。そう言えば、昨年リリースされたマウス・オン・マーズの新作に彼らとタイヨンダイによるコラボレーション曲が収録されていたので、そんな予兆はあったのだが。完全にやられた。

 しかし、ひと口にアヴァンギャルドといってもそこはタイヨンダイ。トガリにトガったさまざまな音を衝突させながらも(虫の鳴き声、アラーム、タイプライター、ヘリコプターの音なども聞こえてくる)、そのぶつかり合いにはいつも対話とユーモアがあり、なによりリズミックなハーモニーがある。そんなリズム運動に力点を置いた本作。大半に配置された3人のパーカッション奏者が、ボンゴ、ウッドブロック、シンバル、スネア、ジングルなどを巧みに操り、ズレと結合の響きを作り出す様子は、まるでスティーヴ・ライヒ『ドラミング』の現代版といった趣き。このテンポ、ビート、パルス、エレクトロニクスが渾然一体となって蠢くリズムのつづれ織りに(しかも踊れる!)、こちらの耳鳴りはしばらく止みそうにない。