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ジャズ業界へさらに物申す&決意を語る! 若手ドラマー、松下マサナオ×石若駿×横山和明と柳樂光隆によるスペシャル鼎談後半戦

【〈越境〉するプレイヤーたち】第2回(後編) 

ジャズ業界へさらに物申す&決意を語る! 若手ドラマー、松下マサナオ×石若駿×横山和明と柳樂光隆によるスペシャル鼎談後半戦

新時代のジャズ・ガイド「Jazz The New Chapter(以下JTNC)」で旋風を巻き起こした気鋭の音楽評論家・柳樂光隆が、人種/国籍/ジャンルなどの垣根を越境し、新たな現在進行形の音楽をクリエイトしようとしているミュージシャンに迫るインタヴュー連載。登場するのは、柳樂氏が日本人を中心に独自にセレクト/取材する〈いまもっとも気になる音楽家〉たちだ。 

連載第2回はスペシャル企画。これからもっとも注目すべき若手ジャズ・ドラマー、松下マサナオYasei CollectiveZa FeeDo)、石若駿横山和明が一堂に会し、柳樂氏を交えてのスリリングなロング鼎談が実現した。5月のMikiki記事アクセス・ランキング1位を記録した前編に引き続き、さらに語気を強めてジャズ業界に物申し、みずからの決意を語る後編をお届けしよう。6月23日(火)には柳樂氏企画のスリーマン・ライヴ企画も決定しているので(詳細はこちら)お見逃しなく!(Mikiki編集部)

★前編はこちら
 



【ドラマー視点で語る、ジャス・シーンの外側/内側】

松下「俺は(ジャズ・シーンを)比較的外から見ているので、2人(横山・石若)のように完全にシーンの中にいる人はそこが狭いって認識はあるのかな? プレイヤーもそうだし、ライターも含めて。俺は柳樂さんがジャズの中にいるとは思えないんだけど。 〈JTNC〉もジャズだけの本じゃないと思うし」 

――僕は半分アウトサイダーだから。元々は珍屋っていうレコード屋の店長をやってて、そこに横山くんもよく来てくれてたんだよね。 

横山「そうですね」 

――あの店にジャズのレコードはほとんどなかったけど、横山くんもジャズは買わずに変なCDをたくさん買ってたもんね。ソウルとかばっかり。ソウルクエリアンズ系とか。 この人、ジャズ・ドラマーなのにジャズの棚を全然見ないんだなって。

横山「柳樂さんが店長やってたときは全然ジャズのCD買ってませんでしたね」 

松下「へぇ。でも和明ってそういう印象あるよね。今だからそうなのかもしれないけど、オールドスクールなものを何でも聴き漁ってる感じが音にも出てるし。和明がケンドリック・スコットが好きっていうのだって、知り合ってからもなかなかわからなかった。後から話を聞いて、〈たしかに言われてみれば、(横山は)日本のケンドリック・スコットか……〉みたいにも思ったけどね」 

*ケンドリック・スコット
80年テキサス州ヒューストン生まれ。繊細かつダイナミックなプレイで知られ、大御所のテレンス・ブランチャードから、今日の代表する歌い手のグレッチェン・パーラトまで広く信頼を集める名ドラマー。2005年には自身のバンドであるオラクルを結成し、名門コンコードから発表された2013年作『Conviction』は現代ジャズの最先端をゆく一枚として話題となった。

【参考動画】『Conviction』収録曲“Pendulum”~“Too much”のパフォーマンス映像
(前者はブロードキャスト、後者はスフィアン・スティーヴンスのカヴァー)


横山「ほんとに好きなものを好きなだけ聴きたいんですよ」

松下「だったら(自分でも)演りたいでしょ?」

横山「そうですね。僕は2人と比べていわゆる普通のジャズのシーンで活動していて、周りからはそちら側の人、という扱いをされているのかもしれないけど、なんかそれは違うかな、と僕自身は思っています。具体的にプレイを変えようとかではないけど……自分を一個人として見てもらって必要とされて仕事に呼ばれるという事が大切だと思います。周囲の様子を窺って〈じゃあ、こっちですね?〉と流されるのではなくて」 

松下「それはサムいよね。すごくダサい」 

横山「それに、結局それだと全部後追いですし。時代の流れに沿ってる/沿ってないは別にして、自分が正しいとかカッコいいと思うことをやるのは大事なことだと思うし、やり始めたときは周囲に理解されなくても、継続すればその人なりの説得力が出てくるはずだから。それが上手く回ってくるときもきっとあるだろうし。興味のある事にはどんどん飛びついて行きたい」 

――石若くんも「坂道のアポロン」でドラムを叩いたりとか、そういう実績も活かしてオープンな活動を続けていれば色々と開けていきそうだよね。

横山「僕も観てました、そのアニメ」

石若「僕にとって大きいチャンスでした。原作も読んですごく感動した作品だったので、これは絶対に物凄いアニメになるなーって思いながら臨みました。物語が進む上で(川渕)千太郎というキャラクターの心情の変化でドラムの音も変わらなくてはならなくて、僕も役者気分で音で演技してるようですごく楽しかった。大学1年生の頃でしたね。皆の心を鷲掴みにしてはなさない魔法使いみたいな菅野よう子さんや、幼い頃から〈東京JAZZ〉とかを観ていて憧れの松永貴志さんとともにこの作品に携われてほんとに幸せと思います」

 【参考動画】アニメ「坂道のアポロン」のCM映像
石若は主人公のひとり、川渕千太郎のドラム演奏と動きを担当した

 

松下「でもさ、駿みたいな新進気鋭なドラマーの他に、シンバルのレガートだけで音楽になってるヤツって和明のほかにいないじゃん。ほぼ皆無だと思うよ。同じドラマーからすると、あれは本当に凄い」 

――僕も、たまたま知り合いに「横山くんのドラムが凄いから」と誘われて、観に行ったらビックリしましたもん。

【参考動画】鈴木直人カルテットの2013年のライヴ映像、ドラムは横山


松下「(横山は)次の大坂昌彦さんみたいなポジションだと思う。大坂さん凄いから……俺は喜ばしい事に知らないのだけど、大坂さんが怖かった時期を見て、彼より下の世代の中で嫉妬して悪くいう人もいるけど〈じゃああなた同じ位自分のドラムにかけてるの?〉って聞きたい。絶対無理だと思う。 あの人ほどリアルでクリスピーなジャズ・ドラムを叩ける人は日本にはいないし。あの世代は大坂さんひとりでいいですもん。って言っちゃっていいくらい凄い」 

横山「たしかに、大坂さんがアメリカから帰ってきてからは日本のジャズ・ドラム界をひとりで引っ張ってきた感じですよね」

*大坂昌彦
66年秋田県生まれ。86年にバークリー音大に留学し、NYで活動。帰国後は90年代初頭の〈ジャズ維新〉ブームを盛り上げる立役者のひとりとして活躍を見せた。今日までに100枚を超えるアルバムに参加し、リーダー作も多数発表。〈スイングジャーナル〉誌の読者投票ドラム部門では、95年より16年間1位に選出され続けた。
 

松下「大坂さんより10歳ぐらい下の世代、つまり俺らよりちょっと上の世代って、海外から(音楽を学んで)帰ってきても日本の音楽に良くも悪くも完璧にフィットさせてるでしょ。ポップスでもジャズでもそうだけど。俺がジャズ・シーンから一度抜けようと思ったときに、なんであーなっちゃうのかって考えたんだよね。とりあえず日本のジャズ・シーンって(ドラムの)音がちっちゃいじゃん。ハコがちっちゃいから? 控えめに叩くこともカッコいいから別に構わないんだけど、アメリカは小さいハコでも音量関係なく思いっきり叩くでしょ。しかもそれがうるさくない。あの感じが大坂さんのプレイには凄くあるよね」 

横山「音が小さいか大きいかというより、向こうの人はダイナミクスレンジが広いという事ですよね。エリック・ハーランドとかは生で観ると(音が)小さい時はかなり繊細だけど、ガツンと行った時は(音量的に)かなり出してますから。これは僕自身の課題でもあるけれど、多くの日本人の場合は変に抑えこんで小さくした感じになりがちで……」

松下「〈音ちっちぇえ!〉って感じだよね」 

横山「そう、しょぼい感じ。奏法的にもそういうふうに見えるし」

石若「やっぱり奏法が関係してますよね」

松下「奏法本位の人が多いんだよね。ドラム・メソッドに囚われすぎ。例えばリム・ショットの連打なんて絶対モーラー奏法では出来ないでしょ? そんなの筋肉とか根性みたいなやつか、瞬発力でやるしかないんだから。それなのに、〈手首を悪くするから〉とか〈それはナントカ奏法では出来ない〉とか言って、そういうの絶対やらないじゃん。クソ喰らえだよ。そういうふうに教える学校が日本にいっぱいあるけどさ、モーラーとか、あれらはただの奏法の一つであって音楽じゃないんだから」 

横山「(そういう奏法も)部分的には使うけど、全部それに囚われるのは変ですよね」 

松下「チップが打面にあたるかどうかだけだからね、ドラムなんて」 

石若「出したい音が出せればいいじゃんって感じですけど」 

――僕も日本のジャズを追ってると、同じような不満を感じることがありますよ。 

松下「2人の他にも好きな若いジャズ・ドラマーとか、大坂さんみたいに常に探求していて尊敬できる人はいるんだけど、基本僕らよりちょっと上の世代 のジャズ・ドラマーってゴソッと〈必要なところ〉が抜け落ちているというか。日本におけるジャズ・シーン――まぁ、そんなもん本当にガチでやってるコミュニティー以外はなくなればいいと思ってるんだけど、昔からのやり方で飯が食えるから、みんなそれに乗っかっちゃうんだよね。例えば毎日ライヴをやって1日1万円くらいもらって、それを 月に25本やればとりあえず生活していけるでしょ。そういう生活を10年やっちゃうと、そこからもう抜け出せない。そういうシーンだから、基本的に変わったことをするとたいがい全部叩かれる。叩かれないようにうまく生きていくしかない。それはフュージョン・プレイヤーもそうだし、レコーディング・プレイヤーも同じだと思う」 

――そうなんだろうね。

松下「自分がそうなるのが嫌で、そうじゃない人間を探して音楽活動続けていたらこの2人みたいな人達と出会えたんですよ。ドラムだけじゃなくて、ギターだろうがベースだろうが、たとえ収入がなくても自分のやりたい事を数年命かけて続けたあとのミュージシャンってのは、顔も音も全然違う。俺はジャズ・シーンを出たからこそ、ジャズのハイエンドな人達といまめっちゃ仲良くなりましたよ。和明だって最初はYasei Collectiveのライヴに来てくれて知り合ったし、駿もFacebookにアップした動画にコメントくれて、そこから仲良しになった。そのままジャズの業界にいたら絶対に俺のことなんか興味持たなかっただろうなって人達が、逆にこうして注目してくれてるのは、〈俺は自分のやりたいことをやってみよう〉って決心してそれを続けてこれたからだと思う」 

――まずは自分からどんどん動くべきだよね。

松下「この2人と同じくらいの技術やセンスがあるのに、ジャズ・シーンでは評価されなかった人達もたくさんいると思う。そういう人達は、もっと逆に俺らの方のシーンに出てくるといいんじゃないかな。それでバンドに入ったりしたら、〈こんな上手いドラマーいるんだ!〉ってピックアップされると思うから。 (Libstemsのドラマー)永山洋輔みたいに、めちゃ上手くてセンスもある、日本のエリック・ハーランドみたいなヤツもいるんですよ。それを誰かがピック アップしてくれたらいいんだけど、その〈誰か〉がいないならコッチから動かなきゃいけない」

――Libstemsもアルバムが出た時に「今までと違うプロモーションがしてみたい」って相談されたから、「〈Nextbop〉っていうアメリカのジャズ・サイトがあるから(音源を)送ってみなよ」って教えてあげて。それで本当に送ってみたら〈Nextbop〉が気に入ってくれたみたいで、向こうのネットラジオで曲を毎週かけてくれたんだよね。海外のほうがアンテナが敏感なところもあるし、そういうアプローチの仕方もあると思うな。

※ Nextbop
新世代の進歩的なジャズ・シーンを紹介する音楽サイト。同時代のインディー・ロックやヒップホップ、ビート・ミュージックへの視点も欠かさず(毎年恒例の年間ベスト企画ではジャズ以外のベスト・アルバムも選出している)、ネット音源もフラットに紹介している。
http://nextbop.com/


【参考音源】Libstemsの2014年作『Daydream Sounds』収録曲“Daydream Sounds”
同作はmabanuaが共同プロデュースを務めている(レビューはこちら

 

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