いつか〈満月〉になれる日を夢見て、必死にもがく〈酸欠少女〉――19歳のシンガー・ソングライターが2.5次元よりデビュー!

 TVアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディング・テーマに採用された“ミカヅキ”を掲げ、19歳のシンガー・ソングライター、さユりがメジャー・デビューする。ポンチョ姿で黄色いギターを抱え、切り裂くように弦を掻き鳴らし、吼えるように歌い、〈人とは違う感性と価値観を持つことに日々優越感とコンプレックスを抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分〉を〈酸欠少女〉と表現するさユり。小学6年生の頃からギターを手にする彼女のルーツは、意外にも関ジャニ∞だった。

「関ジャニ∞が自分たちで作った曲をバンドで演奏しているのがかっこいいなと思ったのが、ギターを始めたきっかけでした」。

さユり 『ミカヅキ』 ARIOLA JAPAN(2015)

 その後、バンドものを中心にさまざまなジャンルの音楽を聴くようになり、中学2年で初めてオリジナル曲を制作。ライヴハウスに出演し、ストリート・ライヴも行うようになる。人と話す自分を俯瞰でしか見られなかったというさユり。無意識のうちに孤独感を常に抱えていた彼女は〈過去の後悔〉を前向きな気持ちで曲にすることが多い。

「深層心理にあることが無意識のうちに曲になっていたりするんです。たぶん〈後悔を忘れたくない〉という感情が強くて。そのときに感じた痛みを忘れたくないという気持ちはあります」。

 ただ、彼女は自分の歌にも曲にも自信を持つことができず、必死にしがみつくように音楽を続けてきたという。だが、その芯の通った、聴いているこちらの脳天へ真っ直ぐ入ってくる歌声に弱気は感じられない。さユりのアートワーク全般を手掛けているヴィジュアル・アーティストのYKBXは、彼女と話すなかで、彼女のなかにさらに2つの人格を見つけたという。それがアーティスト写真やMVにも登場する白髪ポンチョの少女と黒髪セーラー服の少女。これがさユりの多面性の象徴であり、彼女が〈2.5次元パラレル・シンガー・ソングライター〉とみずからを称する所以である。

「YKBXさんがわたしの内面を掬い取ってくださって。2人の性格を聞いたときに〈確かにわたしにはそういう面がある〉と腑に落ちました。これからわたしが変わっていくことでこの2人も変わっていくだろうし、いろんな動きを楽しみたいし、楽しんでももらいたいです」。

 今回の“ミカヅキ”は、アニメの原作となる江戸川乱歩の作品に登場する人物の〈どこか欠けている〉イメージを三日月に重ね、〈いびつでも未完成でも進んでいけるんじゃないか〉という、彼女が日頃感じている思いを込めて作った楽曲。

「自分に自信がなくても進んでいきたい! 自信を持ちたい……そういうギリギリのなかから生まれた曲です。〈ただ欠けているわけではない、いずれ満月になれる三日月だったらいいな〉と思いたくて。強い思いがなかったらとうの昔に音楽をやめているはずだから、自分のなかにいる2人と助け合いながら音楽を続けているんだと思います」。

 江口亮がアレンジを手掛けた静寂と激情を行き来するドラマティックなバンド・サウンドと乱歩ワールドに通ずる日本的で流麗なメロディーに乗せて歌われる〈欠けた翼で飛ぶよ〉という歌詞は、メジャーに飛び出すさユりの決意表明だ。カップリングには、アコギ一本の弾き語り曲や、歌声をボカロ風に加工した楽曲なども収録し、それぞれでまったく違う表情を見せる。まだまだ謎が多く未知数のさユり、この先も我々をじわじわと楽しませてくれそうだ。

 

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ここでは“ミカヅキ”に関わる2人のクリエイターを紹介。ヴィジュアル面を手掛けたYKBKは、ニュー・シングル“スピードと摩擦”(ソニー)も好評なamazarashiのアート・ディレクションで知られる映像作家。倖田來未の編集盤『SUMMER of LOVE』(rhythm zone)からの新曲“EX TAPE”といったMV仕事に加え、渋谷慶一郎によるサントラ『ATAK020 THE END』(SOUL AG)も話題となったボーカロイド・オペラ〈THE END〉の映像も彼によるもの。アレンジを担当した江口亮は、いきものがかりなどを手掛ける作/編曲家で、最近では東京パフォーマンスドール“DREAMIN'”(エピック)のヒットに貢献。シングル“ハレルヤ”(flying DOG)を発表したばかりのla la larksや、Stereo Fabrication of Youthといったバンドでも活動中です。 *bounce編集部