三船雅也(ROTH BART BARON)、井上陽介(Turntable Films)

 

京都を拠点に活動する3人組、Turntable Films。2010年のデビュー以降、カントリーやフォークブルーグラステックスメックスといったアメリカ音楽の肥沃な土壌をルーツとする渋くも芳醇なサウンドと、それら通好みの雰囲気を刷新する、ローファイオルタナティヴ・ロックと地続きのフレッシュなソングライティング・センスで、リスナーのみならず多くの音楽家たちをも魅了してきた。なかでもASIAN KUNG-FU GENERATIONGotchこと後藤正文は彼らを積極的にフックアップしており、〈NANO-MUGEN CIRCUIT 2013〉での共演に加え、フロントマンの井上陽介をGotchのソロ・バンドへギタリスト/バンド・マスターとして抜擢。そうした流れもあってか、彼らの3年7か月ぶりとなるニュー・アルバム『Small Town Talk』は、Gotchが主宰するレーベル=only in dreamsからのリリースとなった。

前作『Yellow Yesterday』以降、パーマネントなライヴ・メンバーにスライド・ギター・プレイヤーと鍵盤奏者が加入。数多くの公演を経て熟成したセクステットでのアンサンブルをそのまま作品へと刻み込むべく、『Small Town Talk』に収録された10曲のうちほぼすべてが同編成で録音されている。さらに、カナダはトロントのプロデューサー/マルチ・プレイヤーであるサンドロ・ペリがミックスを担当しており、深い洞窟の中で奏でられた音に包まれているような、立体的でダイナミックなプロダクションが心地良い。また、古きソウル・ミュージックに通じるまろやなかグルーヴ、メロウネスや慈しみのフィーリングといった、作品全体を貫く甘美な黒さも特筆すべきだ。今後和製ブルーアイド・ソウルの名曲として名を連ねるであろう涙腺を刺激する疾走曲“Cello”、メイヤー・ホーソーン“Just Ain't Gonna Work Out”を彷彿とさせるセンチメンタルなバラード“Nostalgia”をはじめ、『Small Town Talk』に揃うナンバーはいずれも、暗い部屋に灯された蝋燭の如き暖かさを持っている。

また、前作までは全曲英詞だったが、今回はすべて日本語詞に。しかしながら、井上の歌詞における特徴――幾つもの比喩表現を使った詩情豊かな内省の描写という主題にはブレがない。“I Want You”の〈あのルーズな雨を曲に吹き込む/指揮者の腕は憂鬱というひとつの記録〉、“Into The Water”の〈夕暮れの岬で腰掛ける/憂愁の真似事〉などのフレーズは、彼ならではの優美な言語感覚の賜物と言えよう。もともと井上の歌詞は、〈嬉しい〉や〈寂しい〉といった一面的な情緒へ振り切らず、その狭間で寄る辺なく漂う心の動きを描いていたが、今回の日本語詞においても、その〈割り切れないエモーション〉を映し出している。これは作詞家として大きな達成だろう。前作からは3年7か月と時間は要した。けれど『Small Town Talk』には、バンドがなだらかな変化を経て到着した現在地がしかと刻印されているのだ。

そして今回Mikikiでは、Turntable Filmsの井上と、近しいタイミングで新作『ATOM』をリリースしたROTH BART BARONのヴォーカリスト、三船雅也との対談を企画。同じくネオ・アメリカーナ的なサウンドへの志向を持ち、奇しくもニュー・アルバムにおいてはカナダ人脈によるサウンドメイクがなされ、さらにトロントのハリス・ニューマンがマスタリングを担当しているという点でも共通項を得た両者の対話から、『Small Town Talk』を紐解いていこう。

Turntable Films Small Town Talk only in dreams(2015)

 

ーーまずは最初に2人が出会ったのは? おそらく初共演は2012年12月の京都OOH-LA-LAですよね?

井上陽介「あれが初対面なのかな?」

三船雅也「それより前に僕はTurntable Filmsのライヴを観てますね。代官山UNITの〈CLUB SNOOZER〉(2012年8月)で。ライヴを観る前から、フォークの要素が入っている日本のバンドとしてすごくシンパシーを感じてたんです。当時は自分と同じような音楽を聴いていて、自分もフォーク的な音楽を演っていていいんだって思えるバンドに、東京では出会ったことがなくて。そこで観に行って挨拶したんです」

井上「そやそや。めっちゃ朝方じゃない? 明け方に〈こんなバンドやってるんです〉ってロット(ROTH BART BARON)のCDをもらった。その後に京都でロットがライヴを演るとき、僕もソロで出ることになったんよね。ゆーきゃんもいたね」

三船「そうそう。僕らが東京以外で組んだ初めてのイヴェントだったんですよ」

ーー三船さんがTurntable Filmsのことを知ったタイミングは?

三船「“2Steps”のMVが公開されたときくらいじゃないかな。でも、それ以上に、実際にライヴを観て、バンドの根っこにあるアーシーなところを知れたのが大きかった」

Turntable Filmsの2010年作ミニ・アルバム『Parables of Fe-Fum』の収録曲“2steps”

 

ーー確かにいわゆる日本の四畳半フォークじゃない、アメリカやイギリスのフォークを咀嚼しようとしているバンドは珍しかったかもしれません。

井上「ロットも珍しいと思ったな。彼らみたいな発想でやるバンドってなかなかいないというか〈目の付け所が変わってるなー〉とは思ってたんです。いちばん初めはドドスとかに近いイメージ。あのバンドも初期はちょっとトロピカルな要素があったから、そのあたりを志向している印象でした」

ドドスの2008年作『Visiter』収録曲“Fools”

 

井上「でも新しいアルバム(『ATOM』)を聴くと、もっと進んだ感じがしましたね。僕らも彼らも同じアメリカン・フォークが好きやと思うんですけど、僕らが西側を行ってるとしたらロットは東側を行ってる感じなんですよね」

三船「なるほど」

井上「それこそナショナルミッドレイクとかの感じ。僕も好きだし聴いてますけど、ミュージシャンとしては〈自分はこの要素ないわー〉ってところなんです。ロットはそこを持ってるのがおもしろい」

ROTH BART BARONの2015年作『ATOM』収録曲“bIg HOPe”。PCではGoogle Chromeのブラウザで、スマートフォンではYouTubeアプリで再生すれば360度のパノラマヴューで動画が体験できる

 

ーー両者とも同じネオ・アメリカーナって大きな丸いケーキに乗ってはいるけど、切り分けると違うピースにいるっていうことでしょうか。

三船「井上さんたちの音楽が乗ってるのは、西というか中西部というか。ロウヨ・ラ・テンゴとはちょっと違うんですけど、潜在的にフォークを持ちながらノイジーなファズ・ギターとか現代的なところを採り入れつつ、誤解を恐れずに言えば最終的にはポップ・ミュージックになっている。日本の京都のバンドなんだけど、音楽は場所とは密接に関係していないニュートラルなところにある気がして、聴いてて気持ちがすごく安定するんです」

Turntable Filmsの2012年作『Yellow Yesterday』収録曲”Animal's Olives”。彼らのなかでもっともヨ・ラ・テンゴ的と言えるスペイシーな長尺曲

 

井上「うん。(そのケーキ全体を)統括してるのがウィルコとしたら」

三船「そうそう。前までウィルコ、ウィルコ言ってるミュージシャンって井上さんくらいしかいなかったんですよ。それこそエルヴィス・パーキンスの話をできる人なんて」

井上「その話したねー」

三船「ウィルコはその後〈FUJI ROCK FESTIVAL '11〉に出たり、日本ツアー(2013年)をしたり、日本でもライヴを観たことがある人が増えたんですけど、その前はもうちょっとおじさんたちのオタッキーな世界で愛されている存在だった」

井上「ニッチなところにいるバンドだったよね」

 ーーふたりそれぞれが選ぶウィルコのベスト・アルバムは?

三船「これは難しい(笑)」

井上「でも僕はスッと言えるかな。いちばんよく聴いたのは『Yankee Hotel Foxtrot』(2002年)ですけど、いちばん思い出があるのは『Sky Blue Sky』(2007年)。自分がカナダにいるときにあのアルバムが出て、カナダで初めてライヴも観れたんです。だから、その時に住んでいたカナダの街の風景やカナダの人たち、初ライヴの感動とかが全部入ってる作品」

ウィルコの2002年作『Yankee Hotel Foxtrot』収録曲“I Am Trying to Break Your Heart”

 

三船「僕も『Yankee Hotel Foxtrot』はすごく聴いてました。あのアルバムって彼らのなかでもちょっと特殊な作品ではあるんですよね。その制作過程を収めたドキュメンタリー・フィルム(「I Am Trying to Break Your Heart: A Film About Wilco」)があって」

井上「あれ持ってる?」

三船「持ってます」

井上「もう廃盤やから持ってる人珍しいんですよ」

ウィルコの2002年作ドキュメンタリー映画「I Am Trying to Break Your Heart: A Film About Wilco」のトレイラー映像

 

三船「ウィルコ好きの間では伝説のDVDになってますよね。あの作品で収められていたように、『Yankee Hotel Foxtrot』の制作中に、〈売れなさそう〉という理由で契約が打ち切られ、メンバーも1人消え2人消え、ジェフ・トゥイーディーもメンタルを病んでズタボロで。そんな彼が次々作の『Sky Blue Sky』ではついに良いメンバーを手に入れ、ウィルコも良いライヴ・バンドになったっていうのが人間味があるし好きだな。だから、バンドが息を吹き返した作品という意味で『Sky Blue Sky』には思い入れが深い。あの作品には、音楽をみんなで共有する喜びみたいなものが入っている気がする」

ウィルコの2007年作『Sky Blue Sly』収録曲“Ether Way”