INTERVIEW

sasakure.UK、ボカロPのカテゴリー飛び越えてこれまでにない語り口で新たな物語紡いだ新作『不謌思戯モノユカシー』を語る

sasakure.UK、ボカロPのカテゴリー飛び越えてこれまでにない語り口で新たな物語紡いだ新作『不謌思戯モノユカシー』を語る

sasakure.UKにとって4作目となるニュー・アルバム『不謌思戯モノユカシー』は、前作『摩訶摩謌モノモノシー』(2014年)の続編であり、作品を通してひとつの物語を編み上げるというデビュー以来の特異なスタイルを踏襲&更新して、より緻密で奥行きのある世界観を構築する一枚となった。sasakure.UKらしいやり方で、sasakure.UKらしい進化を示したとも言えるだろう。

が、一方でここには旧来のリスナーを大いに驚かせるだろう大胆な変化も刻まれている。ボカロPとしてキャリアをスタートさせた彼は、いまボカロPのカテゴリーを余裕で飛び越える音のヴァリエーションを獲得し、これまでにない語り口で新たな物語を紡ごうとしているようにも感じられるのだ。節目となり得るこの快作について、彼に話を訊いた。

sasakure.UK 不謌思戯モノユカシー U/M/A/A(2015)


――sasakure.UKさんは常にストーリー性を持った作品を作っていらっしゃいますが、新作『不謌思戯モノユカシー』では、これまで以上に緻密な筆致で物語を構築していると感じました。そもそも、この独特な作風はどのようにして生まれたんでしょう。

「もともと物語――小説とか映画、ゲームからすごく影響を受けているんです。それもあって、音楽を作る時は自分でも意識しないうちにその曲の背景や世界観を考えるようになっていたんです。世界観をもとにキャラクターやストーリーを設定して、それに見合った歌詞を作ったり。そういうことを突き詰めていくことで、いまのようなスタイルになったんだと思います」

――そういった物語を描くために使われているのは、打ち込みを軸にしてボーカロイドやチップ・チューンなどを採り入れたサウンドですね。

「音楽を作るようになったきっかけが、当時使っていたケータイに入っていた和音で着メロを作る機能なんです。子供の頃から大好きなゲーム・ミュージックを耳コピして打ち込んだりしていて。最初にネットで発表していた曲も、ゲーム・ミュージックの要素が強いインストでした」

――出発点から打ち込みなんですね。ゲーム・ミュージックは現在の作品からも窺える重要な要素ですし、そういう意味では一貫した流れがあるように感じます。

「ええ。そうやって趣味でインストをアップしていた時に、ニコニコ動画が流行り出してボーカロイドを使った楽曲が出てきたんです。すごくおもしろい技術だなと思いました。人ではないものが歌うことができる。自分も新しいことをやりたいと思っていた時期だったので、すごく触発されました。それで自分自身もボーカロイドという表現を用いた曲を作りはじめて、作詞もするようになったんです」

――ボーカロイドを通して初めて歌ものに向き合ったんですね。もともとポップスを志向する気持ちはあったんですか?

「学生の時に男声合唱をやっていた経験が、音楽を作る際のベースになっていると思います。歌詞のあてはめ方、和声の動きなどを自然と覚えていきました。合唱と聴くとみんなが最初に思い浮かぶであろう教会音楽や聖歌のような曲を歌う機会はあまりなくて、日本の現代的な音楽、どんどん拍子が変わっていく曲や和音が美しい曲を歌うことが多かったんですね。自分が持っている和声に対するこだわりは、その時に培われたんだと思います」

――自身の経験が反映されていると。それもまた独特の出発点ですよね?

「そうですね。一般的なミュージシャンで言うところの、楽器から入ってバンドを結成して作曲も始めたという遍歴ではないので、そういう意味でもだいぶ変わった出発点なのかもしれませんね(笑)」

――リスナーとして聴いてきたポップスからの影響もありますか?

「昨年一緒にお仕事させていただいた矢野顕子さんの作品は子供の頃から聴いていました。親がYMOを聴いていた世代で、あの時代の打ち込みで制作された楽曲はよく聴いていたし影響も受けていると思います」

※矢野の2014年作『飛ばしていくよ』にsasakure.UKがトラックメイカーとして3曲に参加。同作のリリースを記念した東名阪ツアーにも客演している

――確かに往年のテクノ・ポップに近い雰囲気はsasakureさんの作品にもありますよね。ダブステップなどを消化したエレクトロニックでダンサブルな楽曲も作られていますけど、現行のクラブ・ミュージックが軸足にある作家とは違った個性を持たれているように感じます。

「クラブ・ミュージックも要素のひとつとして採り入れています。個性を作り出すために、ジャンルに囚われないような音色の使い方を意識していますね。映画やゲームのサウンドトラックの特徴的なシーンひとつひとつを思い浮かべながら音を選んでいったりします。自分の作品はいろんなジャンルの音楽を僕なりに解釈して、アウトプットしていると思います」

――電子音であっても柔らかなタッチですし。

「そうですね。電子音とひとえに言っても、チップ・チューンが醸し出すノスタルジックな感覚や、往年のシンセから感じる温かみのある音に惹かれるんです」

――同時代の音楽やムーヴメントとはちょっと距離のある、独自の音楽という印象を受けていたので、いまのお話はとても納得できます。

「トレンドを意識したり、ジャンルを区切って聴くというよりも、とにかく強い個性を持ったものに惹かれていた気がします。若い頃、たまがすごく好きだったのですが、たまにしても矢野さんにしても強烈なカラーがあって、かつその個性をポップスとして完成させている。そういうバランスが好きなんでしょうね」

――では同時代のものでsasakureさんの音楽にフィードバックさているのは、むしろ音楽以外のジャンルの作品なのでしょうか?

「そうだと思います。映画や小説のほうが触れる機会が多いですし、音楽に関しては自身の作品に採り入れるというよりは、ただただ好きでじっくり聴いていることが多いですね」

――なるほど。では新作について伺います。今回のフル・アルバムは、前作『摩訶摩謌モノモノシー』の続編にして完結編という位置付けです。このような形になった経緯を聞かせてください。

「前のミニ・アルバム(『摩訶摩謌モノモノシー』)の時に、これまで以上に綿密なプロットやストーリーがある作品を作ろうと思って、まずは背景とキャラクターを設定しました。前作は、舞台となるひとつの大きな街を舞台に、キャラクターたちがそれぞれの個性を発揮してゆくような作品だったんです。今回は、それを踏まえてキャラクターをどう動かして、どうストーリーを展開していって、どう収束させるか、というふうに構築していった、いわば群像劇のような作品です。だから前作と併せて聴いてもらえると、より楽しんでもらえるんじゃないかと思います」

2014年のミニ・アルバム『摩訶摩謌モノモノシー』収録曲“tig-hug”

 

――2作品を通して、より奥行きのある世界を作ったと。

「自分の好きな物語作品は、伏線が上手く回収されていたり、展開と結果に根拠があったり、作品としてのまとまりが良いものなんです。なので、この作品にはそういったストーリー性はもちろん、たくさんの設定や背景を詰め込みました。歌詞にしても、ダブル・ミーニング、トリプル・ミーニングでいろんな意味合いを持たせたりしています」

――今作のストーリーは人間ならざる、妖怪めいた〈アヤカシ〉という存在がキーになっていますね。これまでにない日本的なモチーフです。

「自分にとっては、人と、人ではないものの共存というのが一貫したテーマなんですけど、今回は現代の日本を舞台にすることによって、妖怪、アヤカシの存在が浮かび上がってきたんです。そういう土着のものを持ち込むことでポップな物語になるんじゃないかなと思いました」

――では、現代の日本を舞台にした理由は?

「今回の主人公たちは中学生で、自分がその年代の頃に抱いていた鬱屈した感情を彼らに託しているんです。だから正確には、自分が多感だった頃の日本をイメージしています。そしていま思春期の人たちに捧げたい作品でもありますね」

――そういったストーリーの構想からアルバム作りは始まるんですか?

「そうですね。最初に舞台があって、キャラクターに合う楽曲を作っていく。今回は特に丁寧に物語を構築していったので、曲作りよりもストーリー作りに時間がかかりました」

――一方でサウンドはガラリと変わった印象で、これまでとは異なるアプローチやテクスチャーが強く打ち出されているように感じました。具体的に言うと、sasakure.UK作品の特色だったパツンパツンの情報密度で今回は勝負していないんじゃないかと。

「そこは意識して作りました。これまでは曲単位で捉えて、個々の曲のダイナミクスを練り込んでいたんですけど、今回はアルバム全体で聴いた時のダイナミクスを大事にしたんです。だから盛り下がる曲もあるし、逆にギュッと詰め込まれた曲もある。通して聴いた時に心地良く聴けるバランスを考えながら作りましたね」

――そうなんですね。その結果なのか、今回はストレートに洒脱でウェルメイドなポップス集としても享受できると思ったんです。

「ポップでありたい、難しいものもわかりやすく伝えたいという気持ちが表れているかもしれないですね。それから、今回は音色を変えようという意識が強かった。sasakure.UKらしいと言われる、いわばチップ・チューン的な音は結果的にほとんど使いませんでした。新しいことをするために、まず音色を新しくすることでこれまでとは違ったニュアンスを出せたと思います」

『不謌思戯モノユカシー』のダイジェスト音源

 

――確かに、いちばん印象に残ったのはピアノの音だったりするんですよね。オーガニックと言っていいのか、柔らかい音像の質感がポップな印象に寄与しているのかもしれません。

「ピアノはほとんどの曲で使っていますね。打ち込みチックに展開するものもありますし、生のピアノっぽく聴こえる曲もあると思います。実際はすべて打ち込みなんですけど、いろんな表情のピアノを入れている。そこも意識したところです」

――本編最後の“…to mo da ti ?”はピアノの独奏に聴こえますが、これも弾いたものではないと。

「そうですね。まるで本当に弾いているみたいだけれど実際には弾いていないという感覚って、ヒトなのかアヤカシなのかわからないという部分とリンクするなと思って、あえてこういった手法で制作しています。この曲をはじめさまざまなピアノの音が入っている今回のアルバムですが、物語の整合性を大事にする一方で、すべての楽曲を異なるジャンル、異なる趣向にしようという気持ちもありました。アイドル・ポップ風のものがあれば、EDMっぽいエッセンスが入ったものもあったり。BPMやグルーヴ感を全部変えて制作しました」

――なぜそこまでのヴァリエーションが必要だったんでしょう?

「それもアルバム全体のダイナミクスを考えて、アルバムを通して楽しんでもらいたいなと思ったからですね。自分が好きなゲームのサントラも、悲しい曲も楽しげな曲も、激しく壮大な曲も入っていて、そういうものを作りたかったんです」

――歌い手のあやぽんず*さんを迎えた“クレイマーズ↑ハイ”は、まさに先ほど仰ったようにアイドル・ポップっぽいナンバーです。

「最近のアイドル・ソングというよりは、80~90年代のシンセ・ポップを意識して作りましたね」

――往年のテクノ・ポップに近いという話もしましたが、その時代の音にフォーカスするのはなぜでしょう?

「そこは単純に自分の好みですかね。その時代の主張しすぎないシンセの音が好きで。ピアノが好きなのも似たような理由で、繊細な響きに惹かれるんです」

――“ウバワレタモノ”は独自の言語で歌われています。

「これは造語を作りたいという個人的な思いから生まれた曲なんですけど(笑)。歌を担当したlasahさんは日本語も英語も話せるバイリンガルの方で、その素養をもとに造語を作るところからご一緒したいと思ってオファーしたんです」

――lasahさんの歌声は、最初はロボット的なトーン、その後に生っぽい質感が出てくる。アルバム全体にボーカロイドと歌い手さんを織り交ぜてキャスティングしているし、生身の歌い手だからといってものすごくフィジカルに歌っているわけでもないですよね。そのバランスが興味深いです。

「例えば“ki ki kai kai”ではボーカロイドのGUMIを使っているんですけど、いびつな形で生き返ってしまった人間が主人公なので、そのストーリーを踏まえてキャスティングしました。生き返った人間は人間のような声を出せるのか、いや、それはもはやアヤカシなんじゃないか、など考えながら。今回は人とは違うものをどう表現するかがとにかく大切で、歌詞やストーリーに沿ってヴォーカルも演出しているんです」

――全編を歌い手さん、あるいはボーカロイドで構成するようなアイデアはなかったのでしょうか?

「ボーカロイドにはボーカロイドのおもしろさがありますし、歌手によるヴォーカルの素晴らしさもあります。そしてインストも作りたい。自分が良いと思うものを詰め込むとこういう形になるんです。ボーカロイドを好きな方が生の歌声を聴くきっかけになったら嬉しいと思いますし、その逆もまた然りで。自分が打ち出している、人と人ではないものの共存というテーマは、歌手/ボーカロイドという構図にも当てはめられるんじゃないかと思います」

――インストの“百鬼夜行(MillionGhostWander)”は先行してミュージック・ビデオが公開されましたが、映像作品もsasakureさんがイニシアティヴを取っているんでしょうか?

「おおまかなコンセプトやストーリーを持って、映像作家の方と事前に打ち合わせをします。でも、細かい部分に関しては映像作家さんにある程度お任せしますね。今回だったら、アヤカシたちが田舎の路地裏を練り歩く……くらいのイメージをお伝えして」

――映像も含めてご自身で手掛けるヴィジョンもありますか?

「付属のDVDに収録されている“ネコソギマターバップ”のMVでは、自分が描いたイラストを動かしています。ただ、他の人と一緒に作ることで、自分の思いもよらない感覚が作品に入ることがすごく魅力的だと思いますし、それは大事にしたいことなんですよね。ジャケットを担当してくださった植草航さんは、まさに自分が持っていないセンスで、可愛さと不気味さが同居したイラストを描いてくださいました」

音源は『摩訶摩謌モノモノシー』に収録

 

――独力で作っていくことも魅力的だし、コラボレーションの妙味もあると。

「そのバランスは作品を作る時に毎回考えます。今後自分ではイラストをはじめとして、アウトプットの方法を広げていきながら、大きな世界観を緻密に作り込んでいくことをやっていきたいですね。それとは別に、映画やゲームのサントラにもすごく興味があるので機会があったらやってみたいと思っています」

――今回はとりわけポップな作品と感じましたが、例えばJ-Popのフィールドでもトライしたいという気持ちはありますか?

「う~ん、ポップなものは好きなんですけど、完全なJ-Popを今後やるかとなると……いまはまだわからないですね。正統派なところもありつつ、ちょっと捻くれていて独自の匙加減で成り立っている音楽が作りたいので」

――ポップだけど独自の風景やストーリーを見せてくれるところが重要なんですね。

「そうですね。それが自分のやりたいことですし、そこに自分らしさがあるのではないかな、と」

――なるほど、最後に2曲のボーナス・トラックについて教えてください。

「“ガラテアの螺旋”と“閃鋼のブリューナク”は、どちらもゲームのために書き下ろした楽曲で、これまでのsasakure.UKらしさが押し出された楽曲で、以前に発表した『トンデモ未来空奏図』(2013年)の頃までの僕を知ってくださっている方にはより楽しんでいただけるのではないかと思います」

※“ガラテアの螺旋”はセガのアーケード・ゲーム〈maimai〉×東京ジョイポリスのアトラクション〈HALFPIPE TOKYO〉のコラボ楽曲、“閃鋼のブリューナク”はセガのアーケード・ゲーム〈CHUNITHM〉への提供曲

――そういう意味で、やっぱり今回は大きくスタイルを変えたという意識が強いんですね。

「そうですね。こういうサウンドも作るよ、という意志を表しているところはあります。ただ、“摩訶摩謌モノモノシー”以前の雰囲気の楽曲はもう作らないというわけではないですし、もしかしたら急にこれまでのスタイルに立ち返るかもしれません(笑)。とはいえ、こればかりは企画を組みはじめてみないとわからないですね、自分が良いと思う音楽をこれからも追求していきたいと思います!」

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