With her elegance.
【特集】大人の時間と彼女の声
ただ気持ちを昂揚させるだけではない、大人ならではの上品なグルーヴ――そんな優雅な時間に似合う女性アーティストの作品が2015年は豊作ですよ!

★Pt.1 ディスクガイド前編とBENI『Undress』のコラムはこちら
★Pt.2 ディスクガイド後編とEvery Little Thingについてのコラムはこちら
★Pt.4 城南海『尊々加那志~トウトガナシ~』のインタヴューはこちら
★Pt.5 My Little Lover『re:evergreen』のインタヴューとコラムはこちら

 


Azumi
信頼の制作陣による音の上で、キュートな歌声が可憐に踊る。その上品なメロウネスは、女の子の毎日に寄り添うもので……

 

 この時期、30代が懐かしさを覚えるウィンター・ソングといえばSteady & Co.の“Only Holy Story”。同曲でスウィートな歌声を聴かせていた元WyolicaAzumiが、初のオリジナル・ソロ・アルバム『CARNIVAL』を完成させた。昨年はWyolicaのデビューから15周年。今年はファースト・ソロ・シングル“Kick up Kiss”から10年という節目になる。

 「構想は2年前の今頃。(2011年と2013年の)カヴァー・アルバム2枚はちょっとジャズ寄りのことをやろうと思って作ったんですけど、デビュー15周年だし、原点に立ち返ってもう一回、自分の音楽を追究したいと思ったんです」。

Azumi CARNIVAL ワーナー(2015)

※試聴はこちら

 本作の下地になっているサウンドは、彼女のルーツにある70年代のソウルや、90年代のアシッド・ジャズフリー・ソウルネオ・ソウル。そこにジャズやラテン~ブラジル音楽のエッセンスが香り付けされ、現代風にアップデートされている。全体のトーンは柔らかく上品でメロウ。洒脱な音の上で、ちょっぴり憂いを帯びたキュートな歌声が可憐に踊っている。

 多彩なプロデューサー陣が華を添える今作で、最初に出来たのは「RHYMESTERが大好きで」という思いから実現したDJ JINによるボッサ調の“Rainy Days”。韻シストが手掛けた“I Want It”は、「スピーチミニー・リパートンと一緒にやっちゃったよ、みたいな曲を作ってください」と彼らにオーダーして出来上がった。社長SOIL&“PIMP” SESSIONS)プロデュースの“Crazy Days”は、彼女が「大好きな曲」と言うSOILがRHYMESTERをフィーチャーした“ジャズィ・カンヴァセイション”からインスパイア。4ビートのジャズに乗せ、相容れない男女の愛のもつれを甘くデュエットしており、「飄々としてるけど色気のあるILMARIくんの声で男の気持ちを歌われたらアラサー/アラフォーがキュンとしちゃうだろうな(笑)」という思惑もあったという。

 “もっともっと”と“REPEAT 1%”もそうした世代の女性の共感度が高そうなラヴソングだ。「幸せ感を出そうと思った」という前者は、仕事に打ち込んでいてなかなか会えない彼氏への寂しさ混じりの敬慕を歌った曲。後者は恋のつまづきを少しコミカルに描写した曲で、〈女はいつでも 1% 嘘を信じて泣きをみるのです〉〈泣き崩れても 100% お腹が減るって知っているのです〉〈私はいつでも 1% 愛を信じて笑っているのです〉という〈女子の恋の法則三段論法〉のような歌詞が素晴らしい。本人も“REPEAT 1%”のリリックには「芸術点を与えたい(笑)」と誇らしげに笑う。

 本作で唯一、作詞/作曲共に相手に委ねたのは、大江千里が手掛けた“私という名の場所へ”。コラボは初めてだったが、歌詞は「千里さん、私のこと知ってる?」と思うほど彼女の内心を描写。非常にムーディーなラテン・ジャズで、艶めかしくもエレガントな大人のサロン・ミュージックを聴かせてくれる。

 タイトル曲“Carnival”は、「私のターニング・ポイントに絶対いる人」と語り、全幅の信頼を寄せるKjDragon Ash)にプロデュースをオーダー。サンバをトッピングしたフォークトロニカのようなこの曲を聴いたとき、「Kj本人のやりたいことも入れたうえで、私のことを100%考えてくれた最高のトラックが来た」と思ったそうだ。さらに、彼女をハッとさせたのは、Kjが書いてきた〈調度いいことは 難しいこと〉という歌詞。「人の心の真ん中に突き刺さるリリック」というその言葉に導かれ、彼女はこの人生を静かに熱く謳歌する曲を書き上げた。

 「人それぞれ、哀しみや苦しみ、理不尽さ、いろんなものを抱えて生きているけど、それを人のせいにしてしまえば逃げ道や言い訳を創ることになる。言い訳をする生き方はしたくない。選んだのは自分なんだから。いろんなことに傷ついて生きているけど、でもそれは他人には計り知れないことだし、それを抱えて生きていかなくちゃいけない……っていう歌詞なんです」。

 そんな彼女は、このアルバムの在り方と自身の創作スタンスについて、最後にこう語った。

 「女の子の背中をちょっと押したり、女の子の毎日をちょっと色鮮やかにしたり……みんなの毎日がちょっとでも幸せになったらいいなと思って、音楽にせよ(ヘア・アクセサリーの)ブランドにせよ、すべての創作をやってるんです。このアルバムもみんなの生活を豊かにする1アイテムになれば。みんなの生活や人生に、1時間でも5分でも、一瞬でもいいから寄り添っていられたら嬉しいんです」。