多様な縁に導かれ、より柔軟な次のタームへ
声優、舞台女優、そして音楽の分野では声優ユニット・スフィアのメンバーとしても活躍している高垣彩陽。オペラやクラシックの素養をベースにした圧倒的な歌唱力で注目を集め続けている彼女が、セカンド・アルバム『individual』を完成させた。アニメ〈戦姫絶唱シンフォギア〉シリーズのエンディング曲“Next Destination”“Rebirth-day”に加え、さらに「音楽活動を続けてきて、いまの高垣彩陽に何ができるかを考えながら制作しました。クラシックの要素がありながらも、プログレッシヴな曲になったと思います」という初のノンタイアップ・シングル“愛の陽”などのヒット・チューンを含む本作には、豊かなヴォーカル表現はもちろん、ソロ・アーティストとしての彼女の個性がより強く反映されている。
「タイトルの『individual』はミュージカル〈ZANNA -ザナ a musical fairytale-〉にアメリカの女子高生役で出演したときに、演出家の方から言ってもらった言葉なんです。響きも意味もカッコ良くて、いつか何かのタイトルに使いたいと思っていたんですよね。〈individual〉という言葉には独立、自立といった強い印象がありますけど、私のなかでは〈大人になること=柔軟になる〉というイメージがあるんです。アルバムの制作中は29歳の終わりで、リリースされたときは30歳。人として、女性としてもひとつの節目だと思うし、アルバムを通して、これまで自分を育んでくれた方々への感謝も込めています」。
今作のテーマをもっとも端的に示しているのが、リード・トラックの“Walking On Sunshine”だ。彼女のルーツにあるミュージカルのテイストを採り入れたサウンドに、〈あの日描いてた未来にどれくらい近づいたの?〉という歌詞を乗せたこの曲は、高垣の音楽に欠かせない存在であるmavieが作詞を、そしてデビュー曲“君がいる場所”(2010年)を手掛けたElements Gardenの藤田淳平が作/編曲を担当している。
「アルバムのリード曲は、デビューからずっとお世話になっているmavieさんと藤田さんにお願いしたかったんです。楽曲のテーマ、込めたい思いを直接お話させてもらってから作っていただいたんですが、いまの自分の気持ちを集約したような素敵な曲になりましたね」。
また、チャットモンチーの橋本絵莉子が作詞を、末光篤が作曲したアッパー・チューン“私の時計”も強いインパクトを放っている。この曲の制作にもやはり、高垣自身の意思が作用しているという。
「末光さんには“たからもの”というバラードを提供していただいたことがあるんですが、今回はキラキラしたピアノから始まる、明るいテンポの曲になりました。橋本さんに歌詞を書いてもらったのは、実は末光さんのアイデアなんです。〈時の流れ〉をテーマにした歌詞なんですが、決してきれいごとではないリアリティーのある言葉も入っていて、女性としてすごく共感できたんですよね。まさに〈ご縁の妙〉と言いますか、想像もしてなかった楽曲に仕上がったなって」。
本作の最後には、彼女が初めて作詞/作曲したバラード“縁”も収録。ピアノと歌のシンプルなアレンジで感謝の思いを綴ったこの曲は、これまでの音楽活動における、ひとつの成果とも言えるだろう。
「これまでに出会った方々、出会った作品とのご縁のなかで歌わせていただけているし、存在できているんだなという思いを歌にしかったんです。作詞/作曲はとても難しかったんですけど、スフィアでもお世話になっている籠島裕昌さんに協力してもらったり、mavieさんや先輩の声優アーティストの方々にも相談しながら何とか形にしました」。
「20代の活動のなかで〈いつかやってみたい〉と思っていたことが、このアルバムでかなり叶って。ここからまた新しいものを吸収して、それを作品にしていきたいですね」という高垣彩陽。30代の始まりと重なった『individual』によって彼女は、アーティストとしての存在意義をさらに強めることになりそうだ。