時をかける新しいノスタルジー、あるいは生まれたての懐かしい未来――2014年、来るべき素敵はいま、このたったひとりの希望に彩られている

 おかえり!――。彼女が冒頭の3曲を歌い終えると、盛大な拍手と共に会場のあちこちから声が飛び交った。2013年7月19日、Shibuya O-EAST。武藤彩未は初めてのソロ・ライヴを開いた。約2年間在籍した成長期限定ユニット、さくら学院を卒業してから1年数か月ぶりの表舞台。会場では『DNA1980 Vol. 1』『DNA1980 Vol.2』と題された2枚のカヴァー曲集が販売され、ライヴはそこに収められている80年代アイドルの楽曲を中心にセットリストが組まれた。幼い頃から音楽を聴くのは主に車で出かける時だったという彼女が、両親の影響で親しんできた、自身が生まれるよりずっと前の時代の音楽――。

 「大好きなんです。大好きだから自然と入ってくる。やはり生演奏で、生の声で歌って届けるっていうところが魅力的だなって思っていて、それが心に響くというか……直接的な表現でなくても、歌詞がストレートに、強く伝わってくるんですよね」。

 

まずは〈本物〉を知ること

 8歳の頃からモデルを始めた武藤彩未は、TVアニメと連動したユニット・可憐Girl'sなどを経て、2010年よりさくら学院の第1期メンバーに。初代生徒会長として活躍した彼女は、2012年春にグループを卒業、ソロへの準備期間に入る。

 「ソロになるにあたって足りない部分を基礎からレッスンしていただきました。ボイトレとかダンス・レッスンはもちろんですけど、美しい女性の立ち居振る舞いを身に付けるということで日本舞踊をやったり、感受性を豊かにするために映画館に行ったり、美術館に行ったり……ギターも始めたんです! ギターは趣味になりつつあって、最近は松田聖子さんの曲を弾いたりしていて……楽しいですね」。

 そして、ソロ・プロジェクト始動が公式に発表されたのは、17歳のバースデイにあたる昨年の4月29日。そのひと月半後には先述した会場限定盤の詳細が発表されたのだが、そのクレジットにとにかく驚かされた。DTMが主流の現代アイドル・ポップとは異なる〈生〉のバンド・サウンドというだけでなく、そこに名を連ねるプレイヤーたちは、今剛、松原秀樹、三沢またろう、島村英二、中西康晴ら、80年代アイドルも含む多方面で名演を刻んできた凄腕ばかり。

 「本当に良い経験でした。ディレクターの松崎(澄夫)さんが、〈まずは本物を知ってほしい〉ということでやらせていただいたことなんですけど、音楽が出来上がる過程をイチから体験させていただいたことで、これだけたくさんの人が関わって、時間がかけられて作られているんだなって身をもって感じることができましたし、作っていただいた曲をもっともっと大切に歌おうっていう気持ちになりました。プレイヤーの皆さんの楽器に対する熱い想いも感じて、歌声を楽器としている自分が皆さんの足を引っぱらないように――そう思ったら、いつのまにか〈負けません!〉って言葉が出てたんです」。