INTERVIEW

DJ大塚広子×守家巧×坪口昌恭×mabanua―RM jazz legacyが新作で更新するジャズとクラブ・カルチャーの関係性を巡る座談会

 

ジャズの人は譜面のリズムとかメロディー、ハーモニーでやり取りして、それももちろん大事なんだけど、音色とか温度感、カラーリングも大事じゃないですか(守家)

――あと今回のアルバムでは、〈1曲1ドラマー〉に近い感じで、mabanuaさんも含めて5人のドラマーが参加していますよね。そこも一つのポイントなのかなと。

守家「ドラムとベースのコンビネーションを大事にしているんですよ。それを(アルバム収録時間の)50分間、リスナーを飽きさせないように聴かせなくちゃいけない。ダンス・ミュージックでは気持ちいいテンポが決まっているじゃないですか。ハウスだったらBPM120くらいだし、ヒップホップだったらロウビート。そこにどう変化をつけるかとなると、音色ですよね。同じようなテンポのビートでも、別のドラマーが叩けばまったく違う音色になる。だから、このやり方でトライしてみました」

――アルバム自体には統一感があるから、なにも言われなかったらドラム・セットを変えているのかと思う人もいるかもしれない。でもちゃんと聴けば、藤井信雄さんとmabanuaさんのドラムはなにもかも違うとわかりますよね。

坪口「藤井さんみたいな音は他にないよね。あの人は音が太いんだ」

守家「10年くらい前にDCPRGのライヴを大阪で観た時に、藤井さんと芳垣(安洋)さんのツイン・ドラム編成で、〈芳垣さんの横で叩いてるオッサン、すごいな!〉と驚いたんですよ。めっちゃ渋いですよね。それで(今回のアルバムで)“Reborn”をやるとなったときに、藤井さんが浮かんだんですよ。鳴りそのものがへヴィーで、ジャズの音色があるドラムが欲しかったんです」

DCPRGの2003年のライヴ映像。ドラムスは藤井と芳垣、坪口がキーボード、大友良英がギターで参加

 

――そういう発想はトラックメイカー的ですよね。〈あのドラムの音色とプレイが欲しい〉とピンポイントで求めているところが。

大塚「そうですね。作ったビートを繋いでいくような感覚というか、ウェルドン・アーヴィンをかけた後にアル・グリーンに繋ぐとか、そういうまとまりも含めて考えてましたから。レア・グルーヴっぽい曲も入れたくて、“Turkish Bath”を選んだんですよ。〈ポップすぎるしどうかな?〉とも思ってたんですけど、ライヴでやってみたらお客さんの反応がすごく良かった」

守家「この前にボノボ(千駄ヶ谷bar bonobo)で“Turkish Bath”をプレイしたら、UFO矢部(直)さんがすごく反応してくれたんですよね」

坪口「確かに、いい意味でイージーな曲だと思う。自分では選ばないけど、それが楽しいというか。これくらい鼻歌っぽい曲でいいんだなって」

RM jazz legacy Trioの2015年10月の“Turkish Bath”パフォーマンス映像。ドラムスは芳垣安洋

 

――ドラムの音色といえば、mabanuaさんは音色にこだわっている印象なのに、特殊なセッティングをしているわけでもないですよね。

mabanua「そういうのはあまり自分に合わなかったんですよね。スネアを変な位置に置いたり、シンバルを重ねてみたりするよりも、普通のセットでどれだけ表情豊かに演奏できるかを意識してやっていますね。ドラマーでいうと、ブライアン・ブレイドエリック・ハーランドに近い感じ。エリックは1か所だけシンバルを重ねてたり、ちょっとシズルが付いてたりと、少しだけ手を加えてますよね」

ブライアン・ブレイド・フェローシップの2013年のパフォーマンス映像

 

――すごいシンプルなのに、誰よりもヒップホップっぽいフィーリングを出せるのがmabanuaさんの凄いところだと思うんですよ。

守家「mabanuaさんのドラムは、そういう音がするもんね。チューニングや音色もいいし、フレーズもよく知ってるし」

――ドラムは楽器や機材、セッティングじゃなくて、叩く人で変わるんだと改めて思いますよね。

mabanua「好きなドラマーにシンプルなセッティングをしている人が多かったので、影響を受けてこうなりました。例えばスティーヴ・ジョーダン。配置は普通のドラムなんだけど、口径だけデカいバス・ドラムを使っていたり、インチ数の並びが結構アンバランスだったりとか、見る人が見ないとわからない違いがあって。なんとなく聴いているぶんには普通のセットで叩いてるみたいなんだけど、とにかく音色とグルーヴがずば抜けているんですよね」

スティーヴ・ジョーダンのドラム・パフォーマンス映像。2015年はマーク・ロンソン『Uptown Special』やキース・リチャーズ『Crosseyed Heart』などに参加

 

mabanua「それで僕も試行錯誤を積み重ねて、チューニングは普通のままで、叩き方や強弱で色を付けるほうが自分は好きだと気付いたんです。無闇にセッティングをいじらなくても、自分の聴きたいドラムを叩けるんだなって」

――そういうドラマーのこだわりを聴き比べるとおもしろいですよね。藤井信雄さんが参加しているのもいまっぽいし、それが石若駿のドラムと並んでも違和感がないというのもすごいですからね。

坪口「それを聞いたら、藤井さん喜んじゃうな(笑)」

――“The Spirit”はコルトレーンマッコイ・タイナーの系譜にあるスピリチュアル・ジャズっぽい曲ですけど、こういう感じを坪口さんが弾くのもこれまでなかったんじゃないですか。

坪口「初めてだよ。いままでやってこなかったアプローチを引き出されたから、自分でもびっくりして。しかもこれ、レコーディングの前に何も準備してないですからね」

――ということは、その場で作ったんですか?

坪口「スタジオに行って〈なにやんの?〉と訊いたら、コードがまだ決まっていなくて。〈じゃあ、いまから作ろうか〉と。僕に関しては、事前に気負って考えていった曲はひとつもないんだよね。それが良かったと思う。ある意味で、自分がこれまで培ってきたいろんな音楽の要素がふわっと蒸発して出たみたいな感じで」

――東京ザヴィヌルバッハやDCPRGでは絶対に弾かない感じなんだけど、そのなかに坪口さんらしさが少し香るというか。さっきの“Turkish Bath”でもそうですよね。

坪口「そもそも俺はオルガンを弾かないからね。珍しいよね」

――各プレイヤーが普段やらないことをやらせている、無茶な感じもアルバムをおもしろくしていて。石若くんもそうですよね。彼がレゲエを叩くのも珍しい。

守家「大塚さんからアル・グリーン“Let's Stay Together”のカヴァーを入れてくださいと言われたんですよ。どういうアレンジにしようか考えながら、石若くんとセッションしてみたら、彼のドラムが素晴らしかった。石若くんなら、ジミー・クリフがロックステディをやっている曲で、カールトン・サンタ・デイヴィスのような感じの、レイドバックしたなかにもシャープさがあって、同時にボトムがあるようなレゲエのビートを叩けるかなと思ったんですよね」

ジミー・クリフの76年のライヴ盤『In Concert: The Best Of Jimmy Cliff』収録曲“You Can Get It If You Really Want”。ドラムスはカールトン・サンタ・デイヴィス

 

――レゲエはリズムの安定感と中毒性がカッコイイわけじゃないですか。ジャズ・ミュージシャンは、さっき坪口さんがお話された通りで動いてしまうから、レゲエをやると残念なものになることが多かった。だから、僕のなかでレゲエはジャズ奏者にとって鬼門だと思っていたんです。でも、マーク・ジュリアナが(2014年に)来日した時にレゲエっぽいサウンドを一歩引いて演奏していて。RMの演奏もカッコイイですよね。

マーク・ジュリアナ“Spirit Animal”のライヴ映像。レゲエ寄りのパフォーマンス

 

守家「ここで真面目にアプローチするドラムだと普通になっちゃうんだけど、石若くんは随所でおもしろいことをしようとするのが、抑えてグルーヴィーに叩いても自然に出てくるんだよね」

――特にいろいろやっているわけじゃないのに、手足がすごく動いているように聴こえるんですよね。しかも、石若くんらしい前のめりな感じがレゲエのリズムのなかにも出ていて、いまっぽいサウンドの雰囲気を生み出している。

坪口「ドラム・サウンドはその時代のファッションを表していると思うんですよ。一方でベースはその音楽のスタイルを表している。他がどうであろうと、音楽はそこで決まってくる気がしますね」

――それで結果的に、ジャズの要素がありつつラヴァーズ・ロックっぽい仕上がりになりましたね。アフターアワーズにぴったりのメロウな演奏というか。

守家「ドラムとベースはレゲエでいくけど、ギターと鍵盤は裏打ちしないというのがポイントですね。あと、宮嶋洋輔にオクターヴ奏法で、ウェス・モンゴメリーみたいなテイストをちょっと混ぜ込んでもらった。最初は鍵盤を入れない予定だったんですけど、宮嶋くんのギターがハマったから、これだったら坪口さんが必要だなと思ったので、後から弾いてもらって、それで出来上がった曲です」

坪口「守家くん以外は東京ザヴィヌルバッハ・スペシャルのメンバーなんだけどね(笑)」

東京ザヴィヌルバッハ・スペシャルの2013年のライヴ映像。坪口、類家、宮嶋、石若と織原良次(ベース)が参加

 

大塚「同じメンバーだけど、ザヴィヌルバッハと全然違う音楽になってるし、個々の演奏もまったく違うんですよね。それがおもしろい」

坪口「僕らだけじゃこんなスウィートにならないからね」

――そのスウィートなサウンドのなかで、坪口さんのキーボードが動き回っているのが肝ですよね。そういえば、元DETERMINATIONSのYOSSYさんが、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERとして活動されてるじゃないですか。

守家「YOSSY LITTLE~の1枚目(2005年作『PRECIOUS FEEL』)は、僕が何曲かベースを弾いてますね」

YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの2005年作『PRECIOUS FEEL』収録曲“SMALL SHIP”

 

――あれはダウンテンポで、ちょっとメロウで暗くて、いわばジャズっぽいクラブ・ミュージックをレゲエの人がやっている音楽ですよね。むしろレゲエというよりは、トリップホップを生演奏しているようなものというか。RMの演奏も、そういった感覚と通じる部分がある気がしたんですよ。

守家「トリップホップはリアルタイムですからね。ポーティスヘッドマッシヴ・アタックは衝撃だったもんね」

――あのへんの音楽にある遅いテンポを、ジャズのフィーリングで演奏していると考えるとしっくりくるというか。テンションも上がるけどチルアウトもできそうな、絶妙なテンポを提示している気がして。

守家「そこは通ってきてるから、出てきてしまうのはあるかもしれないね」

mabanua「ポーティスヘッドの曲をクリス・デイヴが叩いてる動画がありますよね。めちゃくちゃ格好良いんですよ」

クリス・デイヴのドラム・パフォーマンス映像。冒頭でポーティスヘッド“Mysterons”に合わせて演奏している

 

――ポーティスヘッドのリズム・セクションが結成した、ゲット・ザ・ブレッシングというブリストルのジャズ・バンドがいるんですけど、彼らもいい感じの遅い曲をやっていて。

守家「へー、続いているんですね。このへんのところから」

ゲット・ザ・ブレッシングの2014年作『Lope And Antilope』収録曲“Corniche”。ドラムスのクライヴ・ディーマーレディオヘッドのツアー・サポートも務めている

 

――そういうのもあって、わざとめちゃくちゃテンポを落としている“Footprints”もスクリューみたいだと思いながら聴いてました。

※レコードの回転速度を落とし、間延びさせることで陶酔感を生み出す手法

大塚「スタンダード的な曲を速くてダンサブルにしたダンス・トラックはいっぱいあるから、そうじゃない形で遊び心を入れてみようという。逆転の発想なんですよ」

守家「45回転の7インチを33回転で間違ってかけたような、かなりBPMを落としたものを、ジャズをやってきた人たちによる説得力のある演奏でやりたかったんです」

――まさしくスクリューと同じ発想ですね。

坪口「あれはさ、守家くんのベースがいいよね。俺ね、前からポール・マッカートニーみたいなヴァイオリン・ベースの音色がジャズにあったらいいなと思っていて。それに近かったんだよね」

守家「その話、坪口さんに初めて会ったときにも言われました(笑)。それで〈この人は音色をキャッチしてるんだ〉と思ったんです。ジャズの人は譜面のリズムとかメロディー、ハーモニーでやり取りして、それももちろん大事なんだけど、音色とか温度感、カラーリングも大事じゃないですか。例えば、レゲエや黒人音楽はそこにものすごく特徴があって、自分も饒舌に弾くタイプのベーシストではないから、そこに自分なりの個性を出しているというのもあって、共感したんです」

――ジャズはそういう意識が薄くなりがちだけど、そもそも音色がカッコ良くないと全部台なしですもんね。あとは今回のインタヴューを通じて改めて思いましたけど、今回のアルバムに収録されている曲は、ピークタイムをドカンと盛り上げるというよりは、じわじわと気持ち良くなっていく感じの曲が揃っている印象です。

坪口「そう、そこがライヴでは難しいんだ。レコーディングでは心地良くいい感じでドラマを作れるんだけど、ライヴだとお客さんも盛り上がりに来てるから、〈いや、そんな曲じゃないんだよ〉って(笑)。だから、RMですごく鍛えられているんだよね」

守家「クラブに遊びに行って、呑んだり友達と喋ったりして、またダンスフロアにふらりと戻ってきたり。そういう感じのアルバムを作りたかった。踊ってから一度フロアを離れても、また戻ってくることができる音楽というか、別の言い方をすれば、戻ってこさせる力のあるダンス・ミュージック。グルーヴの持続性を大事にして、じわじわと行く感じを気持ち良く演奏すれば、お客さんは戻ってくるんですよ。フェラ・クティアフロビートJBのファンクも、〈グルーヴがどれだけ持続するか〉みたいな構造になってますよね」

RM jazz legacy Trioの2015年10月の“African Water”パフォーマンス映像

 

――それは普段からクラブで遊んでいる人の感覚ですよね。そういう自由なところがクラブの楽しさであって。アルバムに収録された“African Water”もアフロビートですけど、徐々に盛り上げていく途中のブリッジでかけられそうな曲で、DJ的にも重宝すると思うんですよ。こういう部分も含めて、今回のアルバムはクラブ・カルチャーを深く理解している人が作っていると思いました。そこには大塚さんの培ったプロデュース、これまでDJで培ってきた経験も大きく反映されているのかなと。

大塚「DJの場面と同じように〈こんなふうにかけたら、みんなと一緒に楽しめるかな〉っていう感覚ですかね。DJでは絶対的に好きと思える曲だけかけますが、独りよがりにならずフロアで多くの人と一緒に楽しむためにはグルーヴの力を借りますし、いろんなタイプの曲を繋げるときも一緒で。現場で出会った素晴らしいミュージシャンの音も、そうやって繋げてみることで、みんなで一緒に〈いいね!〉と言えたら素敵だな、と」

VARIOUS ARTISTS PIECE THE NEXT JAPAN NIGHT Key of Life+(2015)

――先日、大塚さんの監修による最新コンピ『PIECE THE NEXT SELECTED BY HIROKO OTSUKA JAPAN NIGHT』もリリースされて、そこにはRMの他にKan Sanoやrabbitoo宮川純くんに挾間美帆さんの曲も収録されてますよね。RMも大塚さんのコンピからスタートして、今回のアルバムで大きな成果を挙げたわけで。そういう〈新しい日本のジャズ・シーン〉の盛り上がりについて、どのように捉えているのかを最後に教えてもらえますか。

大塚「ひと昔前の日本のジャズには、踊るために作られたものか、知的なリアル・ジャズかという対照的なイメージがあったんですが、いまはヒップホップなどいろんな音楽性を持った次世代がジャズと混ざり合って、よりパーソナルで純粋に作りたい音を突き詰めているように思います。だから探し甲斐があるし、プレイし甲斐があるんです。飽きさせない選曲の幅が出来て、並べ方、繋ぎ方で曲同士の類似点を引っ張り出せる。こうしてコンパイルするとミュージシャンのイメージだけではわからなかった意外な曲の魅力に気付くこともできます。日本のジャズからいろんな音楽を探すきっかけになったらいいなと思いますね」

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