20年ぶりの新作は、声と言葉と音がラジカルにこだまするエレクトロニクス作品

 カヴァー作品『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント』から5年。そして、オリジナル作品で数えると『秘密のナイフ』から20年ぶりにPhewの新作が完成した。といえど、その間に、ノヴォ・トノ、山本精一とのデュオ、ビッグ・ピクチャー、モストなどでの勇姿を目にしているので、彼女の表現意欲が1ミリたりとも停滞していないことはご承知であろう。しかし、『ニューワールド』は特別だ。小林エリカ、ディーター・メビウスとのユニットによる『ラジウム・ガールズ2011』が制作された頃から(というか、3.11以降)、Phewの音楽が急進的な電気装置と化し、声と音がまるで電気そのものとなって伝播していく様を体験してきたのだから、本作に対する期待と妄想はどんどんふくらむばかり。

Phew 『ニューワールド』 felicity(2015)

 さて、その内容は。多くの古いアナログ機材とリズムマシンを駆使した、近年のライヴで見せるパンクで千変万化な電子音楽を伸張させたもので、どこを切ってもラジカルな声と言葉と音が帯電している。しかも、その回路はビリビリバチバチギリギリ状態にありながら、遮断されずに常にポップ側に開かれているので、誰もが接続可能だ。1曲目“ニューワールド”が始まるとともに周期的な磁場が発生。加速する粒子が作る熱と光に照らされ、広大無辺な新世界が目の前に広がる。そして、1980年のシングル“終曲”の続編ともいえる“終曲2015”、ドイツに渡りコニー・プランクやカンのメンバーらと制作したファースト『Phew』(1981)の頃を彷彿とさせる電子音が蛍光を発する“スパーク”、ジョニー・サンダースのカヴァー“チャイニーズ・ロックス”など、まるでPhewの新しいデビュー作を耳にしているような不思議な新鮮さと刺激に満ちあふれている。そして、白眉は最後を飾る日本の唱歌“浜辺の歌”だ。すべてが終わってしまった後の 〈ニューワールド〉にこだまする響きが〈まだそこにあった世界〉の美しく懐かしい情景を浮かび上がらせ、それをしのぶ歌声にひどく心を揺さぶられる。