2016年1月30日、東京・代官山UNITでのYasei Collectiveのライヴより photo by Kana Tarumi

 

マークが明かす『★』制作秘話と松下が思い描く夢 

松下「いま一番力を入れている個人練習や、熱心に聴いてる音楽はどんなものですか?」

マーク「最近は作曲に力を入れているので、ピアノと向き合う時間が多いね。あとは自分のエレクトロニック・ミュージックのアルバムのための作曲をしたり、音楽を作り続ける努力をしている。自分が聴くのだとレゲエが好きだね。ボブ・マーリーとか。もちろんアート・ブレイキーやコルトレーンも聴いているよ」

松下「僕はネットにアップされているマークの動画をほとんど観ていると思います。それこそ、ファンが客席から録った2分くらいの動画まで。だから僕はマークの演奏をすべて知っているけど、マークは僕の演奏をほとんど知らないですよね。僕のやっている音楽を聴いてもらって感想を教えてほしいです」

マーク「オーケー!」

松下「これが一番新しいシングルです」

(※Yasei Collective“Radiotooth”をその場で流す)

マーク「クールだね。前の作品も聴かせてもらったけど、とても良かったよ。うん、いいね。NYを思い出すよ」

松下「NYは行ったことない、僕はLAしか実際には知らないし、本当はもっとチルしたいほうだから」

マーク「ハハハ、LAは全然違うよね。とにかくありがとう」

――デヴィッド・ボウイの『★』に参加したことについても訊かせてください。ドラムについて、いつものマークらしいプレイだったのが印象的だったんです。

松下「そこが大事なポイントですよね」

――現時点でマークの演奏が収録されている一番新しい音源は『★』だと思うんですけど、どんなに過去の音源を遡っても、マークのプレイだといつもわかるんですよね。どこで誰とやっても、どんなスタイルでやっても、マーク・ジュリアナだとわかる個性みたいなのがある。それが身についた瞬間はあるのでしょうか?

マーク「いや、ないね。むしろそれは怖いことだ。演奏しているときは、そういう考え方を持っていたくない。音楽に対して何かを強要するようなことはしたくないからね。デヴィッドの作品についても、自分への期待というものを持たずに行った。デモを事前にもらっていたので、僕はそのデモのサウンドを再現しようとしただけ。それが僕の仕事だからね。誰かに雇ってもらったら、あとはその音楽にとって最善の音を出すことが僕の使命だから。でもデヴィッドはすごくオープンで、僕たちには自由にプレイしてほしかったみたいだよ。僕のビート・ミュージックのアルバムも聴いてくれていて、〈こんなふうにやってみて〉と言ってくれた。(『★』とビート・ミュージックのアルバムに参加している)ティム(・ルフェーヴル)にも同じことを言っていたよ」

ビート・ミュージックのライヴ映像。マークの左でベースを弾いているのがティム・ルフェーヴル

 

――『★』でのプレイはどこまでが自分で考えた演奏で、もともと書かれていた(デモで用意されていた)のはどれくらいだったんですか? すごくセッション的な作り方をしている作品に聴こえたので。

マーク「いや、ほとんどが書かれたものだった。歌もので、フォームもはっきりとしていて。でも、すべての工程において僕らは同時に演奏していたんだ。お互いの演奏に耳を傾けて、反応し合っていた。アウトロや曲の終わりで、僕らが弾き続けるということはあったけどね。デモには、デヴィッドが事前に自宅で作った(打ち込みの)ビートなんかも入っていた。だから、例えば“★”の場合だと、彼が作ったドラム・マシーンのビートを聴いて、それをドラム・セットで自然な音で再現しようとしただけさ。僕が最優先しているは、〈歌(曲)のために尽くす〉ということなんだ」

デヴィッド・ボウイの2016年作『★』収録曲“★”

 

――そうだったんですか。

マーク「とにかく、デモにはすべての情報がすでに詰まっていて、僕らはそれに対してベストの演奏をしようとした。そしてみんなが一斉に弾いているから、そういう(セッションみたいな)感じがしたんだろうね。どの曲も最初から最後までワンテイク、そして、(レコーディングが)終わった後の音楽がどう処理されるか、僕らは知らされていなかった。もちろん悪いことではないけど、あとからカット&ペーストされることも多いからね。でも、あとで出来上がりを聴いたときに、録ったテイクを1本丸々使っていることに気付いたんだ。最初から最後まで、彼は同じ部屋で僕らの演奏に合わせて歌っていたんだ。それが僕らの演奏をさらにインスパイアしたのさ」

松下「あれは一発録りだったのか。だったら逆にわかりますね、あの緊張感の理由が」

マーク「僕はデヴィッドの指示があったときにしか、自分らしくプレイすることはしなかった。音楽を〈踏みつける〉ようなことはしたくないんだ。でも、幸いなことにこれまで何度も〈自分らしい演奏〉を期待される機会に恵まれてはきた。ブラッド(・メルドー)との場合だと、僕ら2人しかいないし、音楽的にも余地があるから自分らしさを出せる。ダニー(・マッキャスリン)のときもそう。自分がいつも目標としているのは、その音楽に対して最善の演奏をするということ。でも、〈最善の演奏〉というのは、実際にそのときがやってくるまではどんなものかわからない。予見できていないもののために演奏なんてできないから、とにかくそのときが来たら、なるべくその場のフィーリングを意識して、その音楽が必要としているものを与えるように心掛けているよ」

松下「彼がいま話してること。これこそ僕が一番彼を尊敬しているポイントです。どこに行ってもマークのプレイでその音楽を演奏しているんだけど、彼がそうしようとしてるわけじゃなくて、みんなが求めているものがそれだってこと」

マーク「そう、その通り。なぜなら、自分のバンドでない限り、誰かに頼まれて演奏しているわけだから、僕はどちらかというと彼らを満足させるためにがんばるんだ。もちろん、自分も満足したいと思ってやっているけど。みんなが自分のエゴを取り払って、全面的に音楽に集中すれば、みんながハッピーになるはずさ。リーダーでもサイドマンでも、みんなで〈音楽〉を主軸にすれば誰しもがハッピーになれるけど、もし誰かが〈自分の表現〉みたいなのに目を向けはじめると危険だね。僕としては、今後の人生で一度もドラム・ソロを叩かなくてもいいと思っている。大事なのは、みんなを満足させる音楽を奏でて、自分自身をインスパイアしてくれるポジションをこなすことだから」

松下「最後に、こうやって一緒に話せたことで僕の夢が一つ叶ったんですけど、次のステップとしては、いつかYasei Collectiveが主催のフェスをやるときに、マークのビート・ミュージックと、ニーボディやノウワー、あとハイエイタス・カイヨーテとかに、僕らがカッコイイと思ってる日本のロック・バンドや、(石若)駿(横山)和明のやってるジャズ・バンドも呼んでドッカンとやりたいんで、そのときは必ず来てほしい」

マーク「クール。これからも連絡を取り合おう!」

 


※2016年11月9日追記
Yasei Collectiveとマーク・ジュリアナの共演が決定!

The EXP Series #09
Yasei Collective with special guest マーク・ジュリアナ

日時/会場:2017年1月30日(月) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/5,000円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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