日本のジャズ/インスト・シーンを賑わせるトップ・ブランドが新シリーズがスタート! キーマンとなったカワイヒデヒロとbashiryにたっぷり語ってもらおう!

 日本のジャズ/インストゥルメンタルのシーンをリードするレーベル、Playwright始まって以来のユニークな企画が始動する。〈CONNECTION〉と名付けられた新シリーズの第1弾『CONNECTION BLUE』は、レーベルを代表する2つのバンドから、カワイヒデヒロ(fox capture plan)とbashiry(bohemiannvoodoo/MASSAN×BASHIRY)を共同プロデューサーに起用。〈歌もの〉〈ポップス〉〈コラボ〉というキーワードのもと、レーベル内外から才能溢れる顔ぶれが集結した、キャッチーかつ上質なポップ・アルバムに仕上がった。Playwrightの未来を大きく変えるかもしれない作品について、そしてレーベルへの思いについて、カワイとbashiryに話を訊こう。

カワイヒデヒロ,bashiry CONNECTION BLUE Playwright(2020)

 

——Playwrightって、レーベル・カラーがはっきりしてますよね。インスト、ジャズ、高品質、みたいな。

bashiry「でもよく見ると、けっこう雑多なんですよね。僕とMASSANのユニットとか、インスト関係ないけどおもしろいからやってみようというのもあるし。そもそもレーベルの1枚目がorange pekoeで、歌ものから入ってるんで」

カワイ「orange pekoeとbohemianvoodooとfox capture planを出すというので作ったレーベルなんで。あれから8年経って、気付けば十数バンド」

bashiry「〈このバンド好きだからこっちも聴いてみよう〉というお客さんがすごく多いレーベルで、そこから広がった縁はありますね。年齢も上から下まで揃っているし、同じ匂いのする人が集まってる感じがする」

——レーベル内のコラボも盛んですし。

bashiry「レーベル代表の谷口(慶介)さんがプロレス好きで」

カワイ「タッグを組んでやるというストーリーが大好きなんです(笑)。boheとfoxが組んだ〈Color&Monochrome〉シリーズとか」

bashiry「たまに場外企画もやらせる。〈Color&Monochrome〉シリーズは、Gecko&Tokage Paradeとcolspanが引き継いでるんですけど、そのリリース・パーティーで、カワイさんがなぜかフードを作っているという(笑)」

カワイ「谷口さんとは長いんで。あれやれこれやれって言われることが多いですね。今回もそのノリなんですけど」

――それが〈CONNECTION〉ですか。

カワイ「〈CONNECTION〉は繋がるという意味だから、間接的に繋がっていたミュージシャンを一枚にコンパイルするみたいな、いろんな意味が込められてます。〈好きなことやっていいよ〉と言われて、ずっとインストやってたからそろそろ歌ものをやりたいなと思って、bashiryに声をかけて、彼が3曲、僕が4曲作ってアルバムにしようという感じです。結果、各曲にヴォーカリストをフィーチャーすることに決まって、思い付きで作ったつもりが、壮大なプロジェクトになってしまった」

――レーベル内外のアーティストが入り乱れてるのが、すごくおもしろいです。

カワイ「〈CONNECTION〉という意味でも、外部の人と繋がりを持ちたかったから。〈インスト・バンドの人間が歌ものポップス・アルバムを作ったらどうなるか?〉というテーマがありつつ、ミュージシャンは攻めた感じで行きたいから、ドラムは松下マサナオ(Yasei Collective)に頼んだら即答してくれた。鍵盤の持山翔子(m.s.t)もそうだし、ヴォーカルも〈この曲はこの人に〉というイメージは最初からありました。Cana(sotte bosse)ちゃんとMASSANは決まってたもんね」

bashiry「Canaちゃんとは彼女のソロ用に最近一緒に曲をいろいろ作っていて、“手紙”という曲は書いた時に彼女に歌ってほしいなとピンときました。MASSANはバンド・メンバーだからかなり長いですが、改めて万能な奴ですね。歌もラップも自分の色でちゃんと乗りこなす」

カワイ「あの曲(“腐りかけのリーマン”)は、MASSANしかいないと思ったから。〈日本版ファレルってこんな感じかな?〉とか言いながら作っていて、結局全然ファレルじゃなくなったけど(笑)」

bashiry「Shohey(THREE 1989)くんは、レーベル・カラーを考えると変化球だけど、とても適役だったなと。曲にも彼の歌がすごく合っていたし」

カワイ「Chihiro Singsは十数年の付き合いだけど、やったことないことをやりたくて、〈ラップやって!〉ってオファーしたんですよ。ふわっとした、不思議な空気感の曲に仕上がりました」

bashiry「Chihiroの新しいキャラクターを確立したよね。かっこよかった」

――大比良瑞希さんは、ちょっと意外な人選かも。

bashiry「今回はいろんな新しいチャレンジをしていますけど、僕の曲に瑞希ちゃんを呼べたのはいちばんのチャレンジでした。彼女は自分のライヴに遊びにきてくれた時に紹介していただいて以来のファンで、2019年は本当にたくさん聴いてましたね。この曲、すごい変な感じで攻めてるんですけど、カワイさんにアレンジを頼んだら、さらにとんでもないことになって(笑)」

カワイ「変態な曲にしたいと言ってたんで、お望み通りに(笑)」

bashiry「〈ポップスの限界に挑戦したい〉とか言って、変なことをやりまくってる。そこにイメージしていて、瑞希ちゃんに声をかけてみたら〈やってみたい〉と言ってくれた。歌詞のミーティングではすごい細かいところまで感じ取ってくれて、少女が夢と現実との間の螺旋を駆け降りる、という話に昇華してくれて、とても達成感のある曲です」

――老舗コーラス・グループのサーカスから、年少メンバーの叶ありさ&吉村勇一が参加してるのに驚く人がいるかもしれません。

カワイ「吉村は大学の後輩なんですよ。彼がサーカスのメンバーになったのが縁で、アルバム2枚ぐらいにアレンジャーとして参加するなかで、ありさちゃんとも仲良くなって。今回デュエットを1曲入れたいと思ったときに、ボッサ調の曲で男女のデュエットはおもしろいと思って、〈良かったらやってみない?〉ってオファーしたら、やりますと言ってくれました」

bashiry「この曲、カワイさんがやってたImmigrant's Bossa Bandの感じがある。俺、けっこう胸アツだったな。仕上がってみたら、ブラジルのヘナート・モタとパトリシア・ロバートみたいな、デュエットの感じがすごくいいなと」

――という歌もの7曲に、イントロとアウトロを付けて完成。

カワイ「いろんなカラーがありすぎて、導入がないとただのコンピになっちゃいそうだったんで。急遽付けました」

bashiry「〈CONNECTION〉シリーズは、ここから第2弾、第3弾と、やる気のある人はレーベル内にたくさんいると思うんで。未来に繋がるようにしたいねと言って、カワイくんがアウトロに“next”というタイトルを付けました」

カワイ「完成予想図の斜め上を行く完成度になった自負はあります。アーティスティックになりすぎず、なるべくポップにフォーカスして、僕らなりのポップスが出来上がったと思います。それと、bashiryには言ってなかったけど、彼が作曲家として独り立ちする名刺代わりの作品になったらいいなという思いもあったんですよ。いろんな人の耳に届いて、〈この曲いいな、誰が作ったんだろう?〉とか思ってくれたら嬉しいです。ちなみにbashiryが作った“手紙”は僕の中で2020年のベスト・ソングです」

bashiry「Playwrightのお客さんが、あんまり聴いたことのない歌ものを知るきっかけにもなるだろうし、逆に〈歌ものなら聴いてみようかな〉という人もいるだろうし」

カワイ「レーベルとしても初の試みなので、どんなリアクションが返ってくるかわからない。とりあえず期待値は高めみたいなので、Playwrightのリスナーだけじゃなく、まだ見ぬリスナーにも発信していきたいと思います」

bashiry「ただこの企画は難点がひとつあって、ライヴが難しい(笑)。2月のライヴ(1月31日~2月2日に東京・新宿LOFTで開催される〈PARTY THE PLAYWRIGHT 2020〉。CONNECTIONは2月2日出演)は、どういう編成でやるかは当日のお楽しみ」

――最後に改めて、Playwrightは今後どうなっていくとおもしろいと思いますか。

カワイ「ただCD出したいというだけで作ったレーベルだったんですけど、boheやfoxの活動の幅が広がってきて、それを見たバンドたちが入りたいと言ってくれるようになって、仲間が増えて、いまはすごく良い状態だと思います。ただ、インスト・バンドの駆け込み寺みたいになっちゃうのは嫌なので、インストとか歌とか関係なく〈Playwrightに入ってやりたいことがある〉という人たちにもっと届くといいなと思います」

bashiry「今回の企画もそうですけど、みんながワクワクすることが常に起きてる。今後も10周年に向けて、おもしろいことを提供できるレーベルであり続けてほしいと思います」

 


カワイヒデヒロ
東京出身の作曲家/編曲家/ベーシスト。高校時代に作曲家をめざし、大学生の時にベースを始める。Immigrant's Bossa Bandで活動していた2011年にfox capture planを結成。バンドで幅広く活躍する一方、個人としても「あした世界が終わるとしても」「INGRESS」「節約ロック」などアニメやドラマ、映画の劇伴を数多く手掛けている。

 


bashiry
横浜出身のギタリスト。高校時代にcharに影響されてギターに没頭。ウェス・モンゴメリーをきっかけに20歳でジャズに目覚める。2008年にインスト・バンドのbohemianvoodooを結成し、翌年デビュー。並行して、2011年からはラッパーのCELLO a.k.a. MASSANと組んだアコースティック・ユニットのMASSAN×BASHIRYでも活躍中。

 

『CONNECTION BLUE』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。

 

『CONNECTION BLUE』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

カワイヒデヒロが手掛けた2019年のサントラを一部紹介。