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大胆不敵、緩急自在ながら品性確かなバッティストーニの手綱捌き

 昨年から東京フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者を務めるイタリアの俊英、アンドレア・バッティストーニ。東京の音楽ファンの間では、すっかりおなじみの存在だ。昨年末には28歳の若さで東京フィルの「第9」公演を任され、唖然とするほどの快速テンポで話題をさらった。

ANDREA BATTISTONI,東京フィルハーモニー交響楽団 展覧会の絵 Columbia(2016)

 2012年、東京二期会の 『ナブッコ』で日本にデビュー(その時ピットに入った東京フィルと“恋”におちた!)して以来、15年に『リゴレット』、16年に『イル・トロヴァトーレ』(これは東京都交響楽団との初共演)と、ヴェルディ歌劇の全幕上演で実績を積んできた片鱗は、このディスクの冒頭に収められた《運命の力》序曲でもはっきり、体験できる。弾むような金管に耳を奪われる間もなく、木管のたっぷりした歌が現れ、緊張感に富んだ弦がからんでいく。クライマックスへ向けてアクセルを踏み続けたあげく、思い切ったリタルダンドで驚かせ、さらなる興奮へとなだれ込む。緩急自在の手綱捌きに、東京フィルも必死で食らいついている。

 メインのムソルグスキー作曲、組曲《展覧会の絵》は最も一般的なラヴェルの編曲だ。カルロ・マリア・ジュリーニクラウディオ・アバドら、この版で録音した先輩世代のイタリア人指揮者と同じく、バッティストーニの解釈はロシアの土属性よりもフランス音楽の洗練に根ざしている。東京フィルを明るく、運動神経のいい軽めの響きに整えつつ、必要以上の見栄やおどろおどろしさを巧みに避ける。《卵の殻をつけたひよこの踊り》ですら慌てず騒がず始まるが、展開部ではキレのいいリズムで耳を惹きつける。《サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ》でもスビトピアノ(一瞬の弱音)が、鈍重さの軽減に使われる。締めの2曲ですら不思議なほどの軽やかさを漂わせ、おおらかなドラマの語り手に徹する。作曲家的な視点から生まれる品性確かな音楽は、大胆不敵の裏に潜む、バッティストーニもう一つの魅力である。