1970年代から80年代への架け橋となった加藤ワークス

 1979年『パパ・ヘミングウェイ』、1980年『うたかたのオペラ』、1981年 『ベル・エキセントリック』──ザ・フォーク・クルセダーズのメンバーとしてデビューし、サディスティック・ミカ・バンドを成功させた加藤和彦が、70年代から80年代への架け橋としたのが〈ヨーロッパ3部作〉だ。オリジナル音源をリマスター、ボーナス・トラックを加え、60ページ強の資料がつく。このボックス・セットは、ファンのみならず、この列島の音楽のうつりゆきに多少なりとも関心があるなら、手にしたい一品。

牧村憲一,加藤和彦,大川正義 『バハマ・ベルリン・パリ~加藤和彦ヨーロッパ3部作』 リットーミュージック(2014)

 3部作と呼ばれるのは、異なった3カ所での録音のゆえ。当時、すでに海外での録音は特に珍しくはなかった。しかし、経済的な側面やゲスト・ミュージシャンの参加がこの3枚の目的となっていたわけではない。一緒に演奏しているのは、高橋幸宏、坂本龍一、細野晴臣、矢野顕子、小原礼、大村憲司といった身近な人たちで、彼らを異なった環境へと投げこむこと、異化することこそが目指されていた。気候や空気、土地そのものの磁力があり、ひとりひとりのメンバー、その〈あいだ〉にはたらくもの、それが変わることが、だ。

 ひとつところではなく、それぞれに、およそ異なった場所であることによる変化。慣れる、ではなく、ちょっと、驚く。そして、馴染む。安井かずみのことばも、場とのかかわりのなかでこそ。だから、3枚をつづけて聴くと、その空気感の違いが際立つ。ベルリンの『うたかたのオペラ』を真ん中におき、バハマの『パパ・ヘミングウェイ』とパリの『ベル・エキセントリック』の異なったリラックス。後者にはすこしだけ手のひらに汗があるようなところもあったり。

 ひとつひとつの曲を、詞を、加藤和彦がどれだけ丁寧に扱ったか。アレンジと演奏=録音のプロセスに繊細であったか。ちまたではやりすたれる音楽をしばし忘れさせ、さらにはそうした音楽に、音楽のありように一考を強いるようなものとして、わたしはこのボックスを聴きなおす。