(左から)松田”CHABE”岳二、堀口チエ、紗羅マリー、浜田将充、古川太一

 

LEARNERS旋風が止まらない。2015年の12月にKiliKiliVillaよりリリースしたファースト・アルバム『LEARNERS』が、好セールスを記録し、同作のLPを含めアナログ盤は軒並みリリース後間もなくソールドアウト。今年4月の全国ツアーも各地で満員御礼だったという。さらに、リリースから半年後にもかかわらず、初作『LEARNERS』が2016年6月度の〈タワレコメン〉に選ばれた――日本の音楽シーンにおいて、彼らの勢いは無視できない状況になっている。

当初は、松田”CHABE”岳二紗羅マリーのデュオとしてスタートしたLEARNERS。2015年6月に開催されたブラック・リップスの来日公演で行ったライヴから、ドラムに古川太一、ベースに浜田将充という元Riddim Saunterの2人、そしてギターに堀口チエを迎えての5人編成になった。彼らのレパートリーの中心は、オールディーズガールズ・ポップスカなど1940~70年代のナンバーのカヴァー。原曲のエッセンスを濁さず、しなやかなスウィング・ビートと溌剌としたパンキッシュなムードを同居させ、実にフレッシュなロックンロールを鳴らしている。

チャーベのポップ・ミュージック愛に裏付けられたディレクション、華やかなカリスマ性のある紗羅のヴォーカル、浜田と太一によるマッシヴなリズム・コンビネーション、カントリー/ロカビリーを軸にした繊細かつワイルドなプレイが存在感を放つチエのギター。メンバー全員が主役と言っても過言ではないスペシャルな5人組が、現編成での初ライヴからちょうど1年後にあたる6月15日、ライヴ音源のダウンロード・コード付き写真集『Absolute Learners』を発表した。そのリリースに合わせて、Mikikiではメンバー全員へのインタヴューを実施。今年2月にLEARNERSのライヴを観た際、彼らのパフォーマンスに大興奮していた田中宗一郎ザ・サイン・マガジン・ドットコム)が話を訊いた。 ※Mikiki編集部

LEARNERS Absolute Learners KiliKiliVilla(2016)

 

〈ズルイね~!〉って言われます 

――初作『LEARNERS』のリリースから約半年を経て、周りからの〈あ! 的を得ているな。嬉しいな〉というリアクションと、〈うーん、確かに一理あるかもしれないけど、そこじゃないんだよな〉というリアクションがあれば、それぞれ教えてください。

紗羅マリー「〈ズルイね~!〉とは言われますよ(笑)。〈ジャンルもレスだし、良いジャンルの良いところだけ掴んじゃってズルイねー〉って」

松田”CHABE”岳二「でも、自分でも〈ズルイね〉と言っているくらいなんで。まあ的を射た意見かなと思います」


――いろんな時代、いろんなジャンル、いろんなリズムのいちばんエキサイティングなところ――しかも大名曲のカヴァーばかりをやっているわけだから、まあ一理はありますよね。ただ、そもそもLEARNERSというバンドを始めるにあたってのスターティング・ポイントはなんだったんですか?

チャーベ「最初は、紗羅ちゃんとの共通項であるオールディーズのカヴァーを彼女と2人でやってみたいなと思って。最初からコンセプチュアルではあったんです。メジャー7thはなるべく使わない、シンプルなコード進行でやるとか、自分がそれまでやってきたことと逆のことをしてみるという考えはあった。でも、2人のときはヴェルヴェット・アンダーグラウンドとか、いまとは違う曲もやっていたんですよ」

紗羅ナンシー・シナトラとか」

デュオ時代の音源。ブロッサム・ディアリーの代表曲をカヴァー
 

――じゃあ、2人でやっているときは、なんとなくナンシー・シナトラに対するリー・ヘイゼルウッド的な視点で、紗羅ちゃんをプロデュースするというイメージもあった?

チャーベ「いや、そのときは失敗しないように演奏しなきゃ、くらいしか思ってなかったです。そもそもLEARNERって初心者という意味なんで、そういう感覚でしたね」

紗羅「私的にはあった。チャーベさんと2人で、楽器もギターしかない編成でやるにあたっては。私がシナトラの好きなところは、気軽さや、〈やらせられている人形感〉なんですよ。でも(デュオ時代の)根本的な部分はフェアグラウンド・アトラクションだったりとか、ごっちゃ混ぜでしたね。ただ、自分の歌う軸としては、ナンシー・シナトラをすごく意識していました」

リー・ヘイゼルウッドがプロデュースしたナンシー・シナトラの66年作『Boots』収録曲“These Boots Are Made For Walkin'”
 

チャーベ「でも、この5人で入った1回目のリハで、〈あ、たぶんこれだな、これしかないな〉というのがバチッと見えたんです」

――そのときは何を合わせたんですか?

チャーベ「ファーストに入っている曲の半分くらいはやったと思います」

――そもそもバンドで合わせてみる以前に、紗羅ちゃんのなかでこの曲は歌いたい、この曲はイマイチみたいなボーダーはあるんですか?

紗羅「(即答で)気分です」

一同「ハハハハ(笑)!」

紗羅「基本的にチャーベさんが好きなものを私も好きだし、自分のなかでLEARNERSっぽいか/ぽくないかで、歌いたい/歌いたくないは決まる。でも、やって失敗したのもありますよ。そういうときは〈これ、やめましょー〉となる」

チャーベ「ボツもあるね。スティーヴィー・ワンダーの“Love A Go Go”をやったんですよ。でも、イントロのホーンがないと、うまいこと再現できなくて。15分くらい合わせて止めました(笑)。ノーザン・ソウルっぽくやってみたかったんですけど」

スティーヴィー・ワンダーの66年作『Up-Tight』収録曲“Love A Go Go”
 

――LEARNERSって、裏打ちでスネアを叩く曲はまだないもんね。

チャーベ「そうなんですよ。自分のヴァリエーションであるスカやシャッフル、ジャズっぽいものはあるんですけど、ノーザン・ストンプはないんですよね。だから、まだやりたいことが残っているなとは思っています」

 

毎回みんなで戦っているな、と思う

――じゃあ、紗羅ちゃんが1人のシンガーとして……。

紗羅「シンガー……シンガーって恥ずかしい(笑)」

――そういうふうに言われるのがおこがましい感はあるの?

紗羅「ありますよ。恥ずかしいです(笑)。LEARNERSではバンドのなかの1人として立っているので。そこはみんながもう楽しけりゃ良いじゃん、という感覚でやってる。ただ、ステージに立っているときは、私がいちばん良い女だと思っていますけど」

チャーベ「最高」

紗羅「モデルも立っているときは、自分がいちばんカッコイイと思って、それを観客に伝えないといけない仕事だし。歌う側としても客を不安にはさせたくない」

古川太一「それは結構影響されたかも。自分が(KONCOSで)やっていることに」

KONCOSの2016年のライヴ映像
 

チャーベ「紗羅が言うような、お客さんを不安にさせないことはすごく大事。昨日、YouTubeでKen Yokoyamaが話しているのを観たんですけど、Kenくんが〈不安そうに弾いている奴のギターは響かないから、まだ自分のなかに入ってないフレーズでも堂々と弾いたほうが良い〉みたいなことを言っていて、その通りだなと思った」

紗羅「でもそれで言ったら、いちばんわかりやすいのはこの人(チエ)ですよ?」

堀口チエ「え? なになに」

チャーベ「チエがステージに立っているときの破壊力ったらないからね」

――ねえ。こんな超一流のギタリストはいないですよ。ジャズやカントリーからロカビリーまで横断するスタイルを見事に弾きこなして、グレッチのあんな最高な音が鳴らせて。しかも、あの物怖じしないステージング。これまでチエちゃんが表舞台で発見されなかったことが不思議なくらい。

紗羅「ハンパないよ(笑)」

――それにしても、彼女はどうやって発見したんですか?

チャーベ「僕のギャラリー(kit gallery)でセックス・ピストルズの最初のUSツアーを扱った写真展をやっていたんですけど、その最終日に知人から紹介いただいて。それが去年のゴールデン・ウィークでした。6月15日にブラック・リップスの来日公演でのライヴが決まっていたんですけど、まだギタリストを探していた状態で」

――そんな直近だったの!?

チャーベ「この3人(チャーベ、紗羅、太一)しか決まっていなくて、〈どうしようかな〉となっていたんですよ。ただ、ハマ(浜田将充)はブラック・リップスを大好きだから、ベースはハマだなとずっと思っていた。そこでチエちゃんが現れて、僕が最初に訊いたのは、使っているギターは何かと、身長がどのくらいか」

――これまた大事なところ(笑)。

チャーベ「見た目が紗羅と同じような感じで、背丈も体型も近いし、並ぶとカッコイイだろうなと思った。kit galleryのトイレから紗羅ちゃんに〈ギタリスト見つけたよ~〉とこっそりメールして」

――でも、まさかこんなにとんでもないギタリストだとは思わなかった?

チャーベ「最初に僕とチエの2人でリハに入ったときにテープ・エコーを転がしてきて。その時点で本気すぎて、もう〈ゴメン〉みたいな(笑)」

紗羅&チエ「ハハハ(笑)」

チャーベ「ギターの弾き分けを考えようと思ったんだけど、僕はそもそもギタリストではないので、まあバッキングをやるからと、チエにリードをやってもらったら、〈これはもうバンドでやるしかないな〉と。5人で最初に合わせたリハは、結構上がりましたね」

紗羅「楽しかった」

チャーベ「この3人が加わったことで、僕たちが2人で始めたときに想像していた以上の音が鳴ったんですよ」

浜田将充「ちょっと焦りましたね。いつも通りに曲を覚えて弾くつもりだったんですけど、合わせたときに、自分が新しいフェイズに入るんだなと感じて。開拓しないといけないジャンルがすげえ増えたなと」

――にしても、こんなにも5つのピースが綺麗にハマったクインテットは、そうそうないと思いますよ。よく揃ったな、この5人が、っていう。

紗羅「私がセンターに立っていて、後ろにみんながいるじゃないですか。毎回歌っていて思うのは、今日もみんなで戦っているなって」

一同「ハハハハ!」

紗羅「みんなが力を出し合いつつ楽しんで対決している感じが、私のなかでは毎回すごく鳥肌ものなんです」

――でも、ホント奇跡的なコンビネーションだと思う。チエちゃんと初めてお会いしたときに、ギタリストでいちばん好きなのはブライアン・セッツアーだと伺いました。実際、チエちゃんは、グレッチを使っていて、カントリーとロカビリーの中間くらいのスタイルですよね? それはブライアン・セッツアー経由でそういった音楽ジャンルにも惹かれていったということ?

チエ「そうですね。結構古いものばかり聴いていました。ネオ・ロカよりもオーセンティックなロカビリーが好き」

堀口チエによるギャロップ奏法の実演動画
 

――例えば、チエちゃんがメイン・ヴォーカルをとる“GOTTA LOT OF RHYTHM IN MY SOUL“を選んだのは誰なんですか?

チエ「私ですね。パッツィー・クラインのなかでいちばん好きな曲で、弾き語りでもやっていて」

チャーベ「チエの弾き語りを観に行ったときにも歌っていて、すごくカッコイイと思った。アルバムでも1曲チエちゃんの歌が入っていたら良いよな、と考えていたから〈アレやらない?〉と」

パッツイ―・クラインの59年のシングル“Gotta Lot of Rhythm in My Soul”
 

――ただ、LEARNERSのレパートリーの大半がカヴァー曲だということに対しては、どんなリアクションが多いんですか? あるいは、カヴァー曲をやることはどの程度、LEARNERSのアイデンティティーにとって大切なのか?

チャーベ「まあ、最初は〈良い曲だから演奏してみたいな、このメンバーでこの曲やったらどうなるのかな〉みたいな。出発点はそこですね。ただ初期衝動で作られた音楽にはカヴァーが多いじゃないですか。例えば、スペシャルズのファースト『Specials』(79年)も、ずっとオリジナルだと思っていたら半分くらい元ネタがあったとか、ああいう感覚かもしれない。そういうバンドがパーティー・バンドとしているのは良いんじゃないかなと思った」

スペシャルズのライヴ映像。トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズの69年の楽曲“Monkey Man”をカヴァー
 

――ただ、偉大なバンドの条件のひとつは、そのバンドにしかやれないカヴァー・ソングをたくさん持っていることだと思うんですね。60年代英国のリズム&ブルース・バンドもそうだし、ジャズの名作の多くは大半がカヴァー曲だったりする。そもそもポップ・ミュージックというのは引用と継承じゃないですか。

チャーベ「はいはい」

――だから、最高のカヴァーをやれないバンドは三流だという視点もある。そういう意味からしても、LEARNERSは最高だと思うんですよね。でも、その視点は一般的じゃないのかな?

紗羅「若い子はオリジナルと思って聴いているのかもしれない」

――そうか(笑)!

チャーベ「そうそう。それが大事なことかもしれない」

紗羅「ラッキー(笑)」

チャーベ「僕がスペシャルズやTHE SKA FLAMESを聴いたときと同じで、〈そうかカヴァーなんだ〉みたいな。いまだに(カヴァーだって)知ることもあるんですよ。DJが古い曲をかけていて〈あれ?〉っていう」

紗羅「あるある」

チャーベ「〈この曲はデルトーンズのオリジナルじゃなかったんだ!〉とかね。LEARNERSは、そういうバンドになりたいな」

浜田「俺、半分くらいの曲は知らなかったです」

太一「僕も全然知らなかったです」

浜田「〈オリジナルなのかな?〉とちょっと思いましたけどね(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

チャーベ「継承することや、古い音楽を持ってきて新しく聴かせるというのは、DJの感覚かもしれない。僕が作ろうとすると、本当に古いものにはならないから。それはこのメンツならではの開き直りというか」

 

マナーを守りつつ、リスペクトを持ったうえでやっている

――では、リズムの話です。LEARNERSのレパートリーは、チエちゃんのギャロップするギターが全体の軸にあり、その半数以上がシャッフル……スウィンギンなビートですよね。しかも、ちょっとジャジーな4ビート寄りのものもあれば、カントリー寄りもあるし、もう少しパンキッシュな2ビートっぽいシャッフルもあってと、ヴァリエーションが豊か。

太一「全部シャッフルだから、LEARNERSは結構大変。でも、曲によって音楽のルーツが違うから……」

チャーベ「難しいと思いますよ。LEARNERSは大体BPM180~200くらいのシャッフル・ビートだから。似てるんですよ。僕がデモを作るときも全部同じドラム・パターンを使っていたり。でも、太一がそれにヴァリエーションを付けている」

――1つのバンドがスウィングをやるときは1つのスタイルのビートになりがちなんだけど、LEARNERSの場合、曲ごとで見事に別のグルーヴになってる。

太一「それはたぶんDJ的な感覚で、あれだったらあっちの棚のジャンルの音で、これだったらこっちの棚のジャンルの音にする、みたいな。たぶんレコードを掘る感じと近い」

チャーベ「スカのビートってこうだよね、カントリーのフィルってこうだよねとか、様式美もあるので。そこを残しながら、あとは勝手に解釈をして」

太一「マナーを守りつつ、リスペクトを持ったうえでやってます。レコードを買っている者の意地ですよね。たぶんチャーベさんもそうなんですけど」

チャーベ「ベーシックは3人で録るんですけど、ハマと太一がすごく考えてくれているなと思ってますね」

――シャッフルのヴァリエーションに関しては、ハマくん的にも新しいアプローチを引き出された感はあるの?

浜田「めちゃくちゃありますね。むしろこういうのはすごく苦手なベースなんですよ」

チャーベ「ハハハ(笑)!」

浜田「古い音楽を全然聴いてこなかったので。家でジャズを聴くようにして、そこからパーツを拾ってくる、みたいな。自分の頭の中から、まったく違うジャンルのものを引き出してきたり」

――太一くんは、リディム時代から半数以上の曲でスタンディングで叩いていますよね。これはロカのスタイルでもあるわけで。

太一「いや、ロカビリーはまったく聴いてないんです(笑)」

――じゃあ、なんでスタンディングになったの?

太一「テンション上がって、立って叩いたら、〈音小さい!〉とめっちゃPAさんに怒られて。でも、立って叩いている人はいないし、お洒落だなと思ったんです。それで、めっちゃ練習しました」

Riddim Saunterの2011年のDVD「FAREWELL」のトレイラー映像。解散ライヴの模様が収められている
 

――それがいつの間にか自分のスタイルになったの?

太一「そうです。これまでにも〈ロカビリー・スタイルなの?〉と言われたことはありました。でも、〈どちらかと言うとB-BOYなんですよ〉って(笑)。ちょうどLEARNERSみたいな曲は全部立って叩けますしね。スカとかは叩けないんですけど」

――リムショットもいるしね。チエちゃんはLEARNERS以前にカントリーなりロカをやってきて、スタンディング・タイプの太鼓とはやったことがありました?

チエ「あー、スタンディングはなかったですね。でもずっと憧れてはいました。ストレイ・キャッツを好きだったから」

チャーベ「紗羅とチエの2人は本当にロカビリーとかカントリーが大好きだけど、ハマと太一の2人はそういった音楽をあまり聴いてきていないのが強みになっているような気がして。みんながそういう音楽を好きだったら、よりオーセンティックになっていくと思うんですけど、そういうバンドはすでにいるし、自分がやることではないなと思っている。この2人(浜田&太一)がいるのが化けている理由なのかもしれない」

 

良い意味での誤解や感覚のズレがおもしろい音楽を生む

――チャーベくんの〈オーセンティックなものに対するリスペクトがありながら、オーセンティックなものには行かない〉という考え方はどういうところから出てきていると思いますか?

チャーベ「僕のなかではロンドンを経由している感覚なんですよ」

――なるほど。

チャーベ「ロンドンの人がアメリカの音楽に憧れて作った音楽に、僕も憧れてきたんです。だから、どうやってもそっちの脳味噌になってしまうというか。紗羅とチエが好きなものを聴いても――例えば、パッツイー・クラインだったらフェアグラウンド・アトラクションが“Walking After Midnight”をやっているね、という感覚。だから僕も勉強しているんです。紗羅やチエが聴いているもので僕が知らないものはいっぱいあるので、そういうのを、〈おー、こんなんあるんだ〉と勉強している」

フェアグラウンド・アトラクションの90年作『Ay Fond Kiss』収録曲“Walking After Midnight”
 

――1940年代、1950年代からのポップスの歴史を紐解くと、イギリスは基本的にはフォーク音楽がベースで、大概のルーツはアメリカ発祥なんだけど、それをイギリス人が勘違いしたり、憧れたりして作ったものがもう一回アメリカに戻ってくるという、そこの交通がここ50年間の音楽をおもしろくしてきたというところがあって。

チャーベ「それこそストレイ・キャッツが最初にロンドンで火が点いたというのがおもしろいじゃないですか。ギャズ・メイオールが自分のイヴェントに出したら、客が10人しかいないのに、あいつらスタジアムでやっているようなライヴをした、と語っている文章が残っていて。ロンドンで火が点いたアメリカの音楽が本国に逆輸入されるという感じがすごくカッコイイ」

――われわれ日本人というのは音楽的にも文化的にも開国以前/大戦以前のルーツから切り離されているところがある。チャーベくんのいま言ってくれた視点が、そういった日本人特有のアイデンティティーと繋がっている部分はあると思いますか?

チャーベ「思います。良い意味での誤解や感覚のズレがおもしろい音楽を生むというか。本物は本物じゃないですか。それを僕らがやっても本物ではないわけだから、そこでどうおもしろくなるかが大事なんじゃないかな」

――じゃあ、LEARNERSにとってパンクという言葉はどういった意味があるのか? 重要なのか、どうか。

チャーベ「どうなんだろ。あんまり考えてないですね。でもなんだろうな」

紗羅「LEARNERSのパンクはお客さんが出している」

チャーベ「ハハハ(笑)」

紗羅「そのきっかけを作ったのはハマ兄です」

チャーベ「ハマがベースを持ってダイヴしたんですよ」

浜田「(東京・下北沢の)BASEMENT BARで、PVを撮ったライヴがあったんですけど、〈みんなでワイワイやろうぜ〉となり、たぶんワイワイしちゃったんですよ」

紗羅「その瞬間に私たちのバンドはパンクになった」

一同「ハハハハ(笑)!」

紗羅「あんなに色男的にベースを弾いていた人間がいきなりダイヴして、それに客が大興奮して、そっからパンクが入ってきた。オールディーズをやっているのに、客がモッシュ/ダイヴをするのはおかしいじゃないですか。でもそんなのほかにない。それからバウ・ワウ・ワウのカヴァー“I WANT CANDY”もセットに入ったし。お客さんのLEARNERSを聴くスタンスも出来はじめて、モッシュが起こるようになったり、自然に私たちの演奏のスピードも速くなった。そうなっていくなかで、たぶん私の歌い方もちょっと変わっただろうし、いまはチャーベさんと2人でやっていたときとは正反対のことをやっていますよね」

LEARNERSの“I WANT CANDY”のライヴ映像。1分50秒あたりのハマのダイヴに注目 

 

私はずっとセンターに立っていたくない

――なるほど。じゃあ今回、このタイミングで写真集『Absolute Learners』を出そうと思った理由を教えてください。

チャーベ「僕のギャラリーで、LEARNERSの1年間にフォーカスした写真展をやりたいなと思ったんですよ。友達の写真家たちにすごく良い写真をいっぱい撮ってもらっていたから。同じくらいのタイミングで、KiliKiliVillaが出した『BUBBLE BLUE』という写真集を見たら、それがすごく良くて。レーベルとして1つフォーマットを作ったということは、誰かが続けば第3弾、第4弾になるじゃないですか。となると、第2弾は結構大事だなと思って、やらせてもらいたいという話を持ち込んだ」

――じゃあ、カヴァーの写真を靴の写真、しかもウィングチップの写真にした理由を教えてください。

チャーベ「まず表紙に紗羅ちゃんやメンバーを使わないというのは最初から話していて。あと、カヴァーは僕のiPhoneで撮った写真なんですけど。これは(東京・渋谷)Organ Barの床なんです。写真家5人のうちの誰かを使うと不公平だなと思ったし、そのうえでメンバーの写真じゃなく、表紙で使えそうなものはこれしかなかったから、これにしたという感じ。そこまで深い意味はないんですけどね」

――でも靴って、音楽のスタイルの歴史とも繋がっていて、音楽性も含めたスタイルの表明でもありますよね。

チャーベ「そうなんですよね。これが例えば、AIR FORCE 1だったらB-BOYかな、ラバーソウルだったらもっとパンクなのかなとか。だから、確かにいまのLEARNERSっぽい写真なのかもしれないです。また僕らは変わるかもしれないけど」

――で、これからのLEARNERSなんですけど、次は何をやりたいですか?

チャーベ「もう1枚、アルバムを出したいなと思っています。あとクリスマスに7インチを出すとか」

――素敵ですね。

チャーベ「やりたいことはあるけれど、目標的なものはあんまりないかもしれないですね。とにかく怒涛のような1年だったので、次のアルバムを作るというのだけ決めて、そこに向かえれば良いかなと思っています」

――他のメンバーはどうですか?

紗羅「マイナー・コード(の曲)?」

チャーベ「いま1曲もないからね」

紗羅「1曲くらいは欲しいよね」

チエ「マイナーを歌ったら絶対格好良くなるだろうなというイメージはある。LEARNERSっぽく、でも紗羅ちゃんがもっと活きるものをやってみたい」

紗羅「私はクリスマスの7インチが楽しみです」

――それはオリジナル、それともカヴァー?

チャーベ「どうですかねー」

紗羅「カヴァーでしょ!」

チャーベ「カヴァーですね(笑)。実はオリジナルを僕が書かなくても良いんじゃないかなと思っていて、いろんな作家さんに曲を振りたいんです。なんか僕がやると上手くLEARNERSに落とせない気がしていて、人に書いてもらった曲をLEARNERSっぽくアレンジするほうが良いのかなと。〈作詞・作曲:誰かと誰か〉みたいに、そうやって選んでいくのがおもしろいかなと思っているんですよね」

――でもカヴァー・ソングが大半であることも、オリジナル曲を必ずしもメンバーが書かなくてもいいという考え方も、いま失われつつありますけど、音楽文化のなかで大事な文化の1つだから。

チャーベ「いや、ほんとにそう思いますね。例えば、カジ(ヒデキ)くんあたりにLEARNERSを念頭に置いて書いてもらって、僕らが演奏したらLEARNERSになると思うんですよ。バンドがこうあるべきというのは、各々のバンドでやれば良いので、LEARNERSはそういう意味ではプロジェクトっぽいのかもしれないですね」

――もはやいろんな作家がLEARNERSにはこの曲をやってほしいと思える確固としたアイデンティティーがあるからね。

チャーベ「そうなんですよね。そのなかで、じゃあチエちゃん1曲書いてよ、ハマ書いてみてよ、太一書いてみてよという動きもできるし」

紗羅「あとチー坊と2人でやる曲を増やしたい。“MY BOY LOLLIPOP”だけ2人とも楽器を持たずに歌っているんですけど、私としてはチー坊の歌を横でハモっているのが最高に楽しくてしょうがない」

チエ「ハハハハ(笑)!」

紗羅「私がいちばんライヴで楽しい瞬間」

チエ「そうなの!?」

紗羅「いまはウォッシュボードやカスタネットしかできないけど、弾ける楽器を増やしていきたい。別にすべての曲で私がセンターに立っていなくても良いと思うし、私はずっとセンターに立っていたくない。できれば混ざり込んでいきたいんです。でもそれにはまだ力不足で、歌うことしかできないから。そういう意味で、グルグル回っていろんな人がセンターに立てるようになるのが、私にとって最高のバンドのスタンスかな」

――すごいよね。これだけフロントマン然としたシンガーがバンド・シンガーでありたいっていう(笑)。

チャーベ「すごいですよ。まあ、この2人(紗羅とチエ)のスピンオフのプロジェクトなんかが、いつか始まれば良いなとボンヤリ思っています。紗羅ちゃんなんて、いつか1人で……」

紗羅「嫌だ!」

チャーベ「って言うんですよ」

紗羅「全然嫌だ」

――ハハハ(笑)。

チャーベ「でも世の中が黙っていないかもしれないしね。そんななかで僕らがいまやれているのはありがたいな、と」

――絶妙なバランスのバンドだと思いますよ。全員がフロントマンだから。

チャーベ「ドラムもフロントマンなんて、なかなかいないですよね」