COLUMN

菊地成孔「機動戦士ガンダム・サンダーボルト」サントラ&大西順子の新作『Tea Times』―あなたはどちらを先に聴きますか?

菊地成孔&大西順子
あなたはどちらを先に聴きますか?

 

何万光年先にもジャズを聴いている人がいてもいいじゃないか!

菊地成孔 オリジナル・サウンドトラック「機動戦士ガンダム サンダーボルト」 TABOO(2016)

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 このアルバムは『機動戦士ガンダム・サンダーボルト』のサウンド・トラックだが、おさめられているどの曲もいわゆる劇伴音楽ではなく、登場人物たちの耳に聞こえているという(つまり劇中音楽の)形をとっている。彼らが聴いているすべての楽曲を菊地成孔が作っているからには、このガンダム世界において菊地成孔は唯一絶対のヒットメイカーであるということになるが、登場人物たちは自分が愛聴している楽曲の送り手が(地球西暦21世紀在住の)菊地成孔であることを知らない。ピアノを弾いているのが大西順子であることも知らない。何も知らないで聴いている。知るはずがないのだ。知っているのは、このアルバムを聴いている(こちら側の)私たちだけだ。この点について本稿は、ホラでも屁理屈でもなく真剣に考えたいと思う。

 私たちが暮らしている世界そのものが天文学レベルの時間を持った一編の映画「甲」であると仮定した場合、その内部で生まれた音楽はすべて「甲」の外部「乙」の音楽家「丙」によって規定されていることになる。つまり「甲」の登場人物である私たちが聴いている音楽は(聴いていない音楽も)すべて同じ「甲」内の音楽家「丁」の創作物であるという設定で、実際は「甲」外「乙」在「丙」が作っているのだ。だから「丙」は「甲」の音楽状況を考慮する。「かっこいい曲ばっかりだと変かな。だっさい曲もそりゃあるよな」と。しかし「丙」は「乙」のリスナーのことも気になるだろう。「でも俺が任されてるんだから、俺がかっこよくしてもいいよな」と。だいぶ飛躍するが、「マドンナ(丁)とマイケル(丁)とプリンス(丁)が同い年なんていう当たり年があってもいいよな」とか、「なごり雪はイルカ(丁)がカヴァーしてかぐや姫(丁)よりヒットするとか有りだろうな」とも考えたかもしれない。そしてついつい何万光年も考え込んだ挙句、こんなことを思う。「で、音楽っていつ聴くんだろう」と。「何してるときに聴くんだろう」と。

 真剣に考えた結果、どうもまとまらないので、本稿はふわっとしたまま終わります。とにかく成孔さんと大西さんと梅津さんが共演したという事実に失禁ものです。ジャズ・ファンかつ頻尿のあなた、股間が手遅れ必死、嬉ション確実です。 (冨永昌敬/映画監督)
 


プロデューサーの役割…菊地成孔の場合

 ミュージシャンがいて、ピアノを弾く。楽曲によって、その日にその時間によって、ともに演奏する相手によって、音楽は変わる。

 プロデューサーなるものが何をするのか、実際に手掛けたことがごくごくかぎられているので、よくわかっているとはいえない。たぶん、という推測でしかないのだが、このアルバムの場合なら、大西順子というミュージシャンがいる――そこに何かを加え、刺激し、変化・変形させる、それが役割なのだ、きっと。

 プロデューサーはいろいろ持ちこんでくる。薬剤だったり電気ショックだったり、カウンセラーだか営業職まがいのマシンガン・トークやジョークだったり、数字にまつわる何かかもしれない。べつのミュージシャンがやってきたり、プログラミングされたデータも再生されたりもする。大西順子は反応する。威嚇し、身構え、防御し、応戦し、共生の姿勢をとる。そんなさまざまな姿を「アルバム」はひとつにする。言い換えると、ひとつのからだとなる。

大西順子 Tea Times TABOO(2016)

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 大西順子というひとりのミュージシャンが、曲や共演者やマシンとともにべつのからだになったり元に戻ったりするさま。それがこのアルバムだ。より外から、上から眺めれば、プロデューサーがミュージシャンのからだを刺激し、サイボーグ化するさまを映しだしたアルバムであり、同時に、「大西順子」というべつのからだの様態を浮かびあがらせる。

 ややこしい言い方をしている。何をうざいこと言ってるんだ、と吐きだす(誰かの)表情がみえる。

 たしかに。そのとおり。

 そのとおりなのだ、が、このアルバムをとおして聴いたときに浮かんだもの、このアルバムのトータルなありようが、このように「みえた」のだ。そして、いまこの時点でも、わたしの手元には、全10曲、そしてパーソネルが大西順子、菊地成孔プロデュース、そのアルバム、というのが唯一の情報だ(じつはタイトルも知らない……)。

 再生しながら、そうか、これはピアノ・トリオのアルバムなのか、とおもい、え?ブラスがはいってるの? でも、このブラスの使い方は? オーヴァー・ダビング?とおもい、ラップが、ヴォーカルが、と、曲ごとに驚きや発見を見いだしながら、その中心にいる大西順子のありようが、その存在と変形が浮かびあがってきた。そんなふうに言ってみようか。

 大西順子自身の低音域でひびかせられるタッチとその力づよい、いや、むしろ強引な、マシンとはりあうようなリズム、右手左手で交わしあう声部、並行して急速に上向するスケール/アルペッジョ。こうした細部が呼びこまれるべつの声、声たちとどう共存しどう葛藤し、自らの「作品」にしてしまうか、そのドラマを、そのからだのありようを、聴いた。これは、だが、わたしだけの幻聴、なのだろうか? あなた、の反応を教えてほしい。 (小沼純一 音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)
 

大西順子 ニュー・アルバム『Tea Times』リリースを記念して、
旧譜全10タイトルを『ワウ』以外初SHM-CD仕様にて復刻!

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FILM INFORMATION
機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY

有料配信中の全4話に新作カットを加えたディレクターズカット版
6/25(土)~7/8(金) 
全国15館にて2週間限定イベント上映!

○東京:新宿ピカデリー / シネマサンシャイン池袋 / TOHOシネマズ日本橋
○神奈川:横浜ブルク13
○千葉:MOVIX柏の葉
○埼玉:MOVIXさいたま
○栃木:MOVIX宇都宮
○宮城:MOVIX仙台
○北海道:札幌シネマフロンティア
○大阪:大阪ステーションシネマ / なんばパークスシネマ
○京都:MOVIX京都
○愛知:ミッドランドスクエアシネマ / MOVIX三好
○福岡:福岡中州大洋映画劇場
http://gundam-tb.net/information/index.html

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