INTERVIEW

レディオヘッドの影響も! 来日迫るファビアン・アルマザン、ジャズ・ピアニストの在り方とアンサンブルの可能性を語る

  • Share on Tumblr
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2016.06.22
レディオヘッドの影響も! 来日迫るファビアン・アルマザン、ジャズ・ピアニストの在り方とアンサンブルの可能性を語る

キューバはハバナ出身で、現在はNYを拠点に活躍する若手ピアニスト、ファビアン・アルマザンの演奏を初めて聴いたのは、彼と同世代のギタリストであるニルス・ウェインホールドのファースト・アルバム『Shapes』(2011年)だった。そこではソロとコンピングの両方でイマジナティヴな味付けをし、ソリッドな楽想にさまざまな表情を与えていたのが強く印象に残っている。それからすぐに彼のリーダー作や参加作を集めたが、どの作品でも優れたソロイストでありながら、同時にバンドのサウンドを彩るカラーリストとしても卓越した才能を発揮していることに感動したものだ。そして極めつけは、2014年に発表した自身2枚目のリーダー作『Rhizome』である。この作品はピアノ・トリオと弦楽四重奏の特性を調和させることで、強い情景喚起を促し、聴き手の想像力を揺さぶる傑作だった。

その一方で、テレンス・ブランチャードのバンドを筆頭にサイドマンとしても頻繁に来日しているほか、昨年3月には初のレギュラー・トリオによるツアーも実現している。そして今年は7月4日(月)~6日(水)にかけて、東京・丸の内コットンクラブで再来日公演が実現。共演メンバーを前回から一新し、シンガー・ソングライターとしても活動しているアラン・ハンプトン(ベース)、先進的な音楽性で注目を集めるダン・ワイス(ドラムス)によるトリオでの登場となる。今回は来日直前のファビアンにインタヴューを実施。ピアニスト/作曲家としてのルーツや彼独自の音楽観などを尋ねてみた。

★2015年のインタヴュー記事はこちら

 

――ジャズに興味を持ったのは、10代半ばの頃だったそうですね。若き日のアイドルはゴンサロ・ルバルカバ※1だったと伺っていますが、当時から今日にかけて、どのようなジャズを聴いてきたのでしょう?

「初めて聴いたジャズ・アルバムは、キューバに住んでいたときに耳にしていたウェザー・リポートの作品だね。父親がベースを弾いていて、ジャコ・パストリアスの大ファンだったんだ。それは僕がまだ5~8歳ぐらいだった頃の話で(ファビアンは84年生まれ)、10代半ばになるとミュージシャンとして積極的に音楽を聴き、じっくり分析するようになった。特に好んで聴いていたのは、オスカー・ピーターソンキース・ジャレットデューク・エリントンジョン・コルトレーン、それにゴンサロマイルス・デイヴィス。そのあとすぐにいろいろ聴くようになったけれど、いま挙げたのが最初の影響源だ。あと、クリスチャン・マクブライドが参加していたダイアナ・クラールのアルバム『Love Scenes』(97年)も大好きだったし、ダニーロ・ペレス※2の『Motherland』(2002年)もよく愛聴したね」

※1 アメリカで活躍するキューバ人ジャズ・ピアニストの草分け的な存在。90年代初頭にデビュー。近年はマーカス・ギルモアなど若手実力者を率いて、ダークで内省的な表現を追求している

※2 パナマ出身、90年代以降はアメリカで活動するジャズ・ピアニスト。ラテン音楽とジャズの融合を一貫して推し進めている。ウェイン・ショーター・クァルテットの一員としても有名

ファビアンが参加したテレンス・ブランチャード・クィンテットの2013年のスタジオ・ライヴ映像
 

――マンハッタン音楽院ではケニー・バロン※1に師事し、卒業後はジェイソン・モラン※2にプライヴェート・レッスンを受けていたそうですね。両氏から学んだことを教えてください。

「ケニー・バロンからは、ジャズ・ピアニストの在り方について学んだよ。彼のもとで学んだ時間のすべてを、ひたすらデュオの演奏に費やした。毎週のセッションで彼は一度たりとも音を外すことがなくて、それを間近で見ることができたのは貴重な経験になったと思う。また、ケニー・バロンのピアノの洗練されて成熟したユニークなサウンドは、彼が習得してきたヴォキャブラリーや伝統のすべてに一層の深みを与えていた。彼からは、(音の)鮮明さと強い信念を追求することを学んだよ。一方でジェイソン・モランからは、リスクを負ってチャレンジすることを教えられた。モランは恐れを知らない人で、どの生徒にもピアノを〈表現のための手段〉として利用することを促した。伝統をリスペクトしつつ、僕たちがいまいる時代のユニークな音楽にも敬意を払っていた。あとはもう一人、ゲイリー・ダイアルというピアニストのもとで勉強することができたことも幸運だった。ダイアルはジャズ・ピアノの基礎を僕に教えるために、あらゆる手を尽くしてくれたんだ。それに、いつも僕がポジティヴでいられるように、メンターとして、あるいは友人としても勇気付けてくれた。彼には感謝してもしきれない」

※1 ディジー・ガレスピースタン・ゲッツジョー・ヘンダーソンらと共演歴を持つジャズ・ピアノの巨匠。2016年に最新作『Book Of Intuition』をリリース

※2 ビバップ、アヴァンギャルド/トラディショナル・ジャズからヒップホップや現代音楽まで呑み込んだ幅広い音楽性が身上の、現代ジャズ・シーンを代表するピアニスト

photo by Great The Kabukicho
 

 

――あなたは即興演奏をする際、たびたび右手と左手で独立したラインを演奏しています。これはバッハなどクラシック音楽からの影響もあるのでしょうか?

「確かにバッハの平均律クラヴィーアを勉強したこともあるけど、むしろオーケストラ音楽が好きだから左手でメロディーを奏でることが多いのだと思う。交響曲の世界においては、ファゴットやフレンチ・ホルン、トロンボーンやチェロなどにしても、叙情的にメロディーを伝えることにおいて、その役割はヴァイオリンと変わらない。だから(左手でメロディーを弾いているのは)、ピアノでもオーケストラに匹敵する表現ができるようにするためだと考えているんだ。」

――ファースト・アルバム『Personalities』(2012年)に収録されているショスタコーヴィチの〈弦楽四重奏曲 第10番 第3楽章〉についての質問です。ここで導入されているエレクトロニクスは、レディオヘッドジョニー・グリーンウッドを参考にしているそうですね。過去のインタヴューでも彼についてよく言及されていますが、主にどういった面でインスパイアされていますか?

「僕がジョニー・グリーンウッドにインスパイアされるのは、一つのカテゴリーに縛られることのない、逞しい勇気を持ったアーティストだからさ。彼はロック・ミュージシャンでもあるけど、映画のスコアも手掛けているし、オーケストラやエレクトロニック・ミュージックの分野にも精通している。そういうふうに、バリアが一切ない活動姿勢はとても心強く感じているよ」

ジョニー・グリーンウッドがストリングス・アレンジを施したレディオヘッドの2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Daydreaming”
 

――現時点での最新作『Rhizome』は、弦楽器を含むすべてのパートで、メロディーやリズムがオーガニックかつ対話的に結び付いているのが特徴的ですよね。それはまるで、いくつもの歯車が噛み合って動く時計のようです。しかも、単に複雑なだけではなく、演奏者やリスナーが自由に想像力を広げることのできる豊かなスペースが残されています。こうしたアンサンブルとスペースのバランスはどのように考えていますか?

「『Rhizome』のために作曲をしていたときは、ピアノ・トリオとしての流動性や自発性を採り入れようとしつつ、同時に弦楽器のパートにも重要な意味を持たせようとしたんだ。昔からジェイソン・モランにも、〈ストリングスを使うのであれば、粗末な扱いをするんじゃない。ちゃんとしたものを書き上げるんだ!〉とよく言われていた。それには心から同感だよ。ジャズの世界において、ストリングスものはいつも二流の扱いを受けてきた。それは歴史あるクラシックの弦楽四重奏にとって、良いこととは言えないと思う。僕はただ手元にある楽器を使って、リスナーもパフォーマーも楽しめる、豊かで意義深い音楽を作ろうとしているだけさ」

ストリング・クァルテットとジャズ・トリオを交えた編成による2014年のライヴ映像
 

――あなたの作品は開放的で美しく、シネマティックな魅力にも溢れていますが、楽曲のテーマは複雑な社会問題から着想を得ていることが多いそうですね。作曲するときは、そういったテーマを音楽に置き換えているのでしょうか? それとも、譜面に書いたヴォイシングやリズムから、突然そういったテーマが喚起されてくるのですか?

「それは時と場合によるかな。現在の世界はおかしな状態にあるわけで、そこにアーティストや科学者の手助けがあってもいいと思う。いまの社会は日々大きく変わっているよね。歴史的に見ても、かつては(肉体的/精神的に)屈強な人物、あるいは知識の探究者たちが英雄的な存在だとされてきた。ところが現代では、ナルシシズムが知能の発達に取って代わってしまっている。そんな状況だから、僕は音楽を通じて〈美しさ〉を世界にシェアしたい。そうすることに切迫感すら抱いている。アーティストとして、自分が見聞きして考えた物事を(作品に)反映しようとしているし、自分が美しいと思ったものをリスナーにも伝えたい。そうすることで、少しでも世の中が良くなればと思っている」

――あなたの楽曲の多くはエモーショナルですが、その一方で“H.U.Gs”や“The Vicarious Life”のように譜割りが複雑な曲もありますよね。コンポーズにおいては、どんな点をいつも心掛けていますか?

「僕はいつだって、音楽を通じて境界を打ち壊そうとトライしている。どんなアートも、人間の在り様を表現するために存在しているんじゃないかな。これまでいろんな作曲手法を勉強してきたし、これからもずっと続けていくつもりだけど、究極的に言えば、僕が作曲するときの最終的な判断基準としているのは〈自分という人間を表現できているか〉だね。ミュージシャンとしてどうこう、というよりはさ」

――今回の来日公演は、昨年一緒に来日したレギュラー・バンドのリンダ・オーヘンリー・コールとではなく、アラン・ハンプトンダン・ワイスを交えたトリオ編成でのライヴになります。まず、この2人はどのようなミュージシャンだと思いますか?

「アランとは、これまで何度も一緒にプレイしてきた。彼は偉大なシンガー・ソングライターでもあるから、ベース・プレイヤーとしてもどれだけ素晴らしいのか、みんな忘れてしまっていると思うんだ。僕は彼のベースを純粋にリスペクトしているし、またコットンクラブで一緒にプレイできることにワクワクしているよ。そしてダン・ワイスは、NYのジャズ・シーンで神話的な存在になっているアーティストの一人さ。彼のように演奏できる人は世界中のどこを探してもいない。これは嘘じゃないよ。非凡な音色の持ち主で、日本のオーディエンスも演奏を聴けば間違いなく同意してもらえるはずだ。ダン・ワイスとは、デイヴ・ダグラスのライヴで初めて共演したんだけど、それ以降また一緒にプレイする日を楽しみにしていた。このトリオで演奏できるのが待ちきれないよ!」

――その2人と行うライヴは、どういったものになりそうでしょう?

「僕がこれまでに発表した『Personalities』と『Rhizome』からの曲と共に、これからリリースする予定の新作『Alcanza』からの曲もプレイする予定だよ。『Alcanza』は前作に参加してくれたアーティストたちと一緒に、ついこの間NYでレコーディングしたところさ。またちょうど新しい曲も作っているところだから、ジャズと即興の精神のもとで、音楽がどんなサプライズをもたらしてくれるのか楽しみにしているよ」

アラン・ハンプトンがベースで参加したグレッチェン・パーラトのライヴ映像
手前に映るダン・ワイスがドラムスで参加したニーボディバスドライヴァーの共演ライヴ映像
 

 

ファビアン・アルマザン・トリオ
日時/会場:7月4日(月)~6日(水) 東京・丸の内コットンクラブ
開場/開演:
・1stショウ:17:00/18:30
・2ndショウ:20:00/21:00
料金:自由席/6,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら

関連アーティスト