世代もキャラクターも異なる人々が、ふとしたきっかけで意気投合することがある。しかし、この両バンドの邂逅は流石に想像もつかなかった。出会いのきっかけは、去る6月に東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された、シャムキャッツが主催する〈EASY TOUR〉の東京公演。そこでGREAT3やThe Wisely Brothersらと共に競演を果たしたのがKIRINJIだった。
そして彼らは、時を同じくして新たなステップを踏み出すことになる。先日リリースされたKIRINJIのニュー・アルバム『ネオ』は、RHYMESTERとのコラボ曲“The Great Journey”など多くの新機軸を盛り込み、6人編成のポテンシャルを遺憾なく発揮した会心作だ。一方でシャムキャッツは、新たに立ち上げた自主レーベルのTETRA RECORDSから3曲入りのシングル“マイガール”を8月10日にリリース。これまでのサウンドや歌詞世界をさらに発展させた、人懐っこいロック・チューンを気持ち良くかき鳴らしている。
今回は、KIRINJIのフロントマン・堀込高樹と、シャムキャッツの夏目知幸(ヴォーカル/ギター)&大塚智之(ベース)による鼎談を実施。お互いの新作にまつわる話はもちろん、音楽観やルーツ、さらにとっておきのアイデアに至るまで、じっくりと語ってもらった。以前、夏目が〈EASY〉についてのインタヴューで、そのコンセプトについて〈いろんなものが混ざっていかないと、価値観が狭くなっちゃう〉と話していたが、それを正しく実践したのがKIRINJIの新作でもある。読者にとっても、この記事が新たな出会いのきっかけとなれば幸いだ。
新しいものを聴いて刺激を受けないと、次の音楽は作れない(堀込)
――まずは〈EASY TOUR〉で観た、ライヴの感想から聞かせてください。
夏目知幸(シャムキャッツ)「いや、もうビックリでしたね……すごかったです。楽曲のクォリティーが高いのは言うまでもないとして、ライヴで驚いたのは、〈コーラスってこんなに上手く重なるんだ〉というところ。とにかくハーモニーが綺麗で。もちろん僕らもコーラスはしますけど、あれに比べたらオマケ程度にやっちゃってたかもしれない。もっとがんばろうと思いました」
大塚智之(シャムキャッツ)「ライヴを観たのは今回が初めてだったんですけど、圧倒されましたね。演奏のすべてが塊になっているというか。僕らのいる(インディー・バンドの)界隈だと、ギターにせよヴォーカルにせよ、特定のパートが強調されがちですけど、KIRINJIはそうじゃない。どのパートがメインなのかは問題じゃなくて、一つの塊として素晴らしかった」
――KIRINJIは洗練されたハーモニーが昔から魅力的でしたが、現在の6人編成になってからコーラス・ワークが一層カラフルになりましたよね。再出発から3年が経過して、よりバンドとしての一体感が出てきた。
堀込高樹(KIRINJI)「そうですね。いま大塚くんが言ってくれたように、フロントマンをバンドが取り囲むというのではなくて、バンド全体を楽しんでもらいたいんです。ザ・バンドやビーチ・ボーイズなど、自分が好きなバンドはそういうタイプが多かったんですよ。それで現在のメンバーたちに声を掛けたんですけど、(当初のヴィジョンが)だんだん実現できてきている手応えはありますね」
――片やシャムキャッツは地元の幼馴染と結成して、学生の頃からずっと同じメンバーでバンドを続けてきたわけですよね。
夏目「そもそも僕らは、楽器を弾けるとかそういう観点で集まってないので。4人集まったのが先で、そこからパートを割り振っていったというか」
大塚「最初はただの遊びでしたね(笑)。高校生のときにバンドを結成して、大学生になってからも(人前で)ライヴをするでもなく、月イチくらいでスタジオに集まって遊んでいたような感じで」
夏目「バンドが上り調子だから、就職せずに音楽を続ける――これはよくあるパターンじゃないですか。でも、僕らは4人とも全員違う大学に通っていて、たまにスタジオで盛り上がっているうちに卒業のタイミングを迎えたんですよ。だから、ロクに活動もしてなかったけど、〈この4人なら上手くやれるんじゃないか?〉という漠然とした想いがあったので、就職もせずに続けてきたという」
堀込「自信あるね(笑)」
夏目「だから、全然違いますよね」
――デビュー時から世界観が完成されていたキリンジと、緩い出発点から少しずつステップアップしていったシャムキャッツは、確かに対照的かもしれない。堀込さんは、シャムキャッツのライヴをご覧になっていかがでしたか?
堀込「なんとなく、もう少しソフトなものをイメージしていたんですよ。“GIRL AT THE BUS STOP”のインパクトが強かったから。そしたら、思ってたよりも結構ゴリゴリでね(笑)。大塚くんのアクションも激しかったし」
大塚「ハハハ(笑)」
堀込「あと、ギターの菅原(慎一)くんは音色が多彩ですよね。ライヴのあとに音源もいろいろと聴かせてもらったんですけど、基本的に4人で演奏しているはずなのに、不思議とカラフルな感じがするのは、ギターのがんばりなのかなと」
夏目「間違いないですね」
堀込「あれは個人的にも勉強になりました」
――シャムキャッツのなかでもKIRINJIへの思い入れが特に強くて、音楽的なルーツでも共通項が多いのが大塚くんなんですよね。
大塚「僕はもともと、ロックや日本のインディー・ポップをまったく聴いてこなかったんですよ。それよりもフュージョンがメチャクチャ好きで、マイルス・デイヴィスから入ってチック・コリアやハービー・ハンコックなど、ずっとそういうのばっかり聴いてました。それこそ、スティーリー・ダンも好きだったし。それで、僕らもエンジニアをお願いしている(柏井)日向さん※が〈バンビくん(大塚の愛称)は、KIRINJIとたぶん話が合うと思うよ〉と会うたびに言ってくれて。それがきっかけで聴いてみようと思ったんです」
※74年生まれのプロデューサー/レコーディング・エンジニア。KIRINJIとの付き合いは古く、ほかにもthe HIATUSや在日ファンクなどの作品に携わっている
堀込「そうだったんだ(笑)」
大塚「最初に『3』(2000年)を聴いたときは、ジャズやフュージョンの要素も消化しつつ、自分たちの音楽として表現していることに感激して。そこからすごく好きになりましたね」
――夏目くんはKIRINJIのどんなところが好きですか?
夏目「僕は(大塚とは)かなり逆方向ですね。彼が言ってたようなことは全然感じてなくて、日本語のポップスとして聴いてました。さっきも話したように、かなり天然でバンドを始めたから、コード進行とかもわからないままずっと曲を作っていて。そのせいか、ある時点で前に進めなくなっちゃったんですよ。それで2011年くらいになって初めて、〈1小節とはどういうものか〉とかを勉強しだして」
堀込「それは遅いな~(笑)。いま、小学1年生の息子が同じことをやってるよ」
夏目「そうなんです(笑)。でもそこから、僕自身も音楽の聴き方が変わってきたんですよ」
――〈コード進行や小節を理解すればするほど、KIRINJIという存在が自分のなかで大きくなっていった〉と、前回のインタヴューでも話してましたよね。
夏目「そうそう」
――堀込さんの場合は、もっと早い段階から作曲を学んでいたと思うんですけど。
堀込「中学1~2年のときに家にあったアコースティック・ギターを弾きはじめたんですよ。コピーもしてたけど、適当に弾いているとなんか曲っぽいものが出来るなと思って。だから、受験勉強をしながらギターだけの曲を作ったりしてましたね。高校時代に初めてバンドを組むんですけど、そのときもよくわからないオリジナル曲をやってたし」
――そこから、気付けば30年。
堀込「よく続けてるよね(笑)。飽きねえのかよって」
――その当時といまとで、曲作りへの向き合い方は変わりましたか?
堀込「若い頃は、新譜や旧譜、洋邦に関係なく、何を聴いても新鮮なわけですよ。だけど、47歳にもなるとそんなふうには聴けなくなる。〈あ、コレってアレに似てるな〉とか思うわけです(笑)。そういうふうに、過去に聴いた音楽が経験値のように蓄積されていくから、驚くような感動にはそうそう出会えなくなって」
――なるほど。
堀込「だからさ、〈耳童貞〉になりたいよね」
一同「ハハハハ(笑)!」
夏目「そんな単語、初めて聞きました(笑)」
堀込「とはいえ、聴いたことのない音楽を聴きたいという欲は常にあって。最近の若い人たちの音楽も、自分の発想にはないものだから〈なにこれ?〉ってなりますしね。難しいのは、それが好きか嫌いかという話で」
――はいはい。
堀込「ウワッ!てなるけど別に好きじゃないとか、逆に好きなんだけど、こういうの死ぬほど聴いたしな……というのもあるわけですよ。それでもやっぱり、新しいものを聴いて何か刺激を受けないことには、次の音楽は作れないんですよ。だから無理してでも聴かないと」
夏目「わかります」
堀込「半ば意地になってね、(押し殺した声で)水曜日のカンパネラを聴いてるぜ!」
――ハハハ(笑)!
夏目「そういえば、前にどこかのインタヴューで神聖かまってちゃんの名前を挙げてましたよね。〈へー、聴くんだ!!〉と思った記憶が甦りました」
堀込「実はそんなに聴いてはいなかったんだけど、名前に惹かれたんだよね(笑)」
――ひょっとして水曜日のカンパネラも?
堀込「そうそう。〈カンパネラってなんだっけ、宮沢賢治……?〉〈このコムアイさんって……どういう意味だ?〉とか、まずはそこから入る」
夏目「それ、すごく童貞っぽいですよ(笑)!」