STILL CHANGING SAME
[ 特集 ]R&Bの傾向
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中!
この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

★Pt.1 アッシャー
★Pt.3 エリック・べネイ
★Pt.4 SiSY
★Pt.5 ガラント、クレイグ・デヴィッドら注目のR&B作品ガイド

 


KEITH SWEAT
期待は絶対に裏切らない。R&Bを着こなすこの男が新作を差し出せば、そこからは濃厚な愛の汗が溢れ出す……

 「今回は自分をいままでより自由に表現する機会を与えられたと思ってるし、自分らしい作品をありのまま発表することができたと思ってる。音楽業界ではビジネスの仕方が大きく変わってきたし、そのたびに俺もベストの状態で作品を出そうと心掛けてきた。作品を出すたびに、俺はまだちゃんと時代にも合った音楽を作り続けているし、昔のアーティストではなく、〈現在も活躍する存在だと印象づけること〉が必要だからね。それは心掛けてるよ」。

KEITH SWEAT Dress To Impress KDS/RAL/ソニー(2016)

 現在のリリース環境と作品を出すうえでの心得を、キース・スウェットはそう説明する。もはや説明不要の重鎮にして、来年でメジャー・デビュー作『Make It Last Forever』(87年)が30周年を迎える(最初のデビューから数えればキャリアはそれ以上だ)大ヴェテランだが、およそ5年ぶりとなったアルバム『Dress To Impress』でもそのスタンスはまるで変わることがない。表題は〈印象づけるために、粧し込む〉といった感じの意味になるが、つまりキースは現在もリスナーに〈Dress To Impress〉しているということだ。だから、過去作と新作の違いについての説明もこんなふうになる。

「違うところなんてないよ。俺はキース・スウェットだからね。アルバムを作るたびに何か違うことをしようなんて思っていない。ただリスナーの人達が共感できそうだなと思う音楽にしようとは思ってはいるけどね。みんな、俺イコール“Twisted”や“Nobody”“I'll Give All My Love To You”のようなスロウ・ソングだと思ってるから、そういう期待は裏切らないようにしている。彼らを裏切らないようにしながらも、新しいファン、特に若い世代の人たちにも響くようなサウンドを作るように心掛けているよ」。

 80年代後半のニュー・ジャック・スウィング勃興と並走してスターダムを昇り、90年代に持ち前のスロウ/ミッド路線で絶頂を極めた彼。昨今は生粋のR&Bがそのままクロスオーヴァーできる時代ではなさそうだが、それでも間違った方向に色気を出す必要はない。そうした確固たるブランディングを続けてきたことが、近年はクリス・ブラウンオーガスト・アルシナブライソン・ティラーといった若い世代のサンプリングという形で新たな支持を集めることにも繋がったのだ。

「俺の曲を気に入って使ってくれるのは光栄に思ってる。聴いてほしくて作った曲を長年たくさんの人たちに聴いてもらって、好きになってもらって、それを若いアーティストたちが引用するほど気に入ってくれてるんだ。それだけで俺は嬉しい」。

 とはいえ、今回の新作も本質的には変わらないキース節で埋め尽くされているし、何がどういつもと違うのかは説明しづらいところだが、オープニングの“Good Love”からいつも以上にいい予感がしたという人は多いだろう。特に今回はかつてデビューを世話したシルク、デビュー作と最新作でプロデュースを手掛けたドゥルー・ヒルといった後輩ヴォーカル・グループを招集し、さらには共にLSGを組織した故ジェラルド・リヴァートの生前の歌声もフィーチャー。そうでなくてもキースがスムース&セクシーな世界を作るのに必要なものはあらかじめ揃っているが、今回は時流の巡り合わせも手伝って、より多くの人が浸れる内容のはずだ。秋の夜長、深い時間にキース・スウェットを。

 

キース・スウェットの作品を一部紹介。

 

『Dress To Impress』に参加したアーティストの作品を紹介。