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★“GIRL AT THE BUS STOP”(2015年のEP『TAKE CARE』収録)

――“GIRL AT THE BUS STOP”を収録したEP『TAKE CARE』は、『AFTER HOURS』のその後の世界を描いた続編ということですが。

夏目「『AFTER HOURS』というアルバムの〈C面〉を作るというイメージがあったんです。A面、B面、C面がそれぞれ5曲あって物語が終わり、次に向かうという。あとは〈(対象に)寄る〉というのがテーマで、その結果、『TAKE CARE』のジャケットは女の子の横顔のアップになった」

――初期の音源を聴くと、夏目くんはヴォーカリストというよりも、あくまでバンドの一員でヴォーカルを担当しているだけ、という感じがするんです。でも、“GIRL AT THE BUS STOP”では歌を歌おうという意思がこれまでにないほど明確に伝わってくるから、聴き入らずにはいられない。『TAKE CARE』では、“CHOKE”の不気味なフルートに絡むヴォーカルの妖艶さにもシビれました。最近の楽曲では、夏目くんの歌からこぼれる色気に引き込まれる。初期と現在とで一番変わったのはそこかなと。

夏目「良かった……歌を歌わなきゃ、と思ったのは、本当にごく最近なんですよね。いまになってみると、〈歌を歌う〉という感覚があんまりわかっていなかったような気もして」

――“GIRL AT THE BUS STOP”は歌詞のストーリーテリングが鮮やかで、〈この物語はどこへ連れていってくれるんだろう〉と思わせられる。そこに菅原くんのジョニー・マースミス)みたいにメロディアスなギターが寄り添って、聴き手をガイドしてくれて。すごくシンプルな構造だけど、それだけで十分強いという、スミスを思わせる方法論を身につけてきた感があります。

夏目「“GIRL AT THE BUS STOP”は思いっきり、スミスの“Cemetary Gates”をやりたいというイメージがあったんですよね」

スミスの85年作『The Queen Is Dead』収録曲“Cemetary Gates”のライヴ映像
 

菅原「メンバー4人で編み物をしていった結果、すごく綺麗に出来た楽曲という印象ですね」

夏目「でも正直、こんなにいろいろ言われる曲になるとは思っていなかったよね」

菅原「『AFTER HOURS』を作っているときにみんなの意識が変わったと思う。僕の場合はギターだけだと表現できないことが多くて、キーボードを弾いたりしている。でも『TAKE CARE』を経て、いまはあえてギター1本で表現するのが大事なんじゃないかということに気付いた。オーソドックスなバンドのフォーマットでどこまでできるかというところで勝負したいと思っています」

夏目「うん、僕もそこは結構重なる部分がある。一応歌を歌っているんだから、何か他の楽器を入れるというアイデアを生むより、まず歌の表現力を伸ばして、その次にいろいろ考えようかなと思っているんですよね」

 

★マイガール(2016年のシングル)

――“マイガール”は、たくさんのアイデアをこれでもかと詰め込んでいるし、展開も目まぐるしいものの、すべての要素が見事に融合している。洋楽と同じ耳で聴けるダンサブルな日本語のロックで、とても新鮮でした。

夏目「『AFTER HOURS』である程度手応えを掴んで、『TAKE CARE』で自分たちがやりたかったことを完成させて……その2枚をちょっと離れて見たときに、僕としては〈もっとここが行けるのに……〉という課題が2つ残った。『たからじま』を聴いてもらうとわかるように、シャムキャッツにはアグレッシヴなロック・バンドという面があるにもかかわらず、それを少し押し殺していたというのが1点で、もう1点は歌詞のテーマを前面に押し出したことで、サウンドのアレンジに関して少しメンバーに我慢をさせたところ。“マイガール”では、その2点を解決しようとしたんです」

――なるほど。

夏目「『AFTER HOURS』を作ったときは、お行儀の良い感じの音楽が周りにはなかったんですよ。僕たちの性格として〈ないもの〉を作りたいし、〈すでにあるもの〉に混ざりたくないので、そのときは熱さを表に出さない平熱の音楽をやるのが一番クールだろうと思って『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』を作った。ところが、それらに2年半かけている間に、熱さを表に出さない音楽がなぜか知らないけど巷に溢れていて、〈これはちょっといかんな〉と思ったんです。このシングルは、〈誰かにとっては居心地の悪いものを作らないといけないんじゃないか。だって俺たちはロック・バンドだし!〉という意思表明でもあります」

――周囲の動向に媚びず、自分たちの流儀で思う存分にロックした新曲を、自分たちのレーベルからの最初のシングルとして出すこと自体がステイトメントですね。これはかなりの自信作でしょう?

夏目「そうですね。(一人称で)自分の考えを歌詞の中で言うことに恥ずかしさを感じていて、そこから一回離れたけど、その経験を踏まえてついに恥ずかしくない曲が出来た。ずっとナヨナヨした男を描いてきたんで、そろそろ〈俺がいるから大丈夫〉と言ってもいいかなと思ったんですね(笑)」

菅原「本当は男気があるということも含めて、夏目知幸というキャラクターはもっともっと伝わっていくはずだと思うんですよ。そういう点では、世の中とシャムキャッツはまだハマっていない」

 

★“洗濯物をとりこまなくちゃ”(2016年のEP『君の町にも雨はふるのかい?』収録)

――“洗濯物をとりこまなくちゃ”は、バート・バカラック作曲/ハル・デヴィッド作詞の名曲〈雨に濡れても〉のシャムキャッツ版に聴こえて、ジンときます。

夏目「この曲の歌詞のイメージや手触りは、ツアー中の車内でマネージャーがかけていたユーミンの『PEARL PIERCE』(82年)がインスピレーションになったんです。そこで気になって歌詞を全部読んだら、一般的には歌詞に使われなさそうな言葉も入っているのに、あっさり聴き流せることに驚きつつ、なんとなくこれは自分流にできるんじゃないかなと思った。サウンドはAORっぽいけど、歌詞の内容はランチタイムのときのOLの本当に個人的な気持ちなんかを歌っている。『PEARL PIERCE』からはそうしたマッチングのアイデアをもらいました」

――初期から中期にかけてのユーミンは、天気や場所に心情を託したり、細部の描写に優れていたり、夏目くんの作風との接点を感じます。ストーリーテリングの巧みさという点においても大先輩ですね。

夏目「初期の瑞々しさやキャピっとした感じがなくなったユーミンの中期と、いまの僕たちとのリンクを少し感じていて、それは音楽的な側面ではなくて、もっと手触りに近いところにあるんじゃないかと思っているんですよ」

松任谷由実の82年作『PEARL PIERCE』収録曲“DANG DANG”
 

――『君の町にも雨はふるのかい?』で、シャムキャッツの新章がまた始まった感があります。タイトルからも、衒いなくメッセージを発していこうという意思が伝わってくる。シングルでなく、新曲5曲のEPに2016年9月開催のワンマンライヴの音源を12曲も加えた形態にしたのは、なぜですか?

菅原「ちょうど夏目も僕も曲が溢れ出ている状態で、このポテンシャルの塊を早く聴かせたいし、新しい姿をどんどん見てもらおうと思ったんです。いま自分たちが移行期の渦中にいる感覚を反映して、〈このバンドはこれからどうなっていくんだろう〉と感じてもらえる作品になったんじゃないかな」

夏目「自分たちが好きだったかつてのロック・バンドのように、〈活動自体やリリース形態も含めてバンドのドキュメンタリーなんだ〉ということをもっとアピールしていきたいんです。バンドというものは、どうしても初期のキラキラしたところやプリミティヴな衝動を求められがちな気がするけど、僕たちはバンドを続けることによって何かおもしろいいことがどんどん起きるはずだと思っていて、それをテーマに動いている。だから時代の大きな動きにも影響されるし、バンドの変化をちゃんと見せたいんですよね」

――シャムキャッツはメンバー・チェンジを繰り返しながら音楽性を変化させるタイプのバンドとは違って、同じメンバーでやっていくことが前提にあるように見えます。

菅原「それは強く意識していますね」

夏目「誰かが辞めたら終わり、というのは最初から決めているんですよ」

菅原「バンドは続くのが当然だと思っていたけど、そうじゃない。バンドって奇跡みたいなものだから、それを続けられるのは凄いことなんだと、この1年はずっと感じています。夏目が作った曲を4人で演奏していることが凄くリアルなものになってきた」

――つまり、バンドが人生になったということですね。

菅原「独立して自分たちの会社を作ってお金を回しているから、バンド=生活になったんです」

 

――男の子が夢中でプラモデルを組み立てるように、シャムキャッツを始めた頃は純粋にホビーだったかもしれないけれど、いまはそうじゃない。

夏目「ええ。男は無邪気なもので、いつまで経っても同じままでいられるけど、女性は肉体的に子どもを生める年齢に制限がある。自分も歳を取って女性と関わっていくうえで、そういったリミットが自分のことにもなってきた。そういう変化がバンドに良い影響を与えていて、自分たちとしても歳を重ねたが故の変化をちゃんと曲にしていきたいと思っているんですよね」

――生きることの裏側には死があることにも、自覚的になってきたんじゃないですか?

夏目「そうですね。不意に友達が死んでしまったり、すごく仲の良い友達の親が亡くなったり、これまで見えていなかったことに気付かされることが最近は多い。いままでそういうことが身近に起きなかったのはありがたかったんだな、と思っています」

菅原「人もそうですけど、音楽にまつわる場所やセンスや価値観も減っていくものなんですね。小学校の先生に同窓会で再会して、バンドをやっていることを話をしたら、〈(バンドみたいな)誰かがやらないとなくなってしまうものを請け負っているのは素晴らしいことだよ〉と言われて、ハッとした。いまの音楽シーンは自分が小中学生の頃に想像していたものとは全然違うけど、やっぱりバンドを続けるべきだし、僕たちにしかできないことがあると信じています」

夏目「僕たちがバンドを始めて2~3年くらいで、友達が少しずつ増えてきた頃に仲良くなった人たちが、それから数年経つと辞めていく姿をたくさん見てきたんですよ」

――このEPに収録された“すてねこ”の歌詞に〈バンドやめた郵便屋とか〉というラインがありますよね。たぶん実話なんだろうなと思って聴いていました。

夏目「続いているバンドよりもなくなったバンドのほうが圧倒的に多い。あまり言わないようにしているんですけど、自分たちはそういう人たちが本当はやりたかったことをやらねば、という気持ちが強いんです」

――特にシャムキャッツの盟友だった昆虫キッズの解散には、バンドというものの儚さを感じました。彼らの解散を知ったとき、何か悔しくなかったですか?

夏目「ああ……そうでした。悔しいという感情と、あとちょっと羨ましくもあった」

――バンドという魔法にかかっている間は、ネヴァーランドのピーター・パンやロスト・ボーイズみたいに、そこにいる限り歳を取らないでいられるように見える。でもシャムキャッツには青春を引きずったまま、バンドとして大人になっていく姿を見せてくれることを期待しているんです。

菅原「そうなりたいですね。いまが踏ん張り時です」

――シャムキャッツの本質は、『たからじま』というセカンド・アルバムのタイトルに象徴されるように、〈男の子の冒険心〉だと思います。冒険を続けていくうちにヒット曲を生み出せるという予感を持っているんじゃないですか?

夏目「あります。自分たちとしては、こんなにヒット曲を作っているバンドもいないだろうと思っているぐらいなんで(笑)」

菅原「この間、never young beach安部(勇磨)くんと話していたら、シャムキャッツは〈ヒット曲〉だらけなのに、なんであんまり売れてないんだろう?と、ネバヤンのメンバーでよく話題になるんだって(笑)。見ていて歯痒いらしい」

夏目「そこは僕もよく言われることですね。ただ、自分たちのようなスタイルのバンドが一切ないなかで、それをやろうと始めちゃったから、開拓し続けるしかなかった」

――バンド・ブームみたいな波に乗れたことで上手くいくバンドもあるし、乗ったことで上手くいかなくなるバンドもある。シャムキャッツは波に乗れなかったぶんだけ、タフにやってこられたんじゃないですか?

夏目「そう、僕たちは波に乗ったことがない。それでも勇気が出るのは、CDの売り上げ枚数やライヴに来てくれるお客さんの数は着実に微増していることなんです。バンドというものが人生になってきて、最初の頃のように無邪気ではいられなくなった。だからこそ〈自分たちは友達なんだ〉という感覚がないといけない。次はそういう気持ちで作品が作れたら良いなと思ってるんですよね」

 

シャムキャッツ ワンマンツアー 2016-2017〈君の町にも雨はふるのかい?〉
1月21日(土)福岡・福岡graf
1月22日(日)広島・広島4.14
1月28日(土)北海道・札幌colony
2月3日(金)東京・恵比寿LIQUIDROOM
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