
シャムキャッツが2016年の11月にリリースした最新EP『君の町にも雨はふるのかい?』は、持ち前の人懐っこいメロディー・センスを活かしつつ、サウンドの随所でこれまで以上に冒険心を発揮した、ヴァラエティー豊かなポップソングを揃えた作品だった。“渚”や“GIRL AT THE BUS STOP”“マイガール”……これまでもシャムキャッツは新モードを数々の名曲に落とし込んできたが、同作に収録された5曲は、現在のバンドが宿している多彩な可能性の証明となっている。そこで、今回は〈曲〉という観点から、彼らの足取りをプレイバック。シャムキャッツみずからに、バンドのマイルストーンとなった10曲を選んでもらい、それらが生まれた背景について、ライターの北沢夏音氏を訊き手にたっぷりと語ってもらった。 *Mikiki編集部
★シャムキャッツのEP『君の町にも雨はふるのかい?』を全曲紹介した記事はこちら
僕がシャムキャッツに首ったけになったのは、2015年のEP『TAKE CARE』からなので、胸を張って〈にわかだよ! それが何か?〉と言うしかない。スモールタウン・ボーイ・ミーツ・スモールタウン・ガール――2つの人生がすれ違う瞬間を切り取ったビタースウィートな名曲“GIRL AT THE BUS STOP”にハートを射抜かれたそのときから、サヌキナオヤの手に成る麗しの乙女ジャケ(ヴァイナルはピクチャー盤!)を愛でる傍ら、ポール・トーマス・アンダーソン監督の群像劇を思わせる、シャムキャッツが生まれ育った郊外の町を舞台にした2014年の傑作『AFTER HOURS』にもハマり(ポール・トーマス・アンダーソンがエイミー・マンの歌にインスパイアされて「マグノリア」(99年)を作ったように、『AFTER HOURS』もいつか世界のどこかで映画化される日が来るかもしれない)、2016年に自主レーベルTETRA RECORDSを敢然と立ち上げてからの快進撃を現在進行形で追いかけるスリルと悦びにワクワクさせられる今日この頃なのだ。
昨夏を彩ったキュート&ワイルドなシングル“マイガール”に続き、先頃リリースされたEP『君の町にも雨はふるのかい?』は、捨て曲一切なしの新曲5曲に加えて、バンドの現在の充実ぶりをダイレクトに伝えるライヴ音源12曲をボーナス・トラックとして収録した計17曲の豪華盤。シャムキャッツの入門編にも最適な本作のリリースを記念して、2007年のファースト・デモCD-R『はないき』に収められた“魔法の絨毯”から、新EPの表題曲にして、現在開催中のツアー・タイトルと同名の“洗濯物をとりこまなくちゃ”まで、バンドのターニング・ポイントとなった10曲を自選してもらい、〈ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・シャムキャッツ〉とすべく、夏目知幸(ヴォーカル/ギター)、菅原慎一(ギター/ヴォーカル)と共に解題を試みた。
――僕にとって“GIRL AT THE BUS STOP”が出会いの1曲だったように、シャムキャッツはその時々で〈この1曲に一目惚れした〉というリスナーが多いんじゃないですか?
菅原慎一「確かにそうかもしれないですね」
――それは楽曲そのものが導いてくれたという意味で、すごく幸せな出会い方だなと。シャムキャッツを遡って聴いていくと、“渚”にはみんなヤラれたんだろうな……と、すぐにわかる名曲がたびたびある。最初期の自主制作CD-R(2007年の『はないき』、2008年の『もちろんちょうだい』)を聴くと、この時点ですでに現在に繋がるいろいろな要素が出揃っているんですよね。ここから発展していったことがよくわかった。
夏目知幸「ムフフフ(笑)」
――僕は『はないき』に収録された“シムシティ”が凄く好きなんですが、箱庭としての郊外都市の内部に降りていく感覚は、『AFTER HOURS』(2014年)に繋がりませんか?
夏目「だいぶ、そうですね」
――ここ数年、シティー・ポップというタームが巷を賑わわせていますが、東京郊外の造成住宅地出身のシャムキャッツは〈ニュータウン・ポップ〉、もしくは〈ベッドタウン・ポップ〉と呼ぶのが相応しい感じがします。
菅原「ホントにそうです。“シムシティ”は、夏目のなかの〈中心にいない者にもそれぞれの生がある〉という切なさみたいな感覚に、メンバー全員が共感できた曲ですね」
★“魔法の絨毯”(2007年の自主制作CDR『はないき』収録)
――“魔法の絨毯”は〈楽しいことを逃して〉という出だしから引き込まれるし、泣きのメロディーとエモいギターにグッときますね。
夏目「個人的に“魔法の絨毯”は初めて作ることができた曲らしいものかもしれない。 しかも、バンドでできるというイメージを持てた最初の曲ですね。歌詞もほとんど最初からバーッと出来たんですけど、よく覚えているのは(タイトルが決まる前の)コードネームがAだったこと。ここが始まりかな、という気がした。いま思えば、この曲も自分の町のことを歌っているんですよね。歌詞の中に防波堤とかが出てくるし。結局テトラか、みたいな(笑)」
――“GIRL AT THE BUS STOP”にも〈テトラポットが波を砕く〉という一節があるし、自主レーベル名もTETRAだし。
夏目「そうです。あと“魔法の絨毯”の〈涙は湿度を上げて〉という歌詞の元になったのは、小田島等の『無 FOR SALE』(晶文社/2004年)という単行本に収録されている〈moisture〉という作品なんです。それは水蒸気が主人公なんですけど、〈あのとき僕はコーヒーだった あのとき僕はあの子の涙だった あのとき僕は空から降り注ぐ雨だった〉と水が喋る。それを読んで、〈良いなあ、僕も水分に意思があるという詞を書きたいな〉と強く思ったことがきっかけだから、小田島さんからの影響も結構入っている」
――『はないき』に続くデモ『もちろんちょうだい』では、管楽器を入れつつ、エキゾなサウンドとポエトリー・リーディングをミックスした“町どこへいった”があるかと思えば、カントリー・ポップをサラッとやった“変な帽子”もあり、それこそビートルズの作品みたいなヴァラエティー感がある。そういう洒落っ気や多様性を最初から持っていたバンドなんだな、というのは通して聴いてみて感じました。
夏目「何か他人と違うことをしたいという気持ちが、最初は特に強かったよね」
菅原「音楽というものに対して、本当に何でもできると思っているんで、何でもやりたい!と思うんですよ」
――尖った空気も感じたんです。変なこと歌うな、何かひねくれているなって。『もちろんちょうだい』に入っている“アメリカ”は、詞では忌野清志郎みたいにダブル・ミーニングを込めつつ、音はノーウェイヴっぽく聴こえた。
夏目「海外のアーティストの詞と比べて、日本語では詞にできる言葉が少ないとされちゃっている感じがちょっとイヤなんです。清志郎は〈なんだって歌詞になるんだぜ〉と言ってるし、その影響は結構強い。(実は)RCサクセション、大好きなんですよ。誰にもいままで指摘されたことがなかったんですけど」
菅原「中高生のときは、それこそHi-STANDARDとかが好きだったけど……」
夏目「2007~2008年頃に思っていたのは、そういうのを全部混ぜちゃって、最終的に出来上がったものが世の中にあるすべての音楽へのカウンターであったら良いなと。そんなものはないんですけど(笑)、そういう無邪気でムチャクチャな意思が強かったんですよね」
★“忘れていたのさ”(2009年のファースト・アルバム『はしけ』収録)
――“忘れていたのさ”はファースト・アルバム『はしけ』の1曲目を飾っていますね。
菅原「これは音楽だけど詩みたいで、物語みたいで、文字みたいな感じ。僕と夏目とベースのバンビ(大塚智之)とスタジオの練習でガチャガチャやっていたときに出来た曲で、〈忘れていたのさ~〉と夏目が歌いながら、それに対して〈電車、お茶の水〉とか言葉を即興で乗せていった。そのときに録った原型がほぼ100%使われています」
夏目「これが出来たときは、初めて何のフォーマットにも乗っていないオリジナルなものが出来た!とちょっと思った」

――具体的な地名や固有名詞が折り込まれているのがミソかなと。
菅原「しかも、その即興で出てきた言葉がなんともシャムキャッツっぽくて。例えば表参道でも渋谷でもなく、総武線の沿線という(笑) 」
―― 〈~な気持ち〉という言い方、夏目くんは好きですよね。おもしろい比喩をいつも探している?
夏目「探していますね」
菅原「そのときは特にそうだった。なるべくストレートに言わないようにしていたし、そもそも気持ちというものはストレートには表現できない。しかも常に移り変わるものだし」
夏目「うん。でも比喩に関しては、いまは〈ような〉を使わず景色に委ねるという手法に変えていますね」
――動物を歌詞に折り込むのも好きでしょう。“へびな午後”“くらげとかもめ”とか。
夏目「あ、そうですね。動物や食べ物が多い(笑)。まあ、それは僕の癖として、味や匂いとか視覚以外の感覚が入ってくると自分のなかで言葉が動き出すので、ついつい入れちゃうんですよね」
★“渚”(2011年のシングル“渚”収録)
――“渚”は、かなり画期的な曲としてインディー・シーンでは評判になったんじゃないですか?
夏目「僕としては全然凄いものが出来たという意識はなくて、Aメロがあるし、サビがあるし、普通の曲が出来ちゃったなあという恥ずかしさを伴った感覚で、メンバーのところに持っていったんです」
――夏目くんが“渚”を持ってきたとき、菅原くんはどう思いました?
菅原「いや、これは完全にターニング・ポイントだなと思いましたね。他のメンバー2人ともそういう話をして、一所懸命にブラッシュアップして、ちゃんと完成させて推し曲にしよう、というところまで話し合いました」
――この曲は夏目くんの得意技だけで出来ている曲じゃないですか?
夏目「ん……?」
――〈ないこともない胸〉や〈砂の気持ちになったよ〉みたいな珠玉のフレーズを駆使しながら、水着の女の子が渚を駆けるシーンだけを連写しているような、ヤンジャンのグラビアみたいな曲でしょう?
夏目「あー。でも、まさにそういう感じ」
――それを見てクラクラしている男の子が女の子に贈る手放しの賛歌じゃないですか。
夏目「(テレながら)そうですね(笑)。ただ、“渚”を作ったときは追い込まれていました。やっぱり追い込まれないと良い曲って書けないんですかね? だとしたら苦しい仕事ですけど……。ファースト・アルバムの『はしけ』を作った後にノイローゼになってしまって、でもなんとか抜け出さないとと思ったときにポンと出来た曲です」
――突破口になった曲?
夏目「そうですね。突破口にもなったし、さらにバンドを悩ませる原因にもなったのかな? バンドというより僕を、かな?」
――それはどういう意味で?
夏目「4人のポテンシャルを存分に活かす曲ではないのかな、という。バンドの可能性を狭めちゃうというか、お客さんに対してバンドのイメージを固定しちゃうような気がして、ちょっと怖かったんですよね」
菅原「これは2コードだけの曲で、すごくシンプルだからこそ、しっかりアレンジを施さなきゃいけなくて、例えばドラムも初めてテック※を入れて、音色を整えているんです。だからいま聴いても、曲単体としての仕上がりはニスまでちゃんと塗られていて完成度が高いなと思います。僕にとっては、初めて音響的なアプローチができたのがこの曲だったんですよ。最後にちょっと逆回転を入れてみたり、コーラスのアレンジを任せてもらったり、編曲で初めてバンドに貢献できたという自信になりました」
※ドラムのチューニングやメンテナンスをする技術者
夏目「CDのあとに7インチのヴァイナルを出したら、ロックDJの方々がかけてくれたし、結果として1回目の(認知度を)拡げる作品にはなったんですよね」
★“なんだかやれそう”(2012年のセカンド・アルバム『たからじま』収録)
――“なんだかやれそう”はセカンド・アルバム『たからじま』のリード・トラック。
夏目「とはいえ、最後に出来たんですよ。“渚”と“サマー・ハイ”(2011年)のシングル2作をプロデュースしてもらった古里おさむさんが『たからじま』にも付いたんですけど、おさむさんから〈夏目くんの本音が出ている曲が1曲欲しい〉と言われて、どうしようかなと。でも強い言葉を使うのがちょっと怖くて、本当にこれで良いのかなと思いながら作った曲ではある」
――〈どうしたって落ちていく砂時計を返して あいつは笑ってる〉という歌詞でもう〈おー! カッケー〉と思いますよ。
夏目「ヌハハハ(爆笑)!」
――〈どうしたって沈んでいく船で あいつはまだ宝の地図を描いている〉 という箇所も格好良いし、男の子にアピールする歌詞だなと。女の子にはもしかすると理解されにくいかもしれないけど(笑)。
菅原「〈なんだかやれそう〉って聞いたときは、本当にみんなで〈それだ! それだよね!〉となった」
夏目「自分のなかで恥ずかしいと思っていることを言ってみようとしたんです。比喩に任せないで、ちゃんと表出するということを初めてしたかもしれない。ただ、『たからじま』までの僕が書いてきた男の子像というのはちょっとナヨっとしていて、〈一回負けてるんだけど、やっぱり……!〉という奮起の仕方なんですよね」
――ベックの“Loser”的メンタリティー?
夏目「そうです、そうです(笑)。それを本当は払拭したいという気持ちが(いまの)自分のなかでは強い。“なんだかやれそう”という曲は、その“Loser”感が凄く強く出ているから、自分のなかでやっぱりまだ恥ずかしさが残っていたんですね」
菅原「でも割り切って振り切った1曲ではあるよね、確信的に」
夏目「そうだね。『たからじま』というアルバム全体を通して行った、自分を登場人物にして自分のことを描くというセルフ・ドキュメンタリー的な作詞法は、魂を削る作業だからちょっと辛かったんです。その後、そういう酷なやり方とは違う手法に移ったという意味でも、自分の気持ちをなるべく素直に書くことのできた“なんだかやれそう”はエポックメイキングな1曲であり、スタート地点だったかもしれない」
★“手紙の続き”(2012年のセカンド・アルバム『たからじま』収録)
――そして、この頃から菅原くんの書いた曲がアルバムに入るようになってきた。
菅原「そう、『たからじま』からですね。曲は書いてはいたけど、完全に自分の趣味でソロの世界だった。ところが、『たからじま』を作る前に〈もっとカラフルなバンドにしていこう、菅原の曲も入れたほうが良いんじゃない?〉となった」
――夏目くんは、菅原くんが曲を書いているのは知っていました?
夏目「いや、〈曲を作ってる、持ってくる〉とは言うんですけど持ってこない、みたいな状態が1年ぐらいあった」
菅原「あった、あった(笑)。自分の出る幕はないと思っていたし。いまでも〈夏目がいるからそれで十分なんじゃない?〉とたまに思うけど、よくよく考えてみると、バンドというものはそうじゃないところもあるのかなと。ビートルズとかがまさにそうですし」
――また、2人の声質の違いが良いんです。夏目くんはスウィートで繊細な声だし、菅原くんは男っぽくて渋い声で、とても良い感じのコントラストが付いている。
菅原「でも、歌うことに関しては、『たからじま』のときは何もわからなかった。“手紙の続き”も“本当の人”(『たからじま』に収録)も、バンドの想いを僕の身体を通して言っているだけ。自分が歌っているという感覚じゃない」
――“手紙の続き”の歌詞は2ヴァースしかないけれど印象的です。〈靴の紐を二重に結ぶ少年の 書きかけの歌が部屋に響いてる〉というフレーズの次には、どんな言葉が飛び出してくるんだろう?と思わせられる。
菅原「メッセージがあるとしたら、〈凹んでても大丈夫だよ〉ということ。靴の紐を二重に結んじゃうほど慎重でも大丈夫だし、手紙を書けなくても言葉は宙に浮かんでいるし、誰だってそういうものだよ、という曲なんです、実は(笑)。あと(当時のシャムキャッツには)わかりやすくスタジアムっぽい曲がなかったから、それを4人でやりたいなというのがあって。大きい会場でやったら楽しそうだなと思いながら作りました」
――菅原くんは、そういうふうにちょっと引いて全体を見渡したうえで、足りないところを埋めようというスタンスですか?
菅原「完全にそうですね」
――自己主張の強いメンバーが2人いると、バンドが割れちゃうことが多いし。
菅原「ブラーとかもそうですもんね」
夏目「でも、僕もそんなに〈俺が俺が〉というタイプではないよね」
菅原「まあね。それはそうだよ」
夏目「僕はねえ、いつも迷ってる(笑)」

★“MODELS”(2014年のシングル)
――“MODELS”はサード・アルバム『AFTER HOURS』からのリード・シングル。この曲を初めて聴いたとき、歌詞で登場人物のキャラクターをきちんと描こうという強い意思が伝わってきて感動しました。
夏目「この時期より前は、オケを全部録り終わってから歌詞を書いていたんです」
菅原「書かれるであろう詞を想像しながらギターのリフを考えていた。でも実際は〈違った~!〉みたいな(笑)」
夏目「この頃から楽曲の構造を考えるモードになったので、歌詞のスタイルも以前とは視点が変わりました。『AFTER HOURS』では、アルバム全曲の歌詞を書く前に主人公が誰で、時間は何時で、季節はいつで、と設定を全部決めて、物語のプロットを組み立ててから歌詞を書くという作業に変えたんです。それが上手くいったのかもしれない」
――“MODELS”は同棲しているドライバーとOLの若いカップルが主人公ですが、『AFTER HOURS』の収録曲にはいろいろな職業の人が登場します。
夏目「そうですね。このアルバムの成り立ちから話すと、僕たちが暮らしていた千葉県の浦安という町は、震災後の液状化で大変だったんですよ。前作の『たからじま』は震災後のリリースだったけど、へこたれていたくなくて、〈いやいや! この国はいろいろあるけど、良いじゃん〉というモードだった。〈俺たち、バンドをやっていこうと思ってたのに……こんなことになっちゃったけど、やるしかないし!〉という気持ちを込めたのが“なんだかやれそう”だった。でも、もう一回地震があったら、この町はマジでなくなるだろうと簡単に想像できたし、僕たちのバンドとしての強みは地元がほとんど同じというところだから、自分たちの町を音楽として残そうというテーマが出てきた。町を描くとなると、そこには当然いろんな職業の人が住んでいることに思い至るわけです」
――それこそ“FOO”には裁判官まで登場するし。『AFTER HOURS』の歌詞では人称を使い分けて、登場人物たちの内面に入り込みながら彼らの日常や想いを描き分けていますよね。
夏目「そうです。あと、そのときによく考えていたのは、どうして俺はまったく知らない場所から出てきた音楽に感動できるんだろう?ということ。アズテック・カメラやオレンジ・ジュースなどイギリスの地方色の強い音楽を聴いても感動できるということは、シャムキャッツも場所の名前や固有名詞をどんどん入れていくほうが強くなれるんじゃないか、と思ったのが大きかったですね」
菅原「そのことについては、僕もすごく考えています。僕自身はそんなに詞を読まなくて、鳴っている音に感動するタイプだから、ネオアコを聴いたときにも、コードの和音の組み立て方などに凄く心が動かされた。“MODELS”ではボサノヴァを参考にしたコードを僕が持っていって、ちょっといままでのシャムキャッツとは違う和音の響き方をさせているんです」
★“AFTER HOURS”(2014年のサード・アルバム『AFTER HOURS』収録)
――“AFTER HOURS”はアルバムのタイトル曲ですが、これはどういうきっかけで生まれたのでしょうか。
夏目「何曲か仕上がった段階でアルバムの肝になる曲が欲しかったとき、(アートワークを担当した)サヌキナオヤくんとミーティングをしていたら、彼が〈AFTERHOURS〉というオルタナティヴ雑誌を持ってきて、こんな感じかな?と見せてくれた。そのときドラムの藤村(頼正)も隣にいたんですけど、〈アフターアワーズ……何かこの言葉は引っ掛かるね〉と、サヌキくんの狙いとはまったく違うところに僕らは反応しちゃって、家に帰ってからパッと詞が出来たんです。後から考えると、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“After Hours”の雰囲気にもかなり近い。アルバムでは、〈何かが終わった後〉を描こうとしていたし、いろんなアフターアワーズ※と繋がっていったんですよね」
※仕事が終わった後、学校の授業や部活が終わった後、閉店後などの意味がある
――〈騒音が重なって寝息みたい 高速道路の横で息を吐く 君の名前を思い出したり 忘れたりする アフターアワーズ〉というヴァースは、町の詩として素晴らしいですね。
夏目「自動筆記じゃないですけど、この歌詞はさらっと書けましたね」
――ライヴで聴くと、これがまた最高にグッとくるんです。『AFTER HOURS』は〈シャムキャッツの10曲〉を自分が選ぶとすれば、入れたい曲がたくさんあって困る。1曲目の“FENCE”からして、ポスト・パンクとはっぴいえんどを合体させてみた、という感じで、こんなふうにはっぴいえんどを採り入れた例はかつてなかったんじゃないかと。
夏目「(会心の笑みを浮かべ)そうですね」
――〈俺はタバコをくわえ一服すると〉や〈君を濡らしてしまうかもしれません〉なんてフレーズは、はっぴいえんどの“抱きしめたい”を少しだけもじって踏まえている(笑)。
夏目「踏まえていますね(笑)。しかも、(『風街ろまん』での“抱きしめたい”と同じく)1曲目に持ってきているという。町を描くとしたら、やっぱり日本では『風街ろまん』が先駆けだから、それに対する尊敬の念もちゃんと入れないとなと」
菅原「日本の音楽というものの歴史に自分たちも乗っかっていることに自覚的になった。日本の昔の音楽を参照して、それ採り入れていこうという意識をちゃんと持ったのはこのときからで、それも震災がきっかけになっているように思います」
★“GIRL AT THE BUS STOP”(2015年のEP『TAKE CARE』収録)
――“GIRL AT THE BUS STOP”を収録したEP『TAKE CARE』は、『AFTER HOURS』のその後の世界を描いた続編ということですが。
夏目「『AFTER HOURS』というアルバムの〈C面〉を作るというイメージがあったんです。A面、B面、C面がそれぞれ5曲あって物語が終わり、次に向かうという。あとは〈(対象に)寄る〉というのがテーマで、その結果、『TAKE CARE』のジャケットは女の子の横顔のアップになった」
――初期の音源を聴くと、夏目くんはヴォーカリストというよりも、あくまでバンドの一員でヴォーカルを担当しているだけ、という感じがするんです。でも、“GIRL AT THE BUS STOP”では歌を歌おうという意思がこれまでにないほど明確に伝わってくるから、聴き入らずにはいられない。『TAKE CARE』では、“CHOKE”の不気味なフルートに絡むヴォーカルの妖艶さにもシビれました。最近の楽曲では、夏目くんの歌からこぼれる色気に引き込まれる。初期と現在とで一番変わったのはそこかなと。
夏目「良かった……歌を歌わなきゃ、と思ったのは、本当にごく最近なんですよね。いまになってみると、〈歌を歌う〉という感覚があんまりわかっていなかったような気もして」
――“GIRL AT THE BUS STOP”は歌詞のストーリーテリングが鮮やかで、〈この物語はどこへ連れていってくれるんだろう〉と思わせられる。そこに菅原くんのジョニー・マー(スミス)みたいにメロディアスなギターが寄り添って、聴き手をガイドしてくれて。すごくシンプルな構造だけど、それだけで十分強いという、スミスを思わせる方法論を身につけてきた感があります。
夏目「“GIRL AT THE BUS STOP”は思いっきり、スミスの“Cemetary Gates”をやりたいというイメージがあったんですよね」
菅原「メンバー4人で編み物をしていった結果、すごく綺麗に出来た楽曲という印象ですね」
夏目「でも正直、こんなにいろいろ言われる曲になるとは思っていなかったよね」
菅原「『AFTER HOURS』を作っているときにみんなの意識が変わったと思う。僕の場合はギターだけだと表現できないことが多くて、キーボードを弾いたりしている。でも『TAKE CARE』を経て、いまはあえてギター1本で表現するのが大事なんじゃないかということに気付いた。オーソドックスなバンドのフォーマットでどこまでできるかというところで勝負したいと思っています」
夏目「うん、僕もそこは結構重なる部分がある。一応歌を歌っているんだから、何か他の楽器を入れるというアイデアを生むより、まず歌の表現力を伸ばして、その次にいろいろ考えようかなと思っているんですよね」
★マイガール(2016年のシングル)
――“マイガール”は、たくさんのアイデアをこれでもかと詰め込んでいるし、展開も目まぐるしいものの、すべての要素が見事に融合している。洋楽と同じ耳で聴けるダンサブルな日本語のロックで、とても新鮮でした。
夏目「『AFTER HOURS』である程度手応えを掴んで、『TAKE CARE』で自分たちがやりたかったことを完成させて……その2枚をちょっと離れて見たときに、僕としては〈もっとここが行けるのに……〉という課題が2つ残った。『たからじま』を聴いてもらうとわかるように、シャムキャッツにはアグレッシヴなロック・バンドという面があるにもかかわらず、それを少し押し殺していたというのが1点で、もう1点は歌詞のテーマを前面に押し出したことで、サウンドのアレンジに関して少しメンバーに我慢をさせたところ。“マイガール”では、その2点を解決しようとしたんです」
――なるほど。
夏目「『AFTER HOURS』を作ったときは、お行儀の良い感じの音楽が周りにはなかったんですよ。僕たちの性格として〈ないもの〉を作りたいし、〈すでにあるもの〉に混ざりたくないので、そのときは熱さを表に出さない平熱の音楽をやるのが一番クールだろうと思って『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』を作った。ところが、それらに2年半かけている間に、熱さを表に出さない音楽がなぜか知らないけど巷に溢れていて、〈これはちょっといかんな〉と思ったんです。このシングルは、〈誰かにとっては居心地の悪いものを作らないといけないんじゃないか。だって俺たちはロック・バンドだし!〉という意思表明でもあります」
――周囲の動向に媚びず、自分たちの流儀で思う存分にロックした新曲を、自分たちのレーベルからの最初のシングルとして出すこと自体がステイトメントですね。これはかなりの自信作でしょう?
夏目「そうですね。(一人称で)自分の考えを歌詞の中で言うことに恥ずかしさを感じていて、そこから一回離れたけど、その経験を踏まえてついに恥ずかしくない曲が出来た。ずっとナヨナヨした男を描いてきたんで、そろそろ〈俺がいるから大丈夫〉と言ってもいいかなと思ったんですね(笑)」
菅原「本当は男気があるということも含めて、夏目知幸というキャラクターはもっともっと伝わっていくはずだと思うんですよ。そういう点では、世の中とシャムキャッツはまだハマっていない」
★“洗濯物をとりこまなくちゃ”(2016年のEP『君の町にも雨はふるのかい?』収録)
――“洗濯物をとりこまなくちゃ”は、バート・バカラック作曲/ハル・デヴィッド作詞の名曲〈雨に濡れても〉のシャムキャッツ版に聴こえて、ジンときます。
夏目「この曲の歌詞のイメージや手触りは、ツアー中の車内でマネージャーがかけていたユーミンの『PEARL PIERCE』(82年)がインスピレーションになったんです。そこで気になって歌詞を全部読んだら、一般的には歌詞に使われなさそうな言葉も入っているのに、あっさり聴き流せることに驚きつつ、なんとなくこれは自分流にできるんじゃないかなと思った。サウンドはAORっぽいけど、歌詞の内容はランチタイムのときのOLの本当に個人的な気持ちなんかを歌っている。『PEARL PIERCE』からはそうしたマッチングのアイデアをもらいました」
――初期から中期にかけてのユーミンは、天気や場所に心情を託したり、細部の描写に優れていたり、夏目くんの作風との接点を感じます。ストーリーテリングの巧みさという点においても大先輩ですね。
夏目「初期の瑞々しさやキャピっとした感じがなくなったユーミンの中期と、いまの僕たちとのリンクを少し感じていて、それは音楽的な側面ではなくて、もっと手触りに近いところにあるんじゃないかと思っているんですよ」
――『君の町にも雨はふるのかい?』で、シャムキャッツの新章がまた始まった感があります。タイトルからも、衒いなくメッセージを発していこうという意思が伝わってくる。シングルでなく、新曲5曲のEPに2016年9月開催のワンマンライヴの音源を12曲も加えた形態にしたのは、なぜですか?
菅原「ちょうど夏目も僕も曲が溢れ出ている状態で、このポテンシャルの塊を早く聴かせたいし、新しい姿をどんどん見てもらおうと思ったんです。いま自分たちが移行期の渦中にいる感覚を反映して、〈このバンドはこれからどうなっていくんだろう〉と感じてもらえる作品になったんじゃないかな」
夏目「自分たちが好きだったかつてのロック・バンドのように、〈活動自体やリリース形態も含めてバンドのドキュメンタリーなんだ〉ということをもっとアピールしていきたいんです。バンドというものは、どうしても初期のキラキラしたところやプリミティヴな衝動を求められがちな気がするけど、僕たちはバンドを続けることによって何かおもしろいいことがどんどん起きるはずだと思っていて、それをテーマに動いている。だから時代の大きな動きにも影響されるし、バンドの変化をちゃんと見せたいんですよね」
――シャムキャッツはメンバー・チェンジを繰り返しながら音楽性を変化させるタイプのバンドとは違って、同じメンバーでやっていくことが前提にあるように見えます。
菅原「それは強く意識していますね」
夏目「誰かが辞めたら終わり、というのは最初から決めているんですよ」
菅原「バンドは続くのが当然だと思っていたけど、そうじゃない。バンドって奇跡みたいなものだから、それを続けられるのは凄いことなんだと、この1年はずっと感じています。夏目が作った曲を4人で演奏していることが凄くリアルなものになってきた」
――つまり、バンドが人生になったということですね。
菅原「独立して自分たちの会社を作ってお金を回しているから、バンド=生活になったんです」

――男の子が夢中でプラモデルを組み立てるように、シャムキャッツを始めた頃は純粋にホビーだったかもしれないけれど、いまはそうじゃない。
夏目「ええ。男は無邪気なもので、いつまで経っても同じままでいられるけど、女性は肉体的に子どもを生める年齢に制限がある。自分も歳を取って女性と関わっていくうえで、そういったリミットが自分のことにもなってきた。そういう変化がバンドに良い影響を与えていて、自分たちとしても歳を重ねたが故の変化をちゃんと曲にしていきたいと思っているんですよね」
――生きることの裏側には死があることにも、自覚的になってきたんじゃないですか?
夏目「そうですね。不意に友達が死んでしまったり、すごく仲の良い友達の親が亡くなったり、これまで見えていなかったことに気付かされることが最近は多い。いままでそういうことが身近に起きなかったのはありがたかったんだな、と思っています」
菅原「人もそうですけど、音楽にまつわる場所やセンスや価値観も減っていくものなんですね。小学校の先生に同窓会で再会して、バンドをやっていることを話をしたら、〈(バンドみたいな)誰かがやらないとなくなってしまうものを請け負っているのは素晴らしいことだよ〉と言われて、ハッとした。いまの音楽シーンは自分が小中学生の頃に想像していたものとは全然違うけど、やっぱりバンドを続けるべきだし、僕たちにしかできないことがあると信じています」
夏目「僕たちがバンドを始めて2~3年くらいで、友達が少しずつ増えてきた頃に仲良くなった人たちが、それから数年経つと辞めていく姿をたくさん見てきたんですよ」
――このEPに収録された“すてねこ”の歌詞に〈バンドやめた郵便屋とか〉というラインがありますよね。たぶん実話なんだろうなと思って聴いていました。
夏目「続いているバンドよりもなくなったバンドのほうが圧倒的に多い。あまり言わないようにしているんですけど、自分たちはそういう人たちが本当はやりたかったことをやらねば、という気持ちが強いんです」
――特にシャムキャッツの盟友だった昆虫キッズの解散には、バンドというものの儚さを感じました。彼らの解散を知ったとき、何か悔しくなかったですか?
夏目「ああ……そうでした。悔しいという感情と、あとちょっと羨ましくもあった」
――バンドという魔法にかかっている間は、ネヴァーランドのピーター・パンやロスト・ボーイズみたいに、そこにいる限り歳を取らないでいられるように見える。でもシャムキャッツには青春を引きずったまま、バンドとして大人になっていく姿を見せてくれることを期待しているんです。
菅原「そうなりたいですね。いまが踏ん張り時です」
――シャムキャッツの本質は、『たからじま』というセカンド・アルバムのタイトルに象徴されるように、〈男の子の冒険心〉だと思います。冒険を続けていくうちにヒット曲を生み出せるという予感を持っているんじゃないですか?
夏目「あります。自分たちとしては、こんなにヒット曲を作っているバンドもいないだろうと思っているぐらいなんで(笑)」
菅原「この間、never young beachの安部(勇磨)くんと話していたら、シャムキャッツは〈ヒット曲〉だらけなのに、なんであんまり売れてないんだろう?と、ネバヤンのメンバーでよく話題になるんだって(笑)。見ていて歯痒いらしい」
夏目「そこは僕もよく言われることですね。ただ、自分たちのようなスタイルのバンドが一切ないなかで、それをやろうと始めちゃったから、開拓し続けるしかなかった」
――バンド・ブームみたいな波に乗れたことで上手くいくバンドもあるし、乗ったことで上手くいかなくなるバンドもある。シャムキャッツは波に乗れなかったぶんだけ、タフにやってこられたんじゃないですか?
夏目「そう、僕たちは波に乗ったことがない。それでも勇気が出るのは、CDの売り上げ枚数やライヴに来てくれるお客さんの数は着実に微増していることなんです。バンドというものが人生になってきて、最初の頃のように無邪気ではいられなくなった。だからこそ〈自分たちは友達なんだ〉という感覚がないといけない。次はそういう気持ちで作品が作れたら良いなと思ってるんですよね」
シャムキャッツ ワンマンツアー 2016-2017〈君の町にも雨はふるのかい?〉
1月21日(土)福岡・福岡graf
1月22日(日)広島・広島4.14
1月28日(土)北海道・札幌colony
2月3日(金)東京・恵比寿LIQUIDROOM
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