INTERVIEW

Eccyが発見した自分らしさとは? Shing02やどついたるねんら招いてパーソナルな物語紡いだ8年半ぶりのフル・アルバムを語る

【特集:ON SEASON OF BEATS & RHYME 2017】Pt.4 Eccy『Narrative Sound Approach』

ON SEASON OF BEATS & RHYME 2017
[緊急ワイド]2017年、日本のヒップホップは
数多くの思い出が生まれた時代、色褪せないクラシックが作られた時代――それは何年前? あるいはいま? もしくはこれから? いずれにせよ、名盤が皆無だった年はないが、肥沃な土壌が育まれた前年を受け、2017年もまたいい作品が各方面から届きそうな……表題は適当だけど、予感は本当だ!

★Pt.1 10代のラッパーLick-Gが語る、自身のやりたいことを貫き高いスキルやメッセージ性をとことん追及した初作『Trainspotting』
★Pt.2 生粋のフリースタイラー、輪入道がさらけ出す拭えない過去―逃げ場をなくして今を繋ぎ止めた新作『左回りの時計』を語る
★Pt.3 タイプライター&YMGが生み出すありそうでなかった何か―世代やエリア越える豪華メンツ揃えたプロデュース・アルバム
★Pt.5 早熟なシンデレラガール・ちゃんみなの初作、とんでもないクォリティー光るJJJの新アルバムなど日本語ラップの注目盤を紹介

 


自分で自分を発見した物語の行方

 鋭利でソウルフルなビートを紡いできたEccyが、8年半ぶりのフル・アルバム『Narrative Sound Approach』を完成させた。その間のEP『Flavor Of Vice』(2011年)などでは当時のベース・ミュージックにどっぷり浸かった姿が窺えたが、「時代を感じさせないものを作りたかった」という今作は、一転してオーセンティックなブレイクビーツが中心。インストとラップ曲が交互に配されており、ハウシーな4つ打ちやインディーR&B風のアンビエンスが随所で顔を覗かせたりと、音のスタイルはさまざまだが、叙情的で陰りのあるトーンに貫かれているからか、コンセプチュアルにも思える統一感がある。

Eccy Narrative Sound Approach KiliKiliVilla(2017)

 「BUDDHA BRANDのベスト(『病める無限のブッダの世界 ~BEST OF THE BEST(金字塔)~』)が一番聴いた日本のヒップホップ作品なんですけど、ラップとインストが交互にくる構成で。だから、自分がラップを入れたアルバムを作ろうとすると、自然とこうなるところがあるんです。ただ、CandleさんとMeisoさんのリリックにBUDDHAオマージュが出てくるのはまったくの偶然(笑)。トラックに関しては、自分の精神性を素直に表現したら結果的にこういうものになった感じです。そうやって出来た楽曲を繋げたものが、僕のパーソナルな物語になる――タイトルでも引用している〈ナラティヴ・アプローチ〉という心理療法(患者との会話のプロセスから、当人の物語、人生の意味を組み立てていく方法)を今回の制作過程に置き換えることで、アルバム全体のテーマが浮かび上がってきました」。

 その物語に最初の言葉を投げ込むのがShing02だ。Eccyとは長年に渡ってコラボを重ねてきたこの稀代のラッパーは、“天蓋のオリフィス”におけるロマンティックなビートに、神話をモチーフにしたリリックを解き放っている。

 「Shing02さんはいまハワイにいるんですけど、そこまで行って顔を付き合わせて、曲のテーマから展開までがっつり話し合って完成させました。ラップの構成を砂時計型にすることになって、曲名の〈オリフィス〉も砂時計の真ん中の部分のことなんですけど、アルバムの内ジャケにも偶然、オリオン座のイラストが入っていて。オリオン座って砂時計型じゃないですか。そういうふうに、意図せず伏線が回収されるようなことがアルバムの端々で起こったのもおもしろかったですね」。

 また、本作でもっとも異色の手合わせが、どついたるねんとの“Sickness Unto Death”。どつの面々がマイクリレーで不穏&酷い言葉を積み重ねていく様からは、バカバカしさと共にキミドリにも通じるハードコアな空気が立ち上がる。

 「どついたるねんは単純に友達で。他の面々とニュアンスが違いますけど、彼らがいないとカッコつけすぎになっちゃうというか、この曲も確実に〈自分〉なんです」。

 そして、アルバムを象徴する曲を選ぶとすれば、やはり泉まくらのアンニュイな歌声が美しい“Blood”と、盟友あるぱちかぶとを迎えた“Lonely Planet”だろう。とりわけ後者は、このリリシストにとって久々の作品ということもあってか、鬼気迫るテンションに圧倒される。

 「あるぱちは、あいつのキャリアの始めから一緒にやってきたので、こういうパーソナルな作品を出すにあたって必ず参加してほしかった。リリックに関しては完璧に理解しているわけではないんですけど、そういうものを入れておくことが大事だなと。後からわかることもあるし。うまく捉えられない部分も残しておきたかったんです」

 そんな本作から感じ取れるのは、甘美なメランコリーと強烈なエモーション。ダンス・ミュージックに明け暮れた夜を越え、迎えたアフター・アワーズに響く音楽……そんなふうにも捉えられるこのアルバムは静かで力強く、どこまでも美しい。

 「エモーションは〈出ちゃった〉という感じです。〈俺ってこんなにハッピーな感覚がないんだ〉って、自分でも驚きました(笑)。まあ暗い中にも光はあると思うんで、それは自分でも発見したことですね」。

 

『Narrative Sound Approach』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

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