デヴィッド・ボウイが星に帰ってから早くも1年。ボウイが愛してやまなかった日本では、ボウイの魅力に迫る展覧会〈DAVID BOWIE is〉が開催中のなか、2人のミュージシャンが彼について熱く語る〈デヴィッド・ボウイ・スペシャル1DAYイベント~トークセッション〉が、去る3月10日にタワーレコード渋谷店で行われた。

ボウイをデビュー時から追いかけてきた筋金入りのファンである土屋昌巳と、ボウイのファンになったばかりというROLLY。そんな対照的な2人をゲストに招いて司会進行を務めるのは、〈下町のジギー・スターダスト〉ことグラム・ロッカーのTSUNEGLAM SAM(YOUNG PARISIAN)だ。ボウイの代表曲“Changes”が流れるなか登場した3人は、全員黒のスーツを着たドレッシーな佇まい。まず、「お2人にとってデヴィッド・ボウイはどういう存在?」というTSUNEGLAM SAMの問いに土屋が答えた。

土屋「夢の人です。ボウイがデビューした頃はそれほどでもなかったんです。でも、大学で『Ziggy Stardust』を聴いて衝撃を受けました。雑誌に出ていたボウイもやたらカッコ良くて。ただ、当時は(レッド・)ツェッペリンの人気がすごかった頃で、周りでボウイの話をできる人はいなかったんです。ボウイが好きだったいうだけで友達になれましたね」

※ボウイの72年作『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』

73年のライヴ映像作品「Ziggy Stardust And The Spiders From Mars: The Motion Picture」収録“Ziggy Stardust”

一方、「デヴィッド・ボウイの人類の頂点に立つ美しさに嫉妬して、これまで聴かないようにしてた」というROLLY。ボウイをちゃんと聴いたのは数年前で、ボウイのカッコ良さに目覚めた彼に衝撃の事件が待ち受けていた。

ROLLY「『★』(2016年の遺作)が出た頃に、エロヒムっていうグラム・ロックのバンドのライヴへ行ったら、“Space Oditty”を日本語でカヴァーしていたんです。〈管制塔よりメジャー・トム~♪〉って。それを聴いて感動して、帰宅後にボウイの『Space Oditty』を夜空を見上げながら一晩中聴いて、大ファンになったんです。それで次の日の朝に、ボウイが亡くなったというニュースを聞いたんですよ! 大ファンになった次の日に亡くなるなんて、こんなことあります!?」

2人のボウイ愛を受けて、TSUNEGLAM SAMは「ボウイと一風堂を聴いて、男が化粧をして良いんだと思った」と告白。ボウイ同様に土屋にもリスペクトを捧げた。

※土屋がフロントマンを務め、79年~84年まで活動していたバンド

続いて、ROLLYと土屋が、それぞれボウイのお気に入りの曲を3曲セレクトして、ミュージック・ビデオを見ながらコメントすることに。まず、ROLLYが選んだのは“The Jean Genie”。ROLLYは「カッチョイイ〜! グラム・ロックの原点ですね。(ギタリストの)ミック・ロンソンも最高!!」と大興奮。土屋は「ミックはジェフ・ベックに憧れていて、ファンクラブの会長をやっていたんです。『Ziggy Stardust: The Motion Picture』ではジェフ・ベックがゲストに呼ばれて“The Jean Genie”を弾いているんですけど、なぜか本編ではカットされたんです」と流石の事情通ぶり。共にギタリストということもあり、“The Jean Genie”のギターのリフを巡って、ミック・ロンソン、スウィート、マディ・ウォーターズへと話が広がっていった。

73年作『Aladdin Sane』収録曲“The Jean Genie”

そのほかROLLYが選んだ2曲は“Let’s Spend The Night Together”と“Starman”。“Starman”を聴きながら、ROLLYが「この曲は途中から“Over The Rainbow”みたいにメロディーが盛り上げって、その後、エレヴェーターみたいにフッと落ちる感じが素晴らしい」と独特のツボを指摘。するとすかさず、土屋が「それがグラムですよ。(T・レックスの)マーク・ボランも〈Life’s An Elevator〉って歌ってますから」と見事なフォローを入れる。

73年作『Aladdin Sane』収録曲“Let’s Spend The Night Together”

72年作『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』収録曲“Starman”

「初心者っぽい選曲でしょ。クイーンならもっとマニアックな曲を選ぶけど」と照れ臭そうなROLLYに対して、土屋が選んだ最初の1曲は、こちらも王道の“Space Oditty”。「映画『2001年宇宙の旅』を観て、ボウイはこの曲を作ったんです」と有名なエピソードを披露すると、「『2001年宇宙の旅』の音声を消して“Space Oditty”を流すのが好きなんです」とTSUNEGLAM SAMが話す。ボウイ・ファンならではのマニアックな楽しみ方に「それは良いね!」と土屋もにっこり。

69年作『David Bowie』収録曲“Space Oddity”

そして、土屋が2曲目に選んだのが“Ashes To Ashes”で、「この曲はニュー・ロマンティックスとかニューウェイヴに影響を与えたんです。スパンダー・バレエのメンバーもそう言ってました」と土屋が紹介。TSUNEGLAM SAMが「ジャパンにもボウイの匂いがしますね」と話を振ると、ジャパンと親交が深かった土屋から、彼らのライヴに参加した時の貴重なエピソードが飛び出した。

※土屋は、サポート・メンバーとして82年に行われたジャパンのラスト・ツアーに帯同した

80年作『Scary Monsters (And Super Creeps)』収録曲“Ashes To Ashes”

ジャパンの81年のパフォーマンス映像

土屋「ジャパンのメンバーはもちろんボウイが大好きで、ロンドンのハマースミス・オデオンでライヴをした時に、ボウイが観に来てくれたんですよ。でも、ゲスト・リストに載っていなかったので、会場に入れなくて帰ってしまったんです。僕らはボウイだったらリストに載ってなくても入れるだろうと思って書かなかったんですけど、あの時は残念でした」

ROLLY「ボウイだってわかっていても入れてもらえないんですか!?」

土屋「イギリスは厳しいんですよ。セキュリティーのスタッフのプロ意識が強いんです。そこで騒がずに静かに帰ったのもボウイらしいなと思います」

現場に居合わせた土屋から語られる、ジャパンとデヴィッド・ボウイのニアミス事件に会場は固唾を呑んで聴き入った。そして、土屋が選んだ3曲目は遺作『★』から“I Can’t Give Everything Away”。「コード進行だけで泣いちゃいますね。歌詞も素晴らしい。〈僕がイエスだといったら、それはノー〉っていう」とコメントすると、ROLLYが「みんなと違うところにいくのがボウイさん」と頷いた。

さらに『★』についてそれぞれが感想を述べるなかで、土屋が語ったボウイ論が興味深かった。

土屋「ボウイがやりたかったのは〈星の王子さま〉だったんじゃないかと思うんです。『★』というタイトルがヒントなんじゃないかと思って。そう考えると、これまでボウイがやってきたことが全部あてはまる気がする」

そんな土屋の言葉に「鳥肌が立ちました」と目から鱗が落ちたようなTSUNEGLAM SAM。会場の観客も、土屋の言葉を噛み締めながら、それぞれの〈DAVID BOWIE is〉=〈自分にとってのデヴィッド・ボウイ〉を頭の中で巡らせているようだった。そして、最後にボウイから受けた影響について訊ねられた2人。「自分らしくあれ、稀な存在であれっていうことですね」と土屋が答えると、ROLLYは「影響というより、死んであの世に行った時、ボウイさんに会っても恥ずかしくない人間になれるようにがんばります!」と衿を正した。

豊富な情報を盛り込みながら独自の視点でボウイについて語った土屋と、時には会場を笑いで和ませながらボウイへの想いを熱く語ったROLLY。初心者からマニアまで楽しめる、ボウイ愛に満ちたイヴェントだった。

 


INFORMATION

大回顧展〈DAVID BOWIE is〉
デヴィッド・ボウイの世界観やキャリアを総括し、そのクリエイティヴィティーを体感できる、画期的な展覧会が開催中!
4月9日(日)まで @東京・寺田倉庫G1ビル
★詳しくはこちら

 

ワーナー日本盤アルバム最新マスター

 

リリースされたばかりの新EP

DAVID BOWIE No Plan ISO/Columbia/ソニー(2017)

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