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わたしの物語はわたしが書く――
メイ・パンの視点で再構成されたジョン・レノンの〈失われ(なかっ)た週末〉

 ジョン・レノンとヨーコ(小野洋子)は、音楽活動や平和運動から専業主夫宣言まで、多岐にわたる行動が世間に物議をかもし出すおしどり夫婦だった。しかしその彼らにも、73年秋から75年冬まで、18か月間にわたる長い別居期間があった。「ジョン・レノン 失われた週末」は当時の出来事を豊富な資料でたどるドキュメンタリー映画だ。

 〈失われた週末〉とは、ジョンがアルコールびたりだったこの時期の自分を、ビリー・ワイルダー監督の映画「失われた週末」のアルコール依存症の主人公になぞらえて語ったことにちなむ。実際、ジョンの泥酔狼藉は芸能誌にとっては格好の話題だった。

 で、その時期にジョンと行動を共にしていた女性がいた。メイ・パンだ。中国系アメリカ人としてニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで生まれ育った彼女は、高校卒業後ビートルズの関連会社に就職。ジョンとヨーコに認められ、有能な個人秘書として活躍していた。ジョンの大邸宅が舞台の“イマジン”のヴィデオ・クリップでは衣装も担当した。

 しかしやがて彼女は驚くべきことを命じられる。いつまでも〈ビートルズを解散させた東洋のあの厚顔な女〉としかみなされないことに内心疲弊していたヨーコが、ジョンの浮気をきっかけに別居を決意。メイ・パンにジョンの世話役を委ねたのだ。この映画はその物語をメイ・パンの視点で時系列に沿って語り直したものだ。

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 〈失われた週末〉という言い方には喪失感がつきまとう。しかし実はこの時期のジョンは音楽では精力的な活動を続けていた。アルバムを次々に発表し、ニルソンやリンゴ・スターをプロデュース。エルトン・ジョンをゲストに迎えた“真夜中を突っ走れ”はソロで初の全米ナンバー・ワン・ヒットになった。疎遠だったポール・マッカートニーとも、ビートルズ解散後、最初で最後のセッションを行なった。メイ・パンの助けで、前妻との間の息子ジュリアンのために、しばし父親業を果たすこともできた。

 映画のハイライトはその音楽活動の詳細、そしてジョンとメイ・パンのロマンスだ。ジョンとの恋愛関係をめぐっては、彼女もさがない騒ぎに巻きこまれたが、時を経たこともあって、この映画では3人の関係は比較的冷静に紹介されている。とはいえ葛藤も感じられないわけではなく、ジョンの曖昧模糊とした立場もまた……。

 これはメイ・パンにとっては〈失われなかった週末〉の映画だ、と同時に観客にとっては、有名人をめぐる報道の是非や真偽、ファンの肥大した好奇心、差別の根深さなどについて考えさせる作品でもある。

 


MOVIE INFORMATION
「ジョン・レノン 失われた週末」

監督:イヴ・ブランドスタイン/リチャード・カウフマン/スチュアート・サミュエルズ
出演:メイ・パン/ジョン・レノン/ジュリアン・レノン/ポール・マッカートニー/デヴィッド・ボウイ/エルトン・ジョン
原題:The Lost Weekend: A Love Story
字幕:松浦美奈
字幕監修:藤本国彦
配給:ミモザフィルムズ
(2022年/アメリカ/英語/94分/カラー/1.85:1/5.1ch)
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2024年5月10日(金)より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
https://mimosafilms.com/lostweekend/