BES thing in life are free
地獄を見たレジェンド、BESがもう一度輝くまで

 自身のグループとなるSWANKY SWIPEを始まりに、A-THUGやSEEDAらと組んだSCARSではストリート/ハスラーのメンタリティーを地で行く楽曲群で、当時の日本語ラップの流れを一変させたBES。抜きん出たフロウとリリックで一気にシーンを駆け上がった彼だが、そこに忍び寄ったのはドラッグとトラブルの数々だった。2008年には『REBUILD』でソロ・デビューするも、坂道を転げ落ちるように2度の逮捕の憂き目にあった彼は、都合4年余りを塀の中で過ごすことに。昨年ようやく2度目の出所が叶い、片時も音楽を忘れぬ日々を過ごす現在は、失われた時を取り戻すべく精力的に楽曲制作を行っているが、その胸の内には人知れず心に決めた引き際が迫っている。服役中のリリースとなった『UNTITLED』(2016年)に続くニュー・アルバム『The Kiss Of Life』は、残された時間でがむしゃらに突き進むBESの現在を映した一枚だ。今回は、SCARSでの活動時から誰よりも彼とレコーディングを共にし、新作の制作もサポートしたI-DeAを交えて話を訊いた。

BES The Kiss Of Life ILL LOUNGE(2017)

 

早く音楽が作りたくて

——服役中のことを振り返ってどうですか?

BES「薬物の教育プログラムは、もうダメだ、もうダメだと思いながらやってましたし、葛藤もいろいろありましたけど、〈もう嫌だ、なんてムダな時間なんだ、この時間は〉みたいな。ただ起きてメシ食って、作業して、よくわかんねえ下世話な話ばっかして。絶対に戻りたくないと思えましたね」

——今回収録されている“JAIL”は、そうした塀の中の情景を書きなぐったような曲で。

I-DeA「これだけ〈塀の中〉って連呼してる曲はないっすよね」

BES「出たら絶対書こうと思ってて。ホントに曲の中で言ってるような感じなんですよ。例えばリンチとかもありましたし……(省略)……を教えてくれる人までいて。再犯になると刑務官も更生させる気がないし。こんな場所から抜け出して、早く音楽作りたいよってマジ思ってました」

——その間もリリックは書いてたんだよね。

BES「雑居房にいる時は書けなかったすけど、独居に移って書くようになって、戻ってきて。出てきてからもノート6冊はつぶしてます」

——閉ざされた環境でやっぱりラップについて考えることも多かったと思うんだけど。

BES「出てきて何すりゃいいんだろう、自分に歌うことって何があるんだろうと思ったことも正直ありました。出てきてすぐ、漢(a.k.a. GAMI)君が〈リハビリだ、すぐ9sariに来い〉って連絡をくれてブースに入ったんですけど、その時は全然ラップできなくなってましたし。でも、書き続けてるうちに感覚が戻ってきて、昔みたいに比喩を使ったり、自分の言いたいこと、思ってることを書けばいいんだと思って。だから、いままで体験してきたことと、体験するであろうことを包み隠さず全部このアルバムに吐き出そうと思ったし、いいことも悪いこともありましたけど、現時点ではアルバムを出せる幸せを噛みしめてます」

——I-DeA君は制作の途中から関わったみたいだけど、どういう話から始まったの?

BES「〈いまアルバム作ってんですけど、どうやって形にしていけばいいっすかね?〉みたいな。実は相談した時点で半分くらいアルバム出来てたんですけど、途中でトラックメイカーと折り合いがつかなくて曲が使えなくなったり、リリックを丸つぶしして書き直したりしてようやく出来たんですよ」

I-DeA「そこは俺がいろいろ声かけてトラックを集めて、BES君に聴かせてっていう流れで、ディスカッションして作り直したり。あとは半分くらい出来てた時点で、音楽的な方向性が“Check Me Out Yo!! Listen!!”系のノリの曲がすごく多かったんですよ、サンプリングがメインのローファイ・サウンドというか。だからその方向性に合うようにBES君をサポートする立ち位置で、A&R的な役割で手伝ったというか。自分のトラックを使った曲だけは、ホントの意味でのプロデュースをした感じです」

 

また新しいスタイルができた

——逮捕直前まで制作していた前作『UNTITLED』は最たるものだけど、『REBUILD』にしても、追い詰められた状況と隣り合わせな面がBES君の作品にはあったけど、今回は這い上がろうっていう意志がよりストレートに表れてて。

BES「そうっすね。カネはあんまないですけど、気分が楽かなっていう。カネはなきゃないで、ないもんはしょうがないし、なんとかしようみたいな精神がついたっていうか」

——それが一つ一つの曲になってると。

I-DeA「BES君が根っからラッパーだっていうのは、まさにそこに表れるんですよ。だからリリックを追ってるとBES君の生活が大体わかる。この先の曲で、BES君がめっちゃカネ持ってるリリックが多かったら、カネ稼いだんだなって思うし、クズな内容だったら〈あ、この人まだクズを脱してないんだ〉みたいな(笑)」

——本作には〈リスクとクスリ クスリとリスク〉というラインがある“Breathless”のように、ドラッグを背景にできた曲もあるよね。

I-DeA「それは現在のことじゃなくて、昔のことですね」

BES「“Breathless”は前に俺が会ったディーラーの話をリリックにしたんですよ。いまは何か危ないことをしてるわけじゃないですし」

——ともあれ、こうして出来上がった作品を前にしてどうですか?

I-DeA「このアルバムの俺的な目標は昔のBES君のキレッキレの感覚を取り戻すこと。まだその道の途中だと思ってるんですけど」

BES「そうやって前のフロウ、スキルを求めながらやってたら、また新しいスタイルができちゃった。前みたいに変則的なラップがなくなって、言葉数も少なくなってますけど、これもアリかなって」

——そのラップの変化によって、逆にリリックがより届くものになったよね。

I-DeA「技術的に巧いラッパーはいっぱいいるけど、BES君のフレーズ作る才能はみんなが知ってるし、リリックでここまで表現できる人はなかなかいないんで」

BES「無我夢中で作ったアルバムなんで、それをわかって聴いてもらえたら嬉しいかな。どんだけリハビリできたかっていうのと、リハビリできてない期間の曲も入ってるから、どう変わったかを聴いてほしいし、いままでにないポジティヴな曲も作ったので受け止めてほしい。I-DeA先生をはじめ、関わってくれた人みんなにホントありがとうございます……ですね。まだ発表できないけど客演のオファーも貰ってるし、いまはもう次の作品にも手をつけてるところです。自分にはもう時間がないんで、ミックステープとかも含めてどんどん作品を出していきたいですね」

 

『The Kiss Of Life』に参加したアーティストの作品を一部紹介。