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テクノとクラシックの親和性

――歌モノに関しては、メロディーを共作することが多いんですよね?

「初期はすべて自分で作っていましたが、だんだん歌い手と一緒に作るようになっていきました。特に歌モノでは、“Mind Trip”でコラボしたスティーヴン・マクネアとは、その曲がキッカケでSiZK名義でもよく一緒に曲を作っていて」

――共作はどのように行なうのですか?

「相手にもよるのですが、スティーヴンとの場合だと、彼が僕の自宅にやって来て、僕が作ったトラックに対して彼が鼻歌でフンフンと歌うので、それを僕がジャッジしていくという場合が多いですね。それで大まかなメロディーラインが出来上がったら、スティーヴンがそれを自宅に持ち帰り、清書して再び投げてくる。それを僕がさらにエディットして完成、という流れです」

――インストの場合は?

「僕が一人で作る時は、歌モノと同じようにリズムから構築して、最後に主旋律を乗せていくというやり方が多いのですが、コラボレートする場合はあまり作り込み過ぎると僕の色が出すぎてしまうので、まずはざっくりとしたリズム・パターンとコード進行だけを、相手に投げるところから始まります。その際、自分の中ではある程度完成形が見えているけど、それを壊してもらうのを期待して投げるケースもありますし、まったく完成形が見えないまま、相手の出方を窺うケースもあります(笑)。世武さんやre:plusとのセッションはまさに前者で、re:plusくんから戻って来たセッションには、僕のデモの痕跡はまったく残ってなかったですね(笑)」

――(笑)。そこから今度はSiZKさんがインスパイアされるわけですね。

「そうです。これはおもしろい!と思って、〈じゃあ、こんなのはどうですか?〉とふたたび投げ返す。そういうやり取りを何度か繰り返しながら、楽曲が完成していくんですよね。早い場合は1、2往復で、多くても5往復くらいで完成します」

――そうすると、歌モノよりもインストのほうが、どうなっていくかわからないという意味では自由度が高いんでしょうか。

「歌モノの場合は、僕が歌い手さんをプロデュースしているというスタンスでもあるので、もう少し曲全体に関してコントロールしているところはありますね。僕が楽曲をちゃんと把握していないとゴールに辿り着けないですし。インストのほうが、セッション相手との責任が半々という感じがします」

――どちらのほうが楽しいですか(笑)?

「セッション感が強いという意味ではインストのほうが楽しいかもしれないですね。もちろん、歌モノには歌モノの楽しさもありますが」

――今作の中で、特に印象に残ったピアニストは?

「やっぱりH ZETT Mさんはものすごいですね。破綻せずに破綻させるというか……(笑)。なんて言えばいいんでしょう、ちゃんとアンサンブルのフォーマットに入っているのに、その中でぶっ壊すことができる。正しいのに、絶対に人とは違う崩し方をしてくるんです。リズムだけじゃなく、和音の積み方も含めてそうですね。あと今作ではMELTENくんと彼のバンド、fox capture planとのコラボ曲が収録されていますが、彼はダンス・ミュージックをすごくよく理解しているピアニストだなと思いました。ピアノ演奏としてはイレギュラーなことでも〈アリ〉だったらやっちゃうみたいな、感覚としてはダンス・ミュージック側の人なんですよね。そこがとてもおもしろい。ループ・ミュージックが好きだったりするところも、すごく気が合うんです」

fox capture planの2017年作『FRAGILE』収録曲“エイジアン・ダンサー”
 

――なるほど!

「あと、セッション・データをもらった時に一番びっくりしたのが世武裕子さん。いい意味で楽曲を破壊してくれる。しかも、計算してわざと壊しているところと、そうじゃないところと両方併せ持っているんですよ。アプローチとしては、現代音楽っぽいところも、クラシックっぽいところも、テクノっぽいところもあって。そういう意味ではすごくオルタナティヴな人なのだなと思いましたね。ちなみにその曲では、世武さんが弾いたピアノのフレーズをベースとして使わせてもらったりしています」

――実際に演奏して音を合わせるセッションと、データのやり取りによる〈セッション〉とでは、おそらく見えてくるものも違うのでしょうね。

「そうですね。データのやり取りの方が、相手の演奏にじっくり向き合うことができるという意味では、瞬発的にインプロヴァイズし合う生のセッションとは、また違った良さがあると思います」

――ピアノの音色にはこだわりましたか?

「弾く人によって、僕の中にあるイメージで作り込んでいきました。例えば世武さんだったらアップライト・ピアノのイメージなんですよ。H ZETT Mさんだったらグランド・ピアノですし。そのへんの音色の選択は、MIDIデータをもらって僕のほうでやらせてもらいました。fox capture planとのセッションのみ、すべて生でレコーディングしたのでMIDIデータではなくオーディオ・データでしたが」

――今回、新曲が2曲入っています。まず“Something New feat. Still Caravan”は、どのように作っていきましたか?

「Still Caravanさんとはレーベルメイトというのもあって、前から聴いていて〈いつか一緒にやりたいな〉と思っていたんです。この曲では、自分のルーツ感を出したいなと思い、ちょっと幾何学的なテクノっぽい曲調にしてみました。Still Caravanさんの楽曲にも、そういう要素を感じさせるところが所々にあったので、そこを拡張するという意味でもおもしろくなるんじゃないかと」

――アルバムの中でも異彩を放っていますよね。構造としてはテクノなんですけど、コード感とかはAORっぽくもあって。

「あ、そうですね。オウテカやスクエアプッシャー、エイフェックス・ツインとか、ワープ系のテクノっぽい構造なんですけど、それをバンドでやっているところがおもしろいのかなと。あと、シンセ・ベースの演奏だけはほとんど編集せずに使っているんですけど、幾何学的なアンサンブルの中で、そのグルーヴ感がコントラストになっていると思います」

――もう1曲“Moments Of Clarity -Jesus, Joy of Man's Desiring”は、バッハの曲をモチーフにしています。

「この曲、僕にはテクノに聴こえるんですよ(笑)。ループしていてすごく気持ちいい。あと鈴木光人さんが、 Electric Satie名義でエリック・サティをテクノにした『Gymnopédie '99』というアルバムを98年に出しているんですけど、それが僕はとても好きで。いまでも聴けるテクノ・アルバムで、それを聴いた時から〈テクノとクラシックは相性がいい〉という印象がずっとあるんです。それを僕なりに表現できないかなと思って作ったのがこの曲なんですよね。それも、ただカヴァーするだけではおもしろくないので、途中から展開して別の曲になっていくんですけど、そこも含めて〈テクノとクラシック〉に対する、自分なりの新たな解釈を作ってみたかった」

※SQUARE ENIXに所属するゲーム・ミュージックの作曲家。渡部高士とのテクノ・ユニット、OVERROCKETにも参加していたが2005年に脱退

――SiZKさんにとって、テクノ・ミュージックの魅力はどこにありますか?

「やはり〈幾何学的〉ということと、〈ループする〉音楽だということですね。幾何学的なフレーズをずっと繰り返しながら、後ろのコード感がどんどん変わっていくような音楽が昔から好きで。響きが変わるだけで、まったく風景が変わっていくじゃないですか。最初は淡々とした音の連なりが、最終的にはメロディアスに聴こえてくるところに気持ち良さを感じるんです」

――お話を聞いていて思ったのですが、クラシックにもそういう要素ってありますよね。交響曲のなかで繰り返されるモチーフの響きが、セクションごとに変わったり。あるいはラヴェルのように、同じモチーフを延々と繰り返すところにはループ・ミュージック的な気持ち良さもある。テクノとクラシックは相性がいいのは、そのあたりにも理由がありそうですね。

「ああ、確かにそうですね。ジェフ・ミルズも東京フィルハーモニー交響楽団と共演したりしていましたし」

――最後に、いま注目している音楽家や、今後一緒にコラボしてみたい人はいますか?

「最近よく聴いているのは、ビング&ルースというアーティストで、★STAR GUiTARとはちょっと違いますが、ノイズ・ミュージックにも通じる心地良さがありますね。一緒にやってみたい人は、いまはちょっとナイショです(笑)。これまでやってきた人たちもそうだったように、自分とは音楽性が違う人とコラボして、予定調和ではないおもしろい音楽をこれからも作っていきたいですね」

ビング&ルースの2017年作『No Home of the Mind』収録曲“Starwood Choker”