昨年12月に発表された『Blue & Lonesome』も記憶に新しいローリング・ストーンズ。その屋台骨を長年支えてきたドラマーのチャーリー・ワッツが、生粋のジャズ・フリークであるのは有名な話だ。86年より自身のジャズ・バンドを率いてソロ活動をスタート。精力的にリリースを重ねつつ、オカモトショウ(OKAMOTO’S)も足を運んだ2001年の来日公演のようにライヴも活発に行ってきた。
そんなチャーリーが60年代初期に、下積み時代の数か月を過ごしたのがデンマーク。インパルスよりリリースされた新作『Charlie Watts Meets The Danish Radio Big Band』は、そのタイトル通り、かの地で50年以上の歴史を誇るダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンドとの共演作である。そこで今回は、ジャズ/ロックの双方に造詣が深い音楽評論家の村井康司氏に、チャーリー・ワッツとジャズの関係、ニュー・アルバムの聴きどころを解説してもらった。 *Mikiki編集部
CHARLIE WATTS, THE DANISH RADIO BIG BAND 『Charlie Watts Meets The Danish Radio Big Band』 Impulse!/ユニバーサル(2017)
職人気質のドラミングに隠れた、ジャズというルーツ
「マイルスはイエス、エルヴィスはノー」という発言でも分かるように、チャーリー・ワッツは筋金入りの〈ジャズおたく〉である。
チコ・ハミルトンの演奏をレコードで聴いてドラマーを志し、近所の幼馴染であるデイヴ・グリーン(ベース)とジャズ・バンドを結成したワッツがブルースやリズム&ブルースに興味を持ったのは、アレクシス・コーナー※率いるブルース・インコーポレイテッドのメンバーになってからだという。ブライアン・ジョーンズ、キース・リチャーズ、ミック・ジャガーといったローリング・ストーンズの面々と知り合ったのも、コーナーの紹介だった。当時のロンドンは、ジャズ、ブルース、リズム&ブルースなどを分けへだてなく演奏するミュージシャンが多かったので(こういう態度を〈ブレイン・ドレイン〉と呼んだらしい)、そういうケースは特に珍しいことではなかったようだ。
※自身の率いたバンドからストーンズ、クリーム、レッド・ツェッペリンなどのメンバーを輩出したことから〈英国ブルースの父〉と呼ばれる
「自分はジャズ・ドラマーで、たまたま世界一のロック・バンドにいるだけだ」と語るワッツは、新作『Charlie Watts Meets The Danish Radio Big Band』を含めて、10枚のソロ・アルバムを発表しているが、これらはすべてジャズ作品だ。グレッチのオールド・モデル(タムが一つのシンプルなセッティング)を愛用し、左手のグリップもジャズ・ドラマーの標準であるレギュラー・グリップ、というワッツの、ストーンズでのプレイがジャズっぽいか、というと、必ずしもそうではないところがおもしろい。
ジャズからロックの世界に来たイギリスのドラマーには、他にジンジャー・ベイカーがいるが、ベイカーのダイナミックにうねる演奏は、明らかにエルヴィン・ジョーンズの影響を受けている。しかしワッツのドラミングは、シンプルなリズムを淡々と刻み、フィルインもそれほど派手にはやらない、なんとも〈職人気質〉を感じさせるもの。おそらくワッツが敬愛するジャズ・ドラマーは、たとえばアート・テイラー※のような職人的なタイプなのではないかしら。
※バド・パウエル、ジョン・コルトレーンなどと共演し、ハード・バップやジャズの完成に貢献したドラマー