ローリング・ストーンズが11年ぶりとなる新作『Blue & Lonesome』をリリースした。全12曲でバンドの原点でもあるブルースをカヴァーしたこのアルバムは、一発録音だとすぐにわかる荒々しいエネルギーに満ち溢れ、90年代以降のストーンズ作品のなかでベストと絶賛する人も少なくない。そして単なる原点回帰とは違う、この生々しくてリアルな肌触りの演奏と音像は、従来のストーンズ・ファンを喜ばせるだけでなく、彼らを知らない若い聴き手にまったく新しい音楽体験をもたらすはずだ。
そこでMikikiでは、OKAMOTO’Sのヴォーカル、オカモトショウと、シンガー・ソングライター/ギタリストのReiによる対談を敢行。平均年齢25~26歳のOKAMOTO’Sはメンバー4人のうち3人がストーンズから多大な影響を受けており、2015年のシングル“Dance With Me”では〈ローリング・ストーンズが最高ってことに/なんでみんな気がつかないんだろう?〉と歌ってもいた。一方、23歳のReiは幼少期をNYで過ごし、小学3年生でバンドを組んでブルースに傾倒。〈ブルースは希望の音楽〉とも話す柔軟で知性的なミュージシャンだ。
2人の対談は『Blue & Lonesome』リリース前日に収録。日本盤リリース元のユニバーサル・ミュージック社で先に試聴会を行い、興奮冷めやらぬなかでアルバムの魅力について存分に語ってもらった。ヴェテラン・ミュージシャン顔負けの豊富な知識量と、鋭い洞察力に驚きながら読んでいただきたい。

焼き直しでもストーンズが奏でるとオリジナルになる
――『Blue & Lonesome』のリリースにあたって、例えば週刊朝日に掲載された鮎川誠さんと仲井戸麗市さんの対談など、ヴェテランがその良さを語っている記事はいくつかあったんですよ。でも若いミュージシャンが語っている記事を目にすることが全然なくて。お2人のような20代が話してくれることで、若いリスナーにも現在のストーンズの凄さが伝わるんじゃないかなと。
オカモトショウ「なるほど。あまり参考にならない20代かもしれないですが(笑)。普通の20代の方の音楽の聴き方とは大分違う気もするので」
――ハハハ(笑)。まずは先ほど『Blue & Lonesome』を聴いてみてどう感じました?
Rei「〈ふたたびデビューしたストーンズ〉みたいな感じでした。半世紀経って改めてブルースをやっているんだけど、その間にいろんな音楽をやってきて、酸いも甘いも嚙み分けて、そしていま、年齢を重ねた彼らが新しいブルースをやっているという感じがしました」
ショウ「わかる! ファースト・アルバム(64年作『The Rolling Stones』)がこんな感じだしね。彼らが一番カヴァーをやっていたとき。俺はストーンズをファーストから聴き始めたんです。“Jumpin’ Jack Flash”などはその前から知っていましたが、もともとはブルースやジャズのほうが好きで、ファーストを聴いてからストーンズを好きになって。なので、ファーストを最初に聴いたときは、〈ブルースを結構いい感じでカヴァーする人たちじゃん〉という印象で。その頃の俺は14歳くらいですが、〈なかなかいいじゃん〉と、すごく上から目線で入って(笑)」
――生意気な音楽小僧だった(笑)。
ショウ「そうです。でもそこからどんどんのめり込んで。やっぱりストーンズは、ずっと解散せずに続けているという意味で、バンドをやってる人間にとっての指針だったりすると思っていて。バンドマンなら誰でも〈俺たち、いつまで続けられるんだろう〉と考えるときがあると思いますが、その一番先頭には常にストーンズがいる。ストーンズはこのくらいの歳にはこういう作品を作っているから、俺たちもその歳になったらそれくらいの作品を作らないと、と思ったりもしますし。そういうバンドがいままたこんなアルバムをリリースしたということが、すごく夢があるなと思います」
Rei「そうだね」
ショウ「バンドは、続ければ続けるほど初期衝動から離れていくところがありますし。一方で、(カヴァーではなく)オリジナルでいかに凄い作品を作れるかが、アートとして崇高なことであるという考え方もあるわけじゃないですか。でもストーンズは、そういうものをすべて振り切ってこうなったというか。10代の頃に好きだった音楽をそのままやっている。軽音楽部に戻ったような感じじゃないですか(笑)」
――軽音楽部で好きな音楽を無邪気に鳴らしてるキッズたちみたいな。
ショウ「そう。〈好きな曲やってるだけッス〉というのが全開で。あのくらいの年齢(平均年齢72歳)でそれをやれてるということが、俺くらいの年齢からしたら物凄く夢があることです」
Rei「オリジナルをやることのほうが素晴らしいという考え方もあるけど、やっぱりブルースはずっとこの人たちにとって憧れであり、大好きなものだから、ちゃんと彼らの色に染まっている。構造的には焼き直しかもしれないけど、彼らが奏でることで彼らのオリジナルになるんだなと思いましたね」
ショウ「それはやっぱり、彼らの身体を一回通過して出てきている音だからこそでしょうね。自分たちのなかで消化して鳴らされている音というか。でも例えば、ポール・バターフィールドの、ホワイト・ブルースのような消化の仕方とも違っていて、もっと憧れそのままというか」
Rei「英語の発音もね。イギリス人なのに全然そう聴こえない」
ショウ「そう。憧れが勝っている感じというか。ファーストでスリム・ハーポのカヴァー(“I’m A King Bee”)をやっているときもそうでしたし、ハウリン・ウルフをやるときも物真似ではなく、きちんとミック・ジャガーの歌なのですが、原曲を知っているうえで聴くと、物凄いハウリン・ウルフの具合だよねという印象で」
――確かに。なんでしょうね、あれ。
ショウ「なんだろう、リズムかな」
Rei「あ、それは感じました。一言でブルースと言っても、例えばシャッフルひとつでもいろいろノリがあって。彼らは経験値が高いからこそ、いくつものシャッフルのノリ方をやっている。すごい突っ込んでいるのもあれば、粘りを感じさせるものもあるし」
ショウ「やっぱりリズムなのかな。今回の新作では、特にそれを感じました。チャーリー・ワッツは凄いなって」
Rei「いやぁ、本当に凄かったね」
ショウ「スネアのチューニングが凄いと思いました」
――いつもはこんなドラム、叩いてないじゃんっていう。
ショウ「まさしく。いつもはこんなに熱くない(笑)」

――さっきReiちゃんが発音について話していたけど、アメリカで暮らしたこともあるReiちゃんからすると、ブルースを歌うときのミックの発音はどんなふうに聴こえますか?
Rei「アメリカ人だと思わせる感じで歌っていますよね。これだけバンドが長く続いているというのは、もちろん人間関係の部分もあるでしょうけど、こうして発音まで真似しちゃうような純粋さがあの歳になってもこんなに残っているっていうのが、いまも活き活きと音楽をやれている理由じゃないかと思います」
ショウ「最初はビートルズもストーンズもアメリカのクリケッツなどに憧れてバンドを始めていて、その頃はまだ〈歌がイギリス訛り〉というのがなかった時代だと思うんです。そういうなかでブルースをカヴァーしたりすると、そのおもしろさがより強く出てくるというか。そこから時代が進んでいくとイギリス訛りで歌う人もたくさん出てきますし、逆に今度はアメリカでジョーイ・ラモーン(ラモーンズ)がイギリス訛りの混ざった感じで歌いだしたり」
――イギリス人でありながらアメリカ生まれのブルースをどう歌うか。いわば、そのひとつの発明をミックがしたわけで。
ショウ「そう思います」

同じ時代に生まれていたら友達になれたかもしれない
――あとで『Blue & Lonesome』の魅力により深く迫ろうと思いますが、その前に2人のストーンズとの出会いについてお訊きしたいです。
ショウ「中学に入ったら軽音楽部があって、当時普通に友達だったウチのギターのコウキが入部するということで俺も一緒に入って。〈ストーンズやろう!〉と言うので、最初に“Jumpin’ Jack Flash”をコピーしました。ただ、俺はそのときドラム担当でしたが。それと同時期にファーストを聴いて、そこからどんどん聴いていきました」
――初めにファースト・アルバムを聴いたのは、ブルースのカヴァーが入っていたから?
ショウ「というか、俺が生まれたのが90年なので、(代表作が)もう出揃ったあとで。そこで中途半端なものを聴いたら好きになれないんじゃないかという恐れがあって、きちんと1枚目から順を追って聴いていくのがいいかなと。マンガを1巻から揃えたいというのと一緒です」
――なるほど。で、そのファーストで好きになれた。
ショウ「はい。同世代であんなことをやっているバンドがいなかったので。ちょうど(当時の)俺らの少しお兄さんぐらいの歳で、ストーンズはファーストを作っているわけで。その感じが良かったのかもしれないです」
――同じ時代に生まれていたら友達になれたかもしれない、みたいな。
ショウ「そんな感じです」
――OKAMOTO’Sはハマくん以外の3人とも、どっぷり影響を受けてますよね。
ショウ「受けてますね。ただ、俺らもオリジナリティーを求めている時期でもあるので、最近も〈ストーンズばっかり聴いてちゃダメなんだよ!〉と急にレイジが言い出したりして、〈いや、いいと思うよ~〉とコウキが返していたり。かと思えばその2日後に、〈モノラルのやつを聴いたけど、“悪魔を憐れむ歌”はやっぱり最高だよね〉とレイジが言っていたり。結局好きなんだな、という(笑)」
――Reiちゃんがビートルズ好きだという話は以前にも聞きましたけど、ストーンズ好きだというのはあまり公言してなかったですよね?
Rei「そうですね。好きなのがデフォルトみたいになっているので、あえてわざわざ語らない感じがあったと思うんですけど」
ショウ「わかる(笑)」
Rei「私は4歳からクラシック・ギターを始めて、アメリカに住んでいた経験を経て、小学3~4年のときにロック・バンドを組んで。それでストーンズの“Honky Tonk Women”とか、キーボードの子がいたので“She’s A Rainbow”を演奏したりしていたんです。その頃からエリック・クラプトンをよく聴くようになって、さらにクリームから辿って戦前のブルースを聴くようになったりしました。で、ガッツリとブルースを好きになってから改めてストーンズを聴くと、ブルースを知らずにカヴァーしていたときよりもいろんなことが理解できたんです。彼らのブルースに対するリスペクトもひしひしと感じたし」
――なるほど。
Rei「あと、ビートルズが好きだった私としては、〈サタニック・マジェスティーズ〉※を聴いて『Magical Mystery Tour』に通じるサイケな音作りを感じたり。ストーンズはバンドとしても好きですけど、それ以上に作品が好きだっていうのが大きいんです。それこそ〈サタニック・マジェスティーズ〉だったりとか」
※ストーンズの67年作『Their Satanic Majesties Request』のこと。同作は当時のサイケデリック・カルチャーを大きく反映したアルバムで、〈ビートルズ『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の二番煎じ〉など当時は酷評が多かった
ショウ「〈サタニック・マジェスティーズ〉が好きという人に初めて会ったかもしれない。俺も大好きなんです。でもそれを言うと〈なんで?〉と言われることが多くて」
Rei「ストーンズにはいろんな側面があるのがいいですよね。バキバキのシングル・チューンが入ったアルバムもポップで格好良いし、片や今回の新作みたいに演奏に重きを置いたアルバムも出せるという。歌モノだけじゃないというのは、特にミュージシャンなら心をくすぐられるんじゃないかと思います」
ショウ「今回は何より演奏を楽しめる久々のアルバムだなと思いましたし。そういうのっていまは貴重ですよね」
――ブルースの背景があって、演奏を重視しているところが2人に共通する〈好きポイント〉であると。
ショウ「いや、もちろん不良っぽさや、ロックのイメージを作った人たちだということもありきで好きですよ。ブライアン・ジョーンズが10代で女教師を妊娠させたり、そういう……」
Rei「そうなんだ!?」
ショウ「そう。何人子供がいるんだよ、というようなロックっぽい逸話も魅力のひとつ」
Rei「ファッションもアートワークも素晴らしいし、総合点の高いバンドだよね」
ショウ「本当に。総合点で言ったら敵うバンドはいないと思うな」
Rei「あとはブルースという、3コードで12小節のシンプルなジャンルに惹かれてるバンドだから、どのアルバムを聴いても〈キープ・イット・シンプル〉の姿勢を感じるんですよ。ビートルズと比較されることもよくありますけど、ストーンズは衝動やシンプルな音楽性に基づいているところが、とても格好良く感じる」
――じゃあ、そんな2人にとっては今回のアルバムはドンピシャですね。〈こんなアルバムを待っていた!〉という感じでしょ。
ショウ「いや、本当にそう思います。〈いいんだ、これで〉と思わせてくれるというか。俺たちが10代でデビューしたときに、最初にカヴァー・アルバムを作りたいと言ったら、〈そんなのダメだ〉と言われてしまって。でも、いまなら〈ストーンズがやっているんだから、いいじゃん〉と言える。ただ、憧れの感覚を上手く表現することは確かに難しい。古い新しいは関係ないにしても、好きだからやっているんだという気持ちは、伝わらない人には伝わらなくて。〈パクリじゃん〉の一言で済まされてしまううこともある。なので、ストーンズがこういうことをやってくれると、俺は間違ってなかったんだと励まされます」
――前に言ってましたもんね。OKAMOTO’Sは初作~3作目までカヴァー曲をそれぞれ入れていて、4作目の『OKAMOTO’S』(2013年)でそろそろオリジナル曲だけでフル・アルバムを作ろうとなったときに、ストーンズの4作目『Aftermath』(66年)がまさにそうだったから、それを参考にしたって。
ショウ「そうです。そんな例え話をしている時点で、どうかしていますね(笑)」

これが最後とはまったく思っていない余裕がここにはある
――『Blue & Lonesome』の話に戻りましょう。まず、ストーンズの新作がブルースのカヴァー・アルバムになると最初に知ったとき、どんなふうに思いました?
Rei「ワクワクしましたね。前作『A Bigger Bang』(2005年)に収録された“Back Of My Hand“みたいに、ブルースっぽいナンバーはいつも入っているんですけど、振り切ってアルバム1枚丸ごとというのはなかったから。この時代に彼らが何を示してくれるんだろうって」
ショウ「あとは単純に、選曲が気になりました」
――どうですか、この選曲は。
ショウ「いいところを突いてきたなというか。大人気なくていいなって」
――大人気ない?
ショウ「大人だったらもう少しこう、“Hoochie Coochie Man”※で始めたり。あとは『ブルース・ブラザース』でカヴァーされていた楽曲や、知っている人の多い曲を選べばわかりやすくなるのに、そういうことではないという」
※マディ・ウォーターズが1954年に録音してヒットしたブルースの定番曲。ストーンズと一緒にライヴで披露したこともある(動画はこちら)
――わかりやすい曲は選んでないですもんね。
ショウ「そもそも、リトル・ウォルターで“Hate To See You Go”を選ぶというのがもう大人気ないじゃないですか(笑)。かといって、別にマニアックなものを作ろうとしているわけではないこともわかる。だから、絶妙なチョイスだなと」
Rei「私もブルースのカヴァーをラジオやライヴで演奏することがあるんですけど、それこそみんなに知られている有名なブルース・ナンバーをやるよりも、自分が〈これは魂を込めて演奏できる!〉という曲をやるほうが、結局はオーディエンスに一番響いたりする。このアルバムも、そういう気持ちの入りようが音から伝わってきたし。曲の知名度云々よりも、その部分こそがブルースの良さを伝えるために大事なんだとわかってるんでしょうね」
――彼らはなんでいま、こういうものを作りたくなったんだと思います?
ショウ「俺は生きている余裕だという気がしました。デヴィッド・ボウイは自分の死を意識して、ああいうアルバム(『★ (Blackstar)』)を最期に作ったわけじゃないですか。それも本当に凄いと思いますが、そういうことではなく、これが最後とはまったく思っていない余裕のようなものがここにある。解散するつもりも全然ないから、こういう作品を思いっきり楽しんで作れるのかなと。もちろん勝手な想像ですけど。もしかしたら、これで最後ということなのかもしれないですし」
――いや、これが最後というつもりはさらさらないでしょう。オリジナルの新作も制作中らしいし。
ショウ「絶対にそうですよね。そっちも楽しみです」
Rei「今年はブルースのレジェンドも、ロックのレジェンドもいっぱい亡くなったじゃないですか。盛り上がっていた時代から一巡して、いまはそういう時期なのかもしれないけど、そのなかでストーンズは本当に生命力を感じますね。さっきショウくんが『Blue & Lonesome』の内ジャケの写真を見ながら〈意外と録音スタジオ広いな〉と言っていたけど、確かにアルバムの音を聴くともっと狭いスタジオで録ったような感じがする。お互いがそこに存在するということのありがたみみたいなものがきっとあって、それがギュッとした音像になって表れてるんじゃないかな」
ショウ「そうだね。ストーンズと同世代のミュージシャンも結構亡くなってますし」
――つまり、〈どっこい俺たちはしぶとく生きてるぜ!〉と言いたいアルバムということですね。
ショウ「そんな気がします」
――今作でのミックのヴォーカルの迫力やリアリティーは、確かにそんな想いがあってこそのものだという気がする。
ショウ「ミックの歌、凄いですね。びっくりしました」
Rei「うん、凄かった」
――それはなぜかと考えたときに、ひとつはやっぱり生と死に対する意識みたいなものが関係しているんだろうなと。これを録音したのは2015年の12月だから、ボウイの死は関係ないだろうけど、ミックの恋人だったデザイナーのローレン・スコットが2014年に自殺していて……。
ショウ「なるほど。それがあった」
――それに、ボビー・キーズ※も2014年に亡くなっている。そういう身近な人の死がいくつかあって、ブルーでロンサムな気持ちになった。そういうモヤモヤした気持ちが続いているときにブルースを歌ってみたら、心情にピタッとフィットして吹っ切れるような気持ちになったのかなと想像してみたんだけど。
※ストーンズのサポート・メンバーとして、数々の好演を遺したサックス奏者
ショウ「確かにそうかもしれない」
Rei「ブルーな感情が伴っている感じはしますよね、ファーストの頃と比べても遥かに。そういう意味で、私は宇多田ヒカルさんの新しいアルバム(『Fantôme』)にちょっと通じるものを感じました。それは声のボトムの豊かさというところで、そこもファーストの頃よりあるだろうし。音域的にもより座った感じの部分に厚みを感じて、それとロウの豊かさが相まって深みのある歌詞に聴こえるのかなと思ったんです」
――それは興味深い指摘ですね。あと、今回のミックは全編に渡ってハーモニカを吹いているけど、そこにも気持ちが入りまくっていて。
Rei「音が泣いてますよね」
ショウ「確かにミックは上手だよね、ハーモニカ。それに、本当はもっと綺麗に上手く吹けるはずなのに、そうしてない」
Rei「コントロールしているのかもしれないね。上手な人だから、もうちょっとここは揺らぎを出そうとか」
ショウ「まさに。上手すぎないところに焦点が合っていて、そこが良かった」
――アルバムを一発録りにしたのも、恐らくそういうことですよね。綺麗に整えたりせず、いかに剥き出しの音を聴かせられるかに注力している。
ショウ「綺麗に録りたいと思えば、いくらでもできますからね。俺らも何度も録り直すとヘンに上手な感じに聴こえてしまうので、なるべく早く終わらせることが多い。何度か繰り返して、上手になってきたら、次はあえて下手くそな演奏にしてみたり」
Rei「私も最新作(2016年作『ORB』)では2~3曲、せーので録ってるんですけど、同じ部屋で顔を突き合わせて録るのと、そうじゃないのとでは全然違いますね。グルーヴの交わり具合が違う」
ショウ「手書きで書いた丸と、コンパスで書いた丸くらい違うよね。その違いは聴く人が聴いたら絶対わかる。やっぱりミュージシャンであるからには手書きで書きたいですし」
Rei「演奏家がそこに集まって、それぞれの周波数で揺れている一音がシンクロして共鳴したときのエキサイトメントって、かなり音に表れますからね。まさにこのアルバムがそうで」
ショウ「その感じが出ているからこそ、唯一無二のブルースになったという気がします。昔のストーンズのままではないし、ストーンズのあとに出てきたホワイト・ブルースのバンドとも違うし、いまのストーンズにはまた独自のブルースがあって、そこが一番凄いところだと思います」
――ちなみに、Reiちゃんの大好きなエリック・クラプトンも2曲に参加してます。特にオーティス・ラッシュ※の“I Can’t Quit You Baby”は、すぐにクラプトンだとわかるギターを弾いていて。
※リード・ギターを前面に打ち出し、50年代にシカゴ・ブルースのサウンドを切り拓いた1935年生まれのギタリスト。いまも現役でライヴ活動している
Rei「弾いてましたね、シグネチャー・サウンド。ウーマン・トーンが泣きまくっていて。しかもストーンズとは長い付き合いだけあって、バンド・メンバーのような交わり方をしているし。エリックもめっちゃブルース好きだから、そこでパッションの共有ができてるんだなと思いました」
――たまたま同じスタジオの隣にいたから共演が実現したらしくて。〈特別ゲストでございます〉というふうに、大フィーチャーしてない感じがまたいいですよね。
ショウ「(“I Can’t Quit You Baby”は)最後の終わり方も、ビシッとしていなくて。ジョン・メイオールのバンド(ブルースブレイカーズ)で弾いていた頃のクラプトンのような印象がありました。クリームでもなく」
――まさしく。
Rei「矢面に立たなくていいから、という部分での自由さが感じられますよね」
ショウ「気負いがない感じするよね。オーティス・ラッシュの曲はジョン・メイオールのバンドでもやっていたから※、これはもしかしたらクラプトンが提案したのかなとも少し思った」
※ジョン・メイオール&ブルースブレイカーズの67年作『Crusade』に“I Can’t Quit You Baby”が収録されている
――ミックからオーティス・ラッシュは出てこないだろうからね。
ショウ「そう、ギターの人ではないですからね」

力量のあるミュージシャンが理性を取っ払ったときの馬鹿力は無敵
――『Blue & Lonesome』を聴いてみて、2人が特にビビッときた曲はどれですか?
ショウ「好きという意味では、“Hate To See You Go”。もともと大好きな曲なのですが、それをああいうふうにカヴァーするのは、ストーンズ流石だなって」
――アルバムに収録された12曲中、この曲を含む4つがリトル・ウォルターの曲で。こんなふうに吹ける人はどこにもいないというブルース・ハーモニカの大天才だった人ですけど、まさにミックは今回、この人の曲を思いっきりやりたくてこのアルバムを作ったんじゃないかと。
ショウ「バランスを考えて選んだら、こうはならないですよね。もう少しバラけさせるのが普通ですが、4曲も選んでる(笑)」
Rei「なのにマジック・サムは1曲だけ(“All Of Your Love”)っていうのがまた(笑)」
ショウ「あと、ジミー・リードの“Little Rain”がすごく良かった。少し違う色をここで見せてくれている感じ。オリジナルも聴いていましたが、そんなに引っ掛からなかったんです。なので、こんなにいい曲だったんだという発見もあって。アルバム全体の流れからいっても、この曲は結構ポイントでした」
――ここでダウンさせてから、次のハウリン・ウルフ“Just Like I Treat You”でまた跳ねるという流れがいいんですよね。ハウリン・ウルフで言えば、“Commit A Crime”はどうですか?
ショウ「やっぱり良かった。ワンコードでこのグルーヴは普通出ないですよ。それを出せるところが、やっぱり人間としての凄さだろうし、ミュージシャンとしての凄さなんだろうなと」
Rei「うん。そういう意味でも、私は(リトル・ウォルターの)“Blue And Lonesome”が良かったです。あの粘りのグルーヴは、ここにきてだからこそだなぁって。私にはまだできない。まだ待てないところがあるから。そこのペイシェンス、辛抱強さ。余裕をもって、余白の侘び寂びを味わいながらやってる感じがすごいなぁと思いました」
ショウ「確かに」
Rei「こんなにも構造がシンプルな音楽なのに、決して一辺倒なアルバムにならず、抑揚も、間合いも、1枚を通してのストーリー作りも完璧で。録音し終わったあとのスタジオの雰囲気までちょっとした音で伝えてくる、そういう人間らしさもある。ショウくんがさっき流れの話をしていたように、やっぱりこれはアルバムを通して聴いてもらいたいですね」
――ヴァラエティーに富んだアルバムはむしろ作りやすいだろうけど、これはそうじゃなく、〈ここ!〉というコースにめがけてストレートを投げ込んでくる。だからこそ曲順によるストーリー作りが大事で、それを含めて完璧な仕上がりですよね。
Rei「そう思います。いろんなコードを使ったりアレンジで遊んだりすることも技術がいるけど、ブルースはそこに逃げることができない。それはやっぱり、演奏の力量がないとできないですから。力量のあるミュージシャンが理性を取っ払ったときの馬鹿力は無敵だなって、本当にそう思いますね」
ショウ「演奏を聴いて楽しめるかどうかで、このアルバムが好きになるかが決まると思います。いまの音楽は大体がアレンジ重視じゃないですか。そういう時代にあって、このアルバムの良さはやっぱり演奏そのものの良さだと思っていて。さっきも言ったように、それは人間の凄さだし、ミュージシャンとしての凄さだし。ひとりで作るデスクトップ・ミュージックのおもしろさももちろんありますが、こうしてバンドが集まって音を出したときの、こう……グワ~っとせり上がってくる感じというか、それを楽しめる人がもっと増えたらいいなと思います」
――これまでストーンズを聴いてこなかった若い人でも、そういう楽しみ方はきっとできるはずですよね。
ショウ「そうですね。ストーンズやブルースを聴いたことがなくても、バンドってすごいな、音楽ってすごいなと思える作品じゃないかと思います。あとは学祭などでライヴをするときに、流行っている曲のカヴァーをするバンドはたくさんいると思うので、このアルバムからカヴァーするだけのバンドを組むぐらいの気概を持った若者が出てきてほしい。どこに需要があるかわからないですが(笑)」
Rei「ハハハ(笑)。私はこのアルバムを聴いて、何よりいまを生きてる人たちの音楽って感じがしたし、バックグラウンドを知らない人にもきっとその良さは伝わると思ったんです。“いまを鳴らしている”感じがしたので。だから、できれば爆音で、一気通貫で体感するべきだなと」
ショウ「確かに、〈体感〉や〈体験〉する感じだよね。ブルースを体験してみてくださいという」
――では最後に、現在のストーンズに向けて一言。
ショウ「いやもう、今回のアルバムのように好きにやってくれ、という感じです。OKAMOTO’Sは長く続けたいと思っているバンドですが、一生バンドをやっていたいと思えるのは、ストーンズからきてるので」
Rei「でも仲が悪くなったら、すぐさま解散してほしいな」
ショウ「ハハハハ(笑)」
Rei「やっぱり人間関係ありきの音楽だなって、これを聴いてすごく思ったから。やりたい気持ちが枯れるまでやりたいことをやってくれたら、私たちはまだまだ素晴らしい音楽に出会えるんじゃないかなと思います」