ローリング・ストーンズが11年ぶりとなる新作『Blue & Lonesome』をリリースした。全12曲でバンドの原点でもあるブルースをカヴァーしたこのアルバムは、一発録音だとすぐにわかる荒々しいエネルギーに満ち溢れ、90年代以降のストーンズ作品のなかでベストと絶賛する人も少なくない。そして単なる原点回帰とは違う、この生々しくてリアルな肌触りの演奏と音像は、従来のストーンズ・ファンを喜ばせるだけでなく、彼らを知らない若い聴き手にまったく新しい音楽体験をもたらすはずだ。

そこでMikikiでは、OKAMOTO’Sのヴォーカル、オカモトショウと、シンガー・ソングライター/ギタリストのReiによる対談を敢行。平均年齢25~26歳のOKAMOTO’Sはメンバー4人のうち3人がストーンズから多大な影響を受けており、2015年のシングル“Dance With Me”では〈ローリング・ストーンズが最高ってことに/なんでみんな気がつかないんだろう?〉と歌ってもいた。一方、23歳のReiは幼少期をNYで過ごし、小学3年生でバンドを組んでブルースに傾倒。〈ブルースは希望の音楽〉とも話す柔軟で知性的なミュージシャンだ。

2人の対談は『Blue & Lonesome』リリース前日に収録。日本盤リリース元のユニバーサル・ミュージック社で先に試聴会を行い、興奮冷めやらぬなかでアルバムの魅力について存分に語ってもらった。ヴェテラン・ミュージシャン顔負けの豊富な知識量と、鋭い洞察力に驚きながら読んでいただきたい。

THE ROLLING STONES Blue & Lonesome Polydor/ユニバーサル(2016)

焼き直しでもストーンズが奏でるとオリジナルになる

――『Blue & Lonesome』のリリースにあたって、例えば週刊朝日に掲載された鮎川誠さんと仲井戸麗市さんの対談など、ヴェテランがその良さを語っている記事はいくつかあったんですよ。でも若いミュージシャンが語っている記事を目にすることが全然なくて。お2人のような20代が話してくれることで、若いリスナーにも現在のストーンズの凄さが伝わるんじゃないかなと。

オカモトショウ「なるほど。あまり参考にならない20代かもしれないですが(笑)。普通の20代の方の音楽の聴き方とは大分違う気もするので」

――ハハハ(笑)。まずは先ほど『Blue & Lonesome』を聴いてみてどう感じました?

Rei「〈ふたたびデビューしたストーンズ〉みたいな感じでした。半世紀経って改めてブルースをやっているんだけど、その間にいろんな音楽をやってきて、酸いも甘いも嚙み分けて、そしていま、年齢を重ねた彼らが新しいブルースをやっているという感じがしました」

ショウ「わかる! ファースト・アルバム(64年作『The Rolling Stones』)がこんな感じだしね。彼らが一番カヴァーをやっていたとき。俺はストーンズをファーストから聴き始めたんです。“Jumpin’ Jack Flash”などはその前から知っていましたが、もともとはブルースやジャズのほうが好きで、ファーストを聴いてからストーンズを好きになって。なので、ファーストを最初に聴いたときは、〈ブルースを結構いい感じでカヴァーする人たちじゃん〉という印象で。その頃の俺は14歳くらいですが、〈なかなかいいじゃん〉と、すごく上から目線で入って(笑)」

――生意気な音楽小僧だった(笑)。

ショウ「そうです。でもそこからどんどんのめり込んで。やっぱりストーンズは、ずっと解散せずに続けているという意味で、バンドをやってる人間にとっての指針だったりすると思っていて。バンドマンなら誰でも〈俺たち、いつまで続けられるんだろう〉と考えるときがあると思いますが、その一番先頭には常にストーンズがいる。ストーンズはこのくらいの歳にはこういう作品を作っているから、俺たちもその歳になったらそれくらいの作品を作らないと、と思ったりもしますし。そういうバンドがいままたこんなアルバムをリリースしたということが、すごく夢があるなと思います」

Rei「そうだね」

ショウ「バンドは、続ければ続けるほど初期衝動から離れていくところがありますし。一方で、(カヴァーではなく)オリジナルでいかに凄い作品を作れるかが、アートとして崇高なことであるという考え方もあるわけじゃないですか。でもストーンズは、そういうものをすべて振り切ってこうなったというか。10代の頃に好きだった音楽をそのままやっている。軽音楽部に戻ったような感じじゃないですか(笑)」

――軽音楽部で好きな音楽を無邪気に鳴らしてるキッズたちみたいな。

ショウ「そう。〈好きな曲やってるだけッス〉というのが全開で。あのくらいの年齢(平均年齢72歳)でそれをやれてるということが、俺くらいの年齢からしたら物凄く夢があることです」

Rei「オリジナルをやることのほうが素晴らしいという考え方もあるけど、やっぱりブルースはずっとこの人たちにとって憧れであり、大好きなものだから、ちゃんと彼らの色に染まっている。構造的には焼き直しかもしれないけど、彼らが奏でることで彼らのオリジナルになるんだなと思いましたね」

ショウ「それはやっぱり、彼らの身体を一回通過して出てきている音だからこそでしょうね。自分たちのなかで消化して鳴らされている音というか。でも例えば、ポール・バターフィールドの、ホワイト・ブルースのような消化の仕方とも違っていて、もっと憧れそのままというか」

Rei「英語の発音もね。イギリス人なのに全然そう聴こえない」

ショウ「そう。憧れが勝っている感じというか。ファーストでスリム・ハーポのカヴァー(“I’m A King Bee”)をやっているときもそうでしたし、ハウリン・ウルフをやるときも物真似ではなく、きちんとミック・ジャガーの歌なのですが、原曲を知っているうえで聴くと、物凄いハウリン・ウルフの具合だよねという印象で」

ポール・バターフィールド・ブルース・バンドの67年のライヴ映像

64年作『The Rolling Stones』収録曲“I’m A King Bee”。スリム・ハーポのオリジナルはこちら

――確かに。なんでしょうね、あれ。

ショウ「なんだろう、リズムかな」

Rei「あ、それは感じました。一言でブルースと言っても、例えばシャッフルひとつでもいろいろノリがあって。彼らは経験値が高いからこそ、いくつものシャッフルのノリ方をやっている。すごい突っ込んでいるのもあれば、粘りを感じさせるものもあるし」

ショウ「やっぱりリズムなのかな。今回の新作では、特にそれを感じました。チャーリー・ワッツは凄いなって」

Rei「いやぁ、本当に凄かったね」

ショウ「スネアのチューニングが凄いと思いました」

――いつもはこんなドラム、叩いてないじゃんっていう。

ショウ「まさしく。いつもはこんなに熱くない(笑)」

「2001年にチャーリー・ワッツが自分のジャズ・バンド(テンテット)で来日したときにライヴを観に行って、終演後に楽屋へ行ったんです。俺は当時ドラムをやっていたので、そう伝えたらスティックをプレゼントしてくれました」(ショウ)

――さっきReiちゃんが発音について話していたけど、アメリカで暮らしたこともあるReiちゃんからすると、ブルースを歌うときのミックの発音はどんなふうに聴こえますか?

Rei「アメリカ人だと思わせる感じで歌っていますよね。これだけバンドが長く続いているというのは、もちろん人間関係の部分もあるでしょうけど、こうして発音まで真似しちゃうような純粋さがあの歳になってもこんなに残っているっていうのが、いまも活き活きと音楽をやれている理由じゃないかと思います」

ショウ「最初はビートルズもストーンズもアメリカのクリケッツなどに憧れてバンドを始めていて、その頃はまだ〈歌がイギリス訛り〉というのがなかった時代だと思うんです。そういうなかでブルースをカヴァーしたりすると、そのおもしろさがより強く出てくるというか。そこから時代が進んでいくとイギリス訛りで歌う人もたくさん出てきますし、逆に今度はアメリカでジョーイ・ラモーン(ラモーンズ)がイギリス訛りの混ざった感じで歌いだしたり」

――イギリス人でありながらアメリカ生まれのブルースをどう歌うか。いわば、そのひとつの発明をミックがしたわけで。

ショウ「そう思います」