(左から)池谷航(タワーレコード)、杉下正樹、釜萢直起(GREENROOM)、鳴田麻未
 

音楽とアートが織りなす日本屈指のカルチャー・フェスティヴァル、〈GREENROOM FESTIVAL〉が来る5月20日(土)、21日(日)に開催される。13回目を迎える今回もお馴染みの横浜・赤レンガ倉庫を舞台に、素晴らしいロケーションで音楽、アート、映画、食事を楽しめる、最高の2日間となるだろう。年を追うごとに出演ラインナップの増加や新ステージの設置など、どんどんパワーアップしているのも人気の証。こういった好調ぶりの背景には、オーディエンス/出演アクトに愛される環境作りに加えて、サーフ・カルチャーを軸にしながら、時期ごとにモデルチェンジを重ねてきたスタッフ陣の遊び心とチャレンジ精神が大きかったという。そして何より、〈GREENROOM〉に携わる人々は、みんなこのフェスへの思い入れがとにかく強い。リピーターの多さもそれを物語っているが、そういった愛情はどこから生まれてきたのか。

そこで今回は、フェス関係者を中心に招いた座談会を敢行。メンバーは、〈GREENROOM〉から代表/オーガナイザーの釜萢直起(かまやちなおき)と、運営スタッフとして2012年からフェスに関わる杉下正樹。また、観客の一人として初期から〈GREENROOM〉を愛し、近年は実行委員としてフェスを支え、当日は現場でトランシーバー片手に〈運営の切り込み隊長〉も務めるタワーレコード・ライブ事業部の池谷航。そして進行役を担当するのは、〈GREENROOM〉を日本でいちばん素敵なフェスだと断言し、プライヴェートで何度も足を運んでいたという元ナタリー編集者/現フリー・ライター/編集者の鳴田麻未。この4人に、フェス群雄割拠の時代に〈GREENROOM〉がスペシャルな価値を持つ理由と、フェスの歴史から今年の観どころまで、各々の〈GREENROOM〉愛を語ってもらった。まずは、その前編をお届けしよう。

 

何を目的にしてもいい、抜群の風通しの良さ

鳴田麻未「それではよろしくお願いします。今日はいちばん好きなフェスのことをお話してお金をもらえるなんて、そんないい仕事あるのか!と思いながらやって来ました(笑)」

池谷航(タワーレコード/ライヴ事業部)「ハハハ(笑)。ありがたいですね」

鳴田麻未「みんなでフェスの魅力を大いに語っていきたいところなのですが、その前に改めてフェスの成り立ちをおさらいさせてもらってもいいですか?」

釜萢直起(GREENROOM代表)「〈GREENROOM〉は13年前に横浜の大桟橋で立ち上がりました。元を辿るとその2年前まで遡るんですが、カルフォルニアで〈GREENROOM〉の前身となったイヴェント〈Moonshine Festival〉に出会って、感銘を受けてしまって。すぐにオーガナイザーと話して、日本でもやってみたい!と伝えたんです。向こうも乗り気になってくれてすぐに話は進んだんですが、途中で本隊が倒れてしまい、なくなっちゃったんですね。でも僕自身はもう火がついちゃっていたので、そのまま開催に押し進めたというわけです。2005年の第1回は2月開催で、雪が降ってたのをよく覚えていますね」

杉下正樹(GREENROOM運営)「そして2010年に会場をいまの横浜・赤レンガ倉庫に移すんです」

鳴田「この赤レンガ倉庫というロケーションの素晴らしさは、〈GREENROOM〉の外せない魅力のひとつですよね」

杉下「駅からも近いですし」

鳴田「日帰りできるから軽装で行ける。アウトドア的ないわゆるフェス・ファッションじゃない、ラフな格好ができるのは全体の雰囲気にも大きく影響している気がしているし、〈フジロック〉のような自然の多い所でテントを張って、みたいなフェスとはまず見え方が違いますよね」

釜萢「〈コーチェラ〉とかは、LAの街やビーチにいる人たちが、オシャレして、そのままのファッションで来てるからね。そういう意味では同じような流れで行けたらいいよね」

杉下「確かに」

鳴田「ファッションや漂ってる雰囲気もすべて、ほかの国内フェスにありがちなものではなくて、とにかくラフな風通しの良さがいいんですよね。だって途中で映画を観たり、去年出来た〈Port Stage〉で買い物できるなんて、ほかにはないよなって」

杉下「そうですね。フェスが終わった後もまだ中華街もやっている時間だから、寄って帰るのも良し。そういうのも1つ魅力ですね」

鳴田「あとは全体的な規模が大きすぎない所も好きで。全部ぎゅっと集めたら大きいんですけど、ステージが点在しているので」

池谷「コンパクトにまとまっていますよね。さっき釜萢さんが、カルフォルニアで体験した〈Moonshine Festival〉がルーツだという話をされていましたけど、大桟橋でやっていた〈GREENROOM〉が僕の中では強烈な自由さだったかもしれない。フェスというよりパーティーに近い感覚のゆるさで。でもお客さんもミュージシャンも、自然や海だとか何かしらを大事にしているという各々の想いを持ちながら、1つの空気を共有しているようなムードが何となくあって。フード・ブースも含めて全体の良い空気感を凝縮したのが大桟橋だった気がする。そういうお客さんのニーズがより高まってきたのに答えていったのが赤レンガ(への会場移転)なのかなと僕は思っています。だから、当時の空気感はまだ根っこにあると思っていて。それがイコール〈GREENROOM〉という会社だったり、釜萢さんだったりする。もちろんロケーションに助けられているところはいっぱいあるけれど……根っこはそこかなと僕は思うんですよ」

1日目の〈GOOD WAVE〉ステージでトリを務めるマイケル・フランティ&スピアヘッドの2016年のパフォーマンス映像
 

鳴田「その根っこのスピリットというか、ベースとなっているコンセプトはずばり何なんでしょう?」

釜萢「ベースとなっているのは、やっぱり地元の町田ですね。町田の若い子はだいたいスケートボードを小学校高学年くらいから始めて、中学生になるとみんなで小田急線に乗って鵠沼にサーフィンに行くようなカルチャーがあって。自分もその中でなんとなくスケートボードとサーフィン、バイクというヤンキー・カルチャーと一緒に育ってきた。そのうち留学したりとか、サーフ・トリップで世界中を回ったりして、外のカルチャーも入ってきて。今は戻ってきてからも鎌倉に住んで、原宿に通っているわけなんだけども、そういう海と街っていうカルチャーが自分のなかに根強くあると思っています」

鳴田「そんな主催側のスピリットをお客さんがどのくらい汲み取っているかというと、もちろんそのあたりのカルチャーが本当に好きな人もいるでしょうし、出演アーティストの名前で来ている音楽ファン寄りの人もいるなかで、単にオシャレだからみたいな、ロコガールもいると思うんです。それが本当、いいなあと思っていて(笑)。いろいろな人が気軽に来れるのは、それこそ立地のせいもあると思うんですが」

釜萢「やっぱりフェスって、そういうのがいいよね」

鳴田「入口の出店ブース目当てで来ている人もいるでしょうし、来場者の目的が雑多なんです。ヘッドライナーがどーん!といて、音楽を聴きに来るっていうのがまあ、多くのフェスの大義名分になっていると思うんですが、〈GREENROOM〉は何を目的にしてもいい」

釜萢「そうですね」

池谷「お客さんの自由度がめちゃくちゃ高いと思う。それが素晴らしいですよね。さっき言っていたようにブースを覗くだけでも、たぶん1日かかってしまうくらいだと思うんです」

杉下「100店舗くらい出ますからね」

池谷「映画も、これ日本でやってくれるんだ!?みたいな貴重な作品を実はやってたりしますからね。その〈お客さんが選べる自由がある〉というのが、もしかしたら〈GREENROOM〉の一番の強みかもしれないな。このバンドのこの曲知らなきゃ来ちゃダメ、なんてことがまったくないじゃないですか。もちろん、出てもらっているアーティストの音楽は知っておいてほしいに越したことはないんですけど(笑)」

2日目の〈GOOD WAVE〉ステージでトリを務めるトータスの2017年のパフォーマンス映像
 

鳴田「杉下さんは、〈GREENROOM〉ならではの強みや魅力って何だと思いますか?」

杉下「自分もいろんなフェスに結構行くんですけど、やっぱりカワイイ子が多いってのは1つありますね」

一同「ハハハ(笑)」

鳴田「たしかにめっちゃ多いですよね!」

杉下「鳴田さんも言っていたように、山とかのフェスみたいに防寒でマウンテン・パーカー、みたいな恰好じゃないので。そこは男女を問わず、すごく魅力的なところですよね。あと、〈GREENROOM〉で出会って結婚した人もいるみたいで、出会いの場と言っちゃうとちょっとアレですけど(笑)、そういうのもひとつの魅力かなと思います」

鳴田「『モテキ』の題材にされた会社(ナタリー)にいた身からすると納得してしまいますね(笑)」

杉下「つい先日も、プレス関係の人がスナップで一番いいのが撮れるのは〈GREENROOM〉だと言ってましたよ」

釜萢「一本直球な答えだったね(笑)」