海を渡り旅する音楽家 地中海の美しさを伝える最新作

 松田美緒ほど“旅する音楽家”という肩書きが似合うミュージシャンはいないのではないだろうか。2005年にデビューして以来、ブラジルを筆頭に中南米はもとより、ヨーロッパやアフリカも股にかけ、2014年には日本に目を向けた力作『クレオール・ニッポン』を作り上げた。そんな彼女の最新作は、ギリシャとポルトガルで録音した地中海がテーマの『エーラ』だ。

松田美緒 エーラ コアポート(2017)

 「以前から何度も行っているだけあって、地中海には帰ってきたなあという感じ。今回はクルーズ船の仕事など縁があったんですけれど、あらためて海の美しさに感動し、その気持ちを歌にしたいと思いました」

 彼女の過去作品に通じる“海”をキーワードに、ギリシャやポルトガルだけでなく、カーボヴェルデやスペインのセファルディにまで想いは広がっていく。そこには、ポルトガルのファドもあれば、ギリシャの島の古い民謡も選ばれている。また、以前からのレパートリーであるクレオール賛歌《真珠のモレノ》をバルカン・ヴァージョンで披露するというのもユニークだ。アナ・フィルミーノやダニー・シルヴァといったベテラン歌手をゲストに迎えつつ、現地のミュージシャンとセッションした音源が中心。非常にリラックスしたムードの歌声を聴かせてくれるが、冒頭は神秘的なメロディの自作曲《ティラ》でピリッと引き締める。

 「ギリシャのサントリーニ島には一度沈んで滅んだ文明があるんですけど、火山に登ったり漁師を描いたモザイク画を見た時に思い浮かんだ曲なんです」

 また、昨年亡くなったユーゴ出身のシンガー、ヤドランカに捧げたメドレーも印象に残る。

 「中学生の時に初めてコンサートを観て以来、ずっと影響を受け続けてきました。彼女が歌ったマケドニア民謡やブラジル北東部音楽を繋いだんですが、アルバムのコンセプトにしっくりと馴染んでますね」

 そして最後には、人類最古の記録された歌といわれているギリシャのシキロスの墓碑に書かれた一節を、リラという竪琴の響きとともに披露して終わる。その瞬間、彼女と一緒に旅をしてきたかのような感覚にさせられるのだ。しかし、なぜ松田美緒はそこまで“海”を旅することにこだわるのだろうか。

 「海といっても、地理的なことだけでなく精神的なものだと思うんです。海は陸とは違って世界中どこまでも繋がっているから。海を渡って定住せずに移動する人や、移動を余儀なくさせられる人がたくさんいて、そこに惹かれるというのあるのかもしれない」

 そう語る彼女自身も、常に海を渡り歩いて旅をしながら歌い続けている。まさに『エーラ』は、松田美緒という歌い手の真髄を反映した作品なのだ。

 


LIVE INFORMATION

松田美緒『エーラ』発売記念ライヴ

○5/20(土) 19:30 開演 会場:大阪・CHOVE CHUVA
○5/26(金) 19:30 開演 会場:東京・下北沢 コムカフェ音倉
出演:松田美緒(歌)、山口亮志(ギター、ブズーキ)
ゲスト:太田惠資(ヴァイオリン)

○5/30(火) 19:30 開演 会場:京都・モダンタイムス
出演:松田美緒(歌)、山口亮志(ギター、ブズーキ)
ゲスト:常味裕司(ウード)

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