愛のままに、わがままに——パフォーマーとして、リリシストとして、その個性をさらに煌めかせた『Swimming in the Love E.P.』

 昨年夏に初作『LOVELY FRUSTRATION E.P.』を発表したSHE IS SUMMERは、エレクトロ・ポップ・ユニット、ふぇのたす解散後にヴォーカルのMICOが立ち上げたソロ・プロジェクト。その名前からして〈夏限定のユニット?〉と訊かれることも多かったようで、「そんなことないんだけど」と苦笑いしながら振り返る彼女だが……あれ? 気付いたら今年も夏の声が!

 「今回、歌詞を全部自分で書いたのですが、何かに沿うとかではなく、もっと自分の中心から出てくることを歌いたいってと思ったんです。最近、自分の感性がどこまで他に影響されて培われたもので、どこまでが生まれ持ってのものなのかっていうのがすごく気になっていて、まっさらになった気持ちだったらどういうものに自分はいちばん心ときめくのかとか、普段の生活のなかで自分は何をチョイスしてるんだろう?……というところに意識を向けてたなかで歌詞を書いたので、すごく時間がかかりました」。

SHE IS SUMMER Swimming in the Love E.P. Being(2017)

 そう語る新作のタイトルは『Swimming in the Love E.P.』。冒頭を飾る“出会ってから付き合うまでのあの感じ”(ヤマモトショウとの共作詞)という曲名からもなんとなく伝わるかも知れないが、MICOが書く歌詞の多くは、浸る間もなく過ぎ去っていく時間を見逃さないように、永遠に留めておきたいと願うようにスケッチされていく。そこから匂い立つ〈切なさ〉がとんでもなく人懐っこいのだ。

 「“彼女になったの”という曲に〈彼女になったの 昨日から〉という歌詞があるんですけど、彼女になった次の日って、とても特別だと思うんです。意識的に思い出に残そうとすることは少ない日だけど、プロポーズをされた日とかと同じぐらいかそれ以上に忘れてはいけない一日だと思うから、忘れないようにしないともったいないし、忘れてしまうのは切ない。切ないのは……好きですね。すごく楽しいときに〈過ぎ去っていくんだなあ〉って切ない気持ちになることはよくあるし、青春コンプレックスが大きいのかな。なんか、いままでの人生に後悔が多いのかも。だから、それを繰り返したくない、ちゃんと留めておきたいというか」。

 ウキウキのなかにもほんのりのセンチを散りばめながらしたためられたMICOの歌詞を、作曲、アレンジでさらにエンターテインさせるのが、ライヴ共演などで親交を深めてきた作家陣。前作に引き続いての参加となった釣俊輔(agehasprings)をはじめ、ORESAMAの小島英也、〈神泉系〉なる新たなカテゴリーを推しているバンド=フレンズのひろせひろせ、evening cinemaの原田夏樹ら80sポップス的な意匠やファンク・サウンドを得意とする新進のクリエイターたちに、NONA REEVESの奥田健介といった20年選手まで。

 「みなさん、〈歌モノ〉として書いてくれてるなという印象があって。初めてご一緒したフレンズのひろせさんはすごく言葉とメロディーのハマリを大事にしてくれていて、ここはこういう音だからこうしてもらえたら……とか、お互いの意見を満たせる言葉選びをして作っていって、デモの段階からメロディーの持つ意味がどんどん変わったりしていきました」。

 発表されたオリジナル楽曲は今作を加えて8曲と、デビュー1年そこそこのアーティストとしては寡作といえるのかもしれないが、それでもSHE IS SUMMERの歌は、世の中に送り出されていく数多の〈イイ感じの音楽〉のなかでもちゃんと目に止まりやすい存在感を放つだけの個性とわがままに満ちていると思われ……。

 「どういうふうにしたら〈私が歌わないと意味を持たない歌〉になるんだろうかとか、そうでないとダメだよなということはすごく考えました。声質だけは自分にしかないものなので、それに合う新しい歌い方を常に探したいと思ってるけど、私なんかより歌が上手い人は本当にたくさんいて、私はそれにまだどこかでコンプレックスを感じているので。干支をふた周りしたいま、ある程度のことはわかるようになって、だからこそその先のもっと深いところや、まだ残っている新しいことを楽しめる年齢だなと思っていて。この程良いバランス感を自分でもおもしろがりながらやっていたら、このあいだ十代の子から〈大人になるのが楽しみになりました!〉と言ってもらえて嬉しかったです(ニッコリ)」。

『Swimming in the Love E.P.』に参加した作家陣の関連盤を紹介。

 

『Swimming in the Love E.P.』に参加した作家陣の作品。