今年で3度目の開催となる〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER(以下、HCAN)〉が、8月19日(土)深夜に千葉・幕張メッセで行われる。もともとは、インディー・ロックの祭典として人気の〈Hostess Club Weekender(以下、HCW)〉が記念すべき10回目を迎えた2015年、そのスピンオフ的に誕生した〈フェス内イヴェント〉だったのだが、今やサマソニ本編に迫る固定ファンを獲得しつつあるのは、一睡たりとも許されない高水準のラインナップを実現し続けているからだろう。ここでは〈サマソニ〉に〈HCW〉、そして過去2回の〈HCAN〉すべてに参加経験のある筆者が、この驚異のオールナイト・イヴェントの魅力を解き明かしていきたい。

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〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉ってどんなイヴェント?

〈HCAN〉の凄いところは、なんと言っても圧倒的な規模感と密度だ。〈HCW〉が都内のライヴハウスを使ったキャパ2,000人前後のイヴェントだとすると、〈HCAN〉の舞台となる幕張メッセはざっと2万人を収容可能。また、本来は〈サマソニ〉深夜のパーティー枠〈Midnight Sonic〉のために用意されている環境なので、〈SONIC STAGE〉と〈RAINBOW STAGE〉の2つをそのまま使えるだけでなく、インフラ的にも抜群(巨大なフードコートもちゃんと営業します)、かつ出演するアーティストも〈HCW〉では考えられないほどの大物を呼べるのが強みである。

その証拠に、2015年の第1回〈HCAN〉ではトム・ヨークのソロ作『Tomorrow’s Modern Boxes』(2014年)のワールド・プレミア・ライヴを目玉に、過去に〈HCW〉のトリも務めたスピリチュアライズドやフランツ・フェルディナンド&スパークスによる奇跡のコラボ=FFSといった、海外フェスにも引けを取らない豪華ラインナップを実現。さらに2016年の第2回では、アニマル・コレクティヴとダイナソーJrの2組を筆頭に、今年に入って新作をリリースしたアウスゲイルやテンプルズを一足早く招聘。それに、前年惜しくも出演キャンセルとなったディアハンターやサヴェージズといった実力派まで、ヴァラエティーに富んだメンツが顔を揃えていた。

ダイナソーJrの2016年〈HCAN〉でのライヴ映像
 

また、近年の〈HCW〉が2日間のプログラムで全8組(1日4アクト×2)をひとつのステージでまったりと堪能できるのに対して、〈HCAN〉はたった一晩で8組すべてのライヴがノンストップで行われる。上手くタイムテーブルを組んで移動すれば全アクトを網羅することも可能だし、〈どうしてもフル・セットを見たい!〉というアーティストがいる場合はじっくりとライヴを堪能することもできる(2015年のスピリチュアライズド、2016年のアニコレ&ダイナソーJrは90分のロング・セットを披露!)。もちろん、後者の場合はもう片方のステージを諦めなくてはならないが、自分好みの楽しみ方ができるのも豪華ラインナップが集うフェスゆえの醍醐味だろう。

 

ホラーズ
 

復活組から初来日勢まで、2017年も鉄壁のラインナップ

気になる2017年の〈HCAN〉も、鉄壁のラインナップ。〈HCW〉と同様に新作を控える/リリース直後のアーティストの最新モードをライヴで体験できるのもポイントで、2014年の〈HCW〉でトリを努めたポスト・ロックの重鎮、モグワイは〈サマソニ〉本編でも常連のライヴ・バンド。静と動のダイナミズムで観る者すべてを圧倒するパフォーマンスには定評があるが、彼らは〈HCAN〉直後の9月1日に、名匠デイヴ・フリッドマンと再タッグを組んだ9作目『Every Country’s Sun』のリリースを予定。来たる新曲をどこよりも早く轟音で浴びられるチャンスだ。

また、全身黒づくめのダーク・ゴシックな出で立ちで知られるホラーズもハズせない。彼らは2012年2月の記念すべき第1回〈HCW〉で初日のヘッドライナーに抜擢されていたが、シューゲイザーからポスト・パンクまで飲み込んだ破壊力抜群のサウンドは深夜の大バコにこそ映えるだろう。最近はキャッツ・アイズとしての活動など、中心人物であるファリス・バドワンのソロ・ワークが目立っていただけに、『Luminous』(2014年)以来ご無沙汰となっている新作にも期待が高まる。

 
ライド
photo by Andrew Ogilvy
 

あとはやはり、第2弾として発表されたライドは嬉しいサプライズだった。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスロウダイヴと共にシューゲイザーの御三家とも称される彼らは、2014年に突如再結成を果たしたかと思えば、翌年には〈フジロック〉出演に単独でのジャパン・ツアーも実現。今回の〈HCAN〉は21年ぶりのニュー・アルバム『Weather Diaries』(6月16日リリース)を引っさげてのカムバックとなるため、新曲から往年の名ナンバーまで揃えたセットリストで完全復活を印象づける一夜となりそうだ。

5月のショーケース来日が好評だったUSテキサスのドリーム・ポップ・バンド、シガレッツ・アフター・セックスも実は大バコが映えるんじゃないかと思う。2012年に発表したEPの収録曲“Nothing's Gonna Hurt You Baby”がYouTubeで5,000万回以上の再生回数を記録し、カート・コバーンの娘であるフランシス・ビーン・コバーンが絶賛したことで話題性も充分だが、今回は6月9日に発表されるデビュー・アルバム『Cigarettes After Sex』リリース後の出演というグッド・タイミング。フロントマンのグレッグ・ゴンザレスによる息を呑むほど官能的なヴォーカルと、ソフィア・コッポラ映画のような淡いサウンドスケープに包み込まれること必至で、シューゲイザー好きにも推薦しておきたい。

 
ビーク>
photo by Jerome Sevrette
 

そして、何があろうと見逃し厳禁なのがビーク>。このバンドでドラム&ヴォーカルを務めるジェフ・バーロウは、マッシヴ・アタックやトリッキーと並んで〈ブリストル・サウンド〉というジャンルを決定づけたポーティスヘッドの頭脳としても知られる人物だ。トリップ・ホップ(本人はこの言葉を忌み嫌っているが……)やアブストラクト・ヒップホップと形容されるポーティスヘッドのメランコリックな世界観とは異なり、ビークが鳴らすサウンドはクラウトロックやドローン・ドゥームを取り込んだ禁欲的なアンサンブルがキモ。

筆者は海外で3回ほど彼らのライヴを目撃したことがあるが、昨年11月にオランダ・ユトレヒトで開催された音楽フェス〈Le Guess Who?〉でのステージは、ビークのトレードマークである記号「>」をモチーフにした照明演出も加わりグレードアップを遂げていたので、ガチで期待してほしい。目下の新曲“Sex Music”(ジャケがヤバ過ぎ!)も披露されるはずだが、ポーティスヘッドのファンにとっては、ジェフの貴重な歌声をナマで聴ける絶好の機会でもある。ちなみに、ベーシストのビリー・フラーは2014年の〈サマソニ〉で、ロバート・プラント率いるバンドの一員として来日済み。スタジアムのスタンド席から彼の存在に気付いたときは、あまりの衝撃に言葉を失ったほどだ。

 
ブランク・マス
 

さらにブリストルといえば、かの地が誇るエクスペリメンタル/ノイズ・ミュージックのデュオ、ファック・ボタンズの片割れとしても知られるベンジャミン・ジョン・パワーのソロ・プロジェクト=ブランク・マスも個人的に大注目。3月にリリースした最新作『World Eater』の世界観そのままに、デシベル数無視の獰猛なビートとホワイト・ノイズの嵐で、寝ぼけ眼のオーディエンスをガツンと覚醒させてくれるに違いない。ファック・ボタンズは惜しくも中止となった2014年11月の第9回〈HCW〉出演を予定していたので、雪辱戦とも言える今回のステージはぜひ耳栓マストで駆け付けるべし。

そして、マシュー・ハーバートは〈HCAN〉レジデントDJとして3年連続の出演。いつもの変態的なアート作品群とは違って、〈踊らせること〉に特化したプレイは一見の価値アリだ。昨年はステージ転換中もDJを披露していた(!)彼のプレイは安定感抜群なので、ライヴで疲れたカラダのクールダウンにも最適だろう。こうして改めてラインナップを眺めると野郎ばっかりなので、このあとアナウンスされるであろうラスト1枠には、眉目麗しい女性アーティストの追加をお願いしたいところだが……。いずれにせよ、サマソニ本編以上に参加不可避なイヴェントであることは保証しよう。