VaVa
マイクを握って挑んだ新たなクリエイション
「去年にOMSBくんのライヴを観たときに、リリックの強さとか人間的な強さを感じて、〈ラッパーってめちゃくちゃカッコイイな〉って、初期衝動みたいなものを改めて思い出したんです」。
そう語るのはVaVa。まだ高校生だった頃のTHE OTOGIBANASHI'Sの面々のレコーディングを手伝ったことから、CreativeDrugStoreの一員として彼らと活動を共にするようになった彼は、OTG'Sの2作目『BUSINESS CLASS』(2015年)ではBIMとの共同名義を含めて6曲のトラックを手掛けるなど、クルーにおけるサウンドの要として活躍してきたDJ/トラックメイカーだ。過去に自主制作した2枚のソロ名義作(2013年の『Blue Popcorn』と2016年作『Jonathan』)がビート・アルバムだったこともあり、ビートメイク専業の人かと思っていたが、実はもともとラップをやっていたのだという。
「今年の1月頃からひとりで制作できる環境になって、〈自分のやりたいことは何だろう?〉ってふと考えたときに、またラップをやろうかなと思ったんです。それで、とりあえずアルバム1曲目に入ってる“My Shit”をラフに作って(SUMMIT代表の)増田さんに送ってみたら、〈いいですね〉って感じになって」。
そこから完成を見たのが、全曲ラップ入りのニュー・アルバム『low mind boi』。全曲のトラックはもちろんラップも自身のワンマイクのみで貫いた、すべてをひとりで制作したもの(しかも制作期間はわずか2か月!)。ゆえにラッパーとしての自我の確立を宣言する先述の“My Shit”で幕を開ける本編には、VaVa本人の日常と日々の感情が率直に綴られている。例えば〈逃げているわけじゃない 前を向いてたいだけ〉というラインが印象的な“low mind spaceship”は、彼が昔よく見た夢をモチーフにしているのだという。
「中学~高校の頃はずっと音楽とゲームにハマってたので、学校に行きたくなかったんです(笑)。そういうロウなテンションのときに、さらにロウなものを求めることで気持ちが落ち着くみたいなところがあって。そんなときは必ず、暗い宇宙空間で黒だか赤だかわからないものがものすごいスピードで僕にぶつかってくる夢を見たんです。しかも、その夢を見た後は1時間くらい、それが夢か現実なのかわからなくなって」。
そういった彼の内面宇宙を覗き見るような感覚は、リリックのみならずサウンドの印象から生じるものかもしれない。普段はマック・デマルコなどのインディー・ロックやゲームのサントラを聴くことが多いという彼の作り出すトラックは、ビートの芯の太さとメロディアスなウワモノのセンスがマイルドな歪みを形成し、奇妙な心地良さと共に聴き手を現実と夢想の狭間へと誘う。前半部分は自身のビート集『Blue Popcorn』より“Abyss”を「昔の自分にビートをもらう」感覚で流用しつつ、後半はドラムンベース化させて新しい自分を表現した“New Season”、マジメな〈A〉と自堕落な〈B〉という二面性の葛藤をダークな音像と共に戯画化した“Another One”など、自己を表現するアプローチの仕方も実に多彩だ。
「基本的に全曲、自分のロウな観点がリリックに入ってると思うんですけど、そのロウのなかでも自分的に楽しいことだったり、むかついたことだったり、幸せだったりとかが出てますね」。
そんなロウ・マインドの持ち主だけあってか、最後はウォーキング・テンポのソウルフルなトラックに乗せて音楽ができる喜びを表現した“Keep All”で明るく締め括られるものの、そこにもどこか不安の影が落ちている。だが、その嘘偽りない気持ちの生々しい表出こそがVaVaらしさとして胸に迫るのだ。
「自分で自分が弱いことを知ってるから、完全にどの曲にもこれからの自分の不安がフィルターとして入ってますね。けど、自分の弱さをわかってる人は逆に強いような感じがして、すごく憧れがあったし、思ってることをさらけ出して作ったほうが、もっと楽しくなるだろうし。何をやりたいか自分でもわからなかったけど、やっとアンサーが出ました(笑)」。
“魔法って言っていいかな?(VaVa Remix)”を収録した平井堅のニュー・シングル“ノンフィクション”(ARIOLA JAPAN)
Reaching the SUMMIT
★Pt.1 SUMMIT『Theme Songs』
★Pt.3 C.O.S.A.『Girl Queen』
★Pt.4 CDで追うSUMMITのディスコグラフィー