INTERVIEW

小山実稚恵『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』 これまでになかった《ゴルトベルク》の世界 ~小山実稚恵が実現したもの

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  • 2017.07.11
(C)Wataru Nishida

これまでになかった《ゴルトベルク》の世界 ~小山実稚恵が実現したもの

 名演も多いけれど、現代のピアノを弾くピアニストにとってなかなか難しい問題をたくさん含んでいるJ.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》(1742年出版)を小山実稚恵が録音した。《ゴルトベルク変奏曲》の正式タイトル(出版時)は《2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏》であるが、そのことを録音中にも意識させられたと小山は語る。

小山実稚恵 バッハ:ゴルトベルク変奏曲 Sony Music Japan International(2017)

 「2段鍵盤のチェンバロでは、上の鍵盤と下の鍵盤を使って左右の両手の動きを交差させることも出来るのですが、現代のピアノではそれは無理です。近接した音を弾く時は困難な訳ですが、もっと突き詰めると、ひとつの鍵盤で音を出した後に、違うニュアンスで同じ鍵盤を使いたい。本当に、コンマ何秒という短い時間で、その動きをコントロールすることが出来るかどうか。そういう課題に取り組み、調律師さんの協力も得ながら、緻密な作業を繰り返していました」

 より大切なことは、この〈変奏曲〉がひとつの主題とその30の変奏という風に簡単に言えないことだろう。「その通り。第16変奏はフランス風序曲の形式で書かれている訳ですが、それだけでもない。第15変奏までのひとつひとつの変奏に個性があり、それがいちおう第16変奏で新たな出発を迎え、さらに独自の個性を持つ変奏が続いて行きます。そして第30変奏は〈クォドリベット〉といって、民衆的な歌が2つ登場して、主題と絡んで行くのですが、その変奏がとっても好きです。最後のアリアの前に、長い旅を終えた人を迎えるような、温かい人間性が溢れて来るのを感じて感動してしまいます。実はこの変奏が一番好きです」

 あの壮絶な忙しさの中で、バッハはどうしてこんな大作を残せたのか、それも謎だが、この30の変奏のひとつひとつに込められた知識と経験の厚みは、本当に余人には達成できない世界である。だからこそ、グールドだって2度も正式な録音を行ったのだろう。

 「正直言って、バッハへの畏敬の念が強過ぎて、なかなかバッハの作品を取り上げることが出来ない時期がありました。ようやく2000年頃からバッハの音楽に向き合えるようになり、この《ゴルトベルク》も実演で何回か取り上げました。その成果がこの録音に結実していると思うので、ぜひ聴いて頂きたいです」

 そう。実際に小山の録音を聴いてみると、そのひとつひとつの変奏の中に含まれる豊かな世界が実感できる。私にとっても、この録音はこれまでに無い《ゴルトベルク》体験だった。その深い表現のなかに、バッハに真剣に向き合う小山の姿が重なる。軽井沢の冬、その景色を脳裏に浮かべながら、もう一度聴いてみることにしよう。

 


LIVE INFORMATION

小山実稚恵12年間24回シリーズ

〈音の旅〉第24回 ~永遠の時を刻む~
○10/15(日) 16:00開演 会場:FFGホール(福岡)
○10/22(日) 15:00開演 会場:日立システムズホール仙台(宮城)
○10/28(土) 15:00開演 会場:宗次ホール(愛知)
○11/10(金) 19:00開演 会場:札幌コンサートホールKitara(北海道)

〈ピアノ・ロマンの旅〉
○11/19(日) 14:00開演 会場:いずみホール(大阪)

〈小山実稚恵の世界〉
○11/25(土) 15:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール(東京)
www.sonymusic.co.jp/artist/MichieKoyama/

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