INTERVIEW

シティー・ポップではなくリアルタイムの〈ポップス〉―Special Favorite Musicに映る、決して消えない音楽という記憶

Special Favorite Music『Royal Blue』

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  • 2017.08.04

“Royal Memories”は筒美京平をやろうとした

――相反する要素を同居させているという点では、楽曲の並べ方にも、そうした意識があったのかなと思ったんです。乱暴に言うと、ポップで陽性なA面と、ちょっとムーディーで陰のあるB面とカラーがきっぱり分けられている気がして。

クメ「後半は、ちょっと陽が落ちてきた感じですよね」

――そうそう。特に頭4曲はダンサブルだし、往年のソウルやディスコを彷彿とさせる開放感があると思いました。特に1曲目の“Royal Memorires”はダンス・クラシック~ガラージ・ハウス的で。

クメ「“Royal Memories”は筒美京平をやろうとしたんです。あのブラスの突き抜ける感じとか」

Special Favorite Music「Royal Memories」(Official Video)
 
筒美京平が作編曲を行った岩崎宏美の78年の楽曲“シンデレラ・ハネムーン”
 

――あー、すごくわかります。筒美京平は歌謡曲にダンス・クラシック~フィリー・ソウル的なサウンドを落とし込む名人ですしね。

ラビンユー「この曲は、いままでのSFMの曲でいちばん体力を使いました」

――それは歌唱における譜割り的な面でですか?

ラビンユー「いえ、気合い的なところで(笑)」

――フフフ(笑)。続く2曲目の“スタンドバイミー”は1曲のなかに〈これでもか!〉とばかりに多くのリズム・パターンが入っていて驚きました。

クメ「これは影響源みたいなものをいっぱいくっつけましたね。ゴスペルや、インディー・ポップ、それから70年代などの歌謡曲やディズニー・ソングのメロディー。ゴスペル……というかメンバーで歌ったのでどっちかというとハイスクール・ミュージカルになりましたが(笑)。そこからはじまって、最後はなぜかマーチングのリズムまで緩急を縫うようにしてたどり着く」

――すごいミクスチャー(笑)。

クメ「でもポップスというフォーマットからは逸脱しない曲にしたいとは思っていました。最初、ミュージカルみたいなアルバムにしようという裏テーマもあって、一曲のなかでストーリーを作りたかったんです。歌い出しとかセリフから入りそうじゃないですか、この曲」

――確かに。一方で、後半の4曲はどちらかといえば今日的なリズム感が敷かれていますね。アルバム全体を通してドラムが打ち込みっぽいエディットのされ方をしているように思いました。

クメ「ベーシックな4人バンドとかより必然的に音が多くなるんですよね。だからドラムのフィルインとかも効果的なものでかしか入れず、そこは緻密に作っていますね。自由奔放にやっちゃうと楽器同士が潰し合いかねないので、ドラムは極力シンプルに効果的なフレーズだけを入れようと丁寧にアレンジしてます」

――クメさんが寄稿してくれていたタワーレコードの2016年ベスト・アルバム企画でフルームの『Skin』を挙げられていて、そのコメントに〈いつでも気分と体の動き方を更新してくれる音楽が最高だと思ってる〉と記されていたじゃないですか。今作にもその意識が忍ばされているのかなと思ったんですが。

クメ「〈気分〉は音楽との接し方、〈体の動き〉はビートそのものについて言ったんですが、特にいまは〈気分〉を更新できる音楽に惹かれています。僕はSpotifyで音楽を聴いてるんですが、SFMではその自分の音楽の聴き方、接し方をそのまま躊躇せず正直にアウトプットしていて。インプットが変わればアウトプットが変わるように、聴き方が変われば作り方が変わるのは当然だと思っているんですよ。なんと言われようとそこは正直にいたいし、僕は自分の聴き方と感じ方そのままにSFMで音楽を作っています。そういうバンドって、まだ少ないと思うし、新鮮に感じてもらえたらなという思いがあります」

――ブラッド・オレンジやソランジュを思わせる冷たい感触の“Highlights”もあるし、いずれにせよリズム面で挑戦した作品だと思うんですけど、全体を通して聴くかぎりはそれが敷居の高さを生んではいない。ポップスとして成立している音楽になっていると思うんですよね。

クメ「そうですね。そこのバランスみたいなのはめっちゃ気を使っていました。だから、最新の洋楽みたいな音楽をやるということに主眼を置くのではなく、それを通過したうえでどういう意味のある曲をやるかを考えていましたね。音真似したところで意味がなくて、それを使ってあくまでひとつの曲として少しでも伝わるようにしたいなと」

 

世の中がどうなったって、未来に対してはロマンチックでいたいね

――さっきのタワレコの記事では〈僕もSpecial Favorite Musicを通じてバンドっていう価値観に少しでも新しい価値を流し込めたらいいなって思ってる〉とも書かれていて、〈偉い!〉と思ったんですよ。

クメ「ハハハハ(笑)! かなり挑戦的な発言ですよね。まだまだできていないと思うんですけど、編成面でも特殊なバンドだし、スタンスとしても新しいものを見つけて、提示していきたいと思っているんですよ。でも、〈並じゃないことやってんだぞ!〉ってことを上手く伝えられるようにしていきたいです。“Royal Memories”も、“Ceremony”も、こんなアレンジをするバンドは他にいないし、こんなに楽曲の幅が広いバンドも珍しい」

――その〈バンドっていう価値観に少しでも新しい価値を流し込めたらいいな〉という意思をふまえて今作を聴くと、SFMの音楽がいわゆる〈シティー・ポップ〉と似て非なるものになっている背景には、クメさんのインディー・ロックという出自が関係していると思ったんです。そこで、重なって見えたのはブラッド・オレンジことデヴ・ハインズの姿で。

クメ「僕はほんと好きなんですよ。彼の作品はぜんぶ聴いています」

ブラッド・オレンジの2016年作『Freetown Sound』収録曲“Augustine”
 

――デヴ・ハインズも音楽性や名義を変えつつも、彼ならではのセンスや魅力は一貫しているところがある。そこがクメさんの作家性とも共通している気がした。もしかしたら不本意かもしれないけれど、やはりSFMもインディーの魅力を持った音楽だと思うんです。雰囲気の〈インディー〉ではなく、インディーという在り方に魅了されてバンドを始めた人にしか鳴らせない音楽だなと。

クメ「全然不本意ではないですよ。それは今回作っていて、絶対拭い去れないものだなと感じました。どういう曲を書いても自分というのは残るんだなと」

ラビンユー「でも、そこをなくしてしまうと結構違うものになってしまうとも思うんです。むしろ、クメくんのその要素は絶対になくしちゃいけないような」

――さらに言うと、パンクの人がどんな音楽をやってもパンクになるという意味で、〈クメユウスケはポール・ウェラーであり、SFMとはスタイル・カウンシルである〉とも思ったんです(笑)。ジャムでのパンク・サウンドから、徐々に音楽性を変化させていき、スタイル・カウンシルでモダンなブルーアイド・ソウルを築きあげたポール・ウェラーのキャリアと、NOKIES!を経てSFMに辿り着いたクメくんの足取りは近いなと。

クメ「いやー、近いですね。いま言われるまで意識したことはなかったんですけど」

――ソウルやジャズ・ファンクを吸収しつつも、懐古ではなくその時代ならではの音楽になっているという点でも、共通しているなと。

クメ「恐れ多すぎですけどね(笑)。彼らの『Café Bleu』とかは一枚でその時代のサウンドトラックみたいなアルバムですもんね。ポール・ウェラーも、その時々で自分に必要な音楽に正直にいたっていうことで、そういう面では近しいものを感じます」

――それこそ『Our Favorite Shop』というアルバムもリリースしているし。

クメ「そのタイトルからバンド名をとったわけではないんですけどね。ただ、ジャムも大好きだし、頭のどこかにあったのかもしれないな」

スタイル・カウンシルの84年作『Café Bleu』収録曲“My Ever Changing Moods”
 

――スタイル・カウンシルはサウンドこそお洒落ですが、歌詞は非常に政治的で当時のサッチャー政権への痛切な批判が綴られていた。SFMの歌詞はそこまで直接的な社会への言及はないけれど、世の中のムードや空気感を切り取ったものにはなっているとは思うんですね。

クメ「僕はそこまで賢くはできないし、社会背景までを汲み取ろうみたいな意識はないけど、いま生きているわけだし、空気みたいなものはキャッチできていればいいなとは思っています。いまを生きてる人たちに響いてほしいから、世の中のムードと無関係には書いていないですね。否応なしに生きていたらそういうのをキャッチするから、自然にそれを歌詞にも書いています」

――これはたぶん狂った見立てなんですけど、“Ceremony”の歌詞はデモについて綴っているようにも思えたんです。

クメ「ハハハハ(笑)」

――というのも、先日このアルバムを聴きながら国会議事堂付近を歩いていると、どういうわけか無性にしっくりきたんですよ。駅前ではTPP反対の小さな集会が開かれていたり、警察がいっぱいいたり、そうした政治的な風景と、この時代を生きる若者が煌めきを託した音楽、それら双方の切実さが重なっていく景色に2017年の空気みたいなものが凝縮されている気がして。

クメ「あー、でも“Ceremony”の〈将来どんな歌も分かち合えない/そんな夜が来たって/今日出会えたことを思い出だすために/踊り続けようぜ〉という箇所は、特にいまの状況みたいなものを加味して書いたと思います。2020年にオリンピックがきたあと日本はどうなっているんだろうなとか、オリンピックを乗り越えたあと、みんなが分かち合えるような歌はもうなくなっちゃうんじゃないかとか、そんなことを思いながら書いた歌詞なんです。応援する歌だって言ってくれる人も多くて、それはそれでぜんぜん間違いとかじゃないんですが、どっちかというと、〈世の中どうなったって、未来に対してはロマンチックでいたいね〉という想いを込めた曲ですね」

――そうしたクメさんの視線が、今作の同時代性に貢献しているように思います。

クメ「僕のなかで作品になる最低限の条件のひとつとして、自分というものといまの流れている空気が重なる部分を狙いたいというのはすごくあって。昔の歌謡曲とかを聴いて、〈これはいま必要な音楽なんじゃないか〉とか〈自分がいま聴きたい〉と思うときに、みんなもそうなんじゃないかなと信じられる瞬間がたまにある、その自分の直感と〈いま〉を貫いた音楽を作りたいんです。それがインディー精神にも繋がっているんじゃないかな。リアルタイムでありたいとは強く思っています」