(左から)ラビンユー、クメユウスケ
 

大阪拠点の大所帯バンド、Special Favorite Music(以下、SFM)がセカンド・アルバム『Royal Blue』をリリースした。フロントマンであり作詞/作曲を担うクメユウスケがソロ・プロジェクトとして始めたSFMだが、次第に女性ヴォーカルのラビンユーや、KONCOSの古川太一の実弟にして同バンドのサポートも務めるサクソフォニスト、フルカワユウタらが加わり、現在は7人編成で活動。チェンバー・ポップ的な菅弦楽器の音色とブルーアイド・ソウル/ミッド・ファンクのリズム感を重ねた、華やかかつメロウなサウンドで人気を博している。

初作『World’s Magic』から約1年3か月ぶりのアルバムとなる『Royal Blue』は、ダンス・クラシック的な全能感を喚起する“Royal Memories”、SFM版スタイル・カウンシル“Lodgers”とでも言いたくなるほどに洒脱な先行シングル“Ceremony”、さらに冷ややかなファンクネスがブラッド・オレンジなど時流のブラック・ミュージックを想起させる“Highlights”など、リズム面での多彩さを増した8曲を収録。しなやかで力強いグルーヴにいやおうなく身体を預けてしまう一方で、クメユウスケが大学時代に活動していたバンド、NOKIES!時代から変わらぬ彼の作家性――胸を打つほどに瑞々しい蒼さが、逆説的に存在感を強めていることにも注目したい。そのサウンドから〈シティー・ポップ〉と括られることも多い彼らだが、『Royal Blue』はそうした記号的なレッテル貼りを拒む、彼らならではの魅力がくっきりと前景化した作品になった。では、他のバンドとは一線を画すSFMの個性とはいかなるものか。そして、それはどんな背景から生まれたものなのか。クメとラビンユーの2人に話を訊いた。

Special Favorite Music Royal Blue Pヴァイン(2017)

自分の音楽がシティー・ポップだとは思っていない

――新作の話をする前に、前作を軽く振り返ってもらうところからスタートしたいんですが、ファースト・アルバム『World's Magic』はSFM、あるいはクメユウスケという音楽家のどんな側面をとらえた作品だったと思いますか?

クメユウスケ(ヴォーカル、ギター)「それまでの人生で聴いてきた音楽のなかから、洋・邦とか時代に関係なく自分が本当に好きだったものを一個一個思い出していき、そのうえで〈真摯にいい曲を書こう〉という気持ちで作ったアルバムでしたね」

――では、リスナーや周囲からの『World’s Magic』への反応で特に印象的だったものは?

クメ「シンプルに〈曲を聴いて好きだったからライヴに来た〉というのがいちばん嬉しかったですね。“Baby Baby”のイントロでめちゃくちゃいい曲だと思って、その瞬間にCDを買ってライヴに来ましたっていう」

――なるほど。話題になっているとか流行のサウンドだとか色眼鏡を掛けたうえでなく、ぱっと耳に入ったときに〈いいじゃん〉と思えるものを作りたかったということですか?

ラビンユー(ヴォーカル)「そうです。それはほんまにそう」

――その手応えがちゃんとあったということですよね。

クメ「ほかのバンドと比べたときに、大きい/小さいかはわからないんですけど、自分なりの手応えもありましたね」

2016年作『World’s Magic』収録曲“Baby Baby”のライヴ映像
 

――逆に〈それはちょっと違うなー〉と思ってしまった感想は?

クメ「それはもちろんいっぱいあります。でも誰でも、それはあると思いますし。それこそ、作り手の課題だし葛藤として必須だと思うので。まず〈シティー・ポップ〉って言われて、そこでストップされるのはもったいないなあというのは大きかったですね。たぶん、このバンド形態だとどんなサウンドをやっても、ある程度はそう解釈されるなとも思うんですが」

――管弦楽器が入っていてミッドテンポのグルーヴでコード感がオシャレとなると、いまの日本ではそう捉えられてしまう部分はありますよね。

クメ「ただ、自分の音楽がシティー・ポップだとは思っていないです。本来の意味でのシティー・ポップをやっていた人や現在やっている素晴らしいバンドたちに恐縮だし、メジャーの7thコードやエレピが鳴っていたらシティー・ポップだなんて、決して違うと思うし。それは表層にすぎなくて、もうほとんどおざなりになってしまっているけど、シティー・ポップの本質はもっと別のところ。そもそも僕は東京じゃなくて京都の大学で過ごしていたから、京都独特の〈折衷〉という価値観からの強い影響があると思います。『World's Magic』はレヴューや反応を見ても、〈単純にポップスの良さが詰まったアルバム〉として受け取ってもらえたのをたくさん発見できたし、そこに強い手応えがありました」

2016年作『World’s Magic』収録曲“Magic Hour”
 

――そういった『World's Magic』へのリスナーからの反応が、今回の制作に影響を与えた面はありますか?

クメ「そうですね、自信になったという点で影響しています。ただ、聴いてくれてる人の反応もそうだけど、バンド自体の強度の上がり方――ラビンユーの歌がどんどん前に出てきたことなどバンド自身の変化があり、単純に僕らももっと違う景色を見せたいし、それを聴いてほしいという感覚のほうが強かったです」

 

すべてが変わってしまったあとにも、音楽は誰かのなかに残り続ける

――今年の3月にリリースされた新作のリード・シングル“Ceremony”は、SFM流メロウ・ファンクの到達点でありつつ、セカンド・アルバムに向けた挨拶としての側面を持った楽曲だと感じました。バンドにとっても大事なナンバーかなと思ったんですが、いかがですか?

クメ「“Ceremony”に限ったことではないんですが、僕の現在の音楽の聴き方が強く出た楽曲だと思いました。誤解を恐れずに言うとSpotify的な価値観というか。振り返れば、ファーストの頃からそうなんですが、プレイリスト的な創作感なんですよ。(“Ceremony”を)作ってたときはstarRoのアルバム『Monday』を好んで聴いていて、それとm-floも。あとジャネット・ジャクソンの『Control』(86年)も聴いていましたね。これらをプレイリスト的に並列に聴いてたからこそ出来た楽曲だと思います。こうやって話してみると、影響源にバンドがいないのも特徴ですね。それを日本のポップスに落とし込みたくて作ったんです」

ジャネット・ジャクソンの86年作『Control』収録曲“When I Think Of You”
 

――いま、創作の感覚としては前作時と同じと話してくれましたが、実際に作り終わったときの感触に違いはありましたか?

クメ「そうですね。よりポップソングというフォーマットに近づけたように思いました。というか、『World's Magic』は日本語で曲を書きはじめて、まだ10曲も出来ていなかったくらいからの作品だったので、単純に考えを形にする技術が追いついてきた感じです。『World's Magic』はアレンジやミックスはオルタナティヴな要素もより強かった。相変わらず好き勝手にやってる曲もありますが、よりポップスというフォーマットが見えやすくなったんじゃないかな」

――“Ceremony”では、いやおうなく流れていく時間のなかで、いずれ忘れてしまうがゆえに刻んでおこうという想いが描かれていますが、それはアルバムでフォーカスした〈Royal Blue〉というキーワードの芽生えを感じさせていたように思います。〈Royal Blue〉というテーマはクメさんのなかで時間をかけて熟成させていったものなんですか?

クメ「今作の〈Royal Blue〉という言葉には、あらゆる感情を肯定していきたいというテーマを反映しているんです。その感覚自体は僕が昔から音楽を聴いて受け取ってきたものだとは思っていて、いつかこういうテーマで自分も作りたいなというのはあった」

――アルバムのインフォメーションでも、〈思い出や喪失(Blue)+僕達の人生を形どるとても大切で美しい(Royal)な“感情を肯定”〉と書かれていますが、クメさんのなかでRoyalとBlueの関係はどう位置付けられていますか? 傍らにあるものなのか、それとも対極に位置するものなのか?

クメ「うーん……めっちゃ難しいな(笑)」

――ハハハ(笑)。なぜ〈Royal〉と〈Blue〉を並べなければいけなかったんでしょうか?

クメ「今作では〈弱さ〉も肯定していきたいと思っていたんですが、それを表すのにBlueだけだと違う気がしていたんですよ。僕は作品というものはすべて、どこかで誰かが特定の価値観に基づいて良し悪しの判断を残したものだと捉えています。それがないとただの日記にすぎないし。〈いま僕は、感情というものを再度大切なものだと確認して、それを音楽を使って称えるということが、どうしても必要だと思っている〉ということを2つの単語で言い表したかった。その上で、〈Blue〉という感情を表す言葉に何を付けるのがいいかを考えました。だけど〈Great〉や〈Amazing〉で放り投げるには楽観的すぎると感じたんです。現状を両手放しで楽観的に見るんじゃなくて、ダメなところはダメなまま、でもそういうものだって尊いものなんだってことを言うためには、なんという言葉を使えばいいんだろうと考えたら、〈Royal〉という言葉が浮かんだんです。ただそっと称える言葉として〈Royal〉を冠しました」

――今作では、〈Royal〉と〈Blue〉の挟間にあるものを描こうとしたのかなという気がしました。

クメ「そのとおりだと思います。〈楽しい〉にも〈悲しい〉にもあらゆる心の動きに添える音楽を作れたらと思っていて、歌詞でもそういうことを大切にしています」

――そのうえで、“Ceremony”と同様に、アルバムでも〈忘れる〉という言葉がたびたび出てきていて、〈儚いもの〉〈なくなってしまうもの〉がモチーフになっていますね。

クメ「自分が音楽で何をしたいかということを考えたときに、消えていくものを残したいと思ったんです。やっぱり年をとるごとに環境も変わるし、友達も結婚したり転勤で引っ越したり、流れるように周りも変わっていく。でも、みんなで聴いていた音楽はずっと残っていて。これからもそういうことがいっぱいあるんだろうなと思ったし、自分だけじゃなくて他の人もそのなかにいながら生活をしているんだなと想像できた。それが網目みたいに折り重なっている世界はすごくドラマティックなものだと思い、それを残したくなったんです。自分の書いた曲が、すべてが変わってしまったあとにも誰かのなかに残り続けるものになれたら――そういうのがいちばん嬉しいです」

――そうやって書かれたクメさんの言葉をラビンユーさんは歌われているわけですけど、今回の歌詞についてはどんな印象を抱かれました?

ラビンユー「今回の歌詞はいっぱい好きな箇所があるんですけど、私が特に感動したのは“Royal Memories”の〈騒がしい胸のざわめき/生まれては消えてくね/君を想い、そして忘れていく/美しさの中で〉というところ。〈忘れていく〉と綴られているけれど、それは終わらずに続いていくという意味でもあるじゃないですか? 今回の歌詞はぜんぶ、そういうことが描かれていると思っていて、それを伝えられるように歌いました」

――確かに、今作は寂しさと前に進む意志が同居している作品ですよね。それが『Royal Blue』という言葉に集約されているなと思いました。

ラビンユー「タイトルが『Royal Blue』だし、寂しい作品だと思われるかもしれないけれど、そこで終わってほしくないなと思います」