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高橋悠治『エリック・サティ : 新・ピアノ作品集 』 未完の作曲家サティにふさわしい進行中の記録にとどめておきたい~エリック・サティの定番曲を新録音!

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  • 2017.08.29
高橋悠治『エリック・サティ : 新・ピアノ作品集 』 未完の作曲家サティにふさわしい進行中の記録にとどめておきたい~エリック・サティの定番曲を新録音!

未完の作曲家サティにふさわしい進行中の記録にとどめておきたい~エリック・サティの定番曲を新録音!

 定番も定番、ジムノペディ、グノシエンヌ、サラバンド、ノクチュルヌである。あいだには《3つの歌》のピアノ用編曲が一種の間奏曲のようにはいっている。ボーナス・トラックとして《ジュ・トゥ・ヴ》があるのは、ほかの作品との同時代とのつながりと、文字どおりのボーナス、あるいは、アンコールのニュアンスか。

高橋悠治 エリック・サティ : 新・ピアノ作品集 コロムビア(2017)

 2年つづいたエリック・サティのアニヴァーサリー・イヤーも後半にはいったあたりだったか、高橋悠治が1970年代の後半にリリースした3枚のアルバムがボックスとしてあらためて店頭にならんだ。この録音の時期、高橋悠治はコロムビアでバッハから自作、シューマンからクセナキス、佐藤允彦やスティーヴ・レイシーとのインプロヴィゼーションと、何枚もアルバムをつくっている。3枚のサティ録音をボックスにとの要望を伝えたディレクターは、ここでコロムビアで高橋悠治の録音がほぼ30年ぶりであることを知った。あわせて、サティを新しく演奏・録音するというはなしが急遽浮上してくることに――――、たまたまボックスのライナーノートを依頼されたわたしは耳にしたのだったが、そのときは勝手に、サティの新しい版の全集もでたし、何年か前には《星の息子たち》全曲をダンサーの山田うんと共演していたし、とおもって、そういったこれまでにないものがでるのだとおもいこんでいた。

 結果、どちらでもなかった。冒頭に記したように、定番曲をあらためて演奏・録音、である。

 かわりにというのはヘンだが、2017年2月におこなわれたリサイタルでは、サティ《コ・クオが子どもの頃(母のしつけ)》が演奏されていた。「20世紀前半の作曲家が子どもの音楽を書くとき 限られた素材を使った短い曲は いままでとはちがう作曲法を試す場でもある」と高橋悠治は記し、バルトークやブゾーニ、ストラヴィンスキーやヴェーベルンの「子どものための小品」と、パーセル、クープラン、自作とを組みあわせたプログラムを組んだ。これはマイスター・ミュージックからアルバム『めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽』としてリリースされることになる。

高橋悠治 めぐる季節と散らし書き子どもの音楽 マイスター・ミュージック(2017)

 プレスリリースにある高橋悠治自身の文章から部分的に引く――――「こんど誘われて1枚にまとめた再録音では、貧しいものの音楽、小さなもののつつましさ、ひそやかさ、その息づかいや、鍵盤に触れるその時に生まれる発見から次の一歩が決まるような、どことなく危うい曲り道を辿る、音から次の音へのためらいがちな足どりの、未完の作曲家サティにふさわしい進行中の記録にとどめておきたい気があった」

 おもいかえしてみれば、《ゴルトベルク変奏曲》もコロムビアでリリースされ、エイベックスで新しく演奏・録音されたものだった。この作曲家・ピアニストが演奏法について、バッハの時代でのやり方を考証し試してみるにとどまらず、鍵盤を持つ楽器と身体とのつながりをどうするかを思考し、書かれてのこされたものと、その場かぎりで消えてゆく即興とをとらえかえすものだった(とわたしは考えている)。ピアノという楽器と身体、そこで生まれてくる音・音楽と、書きつけられた音符から逆に不安定な、楽曲をつくってゆく瞬間瞬間。それをサティの初期、シンプルだけれども、どこか不安定で、こう進むという予定調和をわずかにずらしてしまうそんな足どりを、あらためて試みてみよう。高橋悠治はそんなふうに考えているかにみえる。

 宙にあらわれて消えてゆく音楽を、何らかのかたちでとどめようとしたり、伝えようとしたりする。それが楽譜だったり録音だったり、あるいは伝承だったりする。試みは試みとしてから徐々にかっちりとした、動かしがたいものとして扱われるようになる。それはそれでいい、というか、それはそれでひとつのイデオロギーとしてありつつも、そうではなく、と、あるいは、そういうのとはちがって、というかたちで、逆に楽譜や録音といった確定され安定したものからどのように不安・不安定にしてゆくのか、が、ひとつのやり方としてあるのかもしれない。わたしの誤解・誤読・誤聴であるのかもしれない。そこにサティがとりあげられると、どうなるか。旧録音との聴きくらべもぜひ。

 


LIVE INFORMATION

1917年のドビュッシー ~最後のコンサート~
○9/30(土)14:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
出演:青柳いづみこ(p、 企画・制作) Gérard Poulet (vn)盛田麻央(S)高橋悠治(p)

高橋悠治 50人のためのコンサート in 広島
○10/9(月・祝)14:00開演
会場:カワイ広島コンサートサロンパーチェ
出演:高橋悠治(p)

ドビュッシーから高橋悠治へ 大分
○10/14(土)15:00開演
会場:日本福音ルーテル大分教会
出演:波多野睦美(MS)高橋悠治(p)

シューベルト 「冬の旅」全曲
○10/15(土)15:00開演
会場:日本福音ルーテル大分教会
○10/17(月)19:15開演
会場: 豊中市立芸術文化センター 小ホール
出演:波多野睦美(MS)高橋悠治(p)

高橋悠治の耳vol 10 ~ジュリア・スーをむかえて
○11/5(日)16:00開演
会場: 三軒茶屋サロン・テッセラ
出演:高橋悠治(p)Julia Hsu (許佳穎)(p)

www.suigyu.com

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