INTERVIEW

BAD HOP『Mobb Life』 時代の空気を塗り替えてきたバッドボーイたちが初の全国流通アルバムに込めたヒップホップへの想いとは?

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  • 2017.09.05
写真/cherry chill will.

時代の空気はバッドボーイたちが創造する――ハードな環境下でライフスタイルを貫いてきた最重要クルーが、初の全国流通作『Mobb Life』でその美学を世に問う!

マインドが変わってきた

 神奈川県は川崎市川崎区の池上町育ち。日本のヒップホップ・シーンの盛り上がりを牽引する本命馬たちが本格的に動き出した。TV番組「フリースタイルダンジョン」の初代(かつ最年少)モンスターとしても広くその名を知らしめたT-Pablow、その双子の弟にして兄と並んで〈高校生ラップ選手権〉を制したYZERR、そして地元のMCやDJたちから成る大所帯クルーがBAD HOPだ。昨年YouTubeで公開した“Life Style”のMV再生数は現在までに650万回を超え、無料配布したCD『BAD HOP ALL DAY』は全国各地で争奪戦になるなど、一つの現象とも言えるほど熱のある活動を続けてきた。そんな彼らが完成させた初の一般流通アルバムこそ、今回リリースされる意欲作『Mobb Life』だ。制作の舵を取ったのはYZERR。「基本は僕が雰囲気を決めて、そのうえで〈こういう曲が足りないな〉とか〈こういう感じだな〉とか、パズルみたいな感じでちょっとずつ埋めていきました。ラッパーが8人いるんでノリを大事にしています」。

BAD HOP Mobb Life BAD HOP/KSR(2017)

 とはいえ、メンバーのほとんどが地元を同じくして育った同級生(YZERRによると「Benjazzyだけが一つ年上」とのこと)である。仲間同士で緊張感を保ちながら制作するのは容易くなかったのでは?とも思うが、「距離が近いから、逆に何でも正直に言える」(YZERR)とのことで、互いを知り尽くした仲だからこそ、クォリティーの高さと本音を兼ね備えた作品が生まれてくるということらしい。

 「先輩とかよりもメンバーのほうがキツいことを言ってくるんです。ダサいラインを書いちゃったら、それをネタに一週間イジられることもある(笑)。延々とリリックを書いてはダメ出しされて、スランプみたいになった時期もありましたね」(Tiji Jojo)。

 BADHOPといえば、フリー配信の形式で発表した『BAD HOP 1DAY』、そしてメンバーそれぞれが全国各地へとデリバリーした先述の『BAD HOP ALL DAY』と、既存の2作品がすでに大きな成果を上げていた。それらを通じて仲間内での制作環境やメソッドも整っていたはずだが、満を持してのデビュー・アルバムとなると、その意気込みにも変化があったという。

 「去年の活動を経て、〈(作品を)聴いたよ〉って言ってくれる方も増えました。川崎のCLUB CITTAでフリー・ライヴをやった時も満員のお客さんが来てくれて、〈注目されてるんだな〉と感じましたし、そうしたことが今回のアルバムのモチヴェーションに繋がりましたね。周りのみんなも変わったし、これまでのノリよりも本気っていうか……〈ちゃんとやらねえと〉って心境でした」(Tiji Jojo)。

 「これまでヘイターだった地元の人も応援モードになってくれたり、地方で客入りが良かったとハコの人に喜んでもらえたり。ちょっとずつ、そういうところで自分たちのマインドが変わってきたりして、今回はそういう影響もデカかったですね。僕らにとっては初めてちゃんと全国流通する作品で、みんながお金を払ってもらって聴いてもらうわけだし、自分たちも胸を張れるような作品にしないと、と思って制作に集中しました。結果、そういうアルバムになったと思います」(YZERR)。

 そうやって仕上げられた『Mobb Life』には、いまの彼らにしか出せないフレッシュかつ刹那的なヒップホップ・ヴァイブスに満ちた16曲が並んでいる。そんな自分たちの持ち味については、「僕たちも普通に大人になればいいんですけど(笑)、大人になりすぎちゃうと僕たちじゃないような気もするんで、そこは貫きたい部分でもあります」と、YZERRも意識的だった様子だ。

 

ヒップホップはもっと自由でいい

 アルバムを聴けば、しっかり線引きされた〈リアルとフェイク〉の境界が浮かび上がってくる。冒頭の表題曲からYZERRは〈町中にはびこるFake/お前ら名前だけに群がり/写メ撮りSNSでFLEX/それお前達の力じゃない〉とラップし、VingoとBarkによる“あ?”には〈カッコだけのエセB-boy/ダサい奴ばっか/ステージ立てばrapper?/マイク持てばrapper?/ダサいbattle rapper〉と、昨今の流行りに物申す赤裸々なラインも。こうして本心を曝け出した歯に衣着せぬリリックこそが、BAD HOPにとって何よりの魅力であり、武器だろう。そしてそれはヒップホップの本質的な魅力ともリンクする。

 「リアルとフェイクとか、そこに捉われすぎてヘイターみたいになっちゃう人もいるし、僕たちが何をやっても〈ワル自慢〉と言う人もいる。最近はコンプラ(コンプライアンス)が厳しいと言われることもありますけど、若い子たちが自分からそうしてるんじゃないかって思います。ヒップホップってもっと自由でいていい音楽なのに、このままではもっとつまらなくなってしまうんじゃないかと。正直、温度差を感じる時もあるし。でも、その中で僕たちが自由気ままに自分たちのライフスタイルを歌ったり、みんなとは逆の方向に行って自分たちの思うやり方でヒップホップを伝えていきたいですね」(YZERR)。

 細やかな描写も交えて自分たちの日常を切り取った“3LDK”や“Black Bandana”、あるいは自分たちの生活を賭けた思いを歌う“これ以外”などからは、彼らが抱くヒップホップへの純粋な信念が痛いほど伝わってくる。加えて、声の出し方やフックのメロディーなどを聴けば、彼らがUSのトレンドも意識した新しい手法にこだわっているのは明らかだろう。

 「最新の音を聴いて、誰が新しいことをやってるかと競い合うのもヒップホップのおもしろいところだと思うんです。でも、いまの日本だとまだまだそういう気持ちを持ってやっている人が少ないのかなと思う。僕たちはそこを濁さずに音楽を作りたいですね。やりたいことを貫いて、自分たちの思うヒップホップを届けたうえで、数字を出してちゃんと売れないと」(YZERR)。

 アルバム・リリースという形で、一つ新たなスタートを切ったBAD HOP。次のヴィジョンも明確だ。

 「デカいところでライヴをやりたくて。大きなライヴ会場でも通用できるパフォーマンスのスキルを身につける、っていうのは全員に共通している目標ですね。あと、もっと若い子たちとも一緒に音楽をやりたい。俺たちがラップを始めた頃って、ヒップホップはめっちゃバカにされてましたし、同時に、超強い人じゃないとできないみたいなノリもあった。でも最近は、ひとつの公園にラップやってるグループが3つくらいいるって聞くっすね」(Tiji Jojo)。

 「フリースタイル・バトルが流行ってるのはいいんですけど、僕は、サイファーするよりもスタジオのブースにこもっていいフロウを考えたほうがいいラッパーになれると思う。なので、お金を払わなくても子どもたちがスタジオに入れたりとか、そういう環境作りもやっていきたい」(YZERR)。

 いずれにせよ、かつてなく若い世代もラップにチャレンジしやすい状況が出来上がっているのは事実で、BAD HOPがそのひとつのきっかけになっているのは確かだろう。95年生まれのT-PablowやYZERRに憧れてラップに興味を持ったというティーンエイジャーも増えているに違いない。

 「自分たちの人気? 実感はないですね。まだ地元の居酒屋に溜まってるし(笑)……アルバム出したら変わるのかな。とにかく結果でわからせたいです」(YZERR)。

 

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