INTERVIEW

ルドヴィコ・エイナウディ、対比するイメージの調和が生むダイナミズム――「三度目の殺人」公開直前、是枝ら数々の映画監督も求めたサウンドの秘密に迫る

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  • 2017.09.08
ルドヴィコ・エイナウディ、対比するイメージの調和が生むダイナミズム――「三度目の殺人」公開直前、是枝ら数々の映画監督も求めたサウンドの秘密に迫る

イタリア生まれの作曲家/ピアニスト、ルドヴィコ・エイナウディが、今年の4月に行なった来日公演を観た。アルバニア出身のチェロ奏者レディ・アサら、エイナウディの最新作『Elements』に参加したメンバーを中心としたステージだったが、ポスト・クラシカルという言葉が連想させる、静謐な世界とは異なるものを見せてくれた。エイナウディ本人はステージ中央で観客に背を向けてピアノに座り、他のメンバーと対面するように演奏を披露。チェロとヴァイオリンと同等にエレクトリック・ギターとベースが重用され、プリミティヴなパーカッションやウォーターフォン、それにライヴ・エレクトロニクスもサウンドの要となっており、照明も含めてステージの様子は、クラシックのアンサンブルというよりも、バンドと呼ぶ方がしっくり来る感じだった。

ミニマルにカッティングを持続させる2本のエレクトリック・ギターにチェロが重なり、それにパーカッションがまるでハンマー・ビートのように加わっていく展開などは、かつて、NYのアヴァンギャルドなシーンで作曲家/ギタリストのグレン・ブランカが作り出したギター・アンサンブルを彷彿させるほどにアグレッシヴで実験的でもあった。また、エレクトロニクスの使い方も実に気が利いていて、ルチアーノ・ベリオからトゥ・ロココ・ロットまで、多様な音楽と関わり、制作を続けてきたエイナウディの懐の深さを感じさせた。

エイナウディはダンスやマルチメディアのための音楽制作からキャリアをスタートして、ソロ・デビュー作『Time Out (Un Viaggio Nel Tempo)』を発表したのは88年のことだった。管楽器を基調にしたミニマル・ミュージックにシンセサイザーによるエレクトロなグルーヴやドラムのダイナミックなブレイクも加えられ、実験性とポップな側面の融合を当時からすでに見せていたが、同時期に映画音楽の制作も始めている。そして、以降はソロの録音作品以上に多くの映画やテレビのスコアを残し、その仕事はエイナウディの音楽がポピュラリティーを獲得するきっかけともなった。エイナウディの音楽に顕れる親しみやすいメロディーやハーモニーと抽象性の高い音響との対比は、映画音楽とソロ・ワークとの間において見せるバランスにも見て取れる。その振れ幅の大きさが、彼の音楽のダイナミズムを形成している。

エイナウディが音楽を担当した是枝裕和監督作 「三度目の殺人」が公開間近であるが、改めて、エイナウディの音楽を振り返るべく、最新のインタヴューをお届けする。

2016年の楽曲“Elegy For The Arctic”のパフォーマンス映像。メイキング映像はこちら

 

実験と伝統、過去と未来との永遠なる会話

――まずは、あなたの音楽の基盤となっているミニマル・ミュージックに惹かれた理由から教えてください。その魅力はどこにあると考えていますか?

「ミニマル・ミュージックとは音型を反復させる音楽であり、この音楽の根源は世界中の音楽にあると思います。この手法は大衆音楽でも、巨匠たちのクラシック音楽でも使用されました。個人的にはエレメンツが繰り返し戻ってくる、反復されることに魅力を感じます。反復することによって聴いている人を魔法にかけ、この世には存在しない新たな次元に連れて行けるのではないかと考えています」

――ミニマリズムとアンサンブルは、あなたの音楽において絶妙なバランスで成立していると感じます。この二つの関係について考えていることを教えてください。

「個人的には、ミニマルとは音楽のエレメンツを最小限にするという意味合いを持っています。この考え方は1つの楽器でも、アンサンブルであった場合でも当てはまります。どちらにしても使っている〈言語〉は共通しており、変わるのは色合いや音の濃度です」

――それは、実験的な響きと親しみやすいメロディーやハーモニーの創出に対比させることもできるでしょうか? この二つの間でもあなたはバランスを取っていると感じます。

「実験は私にとって常に新しくあるため、また、新しくて未解明なゾーンに入るために必要不可欠な要素です。このような新しいゾーンに入り、自分なりに意味合いや自分なりのバランスを創り出しているのです」

2016年のパフォーマンス映像
 

――ルチアーノ・ベリオから学んだことを改めて教えてください。彼の音楽はあなたの活動にどのような影響を与えていますか?

※エイナウディは82年にミラノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院を卒業後、同音楽院大学院生としてルチアーノに師事した

「先ほどの質問への回答に繋がる部分がありますが、実験と伝統。未開拓な世界と古代の世界。過去と未来との永遠なる会話ということだと思います」

――あなたの初期のアルバム『Time Out (Un Viaggio Nel Tempo)』(88年)と『Stanze』(92年)の間には変化があったように感じます。『Stanze』は以後の活動の原型のように聴こえます。

「『Time Out (Un Viaggio Nel Tempo)』は〈足し算〉のアルバムです。いろいろな要素を一枚ずつ重ねていって完成したアルバムです。逆に『Stanze』は〈引き算〉のアルバムだと言えます。音のエッセンスを追求したアルバムです」

『Time Out (Un Viaggio Nel Tempo)』収録曲“Andante”
 

『Stanze』収録曲“Calore”
 

――ピアニストとしてのあなたは、どんなピアニストに影響を受けましたか?

「多くのピアニストを愛してきました。グレン・グールド、ルドルフ・ゼルキン、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレットなど。しかし、一番最初に私の耳にたどり着いた音色は家で聴いた音楽で、家を包み込む暖かい香りのようなものでした。母が常にショパンのプレリュードやバッハの平均律クラヴィーア曲集を良く弾いていました。それがすべての原点です。音楽への愛も、ピアノへの愛もそこから生まれました」

――ジャズ・ピアノ/ピアニストの手法からは影響を受けましたか?

「ジャズの即興はヴァリエーションの一種として、昔から興味がありました。ですが、その他に関しては、ジャズから特に影響を受けたとは思っていません」

 

映画音楽は楽器を調律することと似ている

――あなたの音楽では電子音も重要なパーツとなっています。電子音にはどういう魅力を感じてきましたか?

「電子音は必ずしも識別可能でないことに魅力を感じています。ピアノやヴァイオリンで奏でた音は、その楽器で奏でられた違う曲と連鎖されることがありますが、電子音はその音自身に歴史がないので、より自由であり、よりオープンな姿勢で聴けると思います。そこに魅力を感じています」

――『Nightbook』(2009年)以降、ロバート・リポックがあなたの作品に参加するようになりました。彼と知り合ったきっかけと、一緒にやっている理由を教えてください。

「ロバート・リポックは2004~2005年に出会いました。彼のグループ、トゥ・ロココ・ロットの音楽をミラノへ聴きに行ったのがきっかけでした。とてもダイレクトでシンプルでミニマルなバンドの音を気に入ったので、コンサート後、ロバートとロナルド・リポックと共にコラボレーションの話を始めました。そこから彼らとの多くのプロジェクトが生まれ、その中にホワイトツリーと言う名義で作った『Cloudland』(2009年)というアルバムがあります。以降もロバートとは多くのプロジェクトを共にして、常に連絡も取り合っていますよ」

『Nightbook』収録曲“Nightbook”
 
ホワイトツリー『Cloudland』収録曲“Kyril”
 

――ホワイトツリーはどういう意図を持って始まったのでしょう?

「ホワイトツリーは、とても自由で自然なプロジェクトでした。興味深く、楽しかったです」

――あなたが特に魅力を感じ、影響を受けたエレクトロニック・ミュージックは何でしょうか?

「アルヴァ・ノトやフォー・テット、エイフェックス・ツインやネイサン・フェイク、他にもいま思い出せない程の多くの音楽に興味を持ってきました」

――あなたの音楽には、民族音楽、ワールド・ミュージックからの影響も伺えます。それらに興味を持ったきっかけを教えてください。

「昔から民族の伝統に興味を抱いてきました。民族の伝統はその民族の幸せや苦しみを語っています。音楽を聴いたり、直接経験することで、新たな音楽法を学んだり、自分とは違う文化を知ることができたのです」

――映画音楽の制作にはどんな可能性を感じていますか? また制作において留意している点は何でしょうか?

「映画音楽は楽器を調律するのと類似点があると思っています。映画に合うような調和を探し出す必要があります。良い調律ができれば、すべてが美しく、深く、魅力的に見えてきます」

――自身の音楽が幅広い層にアピールしている現状を、あなた自身はどう捉えていますか?

「幅広い層に聴かれていることは大変嬉しいですし、満足しています。しかし、自分は変わらず自分であり、音楽を作るプロセスでは常に同じ疑問や不安が自分を駆け巡ります」

――ポスト・クラシカルといった括り、名称をどう思われますか?

「個人的には名称やカテゴリーには余り興味がありません。名称などは多くのものを意味することもあるし、何も意味しないことも多くあります。だからこそ、このような名称にはあまり関心がありません」

――現在進めているプロジェクトや今後のリリースを教えてください。

 「今後に関しては現在新しいアルバムのためのアイデア収集を進めてます。まだあまり多くのことは語れませんが、ピアノが中心的な存在であることは変わらないです」

 


「三度目の殺人」
2017年9月9日(土)より全国ロードショー!

監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
音楽:ルドヴィコ・エイナウディ
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功
http://gaga.ne.jp/sandome/

LUDOVICO EINAUDI 「三度目の殺人」メインテーマ (2017)

 

~エイナウディやユップ・べヴィン、ヨハン・ヨハンソンらの楽曲を収録したコンピレーション〈NaturaRhythm~眠れない夜に〉プレイリスト~

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