10年をかけたバッハのカンタータ録音プロジェクトが完結

 シギスヴァルト・クイケンとラ・プティット・バンドによる全集。端的に、ありがたい、ではないか。2004年から演奏・録音が始まって、終わったのは2014年。10年かけての大仕事。そのあいだにはオラトリオの全曲録音もあった。

SIGISWALD KUIJKEN, LA PETITE BANDE 『J.S.バッハ:教会カンタータ集』 Accent/キングインターナショナル(2017)

 19枚は1枚目からアドヴェント(降臨節)から顕現節・四旬節前・受難の聖節・復活祭、そして三位一体節まで、教会暦順の配置。合唱の各パートは一人ずつで、「バンド」も少人数。もしかして、合唱やオーケストラの厚いひびきが好みの人には物足りなく感じられるかもしれないけれど、少人数の顔や声が近いがゆえの音色や質感、親密さは、バッハが身近な音楽家たちとともに演奏していたさまを醸しだしているようでもある。

 バッハの作品のなかでもっとも敷居が高いのは、器楽曲ならオルガン作品、声楽曲なら教会カンタータ、ではないだろうか。前者には格段に有名な曲があったり、全作品を収めた安価なボックスがあったりするし、ことばがない、楽器の音だけであるぶん、まだすこしアプローチしやすいということはあるかもしれない。他方、カンタータはといえば、もうすこしややこしい。宗教的な土壌の違い、キリスト教の習慣、ことば/テクストの壁はけっして小さくはない。だから、宗教カンタータなんて無視してしまえ、そんなのは聴かなくてもバッハを聴くよろこびはまだまだたくさんある。そうした姿勢もひとつしっかりとあるだろう。とはいえ、バッハという音楽家が気になるなら、無視するには質、量ともに、これ、圧倒的なのである(まぁ、この量の多さが敬遠される理由のひとつにもなるのだが)。それにこの宝があるのを知っているのに知らん顔するのはあまりにもったいない。1曲1曲はさほど長くはないから聴くのに支障はないではないし、すこしずつ親しんでゆくというのもひとつのやり方ではないか。そんなふうに考えることもできる(わたしがまさにそうしているのだ……)。

 キリスト教徒であろうとなかろうと、現実の季節の移り変わりと教会暦とを重ねながら、カンタータを聴いていくことは、バッハのある側面を確実に身近にできるはず、なのだ。

 


LIVE INFORMATION
ラ・プティット・バンド ~オールJ.S.バッハ・プログラム~
2017年10月9日(月)ザ・シンフォニーホール
2017年10月11日(水)、12日(木)浜離宮朝日ホール
2017年10月14日(土)福岡市音楽堂 大ホール
2017年10月16日(月)電気文化会館 ザ・コンサートホール
2017年10月20日(金)あいれふホール
2017年10月21日(土)アクロス福岡 福岡シンフォニーホール
出演:シギスヴァルト・クイケン、サラ・クイケン(ヴァイオリン)/ルレーン・ティアーズ(ヴィオラ)/ロナン・ケルノア(チェロ)/アンネ・プストラウク(フルート)/ヴァンシャンヌ・ボウドユイン、オフェル・フレンケル(オーボエ)/バンジャマン・アラール(チェンバロ)/アンナ・グシュヴェンド(ソプラノ)
https://www.kinginternational.co.jp/genre/acc-25319/