INTERVIEW

PUNPEE『MODERN TIMES』 ビートと言葉で時代を引き寄せてきた説明不要の鬼才が、待望のファースト・アルバムについて語る!

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  • 2017.11.02
PUNPEE『MODERN TIMES』 ビートと言葉で時代を引き寄せてきた説明不要の鬼才が、待望のファースト・アルバムについて語る!

この男の頭の中はどうなってる? ビートと言葉で時代を引き寄せてきた説明不要の鬼才がついに世に問う『MODERN TIMES』は未体験の驚きに満ち溢れている!

自然と時間が経ってた

 「5lackはソロで自分のことをちゃんとやってるし、俺は修行というか、いろんなことに挑戦してみるきっかけを皆さんが与えてくれたから、それを楽しんでたら自然と時間が経っちゃったみたいな感じでした。例えば、CMだったら 〈これはレッドブルのことをかっこよく歌ってほしい〉とか、で、加山雄三さんなら〈昔の雄三さんの曲を使って作ってほしい〉みたいなルールが一個ずつあったんで、そこで自分とちゃんとした公約数を作って、自分をカスタマイズして……俳優さんは役柄を演じるじゃないですか? 自分も俳優さんみたいに、それに合わせて自分を作るっつうか……“お嫁においで 2015”はリアル駄目な俺モードだったり、RAU DEFのアルバムを作る時はお兄さんモードだったり。デ・ニーロが『レイジング・ブル』とかわざわざ太ったり痩せたりとか、役のために2週間ホームレスになったりとか、そういうの好きなんすよ。メソッド技法じゃないですけど。で、それを真似て、〈田中面舞踏会〉の曲は地球が干ばつ地域になってる設定だったんで、カラオケで3時間ワ~ッて歌って、超強い酒を飲みまくて、吸わないタバコを吸いまくって、ガラガラの声になって、家帰って録って出す、みたいな。そういう、誰にも永遠に気付かれないようなことを自分的に楽しんでやってきたつもりではありますね。この2~3年はそんな感じでした」。

 ここ数年でもっともアルバムを待たれていた男、PUNPEEについてどれほどの説明が必要だろうか? 板橋のトラックメイカー/ラッパーである彼が、実弟の5lack、GAPPERと組んだPSGでの『David』で一躍注目されたのは2009年。それから8年の間にはRAU DEFのトータル・プロデュースから加山雄三のリミックスに至るまでの膨大な制作を担い、tofubeatsやSTUTSらの楽曲に客演、さらにはTV番組「水曜日のダウンタウン」のオープニングテーマやレッドブルのCMを手掛けたり、宇多田ヒカルのVR番組出演もあった。ただ、自作という意味ではミックスCDこそあったものの、今回の『MODERN TIMES』が初めてのアルバムとなる。

PUNPEE MODERN TIMES SUMMIT(2017)

 「リリックでも言ってますけど、去年末に宇多田さんと仕事をして、自分の中で〈一番会いたい人に会っちゃった〉みたいなのがあって、そっから腑抜けになっちゃって。〈たぶん次は自分の作品だろうな〉ってのはわかってたんですけど、誰かとやりたい欲とかもなくなって、もう〈次どうしよう?〉みたいな。だから、きっかけを見つけるまでは辛かったっすね。でも、おじいさんが昔話をして始まるっていうのがポッと浮かんだ時にイケるなって思って。未来から現在のことを語ってるっていう設定があれば、すべて昔話として入れられるし、自分の好きなSFともリンクするし。そこが出来てからはわりとポンポンと大筋を決めて、後は自由なことを歌っていきましたね。できるだけ他の人が書いてないようなことに挑戦してみたくなっちゃったりするんすよ。そうなった時に映画とかSFは好きだし書きやすいんで、自然とそうなりました」。

 

ラッパーの気分がわかった

 アルバムの導入は、40年後の年老いたPUNPEEが昔語りを始める“2057”。そこから……いきなり嘔吐して2017年、子どもたちのユルい歌声もファニーな“Lovely Man”へ流れ込む。

 「トイレで吐いてるダメなシーンは、けっこう前にHARLEMで遊んでたら酔っ払って記憶なくなっちゃって、全然知らない工場の踊り場みたいな場所で目を覚ました時があって、〈アルバムの始まりに使えるな〉って思ったことがあったんすよ。それを組み合わせて自分の中でバッチリになってからは早かったです。おじいさんは昔話で綺麗に語ってるけど、実際はこんな感じ、みたいな(笑)」。

 テーマや方向が定まる前から存在していた曲は、ミックスCDの『Movie On The Sunday』(2012年)に収録されていた“Renaissance”と、2年前にラジオで披露していた“Hero”、さらにはISSUGIとマイクを交わして「とにかくカッコ良いヒップホップのビートでヒップホップについて歌った」骨太な“Pride”の3曲。その“Pride”は90年代後半からUSの一線級で活躍しする重鎮ノッツ(バスタ・ライムズ、スヌープ・ドッグ、ラプソディ他)のビート提供を受けたものだが、モロにPUNPEE節な先述の“Lovely Man”も意外やノッツのトラックとなる。

 「そう(笑)。何かこう、PUNPEEワールドなんすけどノッツなんです。それ、クレジット見た時に俺だったらアガると思ったんすよ。たまにあるじゃないですか、ジェイZのクレジット見て〈え、これノーIDなの?〉みたいな。あと、バックワイルドがいきなりやってたりとか。ノッツは昔からスゲエ普遍的なビートを作ってて、太いんですけど、しかもちょっとポップなんすよね。ノッツもまさか日本の子どもたちにフックを乗っけられると思わなかったと思います」。

 他には、前から絡みのあるBudaMunk、LEF!!! CREW!!!のDJ MAYAKU、ドイツのジャカルタからリリースのあるラスカルもトラックを提供。全曲を自身のビートで固めなかったのも主役のこだわりゆえだ。

 「例えばゼロからトラックを作ったとして、クォリティー的には高いけど〈何も起こってないトラック〉だとおもしろくなくて。ヒップホップってちょっとした不協和音とか、ヘンなのを入れちゃったらカッコ良くなるじゃないですか? でも、そういうのって5曲に1曲ぐらいしか自分では出来なくて、やっぱそういう、何か乗せる意味があるトラックを全部ひとりでは作れないかな、っていうところがあって、うん。人によって奇跡で出来ちゃったトラックってあると思うので、今回は〈何か起こってるトラック〉だけを集めた感じです」。

 一方で、声のキャスティングは最小限。もともとフロウのユニークさやフック作りには定評のあるPUNPEEだが、今作ではSugbabeも交えていつも以上にメロディアスな領域にも踏み込みつつ、スクリプトに応じたヴァリエーションのある名演で楽しませてくれる。

 「ビートが集まって、ラップはわりとラフにやれると思ったんですけど、全然そうでもなくて。書きはじめたら大変で、ラッパーの気分が初めてわかった(笑)。フロウがやっぱ一緒になっちゃうし、使う言葉もそうだし、単調になると飽きちゃうじゃないですか。何だろうな、ラップでバチッとくる歌詞と、メロディーでグッとくる歌詞ってあって、フックは自然にメロディーになりましたね、うん。んで、こだわるとやっぱ長くなっちゃって、トピックスに沿った映画を3本観なきゃ書けないとか……大変でしたね、リリックも。でも、いま思うとおもしろかったっすよ」。

 

言いたいことのあるアルバム

 そんななかで要所を締めるコラボは、ISSUGIとの路上感溢れる先述の“Pride”をはじめ、RAU DEFがイキイキと割り込んでくる“Bitch Planet”、そしてPSGが久々に揃った“Stray Bullets”と身近な盟友/名優たちで固められている。

 「“Stray Bullets”はビートが出来た時に、ちょっと無機質だし、グルーヴもあったから〈これ、PSGっぽいな〉って思って。最初から何となく決めてました。やりやすいし、何か〈家族〉って感じでしたね。漠然と〈みんな思うこと書いて〉ぐらいでほとんど打ち合わせもしなかったし、うん。けっこう1人ギリギリで〈ちゃんとやってくれんのかな?〉って奴もいましたけど(笑)、やってくれました。ISSUGI君もずっとちゃんとヒップホップをやってる人だし、RAU DEFに関しては、このアルバムで唯一あっちから〈絶対入れてくれ!〉って言ってきたんすよ、図々しく(笑)。そんで、〈いや、バランスもあるし〉って言ったものの断れない自分もいて、〈ああ、断れない俺を表現してんのはRAU DEFだな〉みたいに思って。ホントに最後に図々しく来る感じで入ってくれて、やっぱちゃんとした役割をやってくれました」。

 彼らの名演も交えつつ、アルバム全体がP監督のこだわりによって流れの良さを生み出しているのもポイント。特に“Stray Bullets”で場面を切り替えて以降、女声も良いアクセントになったチルな“Rain”からの終盤の展開は、文句なしのハイライト“タイムマシーンにのって”や本編ラストに置かれた“Oldies”のホロ苦くも甘酸っぱい風情は素晴らしい。ここでのPUNPEEは架空のノスタルジーという設定を超え、実際にスロウバックした気分で自然に未来の思い出を語るかのようだ。

 「そうそう、前半は自分が凄い詰め込まれてる感じがあって、良い意味で頭でっかちなんすよ。後半の曲はわりと気楽に作ったところがあって、“Rain”“夢のつづき”“タイムマシーンにのって”とかは実際に作ったのも最後のほうですね。確かに、最初はなりきろうとして作ってたのが、最後のほうはもうそっちモードになって、なりきった状態でラフに作れた感じでした」。

 そんなアルバム全体の流れの良さと同時に、全体を柔和に包み込むテーマ性、チャップリンの名画から表題を取った意図も含む大きな考えが『MODERN TIMES』を特別な名盤にしているのは言うまでもない。

 「もちろんただイイ感じの曲を入れてもアルバムになるんだけど、自分はアルバム世代なんで、1曲単位で聴くものっていうよりは、何か意味があるというか……ちゃんとアルバムで言いたいことがひとつあったほうが良いなっていうのは、RHYMESTERさんと『Bitter, Sweet & Beautiful』で仕事した時に喰らったところですね。んで、『MODERN TIMES』というのはバッチリ合うタイトルだと思います。自分は社会風刺まではいかないですけど、いまの時代に対するフラストレーションみたいなものが最終的には自然とパッケージされちゃいましたね。でも“Oldies”で、〈40年後はこうなってたらいいな〉みたいなことは最後に言えたような気がします」。

 喜劇王チャップリンよろしくユーモアとメッセージを軸に、バック・トゥ・ザ・フューチャーしながら〈モダン・タイムス〉に希望を託すPUNPEE。さまざまな引用や隠された仕掛けの数々についての野暮な答え合わせは、まず実際に手に取って聴いてもらってこそ。そうすればあなたは、この『MODERN TIMES』を何年か経って耳にした時に、きっと2017年のベスト・アルバムとして思い出すことになるだろう。

『MODERN TIMES』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

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