(左から)西田修大、吉田ヨウヘイ、波多野裕文、小西遼、小田朋美
 

迷いがなくなったときに、えてして音楽は一歩前進するものだ。先日リリースされた、吉田ヨウヘイgroup(以下、YYG)のニュー・アルバム『ar』は、視界良好ぶりを示すアートワークそのままに、フレッシュな空気に包まれている。バンドの代名詞である複雑なアンサンブルやリズム・アプローチは健在で、さらにオートチューンなどの新機軸も一部で導入されているが、それらがスルッと耳に馴染むのは、ポップスとしての強度が上がった何よりの証拠だろう。

そんなYYGが、12月20日(水)に東京・渋谷WWW Xで、People In The Box(以下、ピープル)とCRCK/LCKS(以下、クラクラ)を迎えてレコ発企画を開催する。それぞれ出自やキャリアも異なるものの、プログレッシヴな音要素をポップに落とし込むという共通項を持つ3組は、実はこの1年でかなり急接近していたようだ。そこで今回は、YYGの吉田ヨウヘイ(ヴォーカル/ギター)と西田修大(ギター)、ピープルの波多野裕文(ヴォーカル/ギター)、クラクラの小西遼(サックスほか)と小田朋美(ヴォーカル/キーボード)の5人に、お互いのシンパシーについて語ってもらうことに。ロックやジャズといった特定のジャンルに縛られず、もっと根源的な部分でミュージシャンたちが共鳴し合い、新たなコネクションが生まれつつあることが、これを読めば伝わるはずだ。

吉田ヨウヘイgroup ar Pヴァイン(2017)

 

言葉もアレンジに聴こえるという、歌の在り方についての共感

――この3組は、どのようにして出会ったのでしょう?

吉田ヨウヘイ「ちょうど1日違いで知り合ったんですよ。CRCK/LCKSと知り合ったのは昨年末の〈Mikiki忘年会〉で対バンしたのがきっかけで。さらにその翌日、〈Jazz The New Chapter〉の柳樂(光隆)さんがセッティングしてくれた呑み会があったんですけど、そこで波多野さんのことを紹介してもらったんです」

波多野裕文「〈吉田くんと気が合うんじゃないか〉と柳樂光隆さんに引きあわせてもらったんですけど、まんまと仲良くなりました(笑)」

――どの部分で意気投合したんですか?

波多野「吉田くんはバンドで演奏したり、コンポーザーとして曲を作ったりするのと、音楽ファンであることが両立していて。しかも、オタクレヴェルで好きなんですよね。だから、自分もリミッターをかけずに話すことができる。普段はなかなかそこまで話せないから」

People In The Boxの2017年作『Things Discovered』収録曲“木洩れ陽、果物、機関車”
 

――2人とも音楽に対してストイックだし、惹かれ合うのも納得できる気がします。

吉田「前に2人で呑みにいったときに、歌詞について質問してみたんです。ピープルはたくさんアルバムも出しているし、歌詞の表現も内容も多様だし、〈波多野さんはいくらでも言葉が思い付くんですか? 言いたいことがいつでもあるんですか?〉って。そうしたら、〈そんなわけないだろう〉と返されたんです。〈心の内側から出る言いたいことなんて、そうたくさんあるわけないに決まってる〉って(笑)」

波多野「そんな話もしたね(笑)」

吉田「ほかにも制作で悩んでいることを話すと、ものすごく的確なアドバイスをしてくださるんですよ。おかげで、かなり気が楽になりました」

――片やCRCK/LCKSとYYGの出会いは〈Mikiki忘年会〉だったと。今ではすっかりマブダチっぽくなってますけど。

小西遼「異常な濃さでこの1年付き合ってきたよね。俺と西田は、今年いちばん仲良くなったんじゃないかな」

――ここもまた気が合いそうですよね(笑)。

小田朋美「2人は本当、熱いよね」

吉田「ストレートに気合いを出そうとするところとかね。ただ、同族嫌悪というパターンもなくはないから(笑)。本当に仲良くなるのか最初はわからなかったけど」

西田修大「〈Mikiki忘年会〉のときも、ライヴが終わるまではほとんど話さなかったもんな。喫煙所で顔を合わせても、〈どうも〉〈ヨロシク〉とお互いそっけなかったし」

吉田ヨウヘイgroupの2017年作『ar』収録曲“トーラス”
 

――そこから一気に打ち解けたのは、お互いのライヴに感銘を受けたから?

小西「そう! あのときの西田はギターの弾きっぷりが凄かったですよね。それに俺と西田は、音楽に対する考え方も似ているんですよ。リスペクトしている相手であればあるほど、殺しにかかるタイプというか(笑)。今回の対バンが決まってからも、〈お前らかかってこいよ〉みたいにずっと言い合っているので」

西田「思い切りぶつかっていきたい気持ちと、努めて気楽にいるべきなんじゃないかという考えの間で葛藤していた時期もあったんですよ。でもCRCK/LCKSのメンバーたちは、全力で向かっても受け止めてくれるし、向こうも全力でそれを超えて来てくれる。だから、一緒にいると痺れるし、それ以上に安心するんですよね。いくら本気になってもなりすぎることはないなと。結果的にとても気楽にもなりました」

CRCK/LCKSの2017年のEP『Lighter』収録曲“Get Lighter”
 

――さらに一方で、小田さんは以前からピープルのファンだったそうですね。

小田「そうなんです。私とドラマーの田中教順でデュオをやっているときに、2~3曲くらいカヴァーもさせていただいて。そうしたらまず、(ピープルのベースの)福井(健太)さんがTwitterでフォローしてくれたんですよ。さらに私たちのライヴにも来てくれて。まさかのご本人登場に浮かれてしまいました(笑)。そのあと、波多野さんもいらしてくださったんですよね」

波多野「それより前に、小田さんの『シャーマン狩り』を聴いていて、これは凄いなと思っていたんです。さらにピープルのカヴァーをやっていると聞いたら、それはもう気になりますよね」

小西「オダトモがピープルに惹かれたのは、どういうところ?」

小田「楽曲の良さ、おもしろさはもちろんだけど、歌に対する姿勢かな。波多野さんの声が好きなのもあるけど、歌詞の意味が迫ってくる感じがして。〈声も楽器です〉と言うのは簡単だけど、言葉の意味も含めた音楽というのかな。歌詞の情報量が多くて、一瞬で聴き取れない言葉もあるんだけど、それも含めておもしろくて」

西田「確かに、ピープルは歌詞がアレンジのようにも聴こえるよね。リヴァーブの深いスネアが入ると耳に残るのと同じように、歌詞が印象に焼き付く感じというか」

小田「YYGにもそういうところがあると思うし、自分たちもそうありたいと思うから、歌の在り方についても3バンドで共感するところは多いんですよね」

People In The Boxの2015年のミニ・アルバム『Talky Organs』収録曲“「逆光”

 

何回も聴いてしまう、謎多き『ar』

――この3バンドはそれぞれの形で、プログレッシヴな要素をポップに落とし込むことに挑戦しているイメージがあるんですよね。それをふまえて、お互いのバンドに対する印象を教えてもらえますか?

波多野「もともとYYGのことはぼんやりとしか知らなくて、一緒に会うようになってから聴くようになったので、それ以前の奥行きまでは把握してなかったんですよ。だから、リアルタイムでしっかり聴いたのは今回の『ar』が初めてなんですけど、まず作品の印象が、僕の知っている吉田くんと似ている気がして。ちょっと不器用そうな感じもするし」

吉田「すみません、もっと練習します(笑)」

波多野「いや、人柄という意味合いで(笑)。あと、『ar』は勇気のあるアルバムだなと思ったんですよね。普通はもっと、サウンドのどの部分を聴かせるのかにフォーカスするものだけど、たとえばミックス段階でのそういうコントロールがかなり抑えられている。映画でいうと、カメラがあまり動いていない状態というか。それでどの音も全部よく聴こえるから、音自体は人懐っこいのに、どこか捻くれた感じがするんですよね。よくよく聴くと変なことをしているのに、どこか自然体だったりもして。そういうところにも、バンドの総体としての人柄のようなものが滲み出ているように感じました」

吉田「今回の『ar』は、制作前はいろいろ考えたけど、実際に作り出してからは難しく考えないようにしたんです。だから、そういうふうに言ってもらえると、うまく提示することができたのかなって」

波多野「聴いていて謎が多いアルバムだとも思います。伏線かと思ったら回収されなかったり、そういう感じがとにかく不思議で、気になって何回も聴いてしまう」

西田「僕と吉田さんは昔から、〈お前ら、引き算を知ってるか?〉と言われ続けてきたんですよ。どこに行っても、〈歌を聴かせたいなら、横でギターがメタルゾーン(エフェクター)を踏んだりしない〉とか、〈もっと歌に専念したほうがいい〉と言われてきて。ただ、それで意固地になったわけではないけど、自分たちがこのバンドでやりたいと思い続けてきたことがあるわけで。それが今回はストレートに出せたのかな」

波多野「それってすごく大事だよね。ピープルだっていまだに足し続けている(笑)」

吉田「確かに、ピープルにはそういう感じがします」

小田「クラクラもそうだよね。このバンドを初めて2年ちょっとだけど、どう考えても引けない」

小西「俺たちってもしかしたら、みんな足し算バンドなのかもね。俺がとにかく足したがるので、いい加減にしろとよく怒られるんですけど」

CRCK/LCKS2016年のEP『CRCK/LCKS』収録曲“Goodbye Girl”
 

西田「クラクラは全員が曲もアレンジも作るじゃん。前に1回だけ参加して、ギターを弾かせてもらったときに思ったのは、とにかくみんながリアルタイムでいろんなことを試すんですよね。僕がギターを弾いていると、(石若)駿くんが全然違うパターンを叩いて、小田さんもそれに合わせて鍵盤を弾いていく。そういうのが常にグルグルしているイメージですね。その一方で、バンドの音が以前よりグッと固まっている印象もあって、ただやり散らかしているのとはまったく違う。クラクラのライヴは何回行っても全然飽きないんですよ」

小西「東京でやってるライヴは、ほぼ全部来てるよね(笑)。僕らよりもYYGのほうが、構造的なところが整っている気がしていて。ピープルはもっとそうで、物凄く綺麗なバンドというイメージですね。ガラスが一枚あるだけなのに、その奥深くまで見えそうなサウンドスケープが感じられて。YYGはちょうど中間ですね。構造的には遊びが多いけど、俺らほどバカじゃないというか(笑)」

吉田ヨウヘイgroupの2017年作『ar』収録曲“Do you know what I mean?”
 

西田「ピープルが今も足し算を続けているというのは、確かに頷けるんですよ。今回お誘いしようと思ったときに、あらためてアルバムを時系列順で遡ってみたんだけど、聴くほどにどんなバンドかよくわからなくなってきて(笑)」

小田「わかる」

西田「でも、さっき小西が言っていたのもピンと来るんですよ。そういう整った印象もある一方で、サウンドやコード感はアルバムごとにかなり変わっている気がして。しかもスリー・ピースにこだわり続けていて。そんなバンドはほかに思いつかないから」

波多野「音楽を作るときって、自分がプロセスを楽しむのがほとんどすべてだと思っているんですよね。たとえば、コードを積むプロセスって子供が粘土で遊んでいるようなものだと思っていて。〈この感じ好きだな〉と思ったら、さらに別のものも加えて新しくしたくなるというふうに、単純に欲望に忠実でいようと思っています。それこそ来年出るピープルの新作(2018年1月24日にリリースされる『Kodomo Rengou』)では、結果ドレミファソラシドのほとんど全部が鳴っているコードもあったりするんですけど、自分たちにとっては自然なものだったりするんですよね」

西田「今でも、興味のあることを足しまくっているということですよね?」

波多野「そう、いまだに全然足してる(笑)。人間の体が成長して、青年になって老化していくカーヴに喩えるとして、まだまだ頂点に達してないんだろうね。でもクラクラの場合は、個々人で遊び方を知っている人たちが、快楽をさらに高め合っている感じがするけど」

小西「うちのバンド、この間ツアーに行ったんですけど、みんな呑むのも食うのも絶対に我慢しないんですよ。明日の朝から移動だと言ってるのに、好きな時間まで呑んでいて。とにかく快楽主義なんですよね。エンゲル係数が大変なことになっている(笑)」

西田クラクラは圧倒的に呑むからね。しかも、酔っ払ったあとに小西が演奏し始めると、それがメチャクチャ良かったりするんですよね。そこまでいくと漫画の世界じゃないですか。ロマンあるなぁって。それにクラクラって、バンド自体にも青春っぽさがありますよね。スーパーバンドというよりは、ただ純粋にバンドを楽しんでいるというか」